赤魔と俺と精霊騎士02
その少女が龍の全身に火をつけて、流星のように舞う。
通常、4人以上のチームで、なおかつヘイト管理をして臨む龍退治へ、まるで朝のランニングのように軽やかに挑む。
……通常の龍退治はもっと、余裕がない。誰かのミスが誰かの死に繋がる。誰も死なせないで済むように、ひたすら神経を張り詰めている。
「■■■■■■■、■■■_____!!!!」
翼竜種__もとい、龍__は体を燃やされた怒りをぶつけるように、無差別に火を吐いている。
それを人の形で剣を一振りして断ち切って、後ろを見る。
彼はどこに逃げただろう。普通の騎士であれば町の方に向かって走って逃げるだろうが、彼はそこまで考えて行動できるだろうか。
『(誰かを守りながら戦うのって、これだから____、)』
「……ト、ロート!!ロートハルトッ!!!」
『…………!』
「お嬢を助けるぞ!ボサッとするな!」
彼は、ずっと。多分、自分の近くにいた。そして、自分より先に龍に向かって走り出した。騎士団に入る程度の場慣れした者でさえ、龍に怯えてなりふり構わず逃げだすのに。
ロートハルトは、思う。
____ああ、精霊になって良かった。
『よし、行くぞくりょ……クロダ!
…………やっぱり君改名しないか!発音が難しい!』
「今!?せめて龍倒してから言ってくれ!!!!」
『その言葉、忘れるなよ!』
炎の雨が降る。
____天を堕とせ。
雨雲を切るような、広範囲への斬撃が火を切り裂いた。《聖騎士団長》だった彼は、それに相応しい能力を誇る。
イザベルがふわりと近くに着地した。先ほど瞬間移動ばりの高速移動を見せていたとは思えないファビュラスな着地だ。クッ、これで黒髪だったなら俺は結婚を申し込んでいたのに!
「やりますわね、ロートハルト!」
『まあ、精霊だからな。これくらいはさせて貰う。』
「お嬢、なんかもっと消し炭にするみたいな火出せないのか……ですか!?時間なら(ロートハルトが)稼ぎます!」
「時間稼ぎしてくれるの?それはとっても助かるわ!」
『では、奥の手の広範囲攻撃魔法を?』
高速移動するお姫様の奥の手。流星を降らすとか、闇の力で消し飛ばすとか。そういう王族専用の魔法があるのだろうか。それはまあ、詠唱に時間がかかるだろう。問題はどうやって時間を稼ぐのかって事で_____、
「はぁ?そんな都合の良いもの、あるわけないじゃない!」
イザベルは続けた。
「私、デバフと固定ダメージ専門の魔法使いよ?このままざっと2時間、あの龍が動かなくなるまで粘るのよ!」
時間稼ぎ、よろしくね!快活に、明朗に姫様が笑う。
俺とロートハルトの表情が凍る。
赤魔は単騎にて最強____古事記にもそう書いてある。