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【竜王版】婚約破棄された令嬢は竜王様の運命の番でした

 

 彼女が生まれた瞬間、運命だと思った。

 だが、急ぎ彼女の気配を追って隣国にたどり着いたときにはもう手遅れだった。

 あろうことか、彼女はすでに婚約してしまっていたのだ。

 約束は私を縛る。それは私を介在しない他者同士の約束にしても同様だった。

 それでも彼女を諦めることなどできず、見守る日々は続いた。


「マイラ、大好きだよ」

「わたしもアストラが好き」

「ありがとう。やっぱりぼくたちは運命の相手だね」


 なんともどかしくも腹立たしい会話だろう。

 彼女は勘違いしているだけなのだ。

 生まれたときからの婚約者を相手に、好きだと思い込んでいるだけ、刷り込みでしかない。

 本当の運命の相手は私なのだ。

 それなのに、彼女はさらなる約束をしてしまった。

 

「僕は一人になってしまった……」

「アストラ、私がいるよ。だからもう泣かないで」

「ずっとそばにいてくれる?」

「うん」

「本当? 約束だよ?」

「うん。約束ね」


 このときの絶望は計り知れないもので、危うく世界を破壊してしまいそうになったほどだ。

 それでは彼女まで失ってしまう。手に入れられなくなるなど、二度と経験したくない。

 その思いだけで、どうにか耐えることができた。


 そして彼女が成長するにつれ、やはり運命に逆らう歪みは大きくなっているようだった。

 相手の小僧は彼女に相応しくない。

 それなのに彼女は小僧のために頑張ろうとしている。

 私が彼女のためにできることは何だろうか。

 考えて出した結論は、直接支援しながら傍で見守ることだった。


   * * *


 もうすぐひと月ぶりに直接彼女に会える。

 私は浮き立つ心を抑え、馬車で彼女の屋敷に向かっていた。

 彼女に直接会うために、偽名で商会を買い取り代表に収まったのは正解だった。

 竜族の商会が人間と直接取引をするなど異例のことであり、おかげで彼女の祖父は信用を得て、財をさらに築くことができたようだ。


 当代のサセム子爵家は上流階級の者によくいるように責任も取らず、商談まで彼女に任せきりにしている。

 若い娘を男と二人きりにするなど、愚かとしか言いようがないが、私としては感謝するばかりだ。

 彼女と二人きりで話すことができるのだから。

 わざわざ商会を買い取り、先代のサセム子爵と取引を開始した甲斐があった。

 彼女には子爵家を継ぐ予定の妹がおり、本来ならその妹が商談に出るべきだが、こちらも愚かで助かっている。


「――今回も素晴らしい仕上がりですね。ありがとうございます」

「お礼を言うのは、私のほうです。いつもこんなに高値で買ってくださって。本当によろしいのですか?」

「ええ、もちろんです。マイラ様の作品は特別ですからね」

「そんな大げさな」

「大げさなどではありませんよ。一つ一つ丁寧に作られた作品には制作者の力が宿ります。その力がとても大切なのです」

「そうなんですね……」


 制作者というよりも、彼女が作ったというだけで、価値があるのだ。

 すべての彼女の作品を私が手にしていると知れば、彼女は引くだろうか。引くだろうな。それはわかっている。

 だから笑って誤魔化すしかないのだ。

 彼女との時間は惜しいが、あまり居座っても警戒される。

 万が一にも彼女が代理を立てないように、引き際も肝心だろう。


「それでは、お暇するのは残念ですが、そろそろ失礼いたします」

「……はい。またよろしくお願いいたします」


 私が立ち上がると、彼女はさりげなく書類で代金の入った巾着を隠した。

 彼女が資金をこっそり貯めていることは知っている。

 それだけで、彼女の気持ちも読めた。

 おそらく彼女はこの家を出たいのだ。そのときのための資金だろう。

 本当は私がいくらでも援助するから今すぐ出ればいいと言ってやりたい。

 だが、彼女は義理堅いから、約束を破ることができないようだ。気の毒に。


「マイラ!」


 ああ、ほら。また彼女を悩ます原因が現れた。

 毒親の典型だな。


「お母様、お客様がお見えになっていらっしゃるのに――」

「私に意見するっていうの!? しかもお客様って、ただの商人じゃない!」

「我が家の大切なお客様です」

 

 申し訳なさそうに微笑む彼女が痛々しくて見ていられない。

 どうしてこうも彼女の周囲には愚か者しかいないのだ。

 彼女の優しさにつけ込むだけの能なしが。


「お母様、お話は後で伺いますから――」

「私よりも商人を優先するっていうの!?」

「そういうことでははなく……」

「マイラ様、私はもうここでかまいませんので、お気になさらないでください。奥方様、お邪魔いたしました」

「ふんっ」

「リュノーさん、ありがとうございます。またよろしくお願いします」

「はい。こちらこそ」


 私を庇ってくれるのは嬉しいが、困らせるよりはこの場を去ろう。

 ただし、彼女と私の時間をわずかでも奪ったことは、きちんと報いを受けさせてやる。

 たまたま彼女の母親になれたことを今は感謝していろ。


「マイラ! 何をしているの!?」

「はい! 今行きます!」


 ああ、彼女が去っていく。

 残念だが、今はこれで我慢するしかない。

 仕方なく執事に見送られて馬車に乗り込む。

 次に直接会えるのはいつだろうか。また珍しいものを手に入れて彼女に会いに行くか。


 あれこれ考えながら、片手間に竜王の仕事を片付けていく。

 面倒くさい立場ではあるが、誰も私に指図できないのは楽でいい。

 適当に王としての仕事をこなし、たまに圧倒的力を見せつければ、皆が私に従う。

 私にできぬことなど、本来ならないのだ。

 もし約束に縛られていなければ、力尽くでも彼女を奪ったというのに。

 忌々しい約束、私を縛る約束を、どうにかして本人たちから解消させるために手は尽くしている。


 彼女に不相応な男には、次々と人間の女をあてがい浮気をさせ、その噂も流しているというのに、彼女は約束を破棄しようとしない。

 実際に浮気相手を屋敷に連れ込ませ、その現場を見たというのに。

 彼女がやつを愛していないのはわかっている。

 それなのに、彼女もまた約束に縛られているらしい。


 だがヒントは得た。

 彼女からは無理でも、やつから約束を破らせればいい。

 これまで見守ってきた結果、やつらは彼女がどれだけ大切な存在か気づいていないのだから。

 本当に愚かとしか言いようがない。

 どうせなら、公の場で恥をかかせてやろう。

 そう思いつき、私は上機嫌で手紙を書き、様々なことを手配した。



 そして、運命の日。

 彼女の国の王に手紙で知らせていたとおり、こっそりとパーティーに忍ばせてもらった。

 ここで、愚か者たちが自ら破滅していく様を見ていればいい。

 ああ、早く彼女が自由にならないものか。

 高揚する気持ちを抑えながら待っていると、予定通りやつと妹が一緒に現れた。


「アストラ、どういうことなの?」

「約束したとおりだよ。僕は今日ここで、結婚式の日取りを発表する」

「でも……」


 彼女の困惑した様子は見ているのもつらい。

 それでも自由になるためなのだから、耐えてほしい。

 やつは私が手配した者たちの入れ知恵とも知らず、愚かにも胸を張っている。


「ヘルクス侯爵、そなたの婚約者はその腕に絡みついている娘ではなく、サセム子爵の長女であるマイラだったはずだが?」


 先代サセム子爵――彼女の祖父は、国王の良き相談相手でもあったらしく、彼女とやつの婚約については当然知っていた。

 そのため、私が気持ちを打ち明けると、かなり驚いていたが、彼女の意思に任せるので口は出さないと約束した。

 おそらく国王はここまでの事態を予想していなかったのだろう。

 自国の侯爵が婚約者を公の場でこのように蔑ろにするなど、私には見せたくなかったのだ。

 やつに対して、国王の声はかなり冷ややかだった。


「お、恐れながら、陛下。私の婚約は祖父同士が交わしたもの。また約束としましては、私と先代サセム子爵の孫娘を結婚させるものとしているだけで、特に姉妹のどちらとは名指ししておりませんでした。よって、私は先代サセム子爵の孫娘であるリネアと結婚します!」


 緊張しながらも訴えるやつの主張は、私の部下が吹き込んだものだ。

 それを本気にして口にするなど、とんでもない阿呆だ。

 私が手を回したとはいえ、彼女が辱められるのは耐えがたい。

 早くこの場から彼女を救い出そうとしたとき、彼女は震える声でやつに質問を投げかけた。


「……アストラ、私と小さい頃にした約束を覚えている?」

「約束……?」

「ずっと傍にいると……」

「ああ……そういえば、したかもしれないが、子どもの頃の戯言だよ」


 彼女に押しつけた約束を、やつは忘れていたらしい。

 だが、彼女が傷ついていないのは、見ていればわかった。

 彼女は義理堅くも約束を守ろうとしていたのだ。

 それでも俯き感情を隠す彼女に、ずうずうしくも妹が声をかけた。


「お姉様、ごめんなさい。でも私とアストラ様は愛し合っているの! どうか、身を引いてください!」

「すまない、マイラ……」


 悲劇のヒロインぶった妹と、禁断の恋に落ちた自分に酔っているやつが腹立たしい。

 しかも、周囲の者まで二人に同情的になっているのがあまりに馬鹿馬鹿しく、この国の将来が心配になる。

 我が王国に少しでも害があれば、即刻潰そう。

 

「陛下、どうかこの若い二人の結婚をお許しください」

「私からもどうか、お願いいたします。無理にマイラと結婚してもお互い不幸になるだけです」


 彼女の両親までもが二人の結婚の許可を求めて国王に嘆願する。

 勝手に結婚でも何でもすればいいが、彼女への思いやりもないのか。

 この国はともかく、両家は潰そう。

 国王はどうしたものかと彼女に同情する視線を向けているが、私が頼んだ通りに動いてくれる。

 

「マイラ、お前はどうしたい?」

「私は……二人が……アストラとリネアが結婚したいというなら、祝福したいと思います」


 彼女が両手を強く握り締め、感情を抑えた声で告げれば、会場中がほっと安堵の吐息を漏らした。

 中には修羅場にならなかったことにがっかりしている者もいるようで、顔は覚えた。


「それでは、ヘルクス侯爵アストラ・ヘルクスとサセム子爵の娘である……リネアの結婚を許可しよう」


 国王がようやく二人の結婚の許可を宣言すると、その場がわっと沸いた。

 私も一緒に喜びたいくらいだ。

 これで邪魔者も煩わしい約束も消えた。

 私が近づこうとしたとき、彼女は国王に向かって進み出た。

 

「陛下、恐縮ではございますが、お願いしたいことがあります」

「……申してみよ」


 凛とした彼女の声を聞いて皆がはっとした。

 国王はじっと彼女を見ていたらしく、大きな声ではなかったがすぐに返答して促す。


「ヘルクス侯爵との約束が無効になった今、私はこの国を出たいと思います」

「な、なにを言い出すんだ、マイラ。何もお前が出ていく必要はないんだ。そのうちお前にも結婚相手が見つかるさ」

「そうよ、マイラ。この場で拗ねた態度をとるなんてみっともないわよ」


 彼女の当然の願いに、国王よりも先に両親が反応した。

 どこまで愚かなんだ。よくこの人間どもから彼女が生まれたものだ。

 しかもこの騒ぎの張本人である阿呆二人までもが先に発言する。


「マイラ、傷つけて申し訳ないが、それでも出ていくなんて言わないでくれ」

「そうよ、お姉様。自棄になって、そんなこと言っても、あとで後悔するわよ」


 さすがの彼女は両親たちの言葉に耳を傾けることなく、国王の返答を待っている。

 国王は大きく息を吐き出して口を開いた。


「国を出てどこへいくつもりだ? それにどうやって暮らしていく?」

「ドラスト王国で暮らしたいと思っております。生活には、今まで蓄えた個人的な取引での財産も幾分ありますので、それを元手に商売を始めたいのです」


 私が歓喜の声を上げなかったことを、自分で誉めたい。

 人間どもを国内へ受け入れてきた政策がようやく功を奏した。

 彼女の答えに周囲の反応は様々だったが、私が苦労させるわけがない。

 しかも彼女には独り立ちできるよう、十分な資金を渡しているのだ。

 彼女が暮らしたいと思えるようにするために、治安維持などの施策も行ってきた。


「個人的な取引とは何だ!? マイラ、お前は我が家の財産をくすねていたのか!?」

「……いいえ。あくまでも個人的なものです。子爵領の特産品であるビーズを使った装飾品は、ドラスト王国では好評なようで、高値で取引してくださっていました。もちろん、ビーズなどの仕入れに関してもきちんと売上金から賄っておりましたので、子爵家の財産に手はつけておりません」


 阿呆のことは放っておけばいい。

 どうせこれから私が潰すのだから。もちろん彼女には知られないよう、上手くやらなければならないが。


「ふむ。マイラは今まで先代サセム子爵の意志を継いでよく務めた。よって、マイラの願いを聞き入れよう」

「陛下! マイラは私の娘です!」

「そのようには思えなんだがな。まるで使用人のように扱っていたと、私は聞いていた。それでもマイラが不満を口にしなかったようなので、見守ることにしたのだ」

「誰です!? そのようなデタラメを陛下に吹き込んだのは!」


 予定通り彼女の願いに国王から許可が下りた。

 よし。私の出番だ。


「私です、サセム子爵」

「お、お前は……」

「リュノーさん?」


 群衆の中から私が現れると、彼女は驚いたようだった。その顔も可愛いな。

 さすがに父親も私の顔は覚えていたらしい。

 私を指さし怒鳴りつける。


「たかが商人ごときが陛下に嘘を吹き込むとはどういうつもりだ!? 無礼であろう!」


 さて。この無礼者をどうするか。

 さすがに彼女の前で処分するわけにはいかないな。


「サセム子爵、先ほどからのそなたの見苦しい態度は、動揺しているがためとして許そう。だが、いい加減に黙れ」


 私が考えているうちに、国王が怒りを滲ませ叱責した。

 父親はひっと息をのんだが、まだぬるいくらいだ。

 私が本気を出せば、この国を滅ぼすことくらい簡単なのだから。

 

「陛下、どうぞこちらへいらしてください。皆に紹介させていただきます」


 国王が私に声をかけると、彼女が首を傾げた。

 やはり可愛いな。

 私は国王のいる壇上へと上がり、改めて彼女を見つめた。

 いよいよこの時がやってきたんだ。長く待っただけ、喜びも大きい。


「ちょっとしたアクシデントで紹介が遅くなったが、この方は隣国ドラスト王国の竜王陛下でいらっしゃる。皆、失礼のないようにしてくれ」

「り、竜王陛下……?」


 国王の紹介に彼女はわけがわからないといった様子だった。

 悪戯が成功した気分だな。


「突然の訪問でこの国の皆を驚かせたこと、申し訳なく思う。ただ、今回のこの集まりでの噂を聞き、居ても立ってもいられなくなったのだ」


 私はまっすぐに彼女を見つめて言った。

 彼女は私の熱のこもった視線に戸惑っているようだ。

 昔と変わらないところが愛しい。

 

「私はヘルクス侯爵とマイラ嬢の結婚に異議を申し立てるつもりだった」


 私の告白に、会場がどよめいた。

 それから皆が固唾をのんで次の言葉を待っている。


「マイラ嬢に約束を違わせてしまうことは、申し訳なく思っていたが、これで気がかりもなくなった」


 私は壇上を下りると、彼女の前に跪いた。


「マイラ・サセム嬢、あなたは私の運命の番だ。どうか、私と結婚してほしい」


 私の念願のプロポーズに、彼女は完全に戸惑っているようだった。

 今まで仕事相手に徹してきたのだから仕方ないだろう。

 それに私の身分や外見になびかないところが、彼女らしくてやはり愛おしい。

 母親が傍で「早くお受けしなさい!」と発狂せんばかりに急かしている。

 こいつは自分のことばかりだな。しかし、今はその援護を受け取っておこう。

 父親は未だにぽかんと口を開けている役立たずだが、こともあろうにあの阿呆が抗議の声を上げた。


「ま、待ってくれ! 運命の番って何だ!? マイラはずっと僕を騙していたのか!?」

「え……」

「そなたはずいぶん身勝手なのだな。まあ、わかってはいたが」


 人間には『番』というものがないので、理解できないのは許してやろう。

 私もなんと便利なものだと思ったものだ。

 しかも、私と彼女は『運命の番』なのだから。


「『運命の番』とは、どうしようもなくお互い惹かれ合ってしまう生涯に唯一の相手のことだ。ただ、必ず出会えるというわけではない。むしろ、出会えるほうが少ない。マイラ、私はあなたに出会えた幸運に感謝している。だからたとえ婚約者がいても、あなたが存在してくれるだけでよいとずっと自分に言い聞かせていた。だがあなたがいよいよ結婚すると聞いて、やはり耐えられなかったんだ」


 私は彼女に運命であるということを理解してもらうために説明した。

 すると、彼女が質問する。


「まさか、竜族の方は心が読めるのですか?」

「いや、さすがにそれはできない。だが、空を飛んだり水や炎を操ることはできる」

「空を飛ぶ……」


 心が読めればどれだけ楽だったか。

 ただ空を飛ぶことができたから、いつでも彼女に会いに行くことができた。

 邪魔なものは炎で消してしまえば簡単だ。

 だが、怖がらせないようにそのことは黙っていると、彼女は差し出したままの私の手を見つめて迷っていた。

 早く手を取ってほしい。彼女から私と番になると約束を取り付けたい。

 そう願いながらもおとなしく待っていると、彼女を妹が押しのけた。


「お姉様よりも、私のほうが竜王様の番には相応しいはずよ!」

「っ――私に触れるな」

「きゃあっ!」


 ずうずうしくも妹が私に触れようとしたので、嫌悪から思わず風を起こしてしまった。

 会場内に悲鳴が上がる。

 心配せずとも私は無礼者を排除するだけだ。

 風は妹だけに向け、彼女を巻き込んだりはしなかった。


「リネア!」


 阿呆どもが慌てて駆け寄ると、倒れていた妹はのろのろと起き上がった。

 そして、母親にしがみつき泣き出す。

 彼女の前で傷つけるのはまずいだろうと驚かせただけだが、十分に効果はあった。

 私に対して周囲もようやく竜王だと認めたようだ。


「マイラ、いい加減に答えてやってくれんか? 竜王陛下を跪かせておくのはまずいだろう」


 国王が気を利かせてくれたおかげで、彼女は私がプロポーズしていることを思い出したらしい。

 ちょっと抜けたところも可愛くて、思わず笑ってしまう。

 だがまさか、断られるとは思っていなかった。

 彼女はゆっくりと首を横に振ったのだ。


「竜王陛下、申し訳ございません。私にはあまりに突然のことで、まだ何も考えられず……」


 彼女の返答にその場は騒然となったが、私はどうにか気持ちを立て直した。

 ここですぐに受けないのも、周りに流されないのも彼女らしい。

 それでも引き下がるつもりはない。


「まだ、ということは、この先はわからないよね?」

「……はい」

「では、まずはドラスト王国に来てほしい。そうすれば私も安心だし、毎日求愛することができる」

「毎日は……困ります」

「そうか。それじゃあ、二日に一回?」

「……三日に一回にしてください」

「仕方ない。それで我慢するよ」

「お店を開いてもいいんですか?」

「もちろん。それは他の人間たちと変わらない。歓迎するよ」

「ありがとうございます!」


 このあたりで今は譲歩しておこう。

 少しずつじっくり固めていけばいいのだ。

 母親はまた「なんて馬鹿な娘なの!」と怒っていたが、役立たずはどうでもいい。

 私が出店の許可を与えたからか、彼女はここ最近で一番の笑みを浮かべたのだから。


 その後、彼女が出ていったサセム子爵家は、ヘルクス侯爵家とともに、手を回して潰しにかかった。

 彼女に帰る場所があっては困る。

 また厚かましくも彼女の両親は、戻ってきてほしいと言っているようだが、今後も叶うことはないだろう。私が許さない。


 彼女は私が手を貸さなくても、始めた店が軌道に乗り、今では何店舗も増えて忙しくも充実した日々を送っているようだ。

 そして三日に一度、私は彼女がどの店にいても必ず突き止めて求愛に通っている。

 私には優秀な部下がいるので、四六時中見張らせることが可能だからだ。

 私の求愛は店の名物となっており、見物人も多い。


 前回は焦りすぎて失敗した。

 だが今回は――今世ではゆっくり彼女を囲い込んでいるので、気づかないようだ。

 もう逃げようとも考えないだろう。

 前世からずいぶん待った。だからもう少しだけ待とう。

 そろそろ彼女も私の手を取るだろうから。

 そうすれば約束できる。彼女を縛ることができると思えば、この時間も楽しむことができるのだ。



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― 新着の感想 ―
視点変更…たいした変化はないので印象としては全く同じ話を3回読んだかんじですね。ダブる部分は要約して、違う場面を増やすなどしてほしいところです。
おっと…( ゜д゜)!!
[一言] 前世のストーカーの生まれ変わり。。。。
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