Bクラス代表者
Aクラスが対抗戦のメンバーを選定している中、Bクラスはシンと静まりかえっていた。
「では、体育祭の出場種目は粗方決まりましたので……その……最後は、対抗戦の出場者を決めたいと……思います……」
「「……」」
空気が重い。当然だ。Aクラスはクレアが神鏡を使っての出場が決まっている。その上、恐らくシルヴァまで出てくる。なら、対抗戦のBクラスの出場者とは、彼らにしてみれば生贄としか思えないだろう。
「お、おい! お前らなんだよこの空気! 神鏡なんて所詮、国の作ったまがい物だろ!? 何信じてんだよ!!」
「そうだ! 殿下が出るとはいえ、ウチのクラスにはカイウスだっている! 寧ろチャンスだろ!?」
「なんならカイウス以外の2人はオレ達が出てやるよ! お前らに目にもの見せてやる!」
大声で抗議する3人の男子生徒。そんな彼らに、ロイドは冷ややかな視線を向けていた。
(……成程ね。玉木君の言っていたのは彼らのことか)
だが、クラスメイトの大半もロイドと同じ意見のようだ。彼らを冷笑するような声があちこちからあがる。
「あんた達ね……」
「もう良いんじゃない? 誰がやったって同じでしょ。ただの生贄だもの」
「なっ!? お前、なんてことを!?」
「事実じゃん。神鏡って魔人と戦うための物なんでしょ? そんなものにどうやって勝てっていうのよ」
「だからそんなものは偽物でーー」
「そう思ってるのはあんたたちくらいよ?」
クラス中の冷ややかな目が彼らに集まる。
これでは埒が明かないと、ロイドは溜息をついてから手を挙げる。
「……皆、良いかな?」
「ロイド?」
「何か良い案でもあるのか?」
問われたロイドは背中に垂れ下がった赤い髪を右手で払う。その仕草にクラス中の視線が集まった事を感じたロイドはキザっぽく笑った。
「あぁ。出場者についてだが、皆は何も心配する事は無いよ。ーー僕とメルク君、カイウス君の三人が出場しよう」
「「は?」」
ロイドの言葉にクラス中がざわつきだす。
「おい! オレ達が出るって言ってんだろーが!」
「そうだそうだ!」
「ロイドのやつ、目立ちたいだけか?」
「いや、それならカイウスはともかく何でメルク?」
「ロイド様も神鏡の事を信じてないのかしらね?」
「もしそうなら幻滅ね」
「あー……。静かにしてもらっても良いかい?」
そんなクラスに待ったをかけるロイド。
「どうしてこのメンバーなのか説明しよう。カイウス君が双竜の弟子だという事は皆も知っているよね? 実はね……最近、僕とメルク君も双竜の弟子に加わったんだよ」
「「えぇ!?」」
「信じられないかもしれないけどね。ね? カイウス君?」
「あぁ。既にメルクもロイドもオレとは兄弟弟子にあたる。当然、オレやシルヴァとも手合わせしているし、何本かは不覚を取っている」
カイウスの言葉に、クラスのざわつきが先ほどよりも大きくなる。
「カイウスって確か殿下より強いって噂だよな!?」
「マジでか……!? ロイドはともかくメルクまでカイウスから1本取ったのか……!?」
「そ、それなら立候補するのも当然かも……」
「そうね……神鏡を舐めてたわけじゃないのね」
そんなクラスのざわめきを、ロイドは笑みを絶やさずに眺めていた。
(流石はカイウスくん。凄い発言力だね。ま、メルク君は数週間前、僕に至っては先週訓練に参加し始めたばっかりだし、カイウス君から1本取ったのもメルク君であって、僕じゃないんだけどね)
カイウスの言葉に嘘は無かったが、かなり誇張されて聞こえる。だが、そこは自分に絶対の自信を持つロイド。今は大げさでも、すぐに言葉通りのものに出来る確信を持っていた。
だからこそその堂々たる姿も相まって、クラスの殆どはロイドの提案を受け入れるようだ。幾人かは安堵している。
そんな空気に、先ほどまで声を荒げていた生徒らがワナワナと震える。
「お、お前ら何を勝手に……!」
だが、最早彼らの言葉に説得力などない。ロイドはフゥと溜息をつき、自分の髪をいじる。
「なら、君たちが出場するかい? 僕もメルク君もカイウス君と同等の実力がある。それでも出場したければ出ればいい。ただしーー」
一呼吸置いて、相手をジロリと睨む。
「無様な試合をしたら許さないよ?」
「なっ!?」
「お、おい……もういいだろ……。あいつらに譲っておこうぜ」
「う……そ、そうだな」
「ぷっ! だっさ」
「なんだと!?」
「え、ええと、じゃあ、ウチの代表はロイド、カイウス、メルクの3人だ! 3人とも、無理はしないようにね。神鏡相手なんだから」
揉めそうな空気を進行役が無理やり切る。
一部はともかく、クラスの大半は勝ちを諦めているのかもしれない。だが、逆にこの状況で勝利すれば、自分達への印象も変わるだろう、とロイドは思った。
ただ、今はクラスの皆に何を言ったってどうにもならないと、ロイドは来たる体育祭に向けて心を燃やした。
…………
そうして放課後。ロイドはメルク、カイウスと共に作戦会議を開く。
「さて、どうしましょうか? 今日はAクラスはこれから残り1人の出場者を決めるトーナメントをするみたいですが」
「トーナメント?」
「あぁ……そういう事か。恐らくシルヴァ君の提案だろうね。彼としてはサラ嬢に出場して欲しいんだろう」
「どういうことだ?」
「ウチのクラスと向こうでは事情が違うんでしょうね。クレアさんとシルヴァ様の2人と共に出場するのは名誉なことです。だから、ウチのクラスと違って、出場希望者が多いんでしょう」
「それで何故トーナメントに? 人数が多いならバトルロイヤル形式にして、一斉に競わせた方が早いんじゃないか?」
カイウスが質問を投げかける。彼なら恐らく、向かってくる敵を全員蹴散らすのだろう。
「サラ嬢は強い。けど、圧倒的な強さでもない。バトルロイヤル形式にしてしまえば、間違いなく狙われる。それこそ…そこそこの腕を持った男子が5人くらい総出でかかれば、いくらサラ嬢でも勝てないだろうね。男子たちからすれば、そこまでしてでも出場したいだろうしね」
「でも逆に言えば、これでサラ様が上がってくることは確実ですね」
「そうだね。ふむ……。それなら、こちらも少し趣向を凝らそうかな」
「趣向?」
「あぁ。玉木君の情報だと、僕は乗馬しながら弓を射るーーいわゆる騎射が出来るんだろう? なら、実行委員会に相談して、弓や馬の使用許可をもらおうと思ってね」
「成程。本気で勝ちにいくために、隠し玉を持っておくという事だな?」
相手はクレアにシルヴァ。それにサラにしても舐めてかかれる相手ではない。なら、少しでもこちらの勝率を上げておきたかった。
「そういうこと。じゃ、僕は体育祭まで暫く自主練習とするよ。あまり相手に手の内は晒したくないからね」
「分かった」
「僕たちはどうします?」
「オレ達は今更隠すものもないだろう。それに向こうのチームのことも知っておきたい。今後もこれまで通り訓練だな。今日も早めに師匠達の元に行こう」
「わかりました。マリアとリリーさんはどうする?」
「私は興味がないので帰ります」
「私は興味がありますがーーくっ! でも、私がお二人の間に割って入るのはーー! いや……! 私も……行きます!」
「……何を決意したのか知らんが……じゃ、行くか」
「そうですね」
…………
メルクはカイウス、リリーと3人で、いつも通り双竜の家にやってきた。
シルヴァは先に来ていたらしく、既に素振りを始めている。
「シルヴァ。もう来ていたのか」
「あぁ。といっても、私もさっき来たばかりだがな。ん? 他の2人は?」
「ロイドは実行委員会に弓の使用許可を貰いに行っている」
「成程。確かに彼が弓を使えれば脅威だな。なら、今後は暫く自主練習をするのか?」
「そうなるな。流石にここに弓術の講師を呼ぶわけにもいかんだろう」
カイウスは馬の利用については隠し、あくまで事実だけを報告するようだ。これなら悟られる事もないだろう。
「そうか。マリア嬢は?」
「マリアはーー興味が無いそうで帰りました……」
「そ、そうか……。メルクもそう気を落とすな」
落ち込むメルクをシルヴァが励ます。マリアに何が出来るという訳でもないが、それでもリリーだって顔を出している。だというのに、1人真っすぐ帰る婚約者というのはメルクとしても複雑だった。
「まぁ、今日はAクラスも私だけだからな。来ても退屈だったかもしれんな」
「え? そうなんですか? クレアさんとエレナさんは?」
「2人はサラの応援だ」
「ん? では、シルヴァは何故ここに?」
「下手に私が応援しても、サラの立場が悪くなるだけだからな。それに、サラへの妨害対策も玉木に頼んでおいた。まず間違いなくサラが勝ち上がるだろうな」
「成程。では、Aクラスはクレアさん、シルヴァ様、サラ様の3名ですか」
「あぁ。そっちもお前達3人だろう?」
「その通りだ。シルヴァ。オレ達は負けるつもりはないぞ?」
「当然だ。私とて油断はしない」
いつも通り、カイウスとシルヴァは火花を散らす。
ライバルとして常に切磋琢磨する相手同士だ。そんな関係は少し羨ましい、とメルクは思ったが、ふと、ゼルクとカイウスに言われた言葉が頭をよぎった。
『メルク。お前さんだって2人に負けないものを持ってんだ。自信もって張り合え!!』
『メルクは侯爵にふさわしい男になるのが夢、という事になるのか?』
(……そうだよ。この2人に劣等感を感じている場合じゃない。僕だって2人の仲間だ。それに、訓練だって積んできている。ここで尻込みしていられるか!)
メルクはグッと腕に力を込めて顔をあげた。そしてカイウスと向き合うシルヴァに顔を向ける。
「シルヴァ様」
「ん? メルク? どうした?」
「Bクラスはカイウスさんだけじゃありませんよ? ロイドさんもいる。それに……僕も貴方に負けるつもりはありません。僕は治癒術師。戦闘は本業じゃない。それでも……譲る気はありません」
その言葉にシルヴァは一瞬面食らうが、すぐさま不敵な笑みを浮かべた。その表情はどこか喜びも感ぜられる。
「……あぁ。勿論だ。メルク。お前だって私の仲間であると共にライバルだ。私とて、お前にだって負けるつもりはない」
「えぇ。隙を見せたらカイウスさんでなく、僕が貴方を倒します」
「そうだな。だが、Aクラスだって私1人じゃない。クレアもサラも頼りになる仲間だ。私1人に注目していると足を掬われるぞ?」
「シルヴァの言う通りだ。メルク! オレ達もすぐに準備するぞ!」
「はい! すぐに基礎訓練を済ませてゼルクさん達に稽古をつけてもらいましょう!!」
(僕の夢が「侯爵にふさわしい男になる」かどうかはわからないけれど……ここで引いて負け犬になる訳にはいかない!!)
メルクはカイウスと二人ですぐさま準備にとりかかった。
そしてリリーは1人、鼻を抑えてポツリと呟いた。
「さ、最高だわ……。ここに来て、新たな扉が開くなんて……!」




