296話 夜霧の泉
常夜の森上層4階層へとたどり着いたヒナタは目の前に広がる光景を見て呆れたようにそう呟いた。フロアから繋がる通路は3マスほどの大きさで、最早フロアとみなされているのか視界が確保されていた。
少し進むと階段が見えた。敵モンスターの姿は見えないし、これ以上どこのフロアにも繋がっていないように見える。要するにこの階層はこれでおしまいなのである。
……断崖の空洞だったかな? 最奥部の直前のフロアがこんな感じの雰囲気だったよ。本来なら最奥部がもうすぐだから喜ぶべきなんだろうけど、……直前にスイートメープルを使っちゃったんだよなぁ。最奥部に着いた時点でステータスは回復するから思い切り無駄になった。
…………ま、それはあくまで結果論だね。切り替えて最奥部へと進むとしようか。
――
夜霧の泉
――
夜霧の泉かぁ。確かに霧がものすごいけども。暗くて視界が確保できないなら分かるけど、まさか霧で視界が確保できないとはね。……まあ、目標地点はわかりやすく光ってるからそんなに困らないけどな。ええと、あっちの方角に進めばいいんだな。
……ふむ、一本道で特に困らずにここまで来れたな。オーブは目の前だ。色合い的には……、紫かな。予想通りだね。そして……、これも予想通りだな。
「……何故、オーブへと近づく?」
「行きたい場所があるから。……かな」
目の前から聞こえてくる問いにヒナタはそう答えた。霧でよく見えないが、前方に何者かがいるのは何となく分かる。そしてオーブの紫の光が作る影のその大きさからかなりの図体であることは見えなくても分かった。
……だが、不思議と怖さはなかった。少なくともグラドランよりは冷静な相手であろう。
「ふむ、どのような場所かは知っているとみえる。……あの場所はそなたのようなものこそたどり着ける場所なのかもしれぬ。だが、……悪いな。ただでくれてやる訳にもいかないのだよ。私にも役割があるのでね」
そこまで言うとその声の主はこちらへ近づいてきた。影の大きさが倍になる。……どうやら彼は座っていたようだ。間近に見えるその姿はさすがに威圧感を感じる。なまじ理性があると思えるだけに不気味である。
「……オーブを手に入れんとするものよ。その力を私に示せ。ダクディア……いざ参る‼︎」
tips:
夜霧の泉
常に霧に包まれた泉。幻想的なこの場所には漆黒の守護者がいると噂されている。




