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八咫烏のタイムダイバー  作者: 銀河 径一郎
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第3章 選ばれし者

 八咫烏結社桜受家の地下三十階建て本部内、地下九階にある壬生野の部屋。

 招集する特務員4人にタイムマシンのしくみを説明をせよと旭子に命じられた古相寺の頭の中は沸騰寸前になった。超先端科学の大問題の解説を巫女で頭の回転数もゆっくりな古相寺にしろというのはかなり大変な仕事である。そこで例によって古相寺はもらった概要書をちょっと読んだだけで壬生野を相手に説明の練習をしようというのだ。


「ヨーロッパにセルンという組織が持つ巨大なハドロン型加速器があります」

 そのひとことで壬生野はドキリとする。桜受家の同僚巫女に『STEINS;GATE』シュタインズ・ゲートのファンがいないのは遠回しな質問で確認済みだが、壬生野はあのアニメの熱狂的ファンなのだ。タイムマシンに興味のあった壬生野があのアニメに惹かれるのはむしろ自然な流れだ。そして桜受家が手に入れたのはジョン・タイターが使ったタイムマシン後継型となれば開発現場であるセルンの名前が出て来るのも当然の流れである。

 身構えた壬生野の霊体は次の言葉でズッコケた。

「これは大きなお鍋みたいなものです。ジャガイモ、キャベツ、人参、玉ねぎ、ベーコン、パセリ、材料を入れて反時計回りにぐるぐるとかき混ぜます。

 なぜ反時計かというと宇宙はそう出来てると決まってるからです。

 想像して下さい。煮込んで美味しそうなポトフの香りがしてきましたね。

 でもちょっと待って下さい。私たちは時間を遡るんだから、逆回転にします。すると材料は次第に元の形に戻ってゆくのです、ほら豚さんの足が出来て来ましたよ」

 そこで壬生野は思い切ってというか、耐えられなくなり発言した。


「あのさ、美穂ちゃんさ、お鍋の比喩はやめようか。

 ほら、相手は男の人だから料理に詳しくないから実感がわかないよ、たぶんだけど」

 古相寺は一生懸命説明しようとしているのはわかるが、ダメ出しこそ親友の証なんだ。壬生野は自分に言い聞かせて古相寺の反応を待った。

「あっ、そうか。男性にお鍋は受けないのか。なるほど。

 じゃあ何を使って説明したらいい?」

「そうだね、まさかアニメに出てきた電話レンジなんて話を持ち出してもますます特務員さんにはわからないだろうしなあ」

 壬生野の脳内で過去に得た情報がめまぐるしく現れては消えしてゆく。

「とりあえず何か原理的な説明を入れたらどうかなあ?」

「原理的な……。とは何を使って?」

 古相寺の問いかけに壬生野は「う~んとねえ~」といよいよ真剣に考え込み5、6分の沈黙の後に口を開いた。

「そうだ、定規がいいよ。

 皆さんは時間はこの定規のように一直線に未来に伸びて流れてゆくと思ってますが、それは勘違いですってね。

 この宇宙は波動から成り立っていて、時間というレールは存在しないのです。

 私たちは位置を示す波動を変えることで空間と時間を簡単に飛び越えてゆけるのです」

 古相寺が驚いた。

「すごいよ、茜の説明はうまいなあ」

「きっと美穂のためにってうまい説明をって考えてたからひらめいたんだよ」

 壬生野は照れくさそうに笑った。



   ○



四人の男は桜受家の最下層三十階の奥殿に呼び出され一列に正座していた。

 服装はおしゃれの対極にある緑灰色のトレーナー上下で、統一のとれた彼らの制服としては訓練時に着用するそれしかなかったというわけなのだろう。

 彼らは結社の現場実働員の中でも特殊技能が優れ格闘や狙撃なども一級の腕を持つ三本と呼ばれる特務員であった。

 英語圏なら諜報工作活動のエリートスペシャリストとして認められるところだが、滅私奉公が仕事の前提とされる結社においては究極の影働きでしかない。

 そんな彼らが、結社の幹部でも一握りの者しか参内を訪されない最奥の神殿に召し出される事なぞ、あり得ない。それは結社創設以来初めての事だった。

 

 それにしてもなんという威圧感だろう。

 四人の右端、末席に座っていた最年少23歳の松丸は思った。

 おそらくは巫女に召喚された四神、青龍せいりゅう・朱雀すざく・白虎びゃっこ・玄武げんぶが結界の四方に立って入室と同時に男たちを見下ろしているためだ。こういう環境におかれるとそれだけで常に敵が死角から攻めて来る気配がして注意力を消耗する。式術や魔術を駆使する敵と闘うと疲れるわけだ。


 神殿は一部が天井を突き抜けて高さが二十メートルもあり、中央に自然光の明かりが降り注ぐ階段があり、途中にご神鏡があり、遥拝のための高さ六十センチほどの柱で仕切られた巫女の座所があり、その手前に椅子が男たちに向いて置かれてある。

 この神聖なフロアが一番地下にあるというのが地上の感覚からすると不自然に思われるかもしれないが、万が一の事態での安全が優先された結果なのだろう。

 天井から琴がつま弾かれる音が流れて、その音色が自然光と共に洩れてくるのは癒しの効果もありそうである。


 左には彩やかな大和絵の施された天蓋を持ち屏風絵の貼られた襖で仕切られた小部屋があり、俗に言う東京の表天皇や京都御所の地下におわします本天皇などの天子様が結社を訪問する時の御座所と伝えられている。

 右には障子で仕切られた、しかし天井のない秘巫女の執務室があるのだが、現在、在室の気配はないようだ。


 男たちは半ばは顔を知っていたが、半ばは知らぬ者で、もちろん訓練の行き届いた彼らが私語など交わす筈もなく、沈黙の時間が過ぎてゆく。

 ただ殆どの者たちが高度な作戦を思い描いており「自分とおそらく同等の能力を持つ者が四人も招集されたという事は、これは暗殺などの単純な仕事ではないな。どこかの国の警備の厳重な首脳や権力者を拉致し、同時にその周辺数名も拉致して潜入させる、つまり国家の指導部をこちらの思い通りの影武者にそっくり入れ替えるぐらいの作戦をやるおつもりかもしれぬ」と勘ぐっていた。


 おもむろに琴の音が止まって何か起きるのかと期待してると、突然に太鼓がドンと心臓を驚かして鳴り響いた。

 すると背後中央の扉が開いて巫女たちが五人ほど入って来たが、見た目とは反対に気が張り詰めるのを感じる。

 巫女の一人が声を張り上げる。

「秘巫女様が参内いたします」

 再び太鼓がドンと鳴り響いて巫女衣装というよりお妃の装束に近いような衣を着た旭子が現れた。頭には金細工の冠を被り、さらにその上に金銀の七夕飾り状のものが乗っている。胸には翡翠色の勾玉を連ねた首飾りがさがり、手には鮮やかな緋色の扇を持った旭子は見た目でいえば三十歳ぐらいだろうか、肉感的というよりやや痩せた知性の優るタイプの美女である。


 四人の男は写真でしか見たことのなかった当代秘巫女旭子様の美しく凛々しい生姿に魅了されて自然と平伏した。


 徐福の血は結社氏族に八咫烏となるきっかけとなったが、結社の氏族の起源はそれよりもずっと古く、1万年前の縄文ウガヤ王朝時代のムラにさかのぼる。その頃のウガヤのクニは文字こそ持たなかったが精神性はむしろ現代より高く、宇宙や生命の成り立ち、仕組みなども洞察していたし、争うことの無益さも熟知して避けていたのだ。

 ムラではクニの王と姫巫女を模して、ムラ長は獲物や実や米などの収穫計画や現物分配、土地の境界制定などの政事を担当し、巫女は気候の安定のための雨乞い、雨止め、そして神の御心を伝え民に喜び事と禁じ事を伝える祭事を担当した。

 こうしてマツリゴトは長と巫女の両輪によって紡がれて来た。


 現代の結社の対外的なトップは結社内で棒頭と呼ばれる男だが、男というものは権力欲から中立でいることが難しく、たとえその身が清廉潔白を貫いたとしても後代の血統が争いの火種を残してしまうのはあらゆる国の黒歴史が証明している。

 それゆえ実際の指図は秘巫女と呼ばれる巫女頭にお伺いを立てて承認をもらう掟がかなり古くに作られていた。

 秘巫女の選抜については男たちの意見は聞かれもせず、次世代の最も能力の優れた巫女が秘巫女の地位を引き継ぐと決められていて、つまり実質的な権力が巫女の能力で引き継がれてゆくことで無用な血の争いと縁を切り、結果としてこの結社は1万年という信じられぬほどの長きに渡り存続しているのだった。

 マツリゴトは古代の初期大和朝廷においても模倣されたのだが、とりわけ民から大王を凌ぐ人気を集めたのが倭迹迹日百襲姫わととひももそひめであり中国史書に卑弥呼と蔑称された第一の人物である。時代が下り魏に朝貢し金印を授かった卑弥呼は宇佐の姫巫女であり第一の卑弥呼とは別人なのだが、現代では混同されているようだ。


 座所の手前の椅子に旭子が微笑みを浮かべて座ると、髪飾りにかかった薄絹のヴェールがひと呼吸遅れてふわりと肩のまわりに収まった。

「今日は忙しいところを急に呼び立ててすまなかったの、旭子じゃ」

 旭子が艶のある、しかし巫女達と話す時のフランクな様子とはガラリと違って威厳ある年寄りじみた口調で言うと、男たちはハハアと再び頭を垂れた。そして男たちは旭子の年寄り口調から(旭子様は見た目は三十歳でも年齢は案外いってるかもしれんな)と考えるのだった。男たちの意識を読み取った旭子は、整形などもなく実年齢より二十歳近く若い自分の外見と肌で男の心を手玉に取っている事が可笑しくて悪戯っぽい目で笑った。


「今回呼び立てた用件はそなたたちが思ってた通りに暗殺などではない。が、正解を当てた者もおらんし、ニアピン賞も誰にもやれぬようじゃ」

 旭子は男たちの意識を読み頷くと一人の男に扇を向けて言った。

「望月、ヒントなど手間のかかる話は抜きじゃ」

 望月はばかな質問を思い浮かべてしまったと後悔した。

「はっ、恐れ入ります」

 旭子は嬉しそうに告げた。

「実はな、米国の国防総省施設内に秘匿されているタイムマシンの設計図、マニュアルが全て手に入ったのじゃ」

 男たちから「おお」とどよめきが上がった。

「ではタイムマシンがいよいよ動かせますな」

「それはおめでとうございます」

「我らもタイムマシンで時間を超えて活動出来るぞ」

 そこで四人の中で最年長の四十代の白岩が伺いを立てた。

「なるほど。となれば作戦の方向としては過去の不都合案件への派遣となりますかな」

 旭子が頷く。

「うむ、そうなるの」

「となれば相当な下調べが必要ですし、派遣先でも情報収集と細部の修正などが必要ですので単独作戦ではなくチームで当たる方がよい、そこで我ら四人をお召しですか?」

「うむ、白岩の言う通りだの。今日、そなたたち五人を呼んだのは、タイムマシンで過去へ出向いて大仕事をしてほしいのじゃ」

 旭子が言うと松丸が声を上げた。

「あれっ、五人? ですか?」

「そなたたちに加えて巫女から古相寺という者が参加する。古相寺、列に加わりなさい」


 巫女の古相寺が男たちの前に進み出てお辞儀した。

「皆さま、よろしくお願いいたします」

 白衣の下に朱の掛襟を重ね閉じて、束ねて水引で縛った長い黒髪を緋袴へ落としたお約束の巫女衣装に、現代風のくりっとした目が愛らしい。

 会釈をされた男たちの顔がニヤけたように見えた。

「このような若い女子と旅できるとは何やらデートのようですな」

 30代半ばの望月が鼻の下を伸ばして言うと旭子が叱った。

「そのようにふざけてる暇はないと思え。今回の任務は格別危険な任務になる。古相寺は連絡役を務めると同時に死んだ者の骨を拾い埋葬する役だ」

 そう言われたら普通ならびびるところだが、男たちにはピンと来なかった。

 なぜなら結社に生まれて以来、「お前は天子様の御為に生きて死ぬ定めだぞ」と完璧に洗脳されているため、男たちには死を恐れる気持ち自体が希薄なのだ。


「お言葉ですが旭子様、わしたちを見くびらないで頂きたいです。わしたちは死など少しも恐れずに奉公して参りましたで……。わしも敵に斬りつけられ出血多量で心臓が止まった事がございますし、他の者も同様です。なあ、皆、心臓が止まった事がある者は手を挙げて秘巫女様に口上申し上げよ」

 白岩の呼びかけに全員が手を挙げた。


 トレーナーの上からも見事に鍛えられた筋肉質ボディだとわかる望月が立ち上がって言った。

「望月です。私は半島の北側に潜入して日本政府に把握されていない日本人人質を救出しました。

 詳細は秘巫女様は御存知でしょうが、とある血筋にあたる重要人物なのでどうしてもと大物から依頼があったそうで、中国政府の親善使節一行が訪れたタイミングで一行の一人と入れ替えて安全に助け出したのです。

 入れ替えられた方も亡命希望だったのでセットされたのですが、そちらを連れて国境を抜けるためには私1人で27名の敵警備部隊を倒さねばなりませんでした。

 もちろん他の者が入手した建物の図面と配置を元に手順を練りあげ、まず気付かれずに一人ずつ倒して死体を隠し、爆弾で控室を吹き飛ばし、まあ古典的な作戦です。

 無事に国境を超えられるとわかった頃合いで、ガラスで足に怪我を負ってた対象を新たな追っ手から逃がすために、わざと目立つ形で敵を引き付けて、包囲されたところで氷点下の急流の川に飛び込みました。

 あの氷点下の水はどんなに力があっても瞬く間に手足も心臓も動けなくなります。意識がホワイトアウトしましたが、幸い南側の水力発電所の取り入れ口につっかえて撤収部隊に発見されました」


 続いて矢吹が立ち上がった。

「矢吹です。私が参加したのはヤの形容がつく組織が結社の企業を脅して従業員2名に全治一か月から二か月の怪我をさせたため、同様の被害を防止するため実効的な警告をしたのです。

 平たく言うとヤクザにオトシマエをつけさせたわけです。

 デリバリー業者から商品を受け取るために開けられた玄関にすっと飛び込み、その場にいた組員3人を蹴りと締め技で床に転がして奥に進みました。

 奥の控室に入った私は態勢を常に変化させて狙いをつけさせずにハジキを構えようとした組員全員の利き手を拳銃で撃ち抜きました。日本刀を抜いて来た組員は面倒なので両手を撃ち抜きました。

 続いて2階の事務所に入ったんですが内容は同様なので省略します。

 会長室に組長が不在のためさらに上の階に入ると組長はベッドで女二人とお楽しみのようでした。ええとどっちが妻なのか内縁なのか愛人なのかはわかりません。

 私は組長の口に拳銃の銃口を咥えさせて言いました。

『うちの企業の社員をえらい目に遭わせてくれたな。俺はお前たちとは異業種だが、そこの軍隊みたいなもんだ。お前のそのパールを埋め込んだチン●か、まだ十本揃ってる指のうち二本か、どっちを詰めるか、返事をしろ。右目をつむったらチン●、左目をつむったら指二本だ』

 予想通り組長は左目をつむりました。

 私はナイフで組長のふたつの小指を始末しました。

 引き上げる時にちょっと増上慢になって油断しました。部屋をゆうゆうと出て行くとふたつ先の部屋の扉が開いて、奴の娘だと思いますが、「お兄さん、やるじゃん」て声をかけてきました。

 銃身を切り詰めた散弾銃を構えてるのが目に入り、次の瞬間、閃光が見えました。

 お恥ずかしい話です。私は娘を突き飛ばし、慌ててアドレナリンのアンプルを注射してなんとか建物から出ました。

 ワンブロック先の撤収用の車が見えたところで心臓が止まって倒れました。結社の外科医は散弾は全部取ったというんですが、どういうわけか今でも肺や心臓の中に鉛の粒があるって感覚が残ってます」


 最後に松丸が立ち上がった。

「望月さん、矢吹さんに比べると地味で申し訳ないです、松丸です。

 自分は京都御所の地下におわします本天皇さまが小学校でつきまといにあってるようだとの情報を確認しろとの命令で出動しました。本天皇様は(世間では裏天皇とも呼ばれているようですが)、皆さんご存知のようにまだ小学五年生です。偏りのない教養と判断力を養うために結社の貴族塾ではなく普通の小学校へ入学し、地下道を御所から町家まで車で移動し、町屋から通学されているように装っています。

 本天皇さまにつきまとっているのは同級生女児とその母親で正体に関するなんらかの情報を得ている可能性があるため、その情報の出所、所属組織などを調査しました。 調査はその同級生女児の家庭教師である親戚の男子大学生を感染症陽性の疑いで隔離して始まりました。まずスマホをすり替えて隣室で通信を管理できるよようにして、私は当人そっくりに3Dプリンターで作られたゴムマスクを着用して当人のスマホを携帯して、対象家庭に潜入しました。

 まずリビングとトイレに盗聴器を仕掛けました。それから当人の口調と頻度の多い話し方を混ぜて母親と世間話をしましたが、クラスにライバルはいるのか等を聞いてもはぐらかされた印象でした。続いて女児が帰宅し、イヤホンの指示を聞きながら授業を行いました。同級生に嫌いな男子はいるかとか、お父さんより好きな男子はいるかとか聞いてみますがぼんやりした答えしか得られませんでした。

 それでも授業のたびに質問してると、女児は急に私を真顔で見て『うちを口説こうとしてもあかんよ、私は○○君と結婚すんやもん』と本天皇さまの名前を挙げたのです。私は興奮を隠して『へえー、もう婚約したの?』て聞くと『両方ん親が決めるから従わなあきまへんもん』と答えたのです。そこで『相手の親は偉い人なの』と聞くと『秘密。東京でなっとあれば○○君が有名になるかもしれへんやけど』と答えました。

 女児への授業は前半45分と後半45分で間の休憩時にはいつも紅茶とケーキが提供される習慣でした。ケーキは毎回手作りです。

 女児が情報を漏らした翌回の授業日のことでした。私は再び探りを入れましたが女児は前回以上のことは言わず、休憩になりました。

母親は『今日はブルーベリーを入れてケーキ作ったん』とチーズケーキを出してきました。 私はわざと『ブルーベリーですか、目の疲れにも効く言いますね』と返事しながらケーキを少しずつ食べました。母親は私の食べぶりに安堵したようで部屋を出て誰かとスマホで話しているようでした。女児は先に部屋に行ってしまってたので私はゴムマスクの唇をずらして残りのケーキ半分をマスクの顎の内側に押し込みました。

 こうして後半の授業に臨んだんですが、半分過ぎたところで痙攣が起こり、舌を引っ込める事が出来ずに噛みながら血の混ざった泡を吹きました。

 女児は驚いて母親を連れて来たので私は救急車を呼んでくれと何度も叫びましたが、痙攣のため聞き取れないようでした。そこへ盗聴で私の異変を聞き付けた監視チームが警察の服装で乗り込んできて私は救い出されました。救急外来で私は麻痺状態になり心停止しましたが、胃洗浄と蘇生措置でなんとか生還出来ました。ゴムマスクに半分捨てたおかげです」


 男たちが死に瀕した体験談を語り終えると、旭子は大きく頷いた。


「そのほうらが命を捨てて奉公してくれてる事はちゃんと知っておる。その気持ちをありがたく思っておるのは吾も誰にも負けぬつもりだ。

 ただな、それでもそなたたちを送り出すのを躊躇う程、今回の任務は今までの任務とは桁違いに難しく危険なのじゃ」

 旭子の言葉は奥殿の乾いた空気に響き渡った。



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