1話 ここはどこだ
暗いな。何も見えない。
目を開けたヒナタが最初に感じた感情はそれである。停電の可能性も考えたが床の感触は冷たく岩場のようでありここが我が家ではなくゲームの世界であることをヒナタは分かっていた。
体が思うように動かせない。決して痺れている訳ではなく、自分の身体がまったく違うモノになった。ヒナタが感じていたのはそんな感覚である。
手を動かそうとした。手の代わりに黄色い大きな羽が動く。なるほど、どうやら自分はモンスターになっているようだ。思い返せばパッケージにヒトがいた記憶が無い。要するに自分はモンスターだけの世界にやってきたという訳だ。
いったい自分はどんな見た目をしているのだろうか。今分かっていることは自分には手の代わりに黄色い大きな羽が生えていることだけである。鳥型モンスターかそれとも天使のような見た目なのだろうか。
だがそれを確認する術がヒナタには無かった。鏡のようなものがあれば話は変わるのだが、ヒナタはそもそも荷物の類を何も持っていないのだ。従って何かしらのアイテムを使って自分を確認することは出来ないのである。
ならば周囲を使うしか無いだろう。そろそろ暗い視界にも慣れ自分がどこにいるのか分かるようになって来た。視界の届く限りではここはどこかの洞窟の空間のようである。
遠目を凝らしてよく見てみると視線の先に水たまりのようなものが見える。あそこに行けばきっと姿を確認出来るだろう。まだ慣れない羽をぎこちなく羽ばたかせヒナタはそこへ近づき初めて自分の姿を確認し、そして目を疑ったのである。
……コウモリ?
黄色い体に大きな単眼の瞳。そして大きく広がった羽はコウモリのそれに酷似していた。初めて見るモンスターのその姿にヒナタは戸惑いを隠せない。
……だがゆっくり自分の姿を確認している暇は無いらしい。金属でできた何かが動く音が聞こえた気がしたのだ。
サッと振り返ると少し先に下卑た笑みを浮かべた緑色の小鬼が剣を引きずって歩いているのが見えた。幸い気付かれてはいないらしい。
岩陰に隠れ様子を伺うとその小鬼は一直線にどこかへ向かって歩いているようである。そしてその先には焦りと恐怖に震えながら小鬼を睨みつける二枚貝のようなモンスターがいた。どうやら罠に引っかかり動けないところを狙われているらしい。
ヒナタはまだここがどんな世界かは分かっていなかった。それでもあの二枚貝のモンスターの命が長くないことは理解出来た。可哀想だがトラブルに巻き込まれる訳にはいかない。そう考えたヒナタはその場から離れようとまたぎこちなく羽を動かそうとした。
そして目が合った。
小鬼と、ではなく狙われている方のモンスターとである。その目は確かに助けを求めていた。それを知りながら見捨てるのは本意ではない。ヒナタは岩陰から思い切り飛び出した。二枚貝のモンスターだけを見ていた小鬼はヒナタに気がつき吠えた。戦闘開始である。
tips:
戦闘の基本
プレイヤー→仲間モンスター→敵モンスターの順でターンが進む。