赤魔と俺と精霊騎士
「アンタたち、今日から私の部下だから!かしこまり?」
「『かしこまれるかーーーッ!!』」
イザベルと名乗った少女が俺(&真横で浮いているロートハルト)を指さして勝気に笑う。脊髄から脳を通さず反射的に出た「なんでやねん」の意思は、ロートハルトとも同意見だったらしい。コンマ一秒のズレもなかったからな!
「ええ……私、一応王位継承権も持ってる王族なんだけど……。あまりにも不敬じゃない?処しちゃおうかしら。」
「横暴だ!俺が何をしたっていうんだ!」
「えっ……、死霊使い……?」
ウッ。30秒で負けた。誓って言うが、俺は別に騎士団長を顎で使っている訳ではない。本人も了承してついてきていることだけは弁明させてほしい。
『イザベル様、俺はセカンドライフは異世界人と面白おかしく人を助けたり助けなかったりして気ままに生きたいのです。国家公務員はもう……、』
「あら。変わった雰囲気の精霊だとは思ったけど、貴方あの黒龍落としのロートハルト?
死んで精霊になるって例は聞いたことがあるわ。随分早く戻ってきたのね。」
『墓穴掘った!』
「さて……。イザベル・フォン・フロワが命じます。私に同行なさい、ロートハルト。」
『喜んで、マイロード。』
後に分かったことだが、ロートハルトは権力者の女性に上から命令されるのに弱かった。騎士団長は天職だっただろうと思う。
「今回の仕事はアレの討伐よ。」
まるで日曜日夜のゴールデンタイムに密林の奥地で現地民が珍しい生き物を紹介するみたいにイザベルが指さしたのは堂々たる翼竜種だった。距離およそ2km先で、(つい先日馬と解散したあの)草原地帯が踏み荒らされていく。
『龍ですね。』
「序盤で出てきていい敵じゃねえだろーーーーーーーーー!!!!」
コイツは嘘みたいにメンタルが頑強だと思う。普通、自分の死因によく似たものを見たら怯えるとかしないだろうか。
「行くわよ、"異世界人"とロートハルト!私をフォローなさい!」
『承知しました。』
「俺ただの一般人なんだけど!!!」
「大丈夫大丈夫、私の部下なら魔法の1つすぐ使えるようになるわ。現にテレパシーの類は達者なんだから!」
軽く深紅のドレスにイザベルが触れるとスカート丈が膝上に変わる。なるほど、文字通り決戦礼装という訳なのだろう。
クロダはこの時点で感覚が大分麻痺してしまっている。「お姫様」が「龍退治」をする上に「スカート丈を変更する」という3つのツッコミポイントの悉くをスルーしているのだから!
「流星よ、叫べ」
軽く一歩踏み出すところまで、確実に視認していた。
『____なるほど、』
「…………は?」
視界からイザベルが消えた。目を白黒させて、フリーズ状態から戻ったクロダは龍の方を見る。紅く、赤く、それこそ光のように、その少女は既に龍の足元に滑り込んでいた。
「尾を引く焔!」
彼女の手元で赤い魔法陣が3つ、連続して光を放つ。イザベルはその体躯の5倍はあるだろう翼竜種に全く怯む様子はない。龍の全身を焼くように火が回る。その驚きと苦しみに体を震わせて、「敵」として認識したイザベルを踏みつぶそうとした頃には、もう彼女は足元にいない。
「次の称号は《龍祓い)》なんて古臭くて可愛らしさのないものじゃないと良いわよね。うーん、超学園級の赤魔術師……とか?うん、全然アリ!__え?育ちが分かる?嘘言ってんじゃないわよラジオも周年記念絵も出てたわよ!!??」
風に吹かれて消えるはずだった長台詞もばっちり聞こえていた俺は一人後方からツッコミを入れた。
いや多分年齢じゃなくて趣味の話じゃないかなあ!!!!!!