スレイヤの所在とこれから
「うーん……。この状況、どうしようかなぁ……」
部屋で独り、酒を飲むスレイヤ君。
シルフォード家と王家の密偵に調査を引き渡してから5日。
サラちゃんと王子から報告を受け、ようやくスレイヤ君の居場所が分かった。
そして頬に傷を持った男との会話を聞いた限りでは、どうやら今のスレイヤ君は、マフィアの仕事をしてはいるが、正式に組織には加わっていないようだ。
だけど、この間のマークス家の様子だと、下手をすれば夏休みに入ってすぐにマフィアの一員になってしまうかもしれない。
そうなってしまえばフローラさんの言ったように、オレ達の仲間にするのは難しくなってくる。
「でもなぁーー」
チラとスレイヤ君を見る。不機嫌そうにグビグビと酒を飲んだスレイヤ君は、八つ当たりするように机を蹴り飛ばす。
「はぁ……これだもんな」
がっくりと項垂れる。これまでの仲間達はなんだかんだでみんな素直で良い子たちだった。だから最後の一人がこんなタイプの子だったとは、想像もしていなかった。
正直、今の彼を仲間に加えるのはかなりリスクが高い。下手をすれば「ムカつくから」などと言って、シルヴァ君達を後ろから襲いかねない。加えて、幸か不幸か偵察役ならオレがいる。彼がいなければ出来ない事、というのはあまり無い。そうなると、無理に勧誘する必要性も薄い。
まぁ今の彼の性格は、生まれ育った環境を聞けばそれほど不思議はない。
妾の子だと迫害され、家族からもないがしろにされる。半面、公爵家という大きな力を持った家の息子だ。周囲の人間はかしずくだろうから増長もする。人が歪むには充分な環境だろう。そして言動の節々には、子供故の幼稚さを感じないでもない。
「これを矯正出来るとしたら、ゼルクさんやゼリカさんなんだろうけど……」
彼ら相手なら幾らスレイヤ君といえど、舐めたマネは出来ないだろう。けれどこの性格が一年やそこらで直るとも思えない。そうなると、スレイヤ君一人の為に二人のどちらかが付きっきりになりかねない。それでは他の皆の訓練が進まない。
「うーん……駄目だな。ここで一人で考えてもラチがあかないや」
仕方ない。ここは大人しく皆に相談させてもらおう。
特にオレと違って、彼らは直接このスレイヤ君と関わらなきゃいけないんだからな。
…………
「ーー以上が、現在のスレイヤ様についての報告です」
翌日、いつものようにゼルクさん達の家に集まり、サラちゃんがこの間のスレイヤ君の様子を報告してくれた。
「玉木としても、やはり彼を仲間にする事のリスクの高さを危惧しているようです」
「そうだな。そのスレイヤってガキを弟子にすんなら、少なくとも性根から叩き直す必要があるだろ」
「はい。ですが、恐らくそうなれば……」
言い淀むサラちゃんに、分かっているとゼリカさんが頷いた。
「ま、兄貴が付きっきりで指導することになるだろうね。女のアタシ相手だと意固地になって余計に時間がかかりかねない」
成程。ゼリカさんならなんとかなるかもと思ったが、確かに勧誘の時の様子だと、彼は女性を下に見ている気がする。だとすると、女性でありながら彼よりも圧倒的に強いゼリカさんの前では、余計なプライドが邪魔をするかもしれない。
「ーーだな。ソイツを躾けられるとすればオレくらいだろうな。問題は、そこまでする程の価値があんのかって話だ。玉木、オメーは改めてスレイヤを見てどう思う? そこまでしてでも仲間にすべきか?」
ゼルクさんが問いかけてくる。だけどこの言い方はーー。いや、それでもやっぱりそういう結論になるよなぁ……
「ピッ! ピッ!」
2回笛を吹いて否定を示す。
正直、戦闘能力は魔力の才能が保証されてる以上、訓練でどうにでもなる。戦略や戦術にしたって、頭で思いつかなければ体に叩きこめばいい。
だけど、心ーーいや、もっと言えば真面目さや誠実さに関しては、他人がどうこう言って身につけさせるのは至難の業だ。それは営業時代、何人かの新人を指導してきた中で嫌というほど思い知らされた事だ。勿論、周囲の指導があるかないかで大きな違いはある。だけど、結局は自分自身で気づいてもらえなければ改心なんて出来る訳がない。
オレの回答に、ゼルクさんが渋い顔をしながらあごに手を当てる。
「やはり、お前から見てもそうか。だがーースレイヤの戦力は低いのか?」
「ピッ! ピッ!」
「知略に難があるか?」
「ピッ! ピッ!」
「性格が問題か?」
「ピッ!」
「ま、そうだわな。だが、ソイツの性根を叩き直すのは不可能なのか?」
「ピッ! ピッ!」
「ほう……。そこは無理だとは言わねぇのか。それなら、何故スレイヤは仲間に出来ない?」
ゼルクさんが笛の音が鳴った場所、オレの顔をジッと見つめる。……ゼルクさんは既に結論を出しているだろう。それも、恐らくはオレと同じ理由で。きっと、この問答は彼が納得するためじゃない。納得、させるためのものなのだろう。
『確かにスレイヤ君は才能に溢れ、更生の余地だってあります。ですが、失敗した時に取返しがつきません。今この状況で取るべきリスクではありません』
「……だよな。相変わらず、オメーは温厚なくせに案外と甘くはねーよな」
クク、と困り眉で苦笑するゼルクさん。
もしもこれが会社の新人採用だったなら、希少な才能を持つスレイヤ君は有望株。多少の苦労は覚悟で採用させるだろうし、オレだって全力を尽くして指導しただろう。仮に指導が実を結ばなかったとしても、それでオレのクビや会社の存続に繋がりはしないからだ。
だけど今回は、大勢の人たちのクビーーもとい、命がかかっているし、下手をすれば国が無くなる。何より、オレの大切な仲間達がスレイヤ君のせいで傷つく可能性があるんだ。
勿論、スレイヤ君だって家のこと、周囲のことで苦悩しているのだろう。彼も助けられるべき子供であることは間違いない。それでも、今のオレは綺麗ごとを言うべきじゃない。それはこの間の体育祭でフローラさんに注意された
ばかりだ。
「わかった。オレも玉木の意見に賛同する。スレイヤの勧誘は無しだ」
「……師匠、良いんですか?」
シルヴァ君が目を細めて問いただす。彼もスレイヤ君には色々と思う所がある筈だ。それでも、コトは国防に大きく関わる。簡単に頷くわけにもいかないのだろう。
「あぁ。お前の言うように、確かにスレイヤは八人しかいない戦力の内の一人だ。懸案事項が無い訳じゃあねぇ。だがーー今回はオレが結論を出す。安心しろ。どの道お前らのやる事は変わらん。オレやゼリカと並ぶか、それ以上に強くなれ。そんだけだ」
そう言ってゼルクさんは皆の反対意見を退けた。オレが否定したから、ではなくあくまでゼルクさんの一存で、という形で。
意見をまとめ、責任を背負ってくれる者がいる事は本当に頼もしい。……ホント、オレは仲間に恵まれてるよ。




