その男、精霊騎士5
ここからはタイトルを急遽変更して「異世界転生したら案内役が聖騎士団長で龍殺しで黒髪ロングのイケメンだった件について~俺、生きてる美女が良いって言ったよな?~」でお送りします。嘘です。俺も町の人と同じくらい混乱しています。
「(オイイイイイイイイイイ!!!!どうするんだお前、これ町を挙げてお前の葬式しちゃってるじゃねーーーーーか!!!!!)」
俺は念話を修得した!
(※送受信先は精霊ロートハルトに限られます)
『そういえば俺、死んでいたな……。』
しみじみ自分の死を振り返るんじゃない!これだから転生者は困る。あっ俺も転生者だった。
「どうするんだお前、コレ俺この世界で死霊使いに当たるんじゃないの!?」
『まあ……うーんこの雰囲気ならギリギリアウトかな……。俺一応《清廉潔白な聖騎士団長》で通っていたし……。』
「精霊になって倫理観を置いてきたとは誰も思わないわけだな!絶ッ対人前で人間の姿になるなよ!!」
『善処する。』
倫理観はあるってツッコミを入れて欲しかった。コイツ、性根は(恐らく、というか確定で)天然ボケだ。クソ!俺が損する奴だ!
「な、なぜあなたのような方が此処に!?」
なんだなんだ?
掲示板の前で騒いでいる俺たちの後方がざわめくのが聞こえた。流石に騒ぎすぎたか!?と慌てて後ろを確認する。しかし、人垣は俺たちではなくて逆の方向を見ながら少しずつ道を譲るように左右に移動しているのが見て取れた。
「(おいどうするロート____)」
『クロダ、右側に道を譲れ。すぐに。』
____まっすぐ、まっすぐ。
____その顔に慈愛の微笑みを浮かべて少女が通る。
その進む先は、人であれ、生き物であれ、無機物であれ道を譲る。
そういう、導火線の火のような少女が、南の町の中央通りを役所に向かって歩いてくる。
「……あら?」
赤い髪を二つに結わえて、その髪とほとんど同じような色のドレスを纏った少女が立ち止まった。
__________俺の目の前で!!!
あっ、死んだわコレ。
すまないロートハルト。俺はここまでらしい。
「そこの。敬意を持って傅ずきなさい。そして私の声に従いなさいな。」
赤い少女の言葉に竦む。礼儀作法も知らない一介の異世界人にどこかしらのお姫様の機嫌を損ねない程度の振る舞いが出来るかと問えばほとんどの日本人が「NO」と答えてくれるに違いない。なお、小説投稿サイトで鍛えられた軍人達は別とする。
「『喜んで。仰せの通りに、マイロード。』」
____頭の中に声が響く。自分の声が、自分のものではないように遠くに感じる。
____無意識のうちに騎士の礼をとっている。
「礼儀は出来るみたいじゃない。悪くないわ。貴方"たち"、見たところどこの子でもないでしょう?
私が飼ってあげるから、ついてきなさい。」
個人にだけ聞こえるように(耳打ち、というのだろうか)、彼女は言った。ちょっと待って。今何と?貴方たち????
「(ロート!?ロートハルト!?)」
『(不敬罪で処される前に体を借りた。そして、あの方は俺が見えている。……黙って従おう。おこづかいが貰えるかもしれないし。)』
「……お話は済んだかしら?じゃあ自己紹介ってのをしてあげようじゃない!」
こっちに来なさい、と役所の裏に連行された。役所裏について、人目がないのを確認したその子は先ほどまでの聖女然とした振る舞いを何処かへ置いて来たようだった。
「改めて、私を貴方に教えましょう。
私はイザベル。イザベル・フォン・フロワ____この国で、2番目の姫よ。そして、あなた達は私の部下になる、ってワケ!かしこまり?」