ロイドの加入
エレナちゃんが泣き出してから少し経ち、ようやく彼女も落ち着いてきたようだ。
「ずっ……。う……サラ様……すみません。制服を汚してしまって……」
「気にしないで良いわよ。汚れたら洗えばいいだけだからね。貴方の心のつっかえが取れた事の方が重要だもの」
「う……サラ様……。何から何まで……ホントに……ありがとうございます……」
「シルフォード嬢。僕からも礼を言わせてくれ。ありがとう。お陰でエレナにもきちんと謝れた」
「ロイド様? 明日からも浮気されるのなら、御礼などいりませんよ?」
「わかっている。もう、そんなことはしないさ」
「え?」
ロイド君の言葉にエレナちゃんが驚いている。だが、確かにロイド君がそこまで素直になるとは思わなかった。何か思うところでもあったのだろうか?
「あの……ロイド様……? 謝罪いただいた事はとても嬉しかったのですが……その……」
「あぁ。君の言いたいことは分かっているよ、エレナ。多分、君の気持ちを聞いたのが、昨日だったら……僕は浮気を続けたろうね」
「え?」
そう言って、ロイド君はカイウス君を見る。
「僕は昨日、カイウス君のお陰で自分の夢を見つける事が出来た。僕の夢はーー貴族のしがらみから抜け出す事だ」
「え? でも……そんな事……」
「あぁ。僕もそんな事は出来る訳がないって諦めていた。だから学園にいる間だけは、好きなことをしていたいって思っていた。今思えば……子供じみた我儘だよね。我ながら情けない」
そう苦笑するロイド君だが、その表情はどこか晴れやかだ。
「確かに、貴族のしがらみから抜けるなんて……そんな事出来っこないのかもしれない。けれど、出来ない保証だってどこにもない。僕は神に選ばれし者。その夢の為なら、なんだってしてみせる。なら、浮気なんてくだらないこと、していられないさ」
「ロイド様……」
「ロイド。なら、なおさら魔人との戦いに加わってもらえないか?」
「シルヴァ君? どういう意味だい?」
王子がロイド君に問いかける。ま、そうだな。オレもそう思うし。
「君の夢。それを叶える為にはきっと……大きな力が必要だ。君の言う通り、魔人との戦いそのものは、それほど君の功績にはならないかもしれない。どうしたって、私やクレアに注目がいくからな」
「あぁ。そうだろうね」
「だが、私達と共に戦うということは、私やクレアと仲間になるということだ。私やクレアの功績は、そのまま君の力になると思わないか?」
「まさか……仲間になれば僕の夢に協力してくれると?」
「当然だ。仲間の夢は自分の夢。正式に仲間になってくれれば、私達も周囲に気兼ねせずに力を貸せる。私やサラは、貴族社会でも大きな力を持っている。加えて、メルクやカイウス、クレアだって、この戦いで大きな力を持つだろう。それらが全て、君の味方となる。君の夢にとって、これほどプラスになる事は、他にないと思うぞ?」
「……」
ロイド君が考え込む。即決できるような話でもないだろう。でも、さっきの様子。きっともう、答えは決まっているだろう。
「分かった。そうだね。シルヴァ君の言う通り、君たちの力が借りれるなら、僕の夢に大きく近づける。なら、協力しない理由はない。それに、カイウス君にも借りを返したいしね」
「……貸しを作った覚えはないんだがな……」
「あはは。君はそうだろうね。だから、これは僕の自己満足だ。それにメルク君やシルヴァ君とも仲良くしたいとも思っている。知っての通り、僕は男友達が殆どいないからね。だから、僕も君たちと一緒に戦うよ」
「ありがとう。ロイド。よろしく頼む」
「あぁ。こちらこそ、よろしく頼むよ」
そう言って、握手を交わす。成程なぁ……。結果的にAクラスとBクラス。双方の力でロイド君を仲間にすることが出来たわけだ。……今回のオレの仕事って……
「玉木。そう落ち込まないで。貴方が昨日、調査をしていたからエレナを助けられたのよ? エレナが助けられなかったら、この結果にはなっていないわ」
「え? 昨日って……」
「シルフォード嬢? それは……どういう事なんだ?」
「ロイド様。仲間になったことですし、サラで構いませんよ。実は昨日、エレナは貴方に振られた女たちに襲われそうになったんです」
「な!? 僕のせいでエレナが!?」
「はい。幸い、昨日は私達の仲間が近くにいたので、事なきを得ましたがね」
「そうか……。しかし、僕の愚行のせいでエレナを危険な目に……。エレナ、無事で良かった。それと……本当にすまなかった」
「い、いえ……そんな……」
再び頭を下げるロイド君。エレナちゃんは謝られることに慣れていないんだろう。先ほどから落ち着かない様子だ。
「そ、その、サラ様。昨日というのは裏庭での事ですよね……? あの時、誰か近くにおられたのですか? 何が起こったかわからなかったので、何かーー木の精霊などの仕業かと思っていましたが……?」
「クスクス。木の精霊って、ドリアードが思い浮かぶわね? けど、違うわ」
「エレナ嬢。ロイド。実は、ここのメンバー以外にも、私たちには仲間がいるんだ」
「仲間? 双竜のお二人の事かい?」
「勿論、あのお二人も仲間だがな。だがもう一人。君たち二人にはーーと、いうよりサラ以外には見えない仲間がいるんだ。玉木」
了解。自己紹介しろってことね。
「サラ嬢以外に見えない……? とんちか何かかい? 裸の王様みたいなーー」
『はじめまして。エレナちゃん。ロイド君。オレは玉木。サラちゃんの使い魔だ。これから、よろしく頼むよ』
「うわぁ!? なんだぁ!?」
「え……!? 紙が……浮いてる!?」
「なんだこれ!? 何か仕掛けがあるのか!?」
「ハハハ! オレの時と同じような反応だな! あの時のシルヴァの気持ちがよくわかる!」
「フフ……。それはそうですよ。僕の時は緊急事態だったから、驚いている暇なんてなかったですけど……。普通、こんな反応をしますよ」
仲間たちはみんな、いたずらが成功した子供のように笑っている。なんか、良いな。こういうの。
「悪いな二人共、驚かせて。でも、インパクトはバッチリだったろ?」
「シ、シルヴァ君。これは?」
「あぁ。オレ達が魔人と戦うのは聞いているだろう? だが……実はオレ達には一人、魔人の仲間がいるんだ。それがサラの使い魔。玉木だ」
「魔人!? 仲間に魔人がいるのか!?」
「あぁ。とても頼りになる男だ。私達も何度も助けてもらっている。それこそ、サラもクレアも、カイウスだって、玉木のお陰で命を救われている」
「そ……そうなのか……。そ、そこにいるのかい?」
「ピッ!」
「うわっ!?」
「笛の音は1回で肯定。2回で否定だ」
「そ……そうかい。まぁ、皆警戒してないようだから大丈夫なんだろうけど……。え、ええと……ロ、ロイドだ。こちらこそ……よろしく、頼む……」
「え? あ、エ、エレナです。わ、私も……よろしく……お願いします」
そう言って二人共ぎこちなく手を伸ばす。ふむ。初対面での握手は初めてだな。
とりあえず、こちらも握手を返す。
「な……!? 見えないのに握手している感触が……!?」
「え? そうなのですか……? 私はーーキャッ!? えっ!? これが魔人の手!?」
「フフ……。二人ともいい反応をしてくれるね。玉木も少し楽しいだろう?」
「ピッ!」
「ハハハ! やはりノリが良いな!」
「最後に仲間になるスレイヤは、他人のこの様子を見られないと思うと気の毒だな」
「いえ、魔人との戦いが終わったら、それこそ他の人にも仕掛けられるかもしれませんよ?」
「お! それは面白そうだな!! いつか父上にも試してみるか。国王の慌てふためく姿など、滅多に見られるものではないぞ?」
「ピッ!」
「皆さん……もうそこまでいくと悪趣味ですよ……? 玉木も一緒になって盛り上がらないで」
男子たちで盛り上がっていると、サラちゃんに釘を刺される。けど、いたずらは叱られるまでがワンセットだ。また、こういうバカな事で盛り上がりたいな。




