その男、精霊騎士2
目を開くと、夜の草原に立っていた。
体は問題なく(自分が中学生で卓球を嗜んでいた時より)動く。
「(夜か……。一般的な異世界なら、魔物が出てきてもおかしくないな。
できるだけ早く安全地帯まで行きたいところだけど____、)」
『聞こえるか……聞こえるかクローダよ……、』
「クローダじゃない黒田だ!ハッ、この声は神の爺ちゃん!わざわざ俺に生き方の手引きを__」
『今……録音音声で其方の頭の中に直接話しかけておる……。』
「扱いがあまりにも雑だ、おい誰かこの神リコールしろ!」
『そちらの世界に詳しく、かつ其方希望の黒髪ロングの長身美人でSSRな者が一人だけ該当者がおった故そちらにいかせた……、其方がこの世界を良い方向へ導くことを……祈って……、』
「敬愛しています我らが神よ!お任せください!」
神からの録音音声は最後に、『質問は一度のみ受け付ける』という言葉で締めくくられた。
まだ見ぬ黒髪長身美人に心を躍らせ、掌を返したその時。
自分の前方に青い光が集まり始めていることに気が付いた。俺はアニメに釘付けになる子供のようにその光が人の形に集まっていくのを見守る。
____そして、黒髪で長髪、身長推定170cm。好みに160㎞/hのストレートで突き刺さる美女がその蒼い瞳を開く。自分の置かれた状況に困惑したのか、周りを見渡している。素晴らしい。
「(話しかけよう、そう挨拶は爽やかに『やあ綺麗なお方、こんにちは。僕は黒田と言います独身です』がベスト_____ッッ!!!)」
「これは一体……、私は死んだはず__」
「詐欺だーーーーーーーーーッ!!!!!!!」
それは、鈴を転がしたような音で、清く澄んだ低音だった。この世の中の女子の6割はこの声で助かっている事はあまりにも明らかである。俺は女の子を頼んだのであって、細身のイケメンを頼んだわけでは断じてない。
「ふむ。」
見た目が好みの同性を転送されて、血の涙を流して崩れ落ちる俺を眺めて、(元)美女が軽くうなずく。恐らく彼が美女だった事は、後にも先にもない。
「君、名前は?」
「黒田です、独身!!」
一度でもこう自己紹介をしようと頭の中で台本を作ると、状況が変わっても言葉をそのまま出力してしまう。繰り返すが、男性である。
「そうか。私は……、ああもう堅苦しいからやめた!俺はロートハルト。騎士をしていた。よろしくクロード。異界から来たと聞いたぞ、ヤバいな!」
「クロダ!!!騎士がどうしてこんなところに来たんだ?そういう魔法?」
「いやいや、黒龍との闘いで致命傷を負って重傷の俺に、主はこう言いました。『君の顔が好みな異界からの客人と共に生をやり直してみる気はないか?』『来世は精霊とかで』____と。」
「最悪だーー!!」
「神にめったな事を言うものではないぞクロダ。ちなみに俺は快諾した。」
「精霊って長命種じゃないの!?そんなにあっさり快諾していいの!?というか疑ってかかれよ仮にも騎士だろ!?」
「いやーあはは。精霊に生まれ変わって力を振るうの、夢だったんだよな。実際神様だったから俺はこうして精霊としてこの世に存在しているわけだ。今世は満喫する。ちなみに異界の人は精霊に馴染みとかある?」
「ないよ!これが公僕で国は大丈夫なのか!?倒された黒龍の方も浮かばれない!」
たのしいな、とロートハルトは快活に笑った。精霊になった事を楽しんでいるのか、それとも違う世界から来た俺を見て面白がっているのか___俺にはわからなかった。
「町に行くんだろう?案内しよう、この辺りは私の地元だぞ。」