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013『点心:鼠』


 車に戻った浅見は、何故か不機嫌になっていたヘンリエッタをなだめ、昼食をとる為に車を出発させた。

 時刻は既にお昼前。場所は横浜と来れば昼食は当然、中華街である。

 いつもの行きつけの中華料理屋での麻婆定食にも食指が動くが、ここはじっとこらえて点心のコース料理が食べられる店を選んだ。サラサラ髪のプラチナブロンドに、汗水垂らして四川料理を味あわせる訳にもいかないだろうとの判断である。


 元町・中華街駅前の立体駐車場に車を入れ、歩いて中華街へと向かう。青色の朝暘門を潜り中華街大通りを西へと向かう。善楼門の少し手前にお目当てのお店はある。広東料理の老舗……昼食時、ここならば予約なしでも点心のコース料理が食べられる。料金だってそんなに高くない。


 浅見は店に入ると、おもむろにレジカウンターへと近づき、個室が空いているか尋ねた。

 せわしなげに歩き回るチャイナドレスのウエイトレスを避けながら、店員について奥の個室へと向かう。

 そして、二人で同じ点心のコース料理を頼んだ。


 注文してすぐに次々に運ばれてくる小皿と蒸篭。 

 前菜の盛り合わせに海鮮スープ。フカヒレ・海老・ニラの3種の餃子。ごはんは炒飯。その他4品。デザートの杏仁豆腐も付いて来る。

 餃子が3種もあるので青島黒ビールを飲みたいところだが、車を運転中なのでぐっと我慢する。代わりにジャスミンティーを注文し飲茶する事にした。


 お茶を飲みながら料理を突つく。

 ヘンリエッタも日本や中国に頻繁に訪れているだけあって、箸の使い方は様になっている。箸先で上品に餃子を摘まみ優雅に口元に運んでいる。

 どの料理も比較的優しい味ながら、コクが深く旨味が詰まっている。

 ヘンリエッタによると日本で食べる中華料理は、本場の物より匂いや酸味が抑えられていて西洋人にも食べ易いらしい。

 二人で蒸篭を開き蒸しあがったばかりの餃子に舌鼓を打つ。


「ヘティー、君は高田氏の仕事についてどこまで知っている」

 優雅に食後のジャスミンティーを飲みながらヘンリエッタはそれに答える。恐らく、これはこの先に捜索を進めるにあたって聞いておかなくてはいけない話なのだ。

「高田氏との付き合いは先代の源治さんからと聞いています。ですけど、所詮は数ある取引業者の一つ。そこまでは詳しく知りません」

「では高田氏が盗品の宝石を売りさばいていたことも知らないと?」

「……」ヘンリエッタはさほど驚いた風もなく押し黙る。


「恐らく彼の仕事は中国で盗品の宝石を買い集め、ひそかに日本へ持ち帰り売りさばく事だった。違うのか?」

「ふう……」ヘンリエッタは小さくため息をつき話し始める。「いいえ彼の仕事はあくまで中国で宝石を仕入れ、日本でリメイクを施し販売する事です。それが盗品であるかどうかは私どもは知りません。でも、彼はトラブルを起こさない良い業者でしたよ」そう言ってヘンリエッタは怪しく微笑んだ。


 ――成る程、買い取った宝石をそのまま売るのでなく、リメイクして出所を判らなくしていたのか。トラブルが無いと言うのはそう言う事だろう。だが、今の言い方だとヘンリエッタは、高田氏の商売について知ってはいたが黙認していたと言う事になる……。

 まあ、そうでなければ行方不明になった時、最初に警察に駆け込まなかった説明がつかない。裏の事情を知っていたからこそ秘密裏に捜索をしたのだ。

 どうやら本当にめんどくさい話になってきた……。

 それに、この事件、ただの宝石探しと言う訳では無い、もっと何か大きな裏がありそうだ……。



「それでこれから真はどこを探すつもりですか」食事を終えたヘンリエッタが、ジャスミンティーを飲みながらそう訊ねて来る。

「先ずは高田宝飾店で手に入れたパソコンを、情報屋のところへ持っていき解析しようと思うのだが……」浅見は答える。

「情報屋ですか……」ヘンリエッタが何やら眉を顰める。

「ああ、名前はフィールドマウス。一応信用のおける人物だが、何かご不満でも?」

「いえ、私はパソコンが少し苦手なので……」

「そう……」確かにこう答える女性は多い。――普段あれだけ器用にスマホのアプリやLINEをやりつくしていると言うのに……謎だ。「まあ、それなら早速」浅見はそう考えながらスマホを取り出し情報屋のフィールドマウスにメッセージを送信した。


「情報を解析した後はどうします」再びヘンリエッタが質問して来る。

「さあて……高田氏の別荘とやらの場所を突き止めるかな……」

 そう、これも最初に高田氏の住所をフィールドマウスに調べて貰った時に出てこなかったのだ。普通に別荘であれば福利厚生施設として会社の所有にすれば、税金対策になるにもかかわらずである。と言う事は彼が別荘と呼んでいた何かは、裏の仕事に関わる場所の可能性があると考えた。だからお金の流れを追えばきっと何かが出て来るはずなのだ。


「そこに宝石があると?」

「いや判らない、だが、高田氏は何かあった場合、二つの鍵とカードキーを使ってあの宝飾店で取引するつもりだったのだろう」

「でも、あの場所に宝石は無かったのでしょ」

「ああ、だから、君をあの場所へ待たせ、誰か信用のおける人物に宝石を持ってこさせる手筈だったんじゃないかなと思ってる」

「成る程、協力者がいるということですね……」

「ああ、恐らく……」


 ――多分そう言う事だろう……。だから、その別荘とやらを調べてその手掛かりを掴むつもりなのだ。ただ、もう一つの鍵はサイズからして手提げ金庫の鍵として、このカードキーは何だろう?

 浅見はこっそりテーブルの下でカードキーを取り出し見つめた。


 名刺サイズで色は青。材質はプラスチックで、中央にICチップ嵌っていて、左上にはCARD KEYの文字。右下には半角英字の刻印がされている。――どこかの扉を開けるカードに見えるが……。ホテル? オフィス? ロッカーの類だろうか……。


 その時、浅見のスマホに着信のバイブが鳴った。

 アプリを立ち上げ内容を確認する。


 ――どうやら、今日の鼠は赤羽にいるようだ。

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