幕間 男子会1 後半
ゼルクさんの呼びかけで集まったオレ達は、些細な会話を楽しんでいる。
「そういやシルヴァ。お前肩はもう大丈夫なのか?」
「えぇ。殆ど治ってます。念のためもう数日はリハビリしますが、終わったらまた訓練に参加させてください」
「そうか……。良かった……。メルクも悪いな。ここ数日の治療は殆どオレが原因だ」
「いやいや、気にしないでください。僕も色々と修行になりますからね。でも、この治療魔法も凄いですよね。実際、どこまでやれるようになるんでしょう?」
「そうだなぁ……。玉木は何か知っているか?」
ゼルクさんが聞いてくる。ゲーム終盤では全回復魔法を使えるようになってたけど、そこまで行くのかなぁ? マリアちゃんの洗脳を解除した時も思ってたより時間かかったから、彼の場合も瞬時に治るってことはないんだろうけどーー
『オレの知ってる知識では、ほぼほぼ瀕死状態も治してましたよ? 多分、今回の王子のケガくらいなら、最終的には数日で治せるようになるんじゃないですか?』
「おお……凄いな。メルク」
「そこまで出来るとなると自信に繋がりますね……。カイウスさんもシルヴァ王子も専用武器を使ってますからね。仲間としては少し劣等感がありましたから」
「まぁ、オレのは不幸中の幸いだがな。しかも未だに使いこなせていない。シルヴァはもうかなり使いこなしているんだろう? 洗脳状態とはいえ、アレを使いこなしたオレを倒しているんだからな」
「いや、神剣は感情を用いる武器だからね。あの時と同じ力を出せるようにするには時間がかかると思うよ。それにあの時も肩じゃなく、心臓を突かれていたら終わっていた。まぁ、今度は負ける気はないけどね?」
そう言ってカイウス君に対してニヤリと笑う王子。カイウス君も少し嬉しそうに返す。
「そうか。だが、オレの魔力を扱う才能はお前以上らしいからな。その上、魔槍は神剣と違って、感情じゃなく魔力を燃料にするらしい。だからこの才能と努力で、お前を超えてみせる」
「あぁ。私だって負ける気はない」
「はぁ……。お二人はホントに頼もしいですね……。僕も頑張らないとなぁ……」
「ダハハハハ!! 良い事だぜ、競う相手がいるってのは!! メルク。お前さんだって二人に負けないものを持ってんだ。自信もって張り合え!!」
「……はい! ありがとうございます!」
そう言ってメルク君を鼓舞するゼルクさん。この人は国王から皇太子の師匠に任命されるだけあって、強さだけでなく指導者としても優秀なんだろう。
だが、そんな風に感心していたのに、流れをぶった斬ってとんでもない発言をしだす。
「そういや、お前ら。もう初体験は済ませてんのか?」
「「「初体験?」」」
「なんだ。まだなのか。揃いも揃って奥手なもんだ」
ゼルクさんの言葉に三人共キョトンとしている。オレは呆れながらも筆をとる。
『彼らはまだ少年ですよ……? しかも正式に結婚しているわけじゃないですし……』
「なになに……? あぁ? なに言ってやがる。オレがこの年の頃はヤリまくってたぜ」
「あぁ……そういう事ですか……。最近その手の発言しないと思って油断してました……」
「何の話だ?」
「カイウスさん……男と女とで……その……体を重ねることです……」
「なっ!?」
王子は呆れ、カイウス君とメルク君は顔が赤い。そういえば初対面のクレアちゃんにすらセクハラ発言してたからなぁ……
「ま、流石にクレア達の前ではこんな話は出来んからな。オレだってアイツに嫌われたくねぇ。これでも家では随分気を使ってるんだぜ?」
「そうですね。それはクレア本人も感じているようです。だから師匠の事は大切な家族だって言ってましたよ?」
「!! そうか……。あいつこないだ、いつもお世話になっているからって、手製の手ぬぐい渡してくれてよぉ……」
そう言って目を潤ませるゼルクさん。あれ? ひょっとしてもう酔った? まだそんなに飲んでないはずなんだが……
「お前ら! クレアに手を出したら承知しねぇからな!!」
「出しませんよ……」
「オレやメルクはそもそも婚約者だっていますから……」
「そうですよ……」
「なんだお前ら!? ウチのクレアに魅力が無いってんのか!? んな事いうならぶっ飛ばすぞ!!」
面倒くさいお父さん化している……。一応ファンディスクではゼルクさんルートもあるにはあったか? 戦闘方法が違うようだったからチェックしてなかったけど……これ、そんなルートには行きようがないな。ただの親バカだ。
「大体、シルヴァはサラ嬢の事はどう思ってんだ? 嫌いではないんだろ?」
「えぇ。寧ろかなり好いていますよ。ただ、私の彼女に対する好意は、女性に対するものじゃない。正直、現時点で彼女以外に王妃に相応しい人物なんて、想像がつきません。それでも、半端な気持ちで彼女に応える訳にはいきませんからね」
「っかぁー! 真面目だなぁ!」
成程。誠実だからこそなのか。多分、王子にとってサラちゃんは大切な友達なんだろう。けどまぁ、サラちゃんならいずれ振り向かせられるだろう。
「それを言うなら……師匠はどうなんですか?」
「あん?」
「そういえば、ゼルクさんのそういう話は聞いたことがありませんね?」
「確かにそうだな。ゼルクさん程の武勇ならそんな話はいくらでもあるだろうに……」
「この人はすぐに酒飲んで暴れるからね。好意を持たれても、大概すぐに幻滅されるんだよ。」
そう言いながらマスターがつまみを持ってくる。
「やかましい。客の会話に首突っ込んでくんな。不良店主が」
「なら料理はいらんのかい? 大体、子供をそんな話題に巻き込むのを、まともな大人としては見過ごせないね」
「……師匠。もう酒を飲まなければいいんじゃないですか?」
「あ!? ほらみろ! シルヴァが面倒な事を言い出したじゃねぇか!」
「オレとしては大歓迎だね。あんたが来なけりゃ客足も増えるからね」
「けっ!」
不機嫌そうに酒を飲み、おかわりを催促する。まぁ、こっち方面の話で盛り上がられてもな。メンツ的に下ネタで盛り上がるメンバーでもないだろう。しかし、皆ペースが早いな。若いからか? すごい勢いで酒が消費されていく。
「玉木はどうなんだ? お前、サラ嬢やフローラとは仲よさそうじゃねぇか」
「ピッ! ピッ!」
「即答かよ……。サラ嬢はまだ子供だが、フローラは既に美人じゃねぇか。お前の能力ならそれこそ覗きなんかも出来るだろ?」
「ピッ! ピッ!」
「真面目だなぁ……。オレならそんな能力持ってたらそれこそ覗きまくるぜ。いまいち理解がーー」
『ゼルクさんと同じですよ。オレだってサラちゃんに嫌われたくない』
「……成程。良く分かった。お前の言う事は尤もだ」
そう言って握手を求めてくるので、それに応える。
「どんな意気投合の仕方ですか……。師匠も玉木も、娘のいる父親のようなやり取りですよ?」
「だが、玉木は元々人間なんだろう? 恋愛経験もあるんじゃないか?」
『あるにはあるけど、そんなに経験豊富じゃないよ。学校を卒業した後は働きづめだったからね』
そう。仕事が忙しかっただけだ。決してオレが非モテだったからじゃない。……本当だよ?
「そうか。カイウスはどうなんだ? リリー嬢とは?」
「いえ、正直特に話す事も無いんですよ。オレもアイツも、お互いそれほど干渉しませんからね」
「枯れてんなぁ。いずれ結婚するんだろ?」
「えぇ。お互いそこに不満はありません。ただ、恋愛にあまり興味がないもので……」
「なんだなんだ! どいつもこいつも面白みがねぇなぁ!! おいメルク! お前はーー」
「……はいぃ?」
メルク君の目が据わっている。あれ? なんか様子が……
「お、おい……メルク?」
「いいですねぇ……皆さん幸せでぇ。僕なんか婚約が決まった時にどれだけ恐かったかぁ……。僕は男爵の跡取りですよ!? なんで侯爵家と婚約なんですかぁ!? あんのクソオヤジィ!!」
「メ、メルク……落ち着け……?」
「幸いマリアはそんな悪い子じゃなかったですけど……最初はどれだけ大変だったか!! わかりますかぁ!! みなさぁん!!」
「あ、あぁ。そうだな……」
「おいメルク! ほれ! 水を飲んどけ!!」
「みずぅ……? ゼルクさぁん。酒を飲みに来てんですから酒を飲まないとぉ…ん? カイウスさんはあんまり飲んでないですねぇ……」
「メ、メルク……?」
「駄目じゃないですかぁ!! ちゃんと飲まなきゃぁ!!」
そう言って、左手でカイウス君の頭を掴むと、右手の酒瓶でカイウス君の口に大量の酒を注いでいく。
「ごぼっ!? ごぼぼっ!?」
「さぁさぁ……飲んでぇ」
「シルヴァ! メルクを引きはがせ!!」
「ぐっ! 意外と力が……」
「えぇい! メルク! 許せ!」
そう言ってゼルクさんが掌底を打つ。が、
「甘いですよぉ。ゼルクさぁん」
なんとメルク君、カイウス君を盾にしてそれを躱す。何その動き!? これまで見たこと無いほどの華麗な動きだぞ!?
そしてゼルクさんの掌底はカイウス君にキマってしまう。
「なっ!?」
――ドシュッ――
「ほぶっ!?」
「カイウスゥゥゥゥ!? 大丈夫か!? しっかりしろ!」
「しまった!? メルクのやつ……こんな動きが出来たのか!?」
「うふふふふふぅ。楽しいですねぇ」
「玉木! なんとかして水を飲ませろ! シルヴァ! カイウスは!?」
「駄目です! 復活しません!」
「クソッ!! シルヴァ! 店がぶっ壊れないようにメルクを抑えるぞ!!」
「わ、わかりました! 玉木! この水を!」
「ピッ!」
こうして、暴れたメルク君を抑えて、オレ達の初めての男子会は幕を閉じた。
因みにこの後、メルク君は記憶を失っていたが、話を聞いて顔を青くしていた。きっと彼の胸には新たな恐怖が刻まれたのだろう。




