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対抗戦、始まる直前に

「いよいよ始まるね。どうなるかな?」


「そうですね。お嬢様の活躍に期待したいところですが……」


「相手も強いもんね。と、いうかそもそも魔力の身体強化無しで戦える時点で凄いと思うしね」


「ええ。お嬢様はとても努力されておられましたから」


「そうだろうね。オレは皆と違ってその頃を見ていないけど、見なくてもわかるよ」


 あの娘はホントに努力家だ。実際、言動は15歳には思えない。けど多分、それらは努力した日々と挫折の経験から成り立っている。だからオレは彼女が好きなのだ。


「フ……」


「何? サラちゃんの過去を知らないオレ、笑われてる?」


「いえ、笑いたい気持ちもありますけどね」


「あるのね……」


「当然でしょう。お嬢様への忠誠も、お嬢様への理解も。私は誰にも負ける気はありません」


「そうだね。オレもフローラさんに勝つ気はない。そもそも主への忠誠なんて、頼もしいとは思っても、妬ましいとは思わないよ。フローラさんは仲間だからね」


 言いながら、校庭の方を見る。

 だが、そこでオレはとんでもないものを発見してしまう。


「っ!?」


 それは、ここにいる筈の無い者。いや、者たち。

 そんな彼らを見つけて、一時的に思考が止まる。


「そうですか。ですがそれは勝ちを諦めているが故のーー玉木?」



 フローラさんが不思議そうに尋ねてくる。だが、オレは今、それどころではない。視界の先にいる、あの青い肌をした男たちの事を考えなければいけない。

 魔人!? どうしてここに!? 1人は幻覚魔人。そしてもう1人。あいつは確かーー傀儡を操っていた魔人じゃないか……!?


 あいつ自身はそれほど脅威じゃない。ただ、あいつは傀儡を操る。何体まで操れるかは知らない。けれど、操る中でも最強の傀儡は、ゼルクさん、ゼリカさんより強い。先日の戦いの後、2人から話を聞いたが、オレの情報が無ければ殺されていたそうだ。彼らが2人がかりで戦っても殺されかねない程強い傀儡。その上、それは先日の戦いの後、3年後に向けて強化されているかもしれない。


 そんなやつがここに……? 巡回していた限りでは傀儡は配備されていなかった。けど、例えば地下に埋まっていたら? 空から降ってきたら? 外から大挙して押し寄せたら?

 学園には今、兵士すらいない。

 もし、そんな事になれば犠牲はとんでも無い事になる。



 それに、この場にいるのがやつらだけという保証も無い。他の魔人と共に動いていたらそれこそーー


――チクッ――


「いったぁ!?」


 思考していた所をフローラさんに刺される。え!? 何!?


「痛いよ!? 何!?」


「何ではありません。急に血相を変えて黙りこんで……。何度声をかけても無視を続けられては我慢も限界です」


「え!? あ! ごめん!」


「はぁ……。魔人を見つけたのですか?」


「え?」


「貴方の様子を見れば分かります。ですが、それならすぐに報告なさい。私達は仲間なのでしょう? 貴方一人で考えるよりは良い結論が出る筈です」


 そう言って呆れながらも諭してくる。

 そうだ。透明魔人と邂逅した時とは違う。今、オレの傍には仲間がいる。それに、校庭には他にも頼りになる仲間がいる。なら、オレだけで悩む必要なんかないんだ。


「そうだね。ごめん。ぼーっとしてた」


「しっかりなさい。役に立たない仲間など要りませんよ?」


「うん。報告する。まず……校庭に幻覚魔人と、傀儡を操る魔人がいる」


「傀儡? 例の4本腕の?」


「そう。現時点で想定される最悪のパターンは2つ。

 1.傀儡魔人が傀儡を操って生徒を襲う

 2.他の魔人がサラちゃん達を襲う」


 傀儡魔人が陽動の可能性もある。アイツらだけに注目するのも不味い。


「ふむ。そうですか……。玉木、傀儡や他の魔人の姿は確認できますか?」


「いや、確認出来ない。けど、地中に埋まっていたり、空から降ってきたり、外から入ってきたり……考えられるパターンは幾らでもある。それに、遠距離攻撃だってある」


「傀儡魔人はどこに?」


「あそこの人がいない辺り。丁度、観覧席の間だね」


「かなり大きなスペースですね。しかし、ここまで距離がある中で、なぜ私にまで幻覚が?」


 確かにそうだ。こんな遠くまで聞こえる音で、違和感のありそうなものーー


「ひょっとして……生徒の声?」


「……成程。それなら納得がいきますね。貴方にはこの歓声が聞こえていないのですか?」


「わからない。生徒たちの声援は聞こえてる。けど、声量がフローラさんと比べてどうかは比較しようがない」


「厄介ですね。ですが幻覚魔人が共にいるなら、まず間違いなく幻覚でしょう。そうなると、傀儡に襲撃されてはひとたまりもありませんね」


 そうだ。そんな事になったら勝ち目が無い。幾らオレが幻覚を見破れるとは言え、こんな広範囲に知らせる事なんかできない。だとすると、幻覚の解除は必須になる。けど、生徒の声を利用されていたらそれも難しい。


「玉木。遠距離攻撃を行える魔人の最大射程距離はわかりますか?」


「ゴメン。そこまでは。ただ、遠距離攻撃は射程はともかく、一撃の範囲は狭い。それに連射も出来ない」


「ふむ……。それだとその魔人が関わっている可能性は高くはありませんね」


「へ? なんでーーあ、そっか。そうかもね。

 もし、見えない距離から攻撃出来るなら、その情報を知らないオレ達の為に、わざわざ幻覚魔人や傀儡魔人が出てくる理由がない。陽動なんてなくたって、仕留められる気がする。

 けど、ここから見える位置には現状、それらしいものはない」


「えぇ。ですから、その可能性は捨てましょう」


「え?」


「この事態。全ての可能性に対処するのは不可能です。なら、より高いものに絞って動きましょう」



 成程……。冷静に考えれば、行うべき対処は見えてくる。


「じゃあ次に、傀儡魔人達をどうするかだけどーー」


「傍に張り付き、いつでも奇襲をかけられるようにしましょう」


「え? でも、他の魔人の可能性は?」


「どの道、他の魔人が出てきた場合でも、幻覚や傀儡の排除は最優先になります。確かにこちらが襲撃を受けるリスクはあります。ですが、その2匹を始末出来るリターンは今後、大きなプラスになります」


「……それは……」


 確かにそれはそうだ。だが……それは奇襲を受ける事前提。つまり、こちらに被害者が出る事を想定した動きだ。



「玉木。貴方は優しい。ですが、貴方は冷静さも持っているでしょう? お嬢様達のように子供ではないのですから」


 フローラさんがオレの目を見つめる。


 そうだ。もし仮にこちらに被害者が出たとして。……それこそ殺されたとして。それでも、幻覚や傀儡を排除出来ればその後の被害が大きく減らせる。

 それはつまり、1人を殺して10人を救う選択。

 そしてこんな選択は、子供たちに背負わせる訳にはいかない。それこそ、オレが……いや、オレ達大人がするべきだ。


「……うん。ありがとう。理解出来た」


「それは何よりです」


「だけど、それでも警戒はしておきたい。だから、あの二人の魔人の周囲をグルグル回りながら飛行しよう。それなら、やつらから視線を逸らさずに周囲を警戒できる」


「わかりました。では、そのようにしましょう。さ、すぐに向かいましょう」


 そう言って、オレの背中におぶさり、手足を回して貼り付いてくる。彼女は強くしがみついた状態だ。だが、若干震えている。高所を恐がる彼女がこういう行動に出る。つまり、彼女はーー


「……じゃあ、急いで向かう。けど、やつらから目を離したくない。窓から直接行こう」


「……えぇ……。お願いします」


「フローラさん。目を瞑っておいて。どの道、やつらはオレにしか見えないから」


「……わかりました」


 しがみつく手足の力が強くなる。……本当に彼女は強い。オレにしがみつき、震えるほどの恐怖でも。それでも主や仲間の為に行動出来る。

 やっぱりオレは、彼女に勝ちたいなんて安易に言えないな……


 そんな事を思いながら、窓から外に飛び出した。皆を守る為に。

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