徒競走の結果
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と、言う事でメルク君にきまりました。
(どうしてこんな事態になったんだろう……)
学園の生徒たちの目は、全て彼。メルクに向けられていた。
10分程前、彼は自分の仲間達と共に徒競走を行った。
当然、彼は必死に走った。それこそ、先日の戦いでガスク配下の老兵に追われた時に匹敵するほどの必死さだった。
だが、それでも僅差で敗れてしまった。
敗けた事は良い。仲間たちの速さ。そしてそんな相手に、喰らいつけた自分自身。いっそ誇らしくもある。
そう。問題はそこではない。
最近彼は魔人と戦う為、国一番の騎士に弟子入りした。そんな師匠が「徒競走で最下位になったやつは、校庭で婚約者に愛を叫べ」と言いだした。
その徒競走に自分は敗けてしまった。そうなると、自分は婚約者に愛を叫ばないといけない。
こんな事態を引き起こした張本人でもある、自分の婚約者。彼女は周囲の雰囲気が変わったことを、不思議そうに見まわしている。
いつも通りの様相だ。なぜこの状況で平静でいられるのか。方法があるのなら、教えて欲しいとすら思う。
そんな彼を不憫に思ったのか、仲間の一人。ロイドが声をかける。
「……メルク君」
「ロイドさん?」
「メルク君。君がもし、どうしても、と言うのなら僕が変わってもいい。僕なら似たような経験もある。ま、流石にこんなところで叫んだことはないけどね」
「で、ですがそんなこと……」
「いいさ。こうやって仲間を庇う姿勢を見せれば、僕の評価もプラスになるだろう?」
そう言って笑う、元・女たらし。こんな時、彼はとても頼もしい。
「ですが、もしロイドさんが良かったとしても、エレナさんが……」
「……そうだね。僕はただでさえ彼女を傷つけている。こんなところで愛の告白なんて、彼女にも迷惑だと思う。だけど、君だって僕の大切な仲間。そしてこんな事態は僕の方が得意だ。だから君が望むなら、僕は喜んで君の力になろう」
彼も考えなしで言っている訳ではない。それでも、自分の仲間だからと提案してくれる彼の言葉。それはすくむ体を動かすには、充分なものだった。
「ありがとうございます。でも……僕、考えてみれば、マリアに愛を伝えた事なんて、これまで一度もないんです。相手は自分の婚約者。これもある意味、良い機会なんだと思います」
「メルク君……」
「それに、カイウスさんじゃないですが……僕も侯爵にふさわしい男になりたいんです。だから、こんな所で尻込みしていられません」
「メルク……お前……」
「わかった。オレも、ロイドもカイウスも。三人共、お前の味方だ。恐れることなく叫べ」
仲間たちに背中を押され、決意を固める少年。
その目には、熱い炎が灯っている。
「おい、メルク、やるつもりみたいだぞ」
「本当だな。こんな状況で声なんか出るのか?」
「ねぇ! なんておっしゃるのかしら?」
「わからないわ。でも、ワクワクするわね!!」
彼に集まる周囲の目が、期待をこもったものに変わる。
「すぅーっ…」
大きく息を吸って大声を出す準備をする。目標はーー自分の婚約者、マリア。
「マリアーーーーーッ!!!!」
「「おぉっ!!」」
彼が大声を出す事など、誰も見たことがない。だが、それでも大声で叫ぶ。羞恥を、恐怖を、かき消すように。
「え? あ、はい」
「僕はまだ、侯爵にふさわしい男じゃない!! だけど……もし、僕が侯爵にふさわしい男になれたらその時はーー」
言葉を止め、覚悟を決める。
「僕と一緒に……人生を歩んでほしい!!!」
熱い思いを言葉に載せて叫ぶ。その姿に周囲からは歓声が上がる。
「「うおおおおお!!!」」
「「きゃあああああ!!!」」
「すげぇ! メルクのやつ言いやがった!!」
「テ……テレーズ嬢の反応は……!?」
「え!? 表情が変わってない……!?」
「だけど……なんて返すの!?」
彼の勇気を込めた告白。それは、彼の婚約者だけに贈られた言葉だ。
全員の視線が集まる。彼女の返答を聞き逃さないように。
そんな彼女の第一声はーー
「はぁ」
「「え?」」
全員の期待していたものとは、大きくかけ離れたものだった。
そんな返答を受けたメルク本人も、流石に想定外の反応だったようで、口を開けて固まっている。
「え? あの……。マリア……? 僕の言葉の意味はわかってる……?」
「はい? ですから、いずれ結婚しようという事ですよね? 婚約しているのですから当然では?」
「い、いや……そうなんだけど……」
「? メルク様? どうされたのですか? それに、どうして皆さんは静まり返っているのですか? 私とメルク様が婚約している事をご存知なかったのでしょうか?」
そう言って不思議そうに周囲を見回す。少年の一世一代の告白は、彼女相手には通じなかったようだ。彼女にしてみれば、分かっている事を再確認しただけ、という認識のようだ。
「そ、そんな……。せっかく、勇気を出したのに……」
「メ、メルク君、落ち込む必要なんてないさ! 君はかっこよかったよ!!」
「あ、あぁ! 男らしかったぞ! 将来の侯爵にふさわしい宣言だった!!」
「メルク! 今度、ロイドの歓迎会も兼ねて、男だけで宴をしよう!」
膝をつき、項垂れるメルク。そんな彼を周囲の男子たちも必死に慰める。
「あら? メルク様、どうされたのかしら?」
「マリア……。貴方、なんてことを……」
「マリア様……。メルク様にもっと優しくしてあげてください……」
「メルク様……凄く落ちこんでおられますね……」
「流石にメルク様が気の毒すぎて、あの光景にも興奮出来ないわね……」
口々に呆れたような言葉が投げかけられる。だが、彼女にはそんな風に言われる理由がよくわからないようだ。
「マリア? メルク様の先ほどの言葉……。あれはプロポーズとほぼ同じよ?」
「プロポーズですか? ですが、婚約している以上、同じことではないのですか?」
「あの……マリア様? メルク様は『一緒に人生を歩んでほしい』って仰ったんですよ?」
「? うーん……。ですから、『いずれ結婚しよう』という事ではないのですか? プロポーズと婚約の違いがわかりません」
「リリー様……。これ、メルク様は言葉を間違えたのではないでしょうか?」
「そうね……。マリアを相手にするなら『愛している』とか『君が好きだ』とかの方が良かったんでしょうね……」
他の生徒達も先ほどの興奮が嘘のように落胆している。
「なぁ、メルクって……苦労してんだな」
「そうだな……。これからはもう少し、優しくしてやるか」
「あの言葉を聞いた第一声が『はぁ』って……」
「『はぁ』って言いたいのは私達よね……」
「あの……ゼルク様。これ、どうしましょうか」
「……どうしようもねぇな。とりあえずオレに出来るのは、今度メルクに旨いものをたらふくごちそうするだけだ。スマン、メルク」
会場中の空気はなんとも言い難いものとなった。だが、誰もその空気を変える事は出来なかった。
魔人と戦う者達の、それぞれの誇りをかけた徒競走はこうして幕を閉じた。
そして、勇気を出した少年の心には、新たな青春のトラウマが刻まれる事となった。




