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現状把握

 冷静に考えてみよう。


 先ほどまでオレは乙女ゲームをしていた筈だ。

 『School Life』

 貴族の子女が通う学校に入学したヒロイン クレア。そんな彼女が魔人と人との争いに巻き込まれる恋愛シミュレーションゲーム。……こうして見るとホントに意味が分からんな。


 そしてこのゲームの共通ルートのラスボス サラ・シルフォード公爵令嬢。

 彼女は王子 シルヴァ・グレイクスの元婚約者。

 しかし政敵に嵌められてしまい、破滅寸前だ。

 そんな彼女が最後の手段にと行ったのが魔人召喚。そしてオレが最後に見たゲーム画面は召喚の直前だ。



 さて、今の状況だ。

 薄暗い部屋の中、お姫様とメイドが二人してこちらを見ている。

 先ほどサラ、フローラという名前が聞こえてきた。ゲームで見たものと同じ名前、同じ見た目だ。

 そしてオレはというと、タキシードのような恰好で、手のひらは青い。文字通り青。真っ青だ。しかしそれ以外、気になる身体的特徴はない。手のひらが青い事を気になる程度で済ませていいかはさておき。だ。


 これは……あれか? 寝落ちした後の夢か? 最後に時計を見たのは深夜2時。そこから1時間くらい経ってるだろうから3時頃。寝落ちしてもおかしくはない。だけど、夢ってこんなにリアルになるものか?

 頭の片隅に異世界転生ーーいや、転移? がちらつく。が、今はとりあえず保留だ。



「あの、魔人様?」


 状況把握を続けているところでサラちゃんが話しかけてくる。上目遣いで可愛い。

 

「ん? あぁ。ごめんねサラちゃん? オレもちょっと状況を把握できてなくてさ」


「サラちゃん!?」


「あ、フローラさん? 申し訳ないんだけど、その辺に鏡が無い? 自分の姿を確認してみたくてさ」


「……え? あ、あぁ。では、そこの鏡を使いましょうか」


 オレの返しに固まるサラちゃん。困惑しながらもすぐに鏡を用意してくれるフローラさん。うむ。会話は普通に通じるようだ。

 しかし用意してくれた鏡を覗き込んでもオレは映らない。吸血鬼を思い出すな。というかそれに近いんじゃないか?


 ふと、足元を見ると地面に付いていない。足浮いてないか? これ意識したら更に浮くんじゃーーお、浮いた。どうやら空も飛べるらしい。

 では地面に足は付くのか? 高度を下げてーーあ、普通に着いた。と、鏡を見上げると自分の姿が映っている。という事は地面に付いている間映るのか? とも思ったが、そのまま浮いても鏡に自分は映ったままだ。どういうことだ?


 そして鏡に映った姿だが、想像通り全身が青色になり、タキシード。というより執事服か? を着ている自分がいる。尚、口を空けてみたが口の中も青い以外は歯の色も形も同じだった。


 気になる事は山のようにある。だが、今重要なのは3つだ。

 ①オレは今、人外(?)の姿になっている

 ②目の前にいるサラちゃんは、魔人召喚をした直後のよう

 ③魔人召喚は契約をするために行う


 つまりオレはサラちゃんの使い魔としてサラちゃんの冤罪を晴らせば良いのか?

 いや、この手の展開は早とちりしても(ろく)な事にならない。契約内容はきちんと確認しよう。


 なんだか楽しくなってきた。

 ふと、サラちゃん達の方を見るとコソコソと何かを話している。大丈夫だよ? ボク悪い魔人じゃないよ?


「二人とも、お待たせしてごめんね? ちょっと状況確認に時間がかかって」


「いえ、そんな……」


 サラちゃんが答える。メイドは黙ったままだ。オレの危険度を見極めてるんだろうか? 危害を加える気は1ミリもないんだけどな。


「サラちゃんは魔人と契約するためにオレを召喚したんだよね?」


「は、はい。そうです。契約していただけるのですか?」


「あ、うん。いいよー。で、契約ってどうやって結ぶの?」


「えっ?」


「えっ?」


「…………」


 沈黙が訪れる。そうか。契約って魔人側が行うものなのか……。


「あの……魔人様は契約方法をご存じでは……?」


「あー……ごめん。さっきも言ったけど、オレも自分の状況をきちんと理解できてなくてさ。多分、魔人としてはそうとう異質な存在なんだと思う」


「はぁ……」


 そうだよね! こんなこと言われても「はぁ……」としか言えないよね! どうしよう……


「お嬢様、とりあえずこちらの要望を伝えてみては?」


「フローラ?」


「今のところ敵意は感じません。それに間違った契約方法で騙すならともかく、そもそも『契約の仕方がわからない』などと嘘をつく理由がありません」


 おぉ! 流石有能メイドさん。理解が早い! そうそう! 騙すつもりなんかこれっぽちもないのよ!


「で、ではーー」


 そこからサラちゃんはドゥーク侯爵に嵌められたこと。公爵家が動いても証拠が一つも出てこないこと。魔人が関わっている可能性があることを話してくれた。

 ここで「あ! それ知ってる!」とかいうと余計話がこじれるので大人しく聞いていた。

 ジッとこちらを見ているフローラさんは少し恐かったけど。


「ーー以上です。いかがでしょうか」


「うん。力になりたいのはやまやまなんだけどね。そもそもオレに何が出来るかだね。ほら、こうやって空を飛べるみたいだから夜に侵入出来たりするんだろうけどーー」


――ザクッ!!――


 そこまで言ったところで、オレの胸からナイフが飛び出る。


「フローラッ!?」


「なっ!?」


 部屋に響くサラちゃんの悲鳴と、後ろから聞こえるフローラさんの驚きの声。


 これ、多分フローラさんに刺されたんだよね? なんで?

 それより痛みが一切ない。というか透過してないかこれ? 鏡を見ると自分は映っていない。

 え? ひょっとしてさっき鏡に映らなかったのはこれか?

 透過能力? じゃあなんでサラちゃんやフローラさんからは見えてんだ? いや、物理法則がオレの知っているものと同じとは限らない。それは一旦置いておこう。


 フローラさんはサラちゃんに詰問されている。刺された理由は後で聞くとして、今はこの能力を確認しよう。透過ってことは部屋からも出られるだろう。色々出来るかもしれないな。



 ……そうして色々と試した結果、オレの能力が判明した。主に3つだ。



 1つ目は先ほど調べた「空を飛ぶ能力」だ。

 透過能力と合わせて屋敷の上空まで飛んでみたが多分20~30mくらいだろうか? 8階建てのビル程度の高さには飛べるようだ。それ以上の高さは試してないが必要ないだろう。

 だが、速度は期待したほど出ない。意識して飛んでも地上で全速力で走るのと同じくらいだ。それでも走るのと違ってスタミナ切れがないようだ。待てよ? ということはこの世界の移動手段で考えると馬車以上早馬未満といったところ。なら十分か。

 地中でも同様に動くことは出来た。が、いかんせん真っ暗で何も見えなかった。透過出来るとはいえ、虫やら骨やらとぶつかっているであろうことを考えれば出来ればやりたくない。



 2つ目は「サラちゃん、フローラさん以外に認識されない」ことだ。

 外に出て使用人と鉢合わせたが気づかれなかった。透過を解除しても、だ。

 ただ、法具に選ばれた王子やヒロイン、それに同じ魔人からみてどうなのかは要検証だ。



 3つ目は「透過能力」

 これは自分の任意で切り替えられるようだ。暫定的に透過状態を<ゴースト>としよう。


 体の一部だけをゴースト化することは出来ないようで、解除するときは常に全身だ。

 例えばゴーストの時、壁に髪の毛を突っ込んでから解除しようとすると ブーッ というオレにしか聞こえないアラート音が鳴る。どこから鳴っているのか、なんでオレにしか聞こえないかは分からない。ついでにこの警告音を連続で鳴らした場合どうなるかも不明だ。ただ、あってもペナルティだろう。検証はやりたくない。


 更に、ゴースト化するとき、オレに触れているものは意図的にゴースト化出来るようだ。

 例えば岩でも持って空を飛べば、一緒にゴースト化出来る。そして離した途端ゴースト化が解除されるので、一方的な爆撃が可能になる。実際にはそんな岩はオレの筋力が足らないので持てないが。

 次に落ちていた棒きれをゴースト状態で壁に突き立ててから手を離す。壁に埋まるかと思ったが、残念ながら壁に押し出されて棒が落ちてしまった。どうやら『敵の内部に暗器をテレポート!』のようなことは出来ないようだ。残念。


 そこそこのチート能力な気がするが、ゴースト化もどこまで信用できるかは分からない。例えば神剣に切りかかられたらゴースト状態でも詰むんじゃないか? あとはラスボスの魔人とかか。自惚れないように気をつけよう。



 こんなところだ。

 空を飛べて認識されず透過できる。

 スパイにピッタリな能力だな。戦闘能力は低いが使い方次第で十分化けるだろう。



 一通りまとまったところで部屋に戻ると、メイドさんが正座させられていた。

 流石公爵令嬢。15で20過ぎの女性を説教出来るのか。

 そんなくだらないことを考えているとサラちゃんがこちらに寄ってきた。


「おかえりなさい。もう良いのですか?」


「うん。自分の力は大体把握出来た。それで、オレはなんで刺されたの?」


 一歩間違えたら死ぬところだったのだ。そこはきちんと把握したい。何か理由があるのだろう。


「はい。彼女の口から説明させますので」

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