体育祭に現れた魔人
観客席で歓声が上がる。だが、その歓声もすぐにどよめきに変わる。どうやら、クレアちゃんが出した土の壁で中が見えなくなったようだ。
「これは困ったな。神鏡の使い手の姿が見えなくなった」
「観客席のあの様子。流石に近づけない。どうするの?」
「ふむ……。キャロルよ。ワシを肩車してもらえんか」
「頭でも打ったの? するわけない」
「ファハハハハ! ただの冗談だ! そう不機嫌な顔をするでない! 流石にお主の上に乗るような事はせん!」
「はぁ……幾ら観客席が騒がしくても、大声出したらバレる。その笑いはやめて。大体、グリアグロウの冗談は分かりづらい。じゃあ、もう帰る?」
「いや、実況が言っていただろう? どうやら試合は膠着状態にあるようだ。あちらの校舎から見るとしよう」
「……ならあんただけで行ってよ。というか私、帰って良い?」
「ファハハハ! 相変わらずお主はツレないな!!」
「だからうるさい……。その笑い方やめてってば」
そんな話をしながら校舎へ向かう二人。それに付いていくオレとフローラさん。
「……姿は見えないのに声だけが聞こえる、というのは奇妙なものですね」
「あぁ、そっか。フローラさんにはそう映るのか。けど、こいつら……今回は唯の偵察なのかな?」
「そう願いたいですね。今はまだ、出来る限り魔人を刺激することは避けたいですから」
「そうだね。このまま何もせずに帰って欲しいね」
もし、こいつらがこれまでと違って直接手を出して来たら、その時はこちらも覚悟を決める必要がある。だが、こいつらと直接戦うのは出来る限り後に回したい。それこそ、可能なら来年以降だ。こちらは時間をかければかけるほど、メンバーが強くなる。最終的には全員の力を合わせて、ラスボスだって倒せるようになるはずだ。出来る限り刺激はしたくない。
「さて、キャロル。視線には気づいておるか?」
「なにそれ?」
「なんだ。気づいておらんのか。先ほどから妙な視線を感じるぞ?」
「なに言ってんの?」
「ほれ。今はワシらの後ろからだ」
な!? こいつ……!?
「玉木? ゴースト化はーー」
「勿論、解いてない。実際、幻覚魔人は気づいていない」
「ブラフの可能性がありますか?」
「いや、現段階では何とも……」
どういうことだ……? オレの能力は透明魔人やゼルクさんだって気づけなかった。それをこいつ……
「グリアグロウーー正気? 後ろなんて誰もいない」
「それはそうなのだがな。先ほどからやたらと視線を感じるのだ。それも同じ方向からではない。グルグルとワシらの周囲を回っているかのような視線だ」
「……嘘じゃない?」
「ワシがここに来た理由。もう一度思いだすのだ」
「ーーフォウもあなた自身はともかく、あなたの感覚には一目置いている。だからあなたをわざわざここに来させた」
「うむ。理解してもらえて何よりだ。さて、ワシらを見張るものよ。お主は一体何者だ?」
そう言って振り向き、こちらを見てくる。……さて、ここで視線を外したり逃げてもいい。だが、ここはーー
「……」
「だんまりか。お主は神鏡の守護騎士なのか?」
「……」
「ふむ……。口がきけぬのか、それとも見る事しか出来んのか。若しくは敢えて反応しないのか」
「……」
「まぁ良い。どちらにせよ、幻覚を見破るなんらかの術がある事はわかったな」
「玉木? 先ほど、敢えて視線を逸らせば、神鏡の守護騎士と誤解させられたのでは?」
「どうだろうね。やつらがこちらをどう評価しているかだね。もし、オレ達の想定以上に警戒しているなら、寧ろそれをする事で、オレが守護騎士とは関係ない可能性を思いつくかもしれない」
「どういうことですか?」
「オレ達を警戒していたら、その行動をわざとらしいと思うんじゃない? こいつ、かなり勘が鋭いみたいだしね。下手な事をして情報を知られるより、このまま視線を感じさせて、不要な推測をさせるべきだと思う」
「わかりました。では、その方針で行きましょう」
向こうの情報が無い以上、相手の行動を下手に推測するのは危険だ。特に、相手のミスを祈るような動きはすぐにボロが出る。
「……グリアグロウ。どうするの? このまま帰る?」
「ファハハハ! 何をバカな! このまま校舎から神鏡の使い手達を見るべきだな。」
「ちっ……。了解……」
傀儡魔人の方はノリノリで観戦しようとするが、幻覚魔人は面倒くさそうにしている。
こいつら……こんなキャラだったんだな。随分我が強い。案外、一枚岩でもないのかもしれない。ゲームでも基本、一人ずつと戦っていたからな。連携も苦手な可能性がある。
それだと……かなり勝機が見えてくるな。特に幻覚魔人は他と連携されたら凄まじく厄介だ。それが有るか無いかで戦いが全然違ってくる。
そうして校舎までやって来た。校庭の方でも、丁度クレアちゃん達が動き出したようだ。
「はぁ……。遠くて大まかなところしか見えない」
「そうだな。だが、守護騎士があれほどの壁を出現させたときは驚いたが……やはり壁を動かすだけで精一杯のようだな」
「うん。大したことない。他も人間にしては随分良い動きをしているけど、それだけ。私やアミーラ。それにあなた本人よりも弱い」
マジでか……。カイウス君の話を聞いて、もしかしたらと思ってはいたけどーー戦闘タイプでもないこいつらの方が皆より強いのか。ホントに厄介なことだ。
そうなると……こいつらを不意打ちで仕留めるなら、ゼルクさん達を相手に出来るくらいじゃないと無理だな。オレのボウガンでどこまでやれるかーー
「フム……なら、今この場で殺してしまうか」
「は?」
な!? それだけは無いと思っていたのに……!? くそっ! どうする……!? 傀儡魔人の言葉に取り乱す。
だが、
――ポフッ――
そんなオレの頭に、フローラさんの手が被さる。
「玉木。落ち着きなさい。これは恐らくブラフです。貴方の動揺を誘うための」
「っ!? わ、わかった」
そう思った理由は後で聞こう。だけど、信頼できる彼女の言葉だ。今はフローラさんを信じよう。
そんな理由で動じずにいると、少しの時間をおいて、傀儡魔人が口を開く。
「フーム……。反応無しか。何か動きがあれば良かったのだがな」
「なに? さっきから言っている視線の話?」
「そうだ。あの神鏡の娘。ここからでは流石に表情までは見えん。が、こちらを気にした様子もない。ならば、こういった言葉で反応があるかと思ったのだがな」
あ、あぶねぇ……。フローラさんがいてくれて助かった。余計な情報は渡さないに限るからな。
――パン!――
「き……決まったぁぁぁぁ!!」
校庭では対抗戦の決着が着いた。どうやらBクラスが勝ったようだな。
「終わり? ホント、ただのお遊戯」
「だがまぁ、今のやつらの能力が知れて良かったではないか。あの程度なら我らの障害にもなるまい」
「うん。じゃあ、帰ろう」
「そうだな。だが、この監視の目。外すべきではないか?」
「……はー……。めんどくさい。どうするの?」
「とりあえず走って帰ってみるか。神鏡の守護騎士が主からそれほど離れる筈もない」
「えー……」
そうか。このまま帰るのか。じゃあ、オレ達はーー
「玉木。私達もこのまま撤退すべきだと思います」
「うん。オレもそう考えてた。折角油断してくれそうなのに、このまま付いていって、警戒されるのは不味いよね」
「えぇ。こちらに幻覚を見破る術があると確信されたのは痛いですが……」
「その代わり、オレのゴーストも完璧じゃないことがわかったもんね」
「そうです。それが分かれば対処も出来ます」
「よし、こいつらが校庭を出た辺りで付いていくのをやめよう」
「分かりました」
こうして、魔人との2度目の邂逅となった体育祭は、何事もなく終える事が出来た。




