マークス家の家庭事情
「ーーと、いう訳で、マークス家もスレイヤ君の居場所は分からないみたいだった」
マークス家の調査を終えたオレは、学園から帰宅したサラちゃんとフローラさんに報告する。
「で、その後も色々と調べたけど、さっき話した噂くらいしか有用そうな情報は無かったね」
「そう……。それにしても、やっぱりスレイヤ様の扱いはかなり悪いみたいね」
「みたいだね。因みに、サラちゃんは彼の事情を知ってるの?」
「あまり人の事情をペラペラと話すのは好きじゃないんだけどね。スレイヤ様は確かにマークス家の血を継いでおられるのだけどーースレイヤ様のお母様は、いわゆる娼婦だった方なのよ」
「成程。妾の子ってやつか。しかも長男は別にいるんだよね?」
「お兄様が二人、お姉様が一人おられるわ。マークス家としても一応は、世間体の為に学園には通わせたそうだけどーー」
「本人はグレてしまって家族仲は最悪、ってことね」
「そうなるわね……。ウチはウチで、私は一人っ子で養子だっていない。だから今も跡継ぎ問題は上がっているけれど、そういう話を聞くと色々複雑な気分になるわね」
ふーむ。何と言うか、色々と腑に落ちたな。
ロイド君と同様、スレイヤ君からも勧誘を断られた。だけどその態度はあまりにも酷いもので、オレですら空いた口がふさがらなかったくらいだ。
「しかし、いくら痴愚な男とはいえ一応は公爵家の息子。ゴキブリなりにも使いようはあるのではありませんか? 簡単に勘当してしまうというのも妙な話ですね」
「痴愚にゴキブリって……フローラさん、それはあんまりにもあんまりじゃない?」
「寧ろ、何故貴方はそれほどに平然としているのですか? お嬢様を侮辱されて腹立たしくはないのですか?」
「勿論思う所がないではないよ。だけど相手を理不尽に罵るようなヤツはどこにでもいる。まともに相手しないのも処世術だよ。ま、オレは日常的にしょっちゅう目にしてるけど」
「ほう。それは初耳ですね。ではその原因、即急に排除しましょうか。そうすれば貴方も何も感じなくなれますよ?」
「遠慮するよ。オレは立派な大人だからね。多少耐えるくらいわけないよ」
「立派な大人が女の子相手にすがりますか?」
「立派な大人だから学ぶのさ。たとえ罵声を浴びせてくる相手にだって、いずれ順応するんだよ」
「……二人共、もう付き合ってしまえばいいのに……」
「何かおっしゃいましたか?」
「何か言った?」
「……何でもないわ」
ポツリと呟いたサラちゃんに二人仲良く反応する。この間叱られたばかりだというのに、サラちゃんも諦めが悪い。
「えっと、話を戻すわね。何故マークス家がスレイヤ様を簡単に勘当するか、についてだけど……そもそもマークス家も当初は彼を政略結婚のコマとして考えていたの。だけどあの方が素直に言う事を聞く訳がないでしょ? 幾つもの婚約話を破断させたからね。マリアと違って、もうマークス家も扱いきれないのよ。勿論勘当させれば他家からも白い目で見られるけど、そのまま繋がりを持ち続ける方がリスクが高いんでしょうね」
やっぱりそういう感じか。しれっとマリアちゃんを比較対象に出した事は置いといて、あのメイドたちといい、彼は色んな方向から厄介者扱いされているみたいだな。
「そっか。あ、あとさ。この国のマフィアってどういう存在なの? 盗賊もいるんだよね? そいつらとは完全に別物なの?」
「別物よ。単純に言えば……合法組織がマフィア。違法組織が盗賊団ね」
「へ? マフィアが合法ってどういうこと?」
「あら? 玉木の世界では合法じゃなかったのね。というか、そもそも玉木はマフィアにどういう印象を持ってるの?」
「え? うーん……めっちゃ恐い犯罪集団。薬やら臓器売買やら、暴力と金が大好きな危険なヤツら」
「そ。玉木の世界ではそうだったのね。私達の国ではね、高利貸しや一部のタバコに薬、それと賭博は合法なの」
「ふむふむ。つまり、それらを統括するのがマフィアってこと?」
「えぇ。逆に人身売買や人さらい、暗殺などは違法。盗賊団なんかはこっちね」
「へぇ。こっちの世界のマフィアはそういうのに手を出さないんだ」
「……表向きはね。しない組織も一応はあるらしいわ。だけど、それは貴族だってそうじゃない? 卑劣な事をする輩はどこにでもいるわよ」
ドゥークやガスクの事を言っているのだろう。サラちゃんの表情に陰りがさす。
「……正直、私は高利貸しや薬、賭博といった仕事をする人たちはあまり好きじゃないの。それでも、そんな世界でしか生きられない人もいるらしくてね。だからどうするのが国として正しい姿なのか、私にもまだわからないの」
どこかやりきれない顔のサラちゃん。彼女は未来の女王となる為に、帝王学や経済学も学んでいる筈だ。だが、それでも納得はしきれていないらしい。だからこそ、マフィアが合法でない異世界の価値観がどこか羨ましいのだろう。
「そこは考え方次第だよ。オレの世界にもそんな人たちは当然いる。だけど、『それらを一括りに断罪しない、柔軟性がこの国にはある』とも言えるんじゃないかな」
全ての者を救うような完璧な法律なんてない。だからこそ、そういった線引きをどこにするかは常に議論しなければならないだろう。それでもサラちゃんはーーいや、きっと王子や他の皆だって、浅はかな決めつけで人を断じたりはしない筈だ。その思慮深さも、オレが彼らを好きな理由の一つだ。
と、また話が逸れたな。
「さて、話を戻すよ? つまり、スレイヤ君がマフィアに所属するのは法律上は問題ないってこと?」
「そうね。流石に貴族のままだと問題だけれど、勘当されればそこは、ね。勿論、勘当した息子がマフィアに加わればマークス家の評判は更に下がるけど……それはもう私達が口を出せる領分じゃないわ」
「そうですね。ただ、問題はスレイヤ様が勘当されるとなれば、学園には戻って来れません。その上、一度正式にマフィアの一員になれば、抜ける事は難しいでしょう。そうなると、勧誘の難易度は更に上がりますね」
「だね。ま、そもそもスレイヤ君の所在をずっと行方不明のままにしとくのも不味いだろうし……まずは噂の真相を確かめないとね」
「えぇ。だけどそうなると、私達だけじゃ難しいわ。
明日、学園でシルヴァ様にも応援を要請しておくわ。シルフォード家と王家でそれぞれ調査員を派遣しましょ。流石に合同で調査団を作るのは他家の目もあるから難しいけどね。
ある程度の情報がそろった後は、いつものように玉木に調べてもらうわ。調査員を危険に晒す訳にもいかないしね」
「オッケー。じゃ、オレは暫く報告待ちだね。その間はボウガンのメンテナンスに……あ、それから胡椒袋や唐辛子袋の作成でもしてようかな。人間相手なら役立つ場面もあるだろうし」
「ネズミ並の腕力ではそれくらいしか出来ないでしょうからね」
「何故人類が他の動物達を抑えて生態系のトップに立ったと思う? 知能が高かったからだよ」
「貴方人類なのですか?」
「魔人だってれっきとした人だよ? 肌の色が違うからってそんな事を言うなんて、シルフォード家に仕えるような人物の言葉とは思えないなぁ」
「貴方に人類と言えるだけの知能があるとは思えない、と言いたかったのが理解出来ませんでしたか?」
「理解した上での回答だってことが理解出来なかったのかな?」
「……ホント、もう結婚すればいいのに……」
「何かおっしゃいましたか?」
「何か言った?」
「……もういいわよそれは……」




