幕間 男子会1 前半
思いの外、会話が弾んでしまったので、前半後半に分かれます。
――カランカラン――
「あ? 今日はまだ店はーーって、なんだ。あんたか、ゼルクさん」
「なんだとはヒデェな。久々に顔を出してやったってのに」
「あんたが来ない間はここも平和だったからね。開店前に来られて歓迎する理由なんかないよ」
「冷てぇなぁ。オレは常連だろうが」
「そうだね。あんたは酔って暴れるのが日常だったからね。デカい図体で入口に立たれても迷惑だ。仕方ないから入れてやる。とりあえずさっさと入りな」
軽く会話をした後、店内に入るように言われる。
「けっ。不良店長が。おい、お前らも入れ」
「連れまでいんのか? ったく常識ってものをーーん? こ、皇太子殿下!? 何故このような場所へ!?」
「店主殿。開店前にすまない。ゼルク師匠にどうしてもここが良いと言われてな」
「いえ、そのようなことは……。おや、カイウス様もおられるのですね。それと……もう一人の方はどなたですか? 初めてお見掛けしますが……」
「メルク・ハーディと申します」
「メルク・ハーディ!? と、いうと先日2神教の枢機卿で、実の父でもあるガスク・ハーディの闇を暴いた方ですか!?」
先日の事件の後、国中の認識が改められ、立場も変わった。枢機卿の息子から、神剣や神鏡の使い手の仲間となったのだ。この反応も当然かもしれない。
「あぁ。ご存じの通り、彼も魔人から国を守る私たちの仲間でね。今日は新しい仲間の歓迎会ということで、仲間同士の親交を深めようと誘われたのだ。だが、ゼルク師匠が親交を深めるならここだと言って、聞かなくてな。急で申し訳ないのだが、今晩は貸し切りにしていただけないだろうか? 無論、相応の支払いはしよう」
「い、いえいえ。魔人と戦う皆様にご利用いただければ当店も箔がつきます。むしろ飲食のお代も結構です」
「いや、そんなわけにはーー」
「おっしゃタダ酒だぁ!!」
「はぁ……師匠……」
「ゼルクさん。あんたには普通に支払いしてもらうよ」
さらっと言っているが国内最強の騎士に対して、ここまでの態度を取れるこの店主も凄い。
「なんでだよ!? ツケだって、こないだ返した筈だろ!?」
「ゼリカさんからキッツ~く言われてるからね。兄貴を甘やかすなって。あんたに優しくしたらオレが怒られちまう」
「グ……クッソ……あの野郎余計な事を……」
「野郎じゃないだろう。ゼリカさんは女性じゃないか」
「あんなん野郎と変わらねぇだろ」
「またそんな事を言って……。ゼリカさんにぶっ殺されても知らないよ……? さて、テーブル席でいいかい?」
「あぁ。それと、椅子を1個追加するぜ」
「? なんだい? 5人目が来るのかい?」
「来るんじゃねぇ。もうこの場にいるんだよ」
「は?」
そう。今日はゼルクさん、王子、カイウス君、メルク君。そしてなんとオレも呼ばれたのだ。なんでも男同士腹を割って話したいとのこと。まぁ、オレもカイウス君やメルク君とはそこまで話してないからな。丁度いい機会だ。
「あんた……酒の飲みすぎでバカになったのかい? それともオレが5人目ってか?」
「バッカちげーよ。神鏡が守護騎士を呼び出すのを知ってんだろ?」
「ん? あぁ、詳しくは知らんがそうらしいな」
「ここだけの話な? 神剣にも同じようなのがいるんだよ。オレ達には認識出来ねーし、飲食もしねーけどな」
「なっ!? そうなのか!? 初耳だぞ!?」
「そう。だからそいつともコミュニケーションを取ろうと思ってな?
……誰にも漏らすんじゃねぇぞ? こいつは極秘事項だからな」
「う……。わ、わかった……。ここで見たことは忘れるよ」
「おし。じゃ、とりあえず適当に酒4人前とつまみを頼む。一応水とコップも出しておいてくれ」
脅されつつも、注文を用意する為にすごすごと奥に行くマスター。でも、認識出来ないオレの為に、わざわざこんな嘘をついてまで椅子を用意してくれる。こういった気遣いは、オレの事を大切な仲間の一人だと思ってくれている証拠だろう。これは本当に嬉しい。
『ゼルクさん。ありがとうございます』
「なに。お前のお陰でこないだの戦いは命拾いしたんだ。これが礼ってわけじゃねぇが、気にすんな。飯や酒は無くても、会話は出来るだろ?」
「ピッ!」
「ダハハハ! そうそう! この妙なコミュニケーションでな!」
「……しかし、改めて見てもやっぱり凄いな……」
「本当ですね……。空中にメモ書きが現れて、挙句笛の音が鳴りだしますからね……。笛1回で肯定、2回で否定でしたか?」
「あぁ。それ以外なら3回だ。玉木との会話は慣れるまでは違和感があるが、慣れたら問題なく出来る。意外とノリもいいから、話してて楽しいぞ?」
王子がカイウス君やメルク君にフォローしてくれる。
サラちゃんやフローラさんにしか認識されないとわかった時は、不安もあった。彼女達がいなくなったら、オレはどうなるのかと。今考えれば、召喚初日にパニックを起こした要因の一つでもあったんだろう。
けど、見えなくたって、聞こえなくたって、こうして理解してくれる人達がいる。この事はオレに、この世界で生きる希望を与えてくれる。
「ゼルクさん。とりあえず酒と簡単なつまみを持ってきたよ。って……おや? まだ席についてなかったのかい?」
「お、悪いな。おし、じゃあとりあえず座って乾杯といくか」
「じゃ、オレは奥でつまみを作ってるよ。聞かれたくない話もあるだろうからね」
「流石だな。だからオレはここが好きなんだよ」
「まったく……本当に好きなら酔って暴れないで欲しいんだがねぇ……」
「ダハハハハ!! それとこれとは話が別だわな!」
そう言われて再び奥に行く店主。成程。ゼルクさんはあの店主を信頼してるみたいだ。だからここで飲むと言って聞かなかったのか。
「メルク。お前、酒は飲めるか? 確か2神教では飲酒は禁止されていただろう?」
「問題ありませんよ。確かに2神教では禁止されていますが、今の僕は2神教とは無関係ですからね。
ただ、飲んだことはないので、どのくらい飲めるのかは分かりません」
そう。流石にガスクの事もあり、ハーディ家と2神教の関係は無くなった。最も、ハーディ家の次期当主は、「実父であっても悪は決して許さない清廉潔白な男。そして、法具の使い手と共に魔人と戦うメンバーの一員」という事で、国民に人気があり、立場が若干向上している。
因みに、この世界では酒は15歳から飲めるようだ。
「おっしゃ、なら問題ないな。シルヴァとカイウスはどうだ?」
「分かりません。飲んだことがないので……」
「そういえば、オレもありません」
「ダハハハハ! なら全員、これが初めての飲酒だってことだな! じゃあ一気には飲むなよ。酒に弱いやつが大量に飲むのは毒だからな。
玉木! お前は飲まんかもしらんが、この水で一応乾杯には参加しろ!!」
おぉ! そういう配慮だったのか! 流石ゼルクさん。こういうところは大人でしっかりしている。
ゼルクさんに言われるまま、各自がグラスを持つ。
「おし、全員グラスは持ったな? じゃあ、今日はシルヴァの回復祝いと、新しい仲間の歓迎会。それとこないだの戦いの祝勝会だ。ここではそれぞれの立場を気にして、周囲に気兼ねする必要もねぇ。全員、この場を楽しめ!
乾杯!!」
「「乾杯!!」」
オレ達の男子会が始まった。




