表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

わたくしの後ろに立たないで下さいまし

作者: 丁太郎

勢いで書いたらこんなんになりました。

 超巨大学園都市アーサル。アーサル魔法学園を中心に発展した超巨大都市であり、どの国家にも属さない永世中立都市。その成り立ちは古く、実に1000年に歴史を持つ。ミレミアムポリスとも呼ばれる此処アーサルはその歴史と特殊性故か、外界からは欲望渦巻く魔界とも呼ばれている。

 学園都市で有りながら、麻薬、犯罪、ギャンブル、あらゆる狂気と快楽が同居する。数多の若者が巨万の富、名声を夢見てこの都市を目指し、そして夢破れて散っていく。きらびやかな姿と裏腹にこの都市の闇は深い。

 

 そんなアーサルの覇権を巡って2つの勢力が人知れず戦っている。一つはアーサル魔法学園『執行部』。アーサル学園の最高意思決定機関『理事会』の元、学園の意思決定を行う『生徒会』、更にその下で正義の執行を行う機関それが執行部だ。

 そして執行部が戦うもう一つの組織、秘密結社『PP会』。アーサル支配を目論むPP会は「あらゆる犯罪行為の影にはPP会有り」と言われる程の悪のエリート組織だった。そんな2つの勢力は今宵も都市の何処かで戦っていた。


「ぐあ!」


 執行部のマスターの一人レイバー・アイーンソルは背をを守っていた部下の断末魔を聞くなり、振り返って魔力で創った剣、魔力剣を振り下ろした。

 

 バチン!


 魔力剣は振り抜けずに何もない筈の空間で止まっている。手には硬い物に剣を打ち付けた様な衝撃が入った。すると何も無いはずの空間が歪み、徐々に大男が姿を表す。魔力剣は急に現れた大男の右腕で受け止めたれていた。いや厳密には反発しあっていた。


「ククク、さすがはマスターの一人」


「そういう貴様は『魔人』か」


「クク、私は運がいいマスターの一人を殺れるなんて」


「果たして思い通りに行くかな」


 次の一瞬、レイバーとpp会の魔人は互いに後方に跳び距離を取った。住宅街の屋根の上で戦っていた2人はそれぞれ別々の屋根に着地する。その際、丁度着地点にいた運の悪い執行部のエキスパートと呼ばれる一般戦闘員の一人が魔人に踏み潰された。


(ダニロ!敵は必ず取ってやるぞ)


 踏み潰されたのはレイバーの部下で途中入部だった為、最近訓練を終えて実務配備されたばかりだった。初陣で魔人に当ったのだから運が悪かったとしか言い様が無い。


「殺りなさい!」


 魔人の号令でPP会の戦闘員、通称『悪魔衆』5人が一斉にレイバーに飛びかかった。全く同じタイミングで仕掛られた攻撃をレイバーは躱そうとせず大喝する。


「舐めるな!」


 レイバーは魔力剣に更に魔力を込める。すると魔力剣の光は一層強くなり、長くなって槍と化した。レイバーは魔力槍を頭上で高速回転させ。襲いかかる悪魔衆5人を同時に斬り伏せる。斬られた悪魔衆は光の粒となって消えた。


「ほお! 上位の浄化ですか。魔に染まった程度の人間では太刀打ちできませんねぇ」


「次はお前の番だ」


「ククク出来ますかな。お仲間はもう居ませんよ。まあ雑魚をけしかけても被害が増すばかり。雑魚とは云え偉大なるPP様より授かった手下ですから無駄には出来ません。ここは私自らが手を下すとしましょう」


 視線を魔人から離すことはできないが、レイバーは部下達の気配が無いことを感じた。残念ながら魔人のブラフではないと認めるしか無かった。


「言ってろ、全員斬り伏せるまでだ」


 レイバーと魔人は同時に跳んで接近した。レイバーは魔力槍を魔力刀に変化させている。切れ味特化で硬い敵の防御ごと切断するつもりなのだ。武器を持つレイバーに対し、魔人は素手。当然先にレイバーの間合いに魔人が入る。レイバーは最速の一閃で魔人の首を跳ねる。

 しかし、レイバーは手応えが全く感じなかった。魔人の肩より上はない。殺した筈だが浄化が始まらない。


(まさか!)


 レイバーがある可能性に気付いた時にはすでに遅かった。魔人は生きている。そして魔人の拳には魔力が集まっており、魔人の間合いにレイバーは入ってしまっている。レイバーは魔力刀を振り抜いた体勢になっており、回避出来ない。

 首無し魔人の拳がレイバーの胸、心臓の位置を捉えた。


 ドオオーーン。


 打撃と魔力に撃ち抜かれてレイバーは先程まで立っていた屋根に叩きつけられ、屋根を突き破った。魔人は十分な手応えを感じ、宙に浮いたまま満足感に笑みを浮かべる。僥倖にもマスター位の魂が手に入る。偉大なるプリ・プリプル様(PP様)に捧げれば大層喜んでくれるだろう。欲を言えばアーサル魔法学園執行部の最高守護者である7人の聖人『7勇者』の魂を捧げたいところだが今日の所はこれで満足するしか無い。


 首の無い魔人は手振りで手下たちに指示を出した。手下の悪魔衆3人が屋根に空いた大穴に入っていった。直後、大穴よりまばゆい閃光が天に向って走った。光が収まり出てきたのは魂を収穫しに降りた手下達ではなく、殺した筈のレイバーだった。


「油断したな俺としたことが。魔人『粉砕の亀男爵イーコフ』だったとは」


 レイバーに対し、肩をすくめて見せたイーコフは縮めていた首をヒョイと出してゆっくりと屋根に着地する。


「そういう貴方は『不死皇レイバー』ですかな。なるほど異名通りだ。挨拶は遠慮しておきますよ」


 魔人イーコフはニヤリと口角を上げた。ここでレイバーを殺すから挨拶は不要との意だ。これに対しレイバーは鼻で笑った。やれるものならやってみろとの意志が込められている。

 イーコフが片手を上げる。それは部下たちへの合図だ。相手が死なないなら殺すのではなく封じてしまえばいい。だからイーコフは部下たちに拘束魔術を使わせる支持を出したのだ。部下一人一人の拘束魔術はさして強いものではない。しかしそれが重なったらどうだろうか?多重拘束により動きを封じてしまえば魂を奪うなど造作もない。体は不死身であっても殺すことは可能だった。


 直ぐにイーコフは異変を感じた。部下たちが動かないからだ。嫌な予感がしたイーコフは背後に跳躍し、レイバーから距離を取った。後方に飛び退いた事で何が起きたのか理解できた。

 

 部下たち何かを見上げて呆けていた。その視線の先を追えば、そこでは扇が舞っていた。ヒラヒラ、くるり、またヒラヒラ 不規則に揺れ動く扇は美姫の舞いを思わせて魅入ってしまう。

 イーコフの中で警鐘が鳴り、はっと意識を戻した。この舞は異常だ。魅入っては殺られるとの生存本能がイーコフを正気に戻した。


「扇………………まさか!」


 舞う扇は間違いなく敵の術だ。アーサル魔法学園『執行部』で扇使いはただ一人。


「七勇者の一人、『白令嬢ユリアーヌ』」


「あら、わたくしも有名になったものですわね」


 イーコフの呟きに宙に舞う扇が答えた。すると宙で舞う扇は分裂しイーコフ部下全員の頭上にヒラヒラと落ちていく。


「皆!散りなさい!」


 イーコフは鋭く叫ぶが部下の悪魔衆達はうっとりと舞いながら落ちてくる扇を見つめて動かない。見上げているのでその喉は伸び切ってがら空きになっている。扇はそれぞれの喉を切り裂いて地に落ちて消えた。血を吹き出しながら、しかし吹き出したそばから光の粒子に変わり倒れる悪魔衆達。しかしその表情は恍惚としており苦悶の表情はない。悪魔衆達はやがて浄化されて光の粒となって風に散った。


 PP様より授かった部下を失う失態を犯したイーコフはギリギリと葉鳴らす。


「その歯ぎしり、なかなかいい音色ね。心地よいですわ」


 声はすれども姿は見えないユリアーヌ。イーコフは格の違いを感じ取り生き延びる方策を必死に考えた。白令嬢ユリアーヌの扇はダイヤモンドでさえ切り裂くと言う。硬さが自慢のイーコフでさえ扇に触れられたら最後。簡単に切り裂かれるだろう。


 パチン!


 扇を閉じる音が鳴った。するとレイバーの隣にスッと白いドレスの令嬢が顕れた。白のドレスは月夜に輝き銀の髪はアップに纏められている。人形ではないかと思うほどの白い肌に整った顔。金の瞳がスッと細められた。次の瞬間、ユリアーヌは見惚れてしまう程、美しく優雅な所作でカーテーシーを披露した。


「お初にお目にかかりますわ。ユニアーヌ・リヒニスカヤと申します。お見知りおきをと言いたい所ですが残念ながらもうお別れの時間ですわ。ですから貴方様のご挨拶は不要ですわ。意味がありませんもの。では御機嫌よう」


 カーテシーから元の姿勢に戻ったユリアーヌは扇を開き、口元を隠した。

 

「!」


 イーコフは「戯言を!」と言おうとして言えなかった。声が出ないのだ。それどころか視界が回転した。回転する視界の中で自分の体が写った。その体には首から上がない。


(一体なにが!いつのまに…)


 回転が止まったて見えているのは逆さに見えるレイバーと白令嬢だ。その視界がだんだんぼやけ、思考もままならなくなった。


(p…p……さ…………ま………………)


 

☆☆☆☆☆



 浄化の光に包まれ消えていくイーコフを見届けると、レイバーはユリアーヌの方に向きを変えた


「ユリア。そちらの首尾は?」


「レイ。助けてあげましたのに第一声がそれは無いんじゃないかしら」


 ユリアーヌは、浄化の光に包まれ消えゆくイーコフの元に歩き完全に消えたイーコフのあった場所から何かを拾う。それはイーコフの首を刎ねた漆黒の扇子だった。


「ダーク・センス(扇子)か」


 背後に気配を感じたユリアーヌは扇子を背後に向って振り抜いた。


「おっと! 危ないじゃないかユリア」


 ユリアーヌの手首を掴んで難を逃れたレイバー。ユリアーヌノ背後に音も無く立ったのはレイバーだった。


「わたくしの後に立たないで下さいまし」


「そういえばタブーだった。すっかり忘れていたよユリア」


 レイバーは手をユリアーヌの腰に回してそのまま抱き寄せた。


「殿下、こんなところで」


 ユリアーヌの声には驚きと批難、そして羞恥が含まれている。


「殿下は止めてくれ。婚約者殿」


「わたくしはこんな所で身を預ける程、傲慢ではありませんわ。知っているでしょうレイ」


「知ってる。今まで散々我慢してきたからな。だがもう大丈夫だ。安心していい」


 ユリアーヌの批難をも意に介さないユリアーヌが根負けしてそっと息を吐いた。


「それでそちらの首尾は?」


「残念ながら取り逃がしましたわ。流石は『九大魔王、盲目の画家ジャックリーチャー」ですわね」


「最高幹部が出張っていたのか」


「今夜は痛み分けですわね。魔人を一人浄化しましたが。こちらもマスター『ほろ酔いニック』を失いましたわ」


「そうかニックが。憎めない奴だったな」


「ええ、学生なのに常にほろ酔いなのはどうかと思いましたが憎めないお方でしたわね。明日から大手を振って呑めると喜んでいましたのに」


「そういえば今夜も結構呑んでいたな」


 レイバーはユリアーヌの顎をクイを上げた。ユリアーヌはその意図に気付く。


「もう、レイ駄目よ。私は唇を預けるほど…」


 レイバーは有無を言わさずユリアーヌの唇を奪った。

 唇を放した時、ユリアーヌの体から力が抜けて目は潤んでいた。ユリアーヌはそのままレイバーの胸に顔を埋め実を身を任せた。


「お役目ももう終わっただろ。今日で卒業だ。まさか卒業舞踏会を襲撃してくるとは思わなかったが」


「折角の礼服がボロボロですわね」


「そうだな。まあいいさ。お互い生き残れたんだ。後始末は後輩たちに任せて、本国に戻ろう」


「はい……わたくしも『桃色令嬢』を後任の七英雄の一人に指名しましたので問題ありませんわ」


「実は郊外に馬車を待機させている。このまま発とうユリア。帰ったら直ぐに式を挙げる手配は出来ている」


「用意が良すぎますわレイ」


 レイバーは答えること無く所謂お姫様抱っこでユリアーヌを抱きかかえると。屋根を跳び闇に消えた。


☆☆☆☆☆


 卒業によりに多くの執行部幹部がアーサルを去ったが、同じくPP会でも多くの幹部が卒業した。しかし明日からまた次代の執行部とPP会の新たなる戦いが繰り広げられる事だろう。

 因みにPP会会長プリ・プリプル(年齢不詳)は今年も留年したのだった。


物語は終わりだが、戦いは……続く!


おしまい

読了ありがとうございます。

もっとやりたい放題に書いてもよかったかなと思いました。


また次の作品をお目に掛けれたら幸いです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ