その男、精霊騎士4
乗っていた馬(俺は心の中で草原丸と名付けた!)から降りて白と黒に飾り付けられた町を眺める。およそ収穫祭という雰囲気をしていない。
「あっコラ!」
ヒヒーン、と叫んで馬が遥か彼方朝日に向かって駆け出した。逃亡である。草原を走っていた野生の馬の割には方向性が一致していたと喜ぶべきなのかもしれない。
『…………。』
パッ、と近くに明るい光が追い付いてくる。ロートハルトはさっきの魔物との戦いで大分精霊としての動き方を心得たようで、瞬間移動くらいは平気で行うようになった。
「ロートクリフ?」
『あ、悪い。スールの町が白と黒に染まる時は、誰か__領主クラスの人が死んだ時だ。もしかしたら揉めているかもな、と思って。……少なくとも、祭りって感じじゃないな。』
いかにFラン大学生でも「お家争い」「後継者を誰にするかで国が二分!」くらいは知っている。死んで魂になって地元に帰ってきたら戦国時代なんてことになっていたら、沈痛な雰囲気にもなるだろう。しかし奴はかける言葉を探す俺にニッコリ微笑んだ。
『ゲバるなら今だな!早速町の人に話を聞いてみようクロダ!』
精霊になる時に倫理観も置いてきたのか、お前。
◇
「私の口からはとても申せません……。ああ、あの人がどうして……。」
「お前さん旅の者か?悪いが今は収穫祭などといっている場合ではなくてな……。悪いことは言わん、次の町にでも行かれる方が良かろうて。」
「誰の式かって?____ああ、俺もまだ認めたくねぇ……。お国の発表なら、役所まで行けば掲示板に張り出してあるぜ。誰もそれを言いたかねぇだろうよ。」
思ったよりも町人達は重傷だった。どうも相当慕われている人が亡くなって、町を挙げて葬式をしているらしいと気づくのに時間はかからなかった。目立たないようにと光の玉状になったロートハルトに話しかける。
「思ったよりがっつり落ち込んでるが。」
『同感だね。スールの人たちは領主交代に最もシビアと国では有名で……。そもそも、誰が亡くなったのかすら旅人に説明しないなんて異常だ。』
「とりあえず、役所に行ってみるか。どっちだ?」
『案内するよ。』
ロートハルトに導かれて役所までたどり着く。『掲示板』は探すまでもなく、水晶のようなもので空中にデカデカと投影されていた。
『黒龍襲来、騎士団に甚大な被害』
『騎士団長が黒龍に相対す』
『最良の聖騎士、黒龍を道連れに逝く』
最後の一文には文章と共に黒髪で長身、俺の好みにピンを全て一度で倒したように突き刺さる美人の周りにユリが備えられている画が映し出されている。
無言で光の玉を見る。
光の玉、ふよふよ浮かんでいる。
先刻「後継者争いなら上手いこと割って入って美味しい所をもらっていこうぜ!」などと話していた覇気はまるでない。例えるなら赤色で点滅しながら警報音がなっているようだ。それもそのはず。
そこに移っているのは、生前のロートクリフその人だったのだから。