ロイドの調査 side 玉木
さて、ロイド君を仲間にするための調査として、サラちゃんからロイド君の評判を調べるように言われた。
確かにそれを調べれば、ある意味ロイド君本人に聞く以上に『今どういった立場なのか』を知れる筈。
そう思ってまずは食堂に来た。
と、言っても酒も無しでそんな本格的な噂はーー
「おい、聞いたか。ロイドのやつ」
「あぁ。今度は先輩に手を出したらしいな」
「うわ。あいつよく刺されないな」
「なんでも女の子を脅してるって噂だぜ?」
「やっぱり? そんな気はしてたんだよ」
「それってよ? もしその内容を知れれば……」
「あぁ。色々と出来るだろうな?」
「ねぇ。聞いた? ロイド様の事」
「聞いた聞いた。でも、エレナ様もちょっと気の毒よね」
「ロイド様を独り占めとかムカつくって思ってたけどーー」
「ここまでいくと可哀そうね!」
「「キャハハハハ!」」
うわぁ……
君ら、他人の目もあるこんな場所で、よくそんな会話出来るねぇ……
だが、それはロイド君たちの話題に限らずーー
「シルフォード様。最近なんか調子に乗ってない?」
「そうそう。私は悩みなんかありませんって顔で登校してきてね。ホント腹立つわ」
「王子に捨てられた立場の癖にね!」
「ホントよ! そのまま冤罪で処刑されればよかったのに」
「あいつが一緒にいるせいで平民いびりだって出来やしない」
「鬱陶しいわよね。なんであれが公爵令嬢なわけ? 公爵令嬢なら平民と並んでヘラヘラすんなって感じ」
「メルクのやつ……。こないだ久しぶりに誘ってやったのに断りやがって」
「あいついねーと、荷物持つやつがいねーってのにな」
「いきなり襲ってサンドバックにでもするか?」
「それがよ。あいつ最近スキがねーんだよ。それこそカイウス並みに」
「は? マジかよ。あいつ護身術か何かやりだしたのか? 生意気な」
君ら、魔人や神鏡の存在……知っているかい? 彼らの立場を考えずにそんな事したら、自分達の首が飛んじゃうよ?
サラちゃん達と一緒にいるから忘れるけど、別にこの世界の貴族が皆優しい訳でも賢い訳でもないんだよな。
オレ、サラちゃんに召喚されてホントに良かった……。間違えてこんなやつらの元に召喚されてたらと思うとーー
ん? 待てよ? サラちゃんの魔人召喚は魔人達の罠だったよな? 2年目からの戦いでは、能力も何もない、いわゆる下っぱ魔人が学園にも出てきたけど……。ひょっとして、こういうやつらが連れ込んだとかじゃないか? 後で可能性の一つとして報告しとくか。
勿論、生徒全員がこんなやつらばかりでもない。例えばこっちはーー
「あの人たち……よくもまぁあんな風に言えるわね」
「うーん、神鏡や魔人について信じてないんじゃない?」
「だからってあんな事が言える? サラ様は私達にも優しく接してくださるし、クレアさんだって神鏡に選ばれてからも偉ぶったりなんてしたことないわよ?」
「バカなんでしょ」
「いや、あんたも大概言うわね……」
「でも、例えば体育祭でのクラス対抗戦にクレアさんが出たらどうなるかしら?」
「神鏡を使ってってこと?」
「確かにそれは面白いかもね。あの人たち、度肝を抜かれそう」
ふむ。体育祭に対抗戦ね。
よくは分からないが、それでもこの子らはサラちゃん達にも好意的だし、常識もありそうだ。
同じようにこっちはーー
「同志たちよ。例のものです」
「こ、これは……! クレア殿の肖像画!?」
「しかも、ちょっと眠くなっている時ではないですか!?」
「レアな場面ですぞ!?」
「はい。そしてその横にはーー」
「おぉ! サラ様のお姿まで!」
「その通り。あのお二人の仲を裂くなどとても出来ませんからな」
「い、幾らだ!?」
「1万……い、いや、2万出す!」
「落ち着くのです同志たちよ。希望があれば幾らでも書きましょう」
「……それは依頼も可能ということですかな?」
「む? ええ、まぁーー」
「5万出す。だから今度の体育祭の時に頼む」
「な、なんと!?」
「お主、天才か!?」
「ーー待て。もしもクレア殿が対抗戦に出てきたらどうなると思う?」
「ーー守護騎士と並ぶクレア殿が見られるという事か?」
「そして、その隣には並び立つサラ様を想像するのだ」
「おぉ! なんと神々しい!」
……これは……さっきの子たちと同じといって良いのか? サラちゃん達に好意的ではあるし、直接的な害はないんだろうが……なんだろうな……。絵を書いてるだけだから盗撮という訳でもないけれど……許して良いものなのだろうか……?
まぁ、それはそれとしてロイド君の噂話だ。でも、あんまりないんだな。あれだけ目立つ言動している割には、女性関係の悪評しかない。
うーん……とりあえず他の場所にも言ってみるか? でも、食堂であんだけエグイことを喋ってた以上、人目のない所だからって、そんな重要な話が出てくるかな?
あ、後は職員室か。例えば……ロイド君のプリントとかを教師陣の前で落としてみたら、会話を引き出せるか?
ま、とりあえず思いついたことを色々試していくしかないな。
…………
一通り情報を集め、学園内をフラフラと彷徨う。もう放課後も過ぎた。サラちゃん達もとっくに帰ったみたいだし、オレもそろ帰るかな。生徒もいないんじゃ、これ以上情報も集まらないだろう。そう思っていると、裏庭に数人のグループを見かけた。
あれは……エレナちゃん? でも、なんでこんなところに? 近くにバケツがあるけど、池の掃除当番とかじゃないよね?
そして、そんな彼女は大きな木の下で複数の女子達に囲まれている。対するエレナちゃんも周囲に敵意を向けている。
「すみません。退いていただけませんか?」
「あら? 私達は貴方とおしゃべりしたいだけよ?」
「……何ですか?」
「あのクソ男の事よ」
「ロイド様のことですか?」
「「……ぷっ! あははははは!!」」
エレナちゃんがロイド君の名前を出した途端、周囲が笑い出す。
「あんたホントに惨めね。あんな男を様付けしないといけないなんて」
「……なんですって?」
「あいつは周囲の女に手を出しまくるクズじゃない。知っているわよ? 貴方、あいつにも嫌われているんでしょ?」
「っ……!」
「でもね? あたしたちは優しいの。だから、あんたに協力してあげるわよ」
「あたしたちは皆、あの男にたぶらかされた女達よ。そしてそれを理由にあんたがあの男を糾弾するの。良い取引でしょ?」
「あんただってあんなクズ、嫌いなんでしょ? だからーー」
俯いて、拳を震わせているエレナちゃんをニヤニヤと眺めている。流石に不愉快だな……。
だが、そう思っていた所で、エレナちゃんが口を開く
「……バカにしないで……」
「は?」
「バカにしないでって言ってるの」
「なに? あたしたちの言いなりになる事が嫌ってこと? 随分ーー」
「ロイド様の事をバカにするなって言ってるの!!」
エレナちゃんが怒鳴る。え? そっち?
呆気に取られるオレだが、それは周囲の女達も同様だ。
「はぁ? あんただってあの男の事嫌いなんでしょ?」
「嫌いよ! あんなやつ! 婚約者のいる身で他の女の子に手を出して!」
「なら別にいいじゃない。何言ってるのよあんた?」
「それとこれとは話が別よ! 大体、貴方たち……。ロイド様にたぶらかされたって言ってるけど……ホントなの? ロイド様の好みは知的な女よ? 大方、自分達もロイド様と遊ぼうとして……振られただけじゃないの? そして、その腹いせに私を使おうとした。違う?」
「なっ!? こ、この女……!」
「あら、やっぱり図星じゃない。なら覚えておくといいわよ。ロイド様はね。面倒な女は嫌いなのよ!!」
目に涙を浮かべながらも大声で怒鳴っている。この娘、ひょっとしてーー
「コ、コイツよくも!!」
「もういいわ! コイツ、服をひん剥いて晒しましょ! 自分のせいで婚約者がそんな事になれば、あの男だって少しは後悔するわよ!!」
「なっ!?」
「そうね!! 私達をバカにしたこと……後悔させてーー」
――バシャ!――
「「……え?」」
一人が頭から池の水を被り、びしょ濡れになる。突然の事態に全員、思考停止したようだ。
いい加減、オイタが過ぎるよ君たち。すぐ近くにバケツがあって助かった。多分これ、池の掃除用か何かだろう。
「え、何……臭っ!? 何!? これ……藻!? ってことは……池の水!?」
「は、なんでーー」
――ボトボトッ――
「きゃあ!?」
君には泥のプレゼントだ。泥化粧で醜い顔でも隠しな。
「ちょっ!? 何!? 何!? ……え、スカート……っ!? きゃあああ!?」
女の子を裸に剥こうなんて言い出したんだ。少しは自分も同じ辱しめを受けたらどうだ?
……女の子のスカートをずりおろすのに抵抗はあるがしょうがない。視界に入れなければセーフのはず。サラちゃんもきっと許してくれるはずだ。……最悪は怒られるのも仕方ない。
「え……何……?」
「あんた! 一体……何してーー」
「え? え?」
ごめんね。エレナちゃん。君が疑われても不味い。少し、髪が汚れるけど我慢して。
――バサッ――
「え? これ……葉っぱ? 落ち葉? こんな季節に?」
「は……!?」
落ちてきた数十枚の葉っぱを頭に乗せながら、頭上を見上げるエレナちゃん。
そして周囲の女達は、エレナちゃんにまで異変が起こったことで、更に混乱したようだ。
「何!? なんなの!?」
「あ! ちょっと!? あんたどこに……!?」
「逃げるのよ! ここにいたらまた何か起こるかもしれないし!!」
「ま、待ちなさい! 私達も……!!」
「あ……」
そう言って女達は逃げ去ってしまい、その場にはエレナちゃんだけが取り残された。だが、彼女も何が起きたかわからず、ただ、呆然と立ち尽くしている。
「……」
そうして暫くたってから振り返り、目の前の木に問いただす。
「今のは……貴方が……?」
いいえ、オレです。まぁ、流石にオレの事をバラす訳にもいかないだろう。だが、さっきの女達が来ないとも限らない。
今日の所はエレナちゃんを護衛して、家に送り届けてから帰るとしよう。




