その男、精霊騎士1
「…………?」
月の光の下、長い黒髪がふわりと揺れる。
スレンダーだが長身のその体は引き締まっていて、無駄なところが一切ない。
『美人だ』_____、月並みな言葉だが、俺はその人を見てそう思った。中学生の頃に夢中になって遊んだRPGが思い出される。
「______私は、一体___?」
その声は鈴を転がしたかのような低音で____。
俺は地面に膝をつき、天にいるであろう神を仰いでこう言った。
「詐欺だ!!!!」
___________
「終わった……。」
黒田史郎21歳。Fラン大学生。
午前3時28分、自室。エンターキーを押して、名前を付けてUSBに保存。
ここまで長く苦しい戦いだった。BPM120で動く心臓を落ち着けるため見慣れた緑色の缶を煽る。ありがとう、お前には何度も助けられた。
しかし、空き缶を机に置いたその時、心臓に鋭い痛みが走る。
「ウッ_______!!!」
「という訳でお前は死んだのじゃ」
「わが生涯、一片の悔いあり!!!!」
シャウト。
こんなことがあってたまるか。俺は結局、完成させたレポートを提出できなかったのだ。
見渡す限り白い空間の中央に置かれたこたつで蜜柑を向きながら、「神」と名乗った爺さんはそう言った。あまりにも理解を超えた空間で、それも前後に心当たりしかないとあらば信じる以外の道がない。
「で、来世はどうする?TS悪役令状?それともカンスト無双系?
ここにパンフレットあるけど、ここから選んでみる?」
「急に距離を詰めるな怖いな。」
「すまん……。儂お前さんの地域担当の神で……結構愛着とかあって……。」
「感覚が近所の野良猫を見る感じよね。」
「いや、もうぶっちゃけなんでも一個願いを叶えてあげるよ。何がいい?」
「じゃあ黒髪の美人を魂のパートナーに付けて剣と魔法の世界に転生させてください。他には何も望みません。ロングであれば最高です。靴舐めましょうか?」
「お前さんも中々じゃないか?」
黒髪ロングの美少女(美女)剣士は命より重い。
「まあ良かろう。君が今から転生するのは……、この日本に比べれば発展途上。その代わりに剣と魔法の溢れる中世ヨーロッパのような世界じゃが問題ないな?」
「ナーロッパの造形は深い方です!」
「ならよろしい。パートナーの方は……、お望みのやつを探しておこう。」
「先に何人かの候補を選ばせてほし_____、」
最後に黒い光のようなものに包まれて、それが俺の第一の人生の終わりになったのだった。