誰かの力に
Bクラスの代表者が決定した後、学校の隅に集まる男子生徒達。彼らの風貌はあまり良いものではない。いわゆる不良のような格好だ。
「クソッ! ロイドのやつ、人に恥をかかせやがって!」
「だが、確かにアイツもメルクも、ここ最近雰囲気が違うよな」
「雰囲気!? それがなんだってんだ偉そうに! 大体、神鏡の噂を信じているやつらがおかしいんだよ! 見たこともない癖によく信じられるよな!?」
「ホントにな。でもよ、あそこまで大口叩いたやつらが負けたらーー面白いよな?」
「……そうだな。当日は少し、手を加えてやるか」
「何か細工をするのか?」
「あぁ。だが、まずは情報を仕入れておこうぜ。実行委員に話を聞いて、アイツらの装備を確認させてもらおう」
「ははは……。楽しみだな」
…………
一方、Aクラスでも代表者が決定していた。
「はっ!」
「ぐっ!? しまっーー」
――パン!!――
「決まったぁぁぁぁぁ!! 優勝はーーサラ・シルフォード様だぁぁぁぁ!!」
「「おぉー!!」」
「くそっ!」
「ありがとうございました。機会があれば、またお手合わせお願いします」
「ぐ……でも、何回やったって……」
「そんなことはありません。今、この場では私が勝ちました。ですが3年後、皆様の体格は大きく変わるでしょう。……女性の私はこれ以上、力を付ける事は難しいでしょうから……」
「あ、いや、それはーー」
「ですが、私も研鑽を続けます。強くなる皆様に負けないように。ですので、また、手合わせをお願いします」
「あ……こ、こちらこそ……」
そう言ってサラちゃんと握手する決勝相手。流石サラちゃん。相手のフォローも忘れない。相手も満更でもなさそうだ。
「お疲れ様でした! サラ様!」
「お疲れ様です。サラ様。お見事でした」
「ありがとう。クレア、エレナ」
「サラ様! これで一緒に戦えますね! 体育祭、頑張りましょうね!!」
「随分嬉しそうね、クレア?」
「勿論です!! きっとBクラスはカイウス様、メルク様、ロイド様の3名ですよね!? それを相手に私とシルヴァ様とサラ様の3人で戦う……!! 仲間同士、全力で戦える……! こういうの、ちょっと憧れてたんです!!」
クレアちゃんが興奮気味に語っている。確かに楽しみな展開だ。彼ら彼女らがどんな風に戦うのかな。
「そうね。ずっと魔人関連の戦いばっかりで、訓練以外で仲間と戦う。それもチーム戦で、なんてこれまでなかったものね」
「そうなんです!! 何のしがらみもなく、正々堂々と戦えます!!」
「で、ですが……体育祭までに魔人が関わってくる可能性は……?」
エレナちゃんが心配そうに聞いてくる。そうだな。オレ達はここ数日、平和だったから少し気が緩んでいるが、彼女はその脅威だけ伝えられている。実感がない事が余計に恐怖を感じるんだろう。
「そうね。玉木の情報では、1年目の体育祭に魔人は関わらなかったと聞いているわ。でも、ここまで状況が変わったら、何が起こるかわからないものね。用心しなくちゃ」
そう。確かゲームではこの時期、守護騎士の召喚は出来ず、小さな魔法が使える程度だった。それに、相手もカイウス君くらいで、カイウス君+モブ2人 VS 王子+クレアちゃん+モブ という構図。加えて、守護騎士も召喚していなかったという事は多分、魔力を扱う訓練もしていないはず。そうなると、ゲームとは別次元の戦いだろう。
ここまで戦いの内容が変わっている以上、何が起きてもおかしくない。
「そ、そうですね。少し、気が緩んでいました」
「えぇ。私もここ暫く平和だったから、つい、気が緩んでしまっていたわ。エレナ。ありがとう」
「い、いえ……そんな……」
サラちゃんの言葉に少し顔を赤くするエレナちゃん。……君、今もロイド君の事が好きなんだよね? サラちゃんに攻略されてないよね?
「……玉木……。貴方、何か変な事考えてるわね……?」
「い、いや? 考えてないよ?」
「…………」
サラちゃんがジト目で見てくる。うっ! 下手な事を考えるとこの娘はすぐに察知してくる!!
「玉木様? また変な事を考えているんですか?」
「また?」
「はい。偶にサラ様が玉木様にそう言ってるんです」
「そ、それ……大丈夫なんですか……?」
なにっ!? クレアちゃんやエレナちゃんにまで、変な誤解が!? 待って!? オレ、そんなヤバいヤツじゃないよ!!
「クスクス……。玉木がまた慌てて何か書いてるわよ? 玉木、他の人に見えないようにね」
「「え?」」
『誤解です! エレナちゃん、随分仲良くなったなぁって思っただけ!!』
「あ……それは……」
そう言って顔を真っ赤に俯く。いや、可愛いけども! それはそれで邪推したくなる行動だからね!?
「……玉木?」
ほらぁ! もー!! またオレに対してあらぬ誤解が生まれるぅー!!
……いや、誤解か……? あれ? そうでもないかも……。リリーちゃんのこと、笑えないんじゃないか?
「ぷっ……くくく。また一人で百面相してるわね。二人も是非、鏡の前で玉木と話して欲しいわ」
「あ! そっか! 鏡で見たら玉木様が変な事を考えていること、分かりますかね?」
「えぇ。バッチリだと思うわよ?」
「じゃあ是非見てみたいです。サラ様みたいに『玉木様?』とか言ってみたいです!」
……その発言。嬉しいけど……オレを尋問する検察官候補が増えてない? サラちゃんとフローラさんだけでもフルボッコにされるのに、これ以上人数増えたらオレ、それこそサンドバッグになっちゃうよ?
「フフ……。玉木が青い顔してるわ。じゃあ、皆で玉木を問い詰めましょうか?」
「やめて!! オレのメンタル壊れちゃう!!」
「もう、紙に書く余裕すらないみたいね? 二人共? 玉木はとても嬉しそうよ?」
「サラちゃん!? 煽らないで!?」
「サラ様……とても楽しそう……。ホントに仲が良いんですね」
「羨ましいですよね。私も玉木様には何度も助けていただいているので、もっと仲良くなりたいです」
「あの……サラ様。前に話していた兄のような人物って……?」
ん? 兄のような人物? 何のこと?
「勿論、玉木の事よ。姉はフローラね。二人には私、随分甘えさせてもらっているの。だから昔よりも心に余裕が出来たわ。でも、それはクレアもよね?」
「そうですね。私もゼルクさんとゼリカさんに、とっても可愛がってもらっています。玉木様のお陰で、自分の嫌な気持ちも素直に受け止められるようになりました」
「じゃあ、あの時に気持ちの整理を手伝ってくれたのも……?」
「えぇ。玉木に言われたの。恐怖も、怒りも、嫉妬も。どんな感情だって良いも悪いもない。人間だもの。感情を持たないなんて無理。だから、大事なのはその矛先。自分の気持ちを素直に受け入れた上でどうするかを考えろってね」
「私はそのお陰で神鏡を扱えるようになりました! それに……自分に自信もつきました!!」
「そう教えてもらっていたから、昔の私と似ていた貴方を放っておけなかったの。貴方も自分の気持ちを整理できていなかったからね。整理して、矛先を変えれば良い方向になるって確信があったわ」
流石サラちゃん。オレを褒めるのも堂々としたものだ。オレ? 誇らしい気持ちはある。けど、正直恥ずかしさでこの場から離れたい。
「けど、自分の気持ちなのに……自分で整理が出来ないなんてーー」
「良いじゃない。自分で出来なくたって」
「え?」
「人の力を借りて出来るなら充分よ。だからその分、貴方も私達を助けてくれたら嬉しいわ」
「サラ様……」
「ま、これも玉木の受け売りだけどね」
「サラちゃん……そろそろ勘弁して……」
「恥ずかしがらなくたって良いじゃない。私の自慢の兄なんだもの」
ぐおお!! 褒められ続けるのもこれはこれでキツイ!! フローラさんの茶々、もとい罵倒を望む日が来るとは!!
「あの……玉木様……?」
恥ずかしさに悶えていると、エレナちゃんがオレに話しかけてきた。
「助けていただいて……ありがとうございました」
助け? 女生徒たちに囲まれていた時の事かな?
「サラちゃん、まだ人の目があるから翻訳お願い」
「良いわよ。エレナ。私が翻訳するわね」
「は、はい」
「気にしないでいいよ。オレは偶々あそこにいただけだから」
「いえ、あの時だけでなくてーーサラ様が貴方のお陰で変われたのなら、貴方が間接的に私を救ってくれたんです。だから、ありがとうございます」
その言葉に息を呑む。
そうか……。召喚されてから、ずっとサラちゃんの力になる事を考えてきた。けど、それだけじゃない。オレが助けたサラちゃんが他の誰かを助ける。そうやって、オレの存在がこの世界に大きな影響を与えていくんだ……
「わかった。なら、尚更御礼はいらない」
「え?」
「その代わり、君も誰かを助けてあげて? サラちゃんやクレアちゃんもそうだけど、色んな人の力になってあげて? そうしたら、オレが君を助けた事が、もっと大きな意味を持つから」
「玉木様……。分かりました。私も、誰かの力になります」
「うん。頑張って」
「やっぱり玉木様、とっても優しい方ですね?」
「そうでしょ? 私の自慢のーーあっ!!」
サラちゃんは何かを思いついたようで、いたずらを企む子供のように、ニヤリと笑う。
「クレア? これからも玉木と仲良くなれるようにするから……貴方も、積極的に仲良くなってね?」
「? はい? 勿論、玉木様とは仲良くしたいですよ? 玉木様、よろしくお願いします!」
……サラちゃんの意図。絶対クレアちゃんに伝わってないな……。攻略対象がオレなんてゲームから離れすぎだろ……
でもまぁ、オレも皆と仲良くするのに異論はない。サンドバッグになる事も甘んじて受け入れるしかないな。
……いや、やっぱりそれは全力で抵抗しよう。




