大人として
大変遅くなり申し訳ありません……
本日から、毎日4章を更新していきます。
今日も皆で集まって訓練だ。
今は ゼリカVSカイウス・メルク・ロイド での模擬戦だ。
因みにクレアちゃん以外の女性陣は、皆のお昼の準備の為ここにはいない。
――キリキリ……――
ロイド君は弓を構え、いつでも放てるように集中している。
だが、ゼリカさんはカイウス君とメルク君を同時に相手取りながらも隙が無い。放つタイミングがつかめないようだ。
「おらぁ!」
「「ぐっ!」」
カイウス君とメルク君が弾きとばされる。
――ピッ! ――
その隙をついて矢を放つ。だが、ゼリカさんは顔も動かさず、両膝を折っただけで躱してみせる。
「んなものに当たるか!」
しゃがみこんだ体勢から一転、ゼリカさんが膝をバネのように伸ばして突っ込む。そして懐に飛び込まれ、柄で殴り飛ばされたロイド君。それでもすぐさま泥まみれの頬をぬぐいながら顔をあげる。そんなロイド君に、ゼリカさんはハルバードを担いで声を張り上げた。
「なんだい今のは!? なんの援護にもなってないよ!」
「は、はい! すみません!」
「体育祭みたいな軌道を変える矢は実戦で使えない。直線の早い矢は、構えから軌道を読まれる。ならどうするか。その工夫が無さすぎだよ!! 構えて撃つだけならバカでも出来るんだよ!」
「はい!」
「わかったらもう一回だ!! メルクもカイウスも動きが甘くなったら容赦なくシバくよ!!」
「「はい!」」
そう言って訓練を再開する。ロイド君は才能に溢れているし努力も怠らない。そんな彼は今、強くなる事だけを考えている。けれど、その姿はどこか楽しそうだった。
…………
「ーーよし、今日はここまでだ! アタシは昼飯の準備を手伝いにいくからあんた達はしっかりとクールダウンしておきな」
訓練を終え、ゼリカさんは家に戻っていく。そして柔軟を終えたロイド君達は、各自手ぬぐいで汗を拭く。この場には汗まみれの野郎が三人だ。なのに全員がイケメンであるため、やたらと絵になる。ロイド君に至ってはロン毛なのに清潔感があるので妙な色気を醸し出している。そりゃあ女の子にもモテるわな……。
ただ、そんなロイド君も流石に疲れたらしい。汗を拭き終えて、ふぅと息をつく。
「やれやれ……。ゼリカさんは本当に厳しいね。人生でこれほど叱られたことは記憶に無いよ。メルク君はどうだい?」
「うーん……。僕は父や杖術の師匠が厳しかったですからね……。まぁ、求められるレベルの高さはあの頃の比じゃありませんけども」
「オレも幼い頃から師匠に鍛えられているからな。だが、よく考えればロイドはそんな下地も無いのか。それでそこまで出来るのだから、お前の才能は本当に凄まじいな」
「……逆に君らはどうしてそんな経験があるんだい? 僕だって人並みの苦悩は抱えてると思ってたけれど……皆を見てると自信を無くすよ。僕が一番の苦労知らずだなんてね」
カイウス君とメルク君の言葉に、ロイド君が肩を落とす。
いや、ロイド君は落ち込む必要ないと思うよ。『貴族としての嗜みとして武芸を磨く』って考えはあるだろうけど、はたから見てても彼らのはそんなレベルじゃないからな。
それにメンタルの強さも半端じゃない。王子やサラちゃんに至っては人生周回してるとしか思えない。
「でも……ロイドさん、魔力の扱いに慣れるの早くないですか?」
「確かにな。オレは魔力を扱う才能はかなりあると聞いているし、メルクは治療魔法を何度も使っている。だというのに、既にお前の身体能力はオレ達と同等だ。一体どうしているんだ?」
二人の言葉に、ロイド君がニヤリと笑う。
「ふふ……。そこは僕の天才的感覚でーー」
「ロイドっちはその辺器用っすもんね」
ロイド君達三人の元に、先ほどまで向こうで組手をしていたドリアード、クレアちゃん、王子がやってきた。
ドリアードの言葉に、カイウス君が聞き返す。
「器用? どういう意味だ?」
「実はロイドっち、こっそり魔力を扱う訓練をしてたんすよ」
「ちょ、ドリアード嬢!?」
ロイド君が珍しく慌てふためく。
「ロイドっちも、もう良いじゃないっすか。アタシから見ても充分遅れは取り戻せてると思うっすよ? 魔力を扱うコツはキチンと共有すべきっす」
「コツ? 魔力を扱う訓練にはそんなものがあるのか?」
ドリアードの言葉に、カイウス君が腕を組む。そんなカイウス君に、ドリアードは意気揚々とふふん、と鼻をならす。
「あるんすよ、とっておきのが。まず、前提として魔力を扱う為には魔力を知覚する必要があるっす。シルヴァっちもカイウスっちも最初はそこに苦戦してたっすよね? そこでロイドっちは、アタシの『浄化の眉』を何度も受けてたんすよ」
浄化の眉。マリアちゃんの洗脳を解いた、状態異常を解除する技だ。
「これには2つのメリットがあるっす。
1つ目は魔力の巡りを正しく把握できること。アレは身体を正常な状態に戻す為に、アタシの魔力を全身に巡らせるんす。それを何度も体感することで、自分の体のどこをどう魔力が巡るのか分かるっす」
成程な。カイウス君や王子はメルク君に魔力の治療を施してもらってたけどーー違いはそこかもしれないな。あれは治療部分だけに集中するんだろうな。
「2つ目は魔力を取り込む感覚を掴めること。アタシが魔力を送り込む際、対象を木々で包み込むんすけど、その時、眉の中は魔力で満ちてるっす。だから普段よりも魔力の取り込みを実感しやすいっす。そして魔力の取り込みは呼吸と違って口だけじゃなく、体全身ーーつまり肌から吸収するんす」
ふーん。肌呼吸に近いーーというかそのものなのかもしれないな。
ドリアードの説明に、カイウス君が頷いて理解を示す。
「成程な……。だが、説明下手なノームはともかくーーウンディーネもドリアードも、どうしてオレ達には教えてくれなかったんだ?」
「いや、アタシたちもそんな訓練方法知らなかったんすよ。アタシたちの前の持ち主ーー初代グレイクス王は全部感覚でやってたっすからね。それこそ、ゼルクさんみたいな感じっす。ロイドっちはそこをアタシたちに聞いてたんすよ。『魔力と言われても良くわからないから、試しに魔力を使う技を自分にかけてみてくれ』って。そこからはアタシやウンディ#姉__ネェ__#とクレアっちで、色々と試した結果、さっきの結論になったっす。だけど、暫くは内緒にしてくれってロイドっちに言われてて……」
「そういうことか。しかしーーロイド?」
「い、いや、そう睨まないでくれよカイウス君。僕としても皆に追いつきたくてーー」
カイウス君から微妙な視線を受け、ロイド君がしどろもどろで答える。
確かにカイウス君が不満に思う気持ちは分からないでもない。だけど……これは違うだろ。
「ピピー!」
「「っ!?」」
いきなりの笛の音に、皆が驚いて固まる。オレがこの場にいるとも思わなかったんだろう。だけど、ここはきちんと諫めた方が良さそうだ。
『ちょっと待ってみんな。そもそも、その方法論はロイド君が自分で考えたものだよね?』
「えっと……? ーーあ、あぁ。そうだね。さっきも言ったけど、すぐに皆に追いつきたかったからね。ドリアード達の話を元に、何かないかと考えたんだ」
ロイド君が戸惑いながらも答える。その答えに頷いたオレは再度ペンを取り出す。……やっぱ会話がワンテンポ遅くなるなぁ、コレ。
『なら、それを共有するかどうかは、基本的にロイド君が決めるべきだと思う。ドリアードはロイド君から話す許可をもらってないよね?』
「そ、それはそうっすけど……仲間である以上、情報の共有は必要じゃないっすか?」
『勿論そうだね。だけど、親しき中にも礼儀あり、だよ? ドリアード達も知らなかったことを、ロイド君は自分の創意工夫で見つけたんだ。その成果を強引に取り上げるのが仲間じゃないと思う。他人への献身を強要するのはダメだよ。勿論ドリアードだって協力はしたんだろうけど、考えたのはロイド君なんでしょ? 少なくとも、共有するかは事前に聞くべきだよ。しかもさっきの流れだと、ロイド君の功績まで奪う形になっちゃってるよ?』
オレの文章ーーもとい言葉に、紙を覗き込んでいたドリアードの顔が段々と萎びていく。……ちょっと面白いリアクションだな。
「……確かに、玉木さんの言う通りかもしれないっすね……。ゴメンっす。ロイドっち」
「あ、いや……僕もくだらない対抗心で隠してたんだ。こちらこそ、ゴメンよ皆」
「いや、玉木の言う通りだ。オレの考えが浅はかだった。スマン、ロイド」
ドリアード、ロイド君、カイウス君が頭を下げあう。本当に皆、素直で良い子達だ。だからまぁ、こっちのフォローもしておくか。
『カイウス君もロイド君も、対抗心を持つのは悪いことじゃないよ。実際、対抗心を燃やしたからこそ見つかったのがこの訓練方法でしょ? 勿論それが悪い方向に行くこともあるかもだけど……その時はオレやゼルクさん達が止めるから、遠慮なく競い合ってよ』
「……敵わんな。玉木は流石に大人という事か」
「そうだね。また助けられてしまったね」
「アタシも数百年生きてたんすけどねぇ……」
カイウス君、ロイド君、ドリアードは照れくさそうに苦笑する。反対に、メルク君、王子、クレアちゃんは微笑ましそうに笑った。
「あはは。500年生きたドリアードさんも、玉木さんの前では形無しですね」
「そうだな。間違った時に叱ってくれる、というのはありがたいものだな」
「はい! 私達も安心して頑張れますね!」
うんうん。信頼してもらえて嬉しいよ。
だけど……本当凄いよね君たち。なんでその年で叱られることを前向きに受け入れられるの?
この子ら相手にいつまで大人ヅラ出来るんだろうか。
もう少し子供でいてくれて良いのよ?
……大人として叱った直後にこんな情けないことを願うとは、オレもまだまだ精進が足らないなぁ。サラちゃんとフローラさんがこの場にいなくて助かった。お陰でオレの面目はなんとか保たれそうだ。




