ロイドの調査 side Bクラス2
カイウスは今の状況に困惑しつつも、自分のすべきことをしなければ、とロイドに話しかける。
「あーっと……その、悪いなロイド。お前がサラ嬢に話した『命をかける理由がない』という話。オレ達も尤もだと思っている。
だが、それでもオレ達はお前の力が欲しい。だからまずは、お前の事を知りたいと思ってな。何も知らないやつにそんな事を言われても嫌だろう?」
「……カイウス君。君、結構天然かい? まぁ、そこまで素直に言われると断りづらいね。話せることなら話そう」
「ありがとうございます。ロイドさんは弓術はされたことが無いんでしたよね? アレから試してみたりしました?」
「あぁ。流石にあそこまで言われたら気になってね。弓術の講師を招いて見てもらったよ。
そしたら、100年に1人の逸材だって言われてね、流石に驚いたよ。守護騎士の言葉といえ、それほどとはね」
黙って話を聞いていたカイウスはただただ関心していた。
(なるほどな。流石は玉木の情報。それほどの才能の持ち主とはな。……やはり、ロイドは是が非でも仲間にしなければ)
だが、あまり強引に勧誘してもいい方向にはいかないだろう。と、なるとまずはロイドの人となりを聞く必要がありそうだと考える。そうして暫く考えたあと、おあつらえ向きの質問が浮かんだ。
1人で頷いたあと、改めてロイドに目を向ける。
「ロイド」
「何だい?」
「お前……夢はあるか?」
「夢?」
思わぬ質問にロイドがポカンとする。
「そうだ。オレの夢は将来、シルヴァや師匠をも超える戦士になることだ。
達成出来るかは知らん。シルヴァの才能はオレ以上、師匠は戦争だって経験しているからな。
だが、だからこそ夢だ。オレの命をかけて挑戦してみせる」
カイウスは自分の胸を握りこぶしでドン、と叩く。その姿に、ロイドは目を細めた。
「……相変わらず、君は眩しいな。羨ましいよ」
「そうか?」
カイウスが不思議そうに聞き返すと、横にいたメルクも同意するように頷く。
「そうですよ。僕なんか、今を乗り越えることで必死ですから。僕は男爵で婚約者は侯爵。それだけでもプレッシャーで、とても夢なんて考えられませんよ」
「あはは。そうだよね。僕も語れる夢がない。メルク君も同じで少し安心したよ」
そういうものなのだろうか、とカイウスは内心で首をかしげるが、羨ましがられるということは、夢を持てている自分は幸福なのだろうと納得した。
そんなカイウスをよそにメルクが話を振る。
「でも、ロイドさんには矜持がありますよね?」
「そうだね。僕は僕らしくありたい。だから恋愛だってなんだって自由にやりたい。貴族なんて忘れてね」
メルクの言葉に頷くロイドだが、カイウスには一つの疑問が浮かぶ。
「ん? なら、それが夢なんじゃないのか?」
「……え?」
その言葉に辺りが静まり返る。自分はそんなにおかしい事を言っただろうか、と思いながらカイウスは口を開く。
「だから、ロイドは貴族のしがらみから抜け出す事が夢なんだろ? ……あぁ、それにメルクは侯爵にふさわしい男になるのが夢、という事になるのか?」
「「……え?」」
今度はロイドだけでなく、メルクまでポカンとしてしまう。どうしたのかと思っていると、リリーが裾を掴んできた。
「カイウス様……」
「なんだ? リリー?」
「……最高です。ありがとうございます。ごちそうさまでした」
「なんだ急に!? 何がごちそうさまなんだ!?」
「いえ、胸がいっぱいです。あぁ、新しい世界が見えた……!」
「おい、どうしたリリー!? 何故天井を見上げている!?」
「夢……? いや、でも……」
リリーは顔を上に向け、どこか遠い目をしている。そんなリリーをカイウスが揺さぶっていると、視界の端にメルクが入る。メルクはぶつぶつと独り言を呟いているようだ。
「おいメルク!? ロイドへの質問はどうした!? オレの頼みはお前だけなんだぞ!?」
マリアやリリーは頼りにならない。だというのに唯一の頼みのメルクは先程から自分の世界に入ってしまっている。
カイウスが周囲の様子に困惑しながらも、ふっとロイドの方に目をやると、ジッと自分を見つめていた。
「カイウス君……」
「ん? なんだ?」
「叶わない事も……夢なのか?」
「叶わないのか? お前の能力があれば、大概の事は出来るんじゃないのか? シルヴァも言っていたぞ? お前が財政や経済に集中すれば一財産築けると。あいつの言う事だからそうなんだろう」
「貴族のしがらみを抜けて……。そうか……」
シルヴァはカイウスから見ても優秀な男だった。対して自分は学年でも平均以下。バカだとは思っていないが、知力だけで貴族社会を乗り切る事は難しいとも思っていた。
その点、シルヴァすら認めるロイドならば、多少の問題など、きっと乗り越えられるだろうとカイウスは考えていた。
そんなカイウスの言葉に、ロイドも俯いてブツブツと呟く。だが、暫くの後に顔を上げた彼の表情は、憑き物が落ちたかのように晴れやかだった。
「ありがとうカイウス君。僕の夢が決まったよ。君の言う通り、貴族のしがらみから抜け出すことだ」
「なんなんださっきから……。身に覚えのない感謝をされても不気味なんだが……」
「フフ……。そう言わないでくれよ。僕は君に興味が湧いた。初めてだよ。男に興味を持つなんて。君さえ良ければ友達になってくれないか?」
「ん? あぁ、構わんぞ。どの道、仲間になれば同じ事だしな」
「そうかい。よろしく頼む。流石にそれで命をかけるとは言わないが、他に何か質問があれば聞いてくれ」
ロイドに言われ、何かないかと考える。だがーー
(よくわからんが、メルクは未だに考えこんでいるし、マリアはもう別の事考えてるし、リリーに至っては何故か悶えている。そんな中で質問などしてもな……)
呆れ顔で周囲を見回した後、カイウスは首を振った。
「いや、今の所は大丈夫だな。いきなりなんでもかんでも聞いてもな」
「わかった。また何かあれば聞いてくれ。今後も僕の方から話しかけても?」
「別にいいぞ? 確認を取るものでもないだろう」
「わかった。重ね重ねありがとう」
そう言って離れていくロイド。予想とは違ったが、ロイドと親しくなれたのだから良いだろうと胸を下ろす。と、何か整理がついたのか、メルクが顔を上げカイウスに視線を向ける。
「カイウスさん」
「なんだ?」
「僕の夢が、『侯爵にふさわしい男になる』かどうかはまだ、わからないです。ですが、カイウスさんのお陰で少し、目指すべきものが見えた気がします。ありがとうございました」
「ん? あぁ……どういたしまして?」
何故、これほどまでに礼を言われるのか分からず困惑していると、天井を見上げていたリリーが再びカイウスの裾を掴んだ。
「カイウス様」
「リリー? ……お前、鼻をどうしたんだ……? 血が出ているじゃないか……」
「いえ、ご心配なく。少し過食気味になっただけです。それより、素晴らしい展開でした。本当にありがとうございます。ごちそうさまでした」
「……わかった。いや、よくわからんがわかったから早く血を止めてこい」
自分の婚約者を前にして、鼻血を出しながら満足そうに礼を言う。彼女は本当に侯爵令嬢なのだろうかと思う。
「カイウス様」
「次から次へと……。なんだ? マリア嬢?」
「ありがとうございました」
「……何がだ?」
「いえ、何かそういうゲームなのかと思いまして」
「そんなゲームはしていない」
「あ、やっぱりですか? では、何故皆さん嬉しそうにしているんですか?」
「オレに聞くな!! 大体、さっきお前、思考がどっかに飛んでただろ!?」
「はい。別の事を考えていたら、全員がカイウス様に御礼を言っていたので、何かあったのかなと」
「どんな興味の持ち方だ!? 頼むからロイドを仲間にすることに興味を持ってくれ!!」




