幕間 女子会1 前半
女子会も前後半です。
―― パッ カッ パッ カ ッ ――
夜道を馬車で揺られながら、目的地へ向かう。夜の馬車をのんびりと楽しむのも、友人の家でのお泊りも、クレアにとっては初めての事だった。その大きなリボンを左右に振りながら、クレアは期待に胸を膨らませていた。
「~~♪」
「ご機嫌だねぇ。クレア」
「はい! サラ様の家にお泊りですから! それにこうしてゼリカさんまで一緒に来てくれるのも嬉しいです!!」
「ははっ! 可愛い事を言ってくれるねぇ。アタシも嬉しいよ!」
「きゃーっ! ゼリカさん! 髪がぐちゃぐちゃになっちゃいますよぉ!」
そう言いながらも、特に拒否はしない。ゼリカもそれを分かっていて、気にせずに頭を撫でてくれる。彼女は自分を妹のように可愛がってくれている。こうしてじゃれているのはとても楽しかった。
「でも、ゼルクさんがいないのはちょっと寂しいです。ゼルクさんは歓迎会とシルヴァ様の回復祝いと祝勝会って言ってましたよね。あっちにも参加してみたかったなぁ」
「ま、全員集まっての歓迎会はまた、日を改めて行えばいいさ。それに同性だけでしか出来ない会話もある。遠慮なく飲める場ってのも大事さね」
「そうなんですね。けど、同性同士でしか出来ない会話って?」
「恋愛の話なんかもそうだろ? あんたはまだ好きな人はいないかもしれないけど、マリアやリリーから婚約者についての話が聞けるかもしれないよ?」
「そうですね! 友達との恋バナ……!!」
ゼリカの言葉に両手を震わせる。田舎にいたときはあまり恋愛トークに花を咲かせることは無かった。そして学園に入学してからは、それどころではなかった。遂に出来るんだと口元をニンマリとさせる。だが、肝心の自分には話のタネが無い事には気づかなかった。
「それに女だけだから、お泊り会が出来るってのはあるよ? 男がいたんじゃ、流石にそんな事は出来ないからね」
「確かにそれもそうですね。じゃあ、ゼルクさんの提案には感謝しないとですね!」
「……本人は酒を飲みたかっただけだろうけどね……」
「え? ゼリカさん? なんて言いました?」
「いや。なんでもないよ。お。もう着くね」
「え? わ! 大きい……。これがサラ様のお屋敷……」
公爵というのは王家の親戚にあたる家。つまり公爵令嬢であるサラは文字通りお姫様なのだ。クレアにとってサラは優しく気さくな友達だ。だからこそあまり意識してこなかったが、こうして大きな屋敷を見るとどうしても緊張してしまう。
「プッ……。クレア、少し落ち着きな。どんな凄い家だからって、あんたは友達の家に来ただけなんだ。普通にしてなきゃ、逆に失礼だよ」
「そ、そうですよね……。普通に……普通に……」
「ま、サラ嬢達と話してたら落ち着くさ。さ、降りるよ」
「は、はい」
馬車を降りると、サラが直接迎えに来た。
「クレア、ゼリカさん」
「あ! サラ様!」
「おや、わざわざ来てくれたのかい?」
「勿論。お呼びしたのは私ですから。お二人共、本日はお越しいただきありがとうございます」
「え? あ……う……」
サラがスカートをつまんでお辞儀をする。
(えっと……あ、あれ? こ、こういう時ってどう返せば良かったんだっけ……?)
サラの挨拶に見よう見まねでスカートをつまむが、言葉が出てこない。クレアがどうすればいいかわからず戸惑っていると、ゼリカが耳元でフォローする。
「クレア。『こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。サラ様』」
「あ! こ、こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。サラ様」
ぎこちない所作で挨拶を返す。そんなクレアを見て、サラは口元に手をやりながら苦笑する。
「クレア? もう少し練習が必要みたいね」
「あう……す、すみません」
「今は出来ないのはしょうがないわよ。私たちだって幼い頃から、きちんと指導を受けているから出来ているだけだもの。
けれど、貴方は今後、神鏡の使い手として貴族達とも関わっていかなきゃならない。きちんと出来るようにならないといけないわよ?」
「うぅ……やっぱりそうですよね? どうしよう……」
「こればっかりは諦めなさい。でも、だからこそ今の内に、私たちを相手に練習していきましょう? 私たち相手なら幾ら粗相したっていいんだから」
「あぅぅ……。サラ様ぁぁ……ありがとうございますぅ……」
「もう、クレアはホントに泣き虫ね」
サラに抱き着きながら背中を撫でられるクレア。そんな二人に視線を向けたゼリカは、後頭部をかきながら居心地悪そうに礼を言う。
「しかし……アタシまで悪かったねぇ。呼んでもらって」
「そんな事はありませんよ。ゼリカさんも私たちの仲間です。けど、これまであまりお話させていただく機会もなかったので嬉しく思います」
「ま、それはアタシもだね。クレアもアンタの事は大好きみたいだし……アタシもアンタとはゆっくり話したいと思ってたからね。それじゃ、遠慮なくお邪魔するよ」
「ええ。勿論です。では、私の部屋にご案内しますね」
そう言われて通されたサラの部屋には、既にマリアとリリーが座っていた。
「あら、クレアちゃん。ゼリカさんご機嫌よう」
「クレアさん、ゼリカさん。ご機嫌よう」
「あ、えと……お二人もご機嫌よう……?」
なんとか挨拶を返すが二人とも控えめに笑っている。やはり色々とおかしいようだ。
(今度、皆さんに頼んで教えてもらおう)
クレアは照れくさそうに、リリーとマリアと同じように座る。そんなクレアにフローラが声をかける。
「クレア様、ゼリカ様、ようこそいらっしゃいました」
「あ、フローラさん! お邪魔します!」
「ああ。お邪魔するよ。……あんた、今日もメイド服なのかい? 今日は仲間としてここにいるんだろう?」
「えぇ。ですがこれは私の正装ですから。私は寝ても覚めてもお嬢様のメイドです」
「筋金入りだねぇ……」
「ゼリカ様程ではありませんよ。ゼリカ様でなければ、その懐の短刀は取り上げていますよ?」
「え!?」
フローラの言葉にクレアが驚きの声を上げる。ハルバードは家に置いていたので、彼女も丸腰だと思っていたのだ。
「お!? 流石の腕前だねぇ! けど、あんただって隠し持ってるじゃないか?」
「私はお嬢様のメイドとして、護衛も兼任していますから」
「ハハハ! そうかい。ま、アタシも同じようなもんさね。無いと落ち着かなくてねぇ」
「そうですね、その感覚は私にもわかります」
「……凄い話をしていますね……」
「そうね……。公爵令嬢のお部屋で話す内容じゃあないと思うわ」
マリアとリリーの言葉にクレアが疑問を投げかける。
「サラ様のお部屋じゃなかったらするんですか……?」
「私の部屋じゃなくてもしないわよ……。というかパジャマパーティでナイフ持参って何を想定してるのかしら……?」
そんな会話をしていると、ふと、マリアが思い出したように問いかける。
「クレアちゃん? 今日は守護騎士の召喚はしないんですか? ウンディーネさんもドリアードさんも女子ですよね?」
「え……っと……。今日はウンディーネが召喚出来るみたいです。でもーー」
そう言葉にしてチラっとサラに視線を移す。
「いいわよ。そう思って、濡れたり壊れたりしたら困るものは念のため、部屋の外に避難させているから。私としても折角の機会ですもの。ウンディーネともお話したいわ」
「わかりました。来て! ウンディーネ!」
促されるままにウンディーネを召喚する。出てきた彼女は周囲の水滴が少ない。彼女なりに辺りを濡らさないよう気をつけているようだ。
「お招きいただきありがとうございます。サラ様」
「いらっしゃい。そんなに気を使わなくてもいいわよ? さっきも言ったけど、多少濡れるのは覚悟しているから」
「いえ、お気になさらず。それほど苦になることでもありませんから」
「そう? 無理はしないでね」
「あの……ウンディーネさん……?」
マリアがおずおずと手を上げる。先日サラから言われた事を守っているようだ。
「な、なんでしょうか?」
「そもそもどうして周囲に水滴が浮かんでいるのですか?」
「クレア様の指示にすぐに対応出来るようにするためです。ある程度、具現化しておけば、反応も素早くできますからね」
「なるほ……! なるほど……わかりました。ありがとうございます……」
「いえ、構いません」
大きな声を出しそうになって声をすぼめる。マリアはサラの言ったように、注意された事はきちんと守る人物のようだ。ウンディーネもその姿に安堵の息をはく。
「問題無いようね。じゃあお茶もおやつも用意してるから、遠慮なくお話しましょ?」
「「はい」」
こうしてクレアにとって生まれて初めての女子会が始まった。




