悪の軍団の総統は、最終局面で大量破壊ミサイルを発射したいのに『パスワードが違います』
戦況は最終局面を迎えていた。
世界征服を掲げ、全世界に宣戦布告した悪の軍団は、各国を徐々に制圧しつつあった。
残すところ『世界のリーダーを自称する大国』のみ。最終兵器である大量破壊ミサイルは、その国の産業の要をロックオンしている。ここが崩れれば、奴等も白旗を上げる他ない。
軍団の総統は不敵な笑を浮かべ、大量破壊ミサイルの発射ボタンを解除すべく、携帯デバイスを操作する。
『パスワードが違います』
表示された文字に総統は首を傾げる。誕生日だったと思ったが、生まれ年だったかもしれない。気を取り直して、再び四桁のパスワードを入力する。
『パスワードが違います』
これも違った。
総統の頬を冷や汗が流れる。
ならば妻の誕生日か、結婚記念日か。妻の誕生日は全く覚えていないため、辛うじて覚えていた結婚記念日を入力する。
『パスワードが違います』
「‥‥やべっ」
総統は呟く。
斜め後ろに立つ知的なメガネの参謀が、訝しむ視線を総統に向ける。
「総統、如何しました?」
「あ、いや、ちょっと気になったんだが」
「なんです?」
「このパスワードって、何回間違っちゃダメなんだ?」
「5回です」
総統は片手で口元を覆い、深く息を吐いた。既に3回間違ったため、残るは2回だ。過去のLINEのやり取りから、妻の誕生日を確認する。
『パスワードが違います』
総統の顔から滝のような汗が流れ出す。脇の下も凄い事になっているが、幸い黒いマントを羽織っているので恥ずかしくない。
「なあ」
「なんでしょう」
「思えば、かなりの年月、お前は俺に仕えてきたな。お前は頭が良いし、人の考えを見抜く才覚がある。そんなお前に、あえて問いたい」
「はい」
「もし俺が、四桁の番号を設定するとしたら、何だと思う‥‥?」
しばらく考えた後、参謀は言った「総統、パスワードを忘れたのですか?」
「違う。ふと、お前が俺の後継に相応しい男か、試したくなったのだ」
参謀は腕を組み、少し考えた後「‥‥4646」と呟く「おぼろげながら浮かんできたんです、46という数字が‥‥」
「なるほど」
総統は頷き、デバイスに入力する。
『パスワードが違います。本デバイスからの操作がロックされました』
総統はデバイスを地面に叩きつける。
液晶が割れ、ガラスが飛び散った。
「ええい、やめだ! 世界征服などという児戯より、これからは宇宙の時代だ! 宇宙征服に乗り出すぞ!」
総統は声高らかに宣言する。
そして、世界は救われた。
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