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ガスクとの邂逅

 後ろから電撃の音が聞こえてくる。激しい戦闘になっているようだ。


「……ここまで来て僕たちが足を引っ張る訳にはいきません。大丈夫だとは思いますが、警戒して進みましょう」


「はい、そうですね。……この先にメルク様のお父様が……」


「はい。ですが、あの男は唯の大罪人。ガスクで良いですよ。マリアにあんな事をさせた男だ。許せる訳がありません」


「……私も絶対に許しません」


 2人で緊張感を高めていく。そうして慎重に進んでいると、唐突にドリアードが声を上げる。


「その角の先に誰かいるっす!!」


「えっ!?」


 メルクはすぐに臨戦態勢に入った。


「そこにいる者! 姿を見せろ! 見せないなら容赦はしない!!」


「お、お待ちください! すぐに出ます、メルク様!!」


 その声に慌てて出てきた兵士。物腰は低く、こちらにへりくだった態度だが、あからさまに胡散臭い。


「何者だ?」


「ガスク様私兵のタルタと申します。今回はなにやら行き違いがあったようでーー」


「聞く必要はないようだな。悪いが眠っていてもらおう!」


「お、お待ちください! ここから先は部屋も多いです! ガスク様の元までーー」


 そう言いながら諸手を挙げる兵士だったが、メルクは問答無用と持っていた杖で腹を突く。


「ーーぐぶっ!?」


 急な衝撃に膝をついた兵士。その隙を見逃さず、後頭部を叩いて失神させる。


「ドリアードさん!」


「容赦がないっすね……。すぐ拘束します」


 そう言って気絶した兵士を蔓で拘束するドリアード。仕事が早くて助かる、とメルクはイヤに冷静だった。


「え、その人、何か言おうとしてましたけど……」


「いえ。聞くだけ無駄でしょう。一言目で敵だと判断出来ました。恐らく、この男が部屋まで案内して、入った途端背後から奇襲でもする手はずだったんでしょう」


「そ、それはそうかもしれませんが……」



 この場においてもまだ甘い事をいうクレア。メルクはそんな彼女に感心とも苛立ちとも取れぬ複雑な想いを抱いた。


 彼女は優しい。だからマリアに迫られた後でも友達になれる。神鏡に選ばれたのもその優しさ故だろう。

 だが、その優しさもここにきては最早致命的だ。そう感じたメルクは、クレアをキッと見つめた。


「……クレアさん。厳しい事を言いますが、敵は教皇様の家族を監禁するような男です。下手な同情は身を滅ぼします。僕は覚悟を決めています。僕が下手を打てば貴方は勿論、マリアだって苦しめることになります。

 そして、これからその男と戦いになります。敵を殺せとまでは言いません。けれど、敵に同情しない覚悟はしてください」


「…………」


「クレアっち……」


「すみません。偉そうな事を言ってしまって。貴方が巻き込まれただけなのは承知しています。正直、神鏡の使い手に変われるんなら、僕が肩代わりしたい気持ちもあります。けれどーー」


「いえ、わかっています……。メルク様の言う通りです。けれど、私はこの気持ちを捨てるつもりはありません」


「それはーー」


 確かにそれは美徳だ。だが、今はそんな場合ではない、とメルクが言う前にクレアが口を開く。


「私、少し前に守護騎士を召喚しようと、苦しんだことがあったんです。恐怖は捨てなきゃ。怒りは抑えなきゃって」


「……」


「けれど、玉木様に言われたんです。恐怖も、怒りも、神鏡は全て力に変えてくれるって。だから安心して、自分に正直になれって」


「玉木様? あの魔人ですか?」


「はい。その言葉があったから、私は強くなれたんです。

 だから私はこれからも、相手を傷つけたくない気持ちは捨てません。この気持ちも武器にします。その代わりにメルク様。この力を、私を、頼ってください」


 クレアの言葉にメルクは目を丸くした。彼女が何を言っているのか理解できなかったからだ。

 自分は既にこうして彼女の力を当てにしている。それこそ、自分の考えを押し付けてまで。


「メルク様は私に頼る事を申し訳ないと思っていますよね?」


「それはーー」


 図星だった。が、反面、それも当然だと考えていた。自分の目的はガスクを倒す事。それにこうして付き合わせているのは紛れもない事実だからだ。


「私がここにいるのは神鏡の使い手だからじゃないです。私は、マリア様を助けたい。私を助けてくれたシルヴァ様をはじめとした人たちの力になりたい。その気持ちがあるからここにいるんです。

 けれど、メルク様のおっしゃる通り私は甘い」


「……」


「だから、私を助けてください。そして、私を頼ってください。メルク様。今の私たちは、同じ目的を持った仲間です。マリア様の為に。それぞれの為に。一緒に戦いましょう」


「クレアさん……」


「先ほどはすみません。メルク様の行動に驚いてしまいました。けれど、メルク様。会議室に突入する際は私に指示をください。出来る限り力になってみせます」


 そう言って頭を下げるクレアに、メルクは気づく。確かに彼女は相手を傷つける覚悟は出来ていない。だが、戦う覚悟が出来ていない訳ではないのだ、と。

 メルクは自分の勘違いを恥じるように俯き、その後顔を上げた。


「わかりました。なら、僕も貴方の力を頼ります。貴方の優しさも尊重します。けれど当然、相手を傷つける指示も必要であればします。それでも構いませんね?」


「はい。お願いします。ドリアードも、お願いね?」


「勿論っすよ。あたしらはクレアっちの迷いだって力にすることが出来るっす。だからその気持ちも神鏡に込めてくれれば、なんだって出来るっす」


「うん。頼りにしているわ」


「よし。グズグズしていると怪しまれます。二人とも。すぐに向かいましょう!」


「はい!」


「了解っす!」



 …………



 ついに会議室の前にたどり着いた三人。だが、このまま何も考えずに突入する訳にもいかない。


「あそこが例の会議室ですね……。ドリアードさん。中の様子はわかりますか?」


「えーと……うわぁ、めっちゃいるっすね。こう、会議室の後ろに弓兵がずらーっといて、それを盾をもった兵士が10人くらいで守ってるっす。多分、部屋に踏み込んだら、一斉射撃してくるんじゃないっすかね。火矢とか爆弾とかも投げてくると思うっす。そうなったら蔦での攻撃も盾兵に防がれてジリ貧っすね」


「他には?」


「いや、全員会議室の中にいるみたいっす」


「……なら、こういう事が出来ませんか?」



 …………



 そろそろメルク達が来る頃だ、とガスクは兵達と共にその時を待っていた。

 計画では『メルク達を先に入室させ、タルタが背後から奇襲をかける』という手はずになっていた。だが、いくらあの愚息でも敵陣でそのような罠にはかからないだろうとも思っていた。

 タルタが先に入室した場合は自分が対話で時間を稼ぎ、タルタの避難が完了次第、忍ばせていた弓兵による一斉射撃を行う。


(味方の犠牲前提の運用は士気に関わる。面倒だが仕方あるまい)


――ガチャ――


 そう思っていると扉が開いた。だが、その先頭はメルクだ。一瞬自分の買い被りだったかとも思ったが、その後ろにタルタの気配がない事に気づく。そして二人は扉の前にはいるものの踏み込んでこない。


(成程、タルタはやられたか? 思い切りの良いことだ。その上、弓兵が潜んでいることもバレているようだな)


 仕方ない、と一歩前に出る。そのままメルクへと歩みを進める。


「メルク。どうして入ってこない? お前の目的は私だろう?」


「父上。それは背後の弓兵を下がらせてから仰っていただけませんか?」



 やはりバレていたようだ。面倒だと内心で舌を打つ。


「全く……。いつからそこまで気が回るようになった? その力を父の為に使ってくれないのも残念だ」


「貴方の為? 僕は僕です。貴方の傀儡ではありませんよ?」


「そのような事を言うように育てた覚えはないのだがな……。しかし、いくら神鏡の娘が付いているとは言え、この人数相手に勝てるとでも? 確かにその位置ならすぐに部屋の外に逃げれる。弓矢では意味がない。だが、兵達の武器は弓だけではないぞ?」


「勝ち目がないと思っていれば、乗り込んでいませんよ?」


「愚かな……。良い。やれ。だが殺すな。どちらも利用価値がある」


 腕を挙げる。それを合図に数十人が突撃していく。無駄な警戒だった。そう思っているとーー


「クレアさん!」


「はい! やって! ドリアード!!」 


「おりゃあっす!!」



 入口で神鏡の娘が何かしたかと思えば、部屋中から大量の木々が生えてきた。


「なんだ!?」


「おい! 戦力が分断されたぞ!?」


「クソッ! まるで森の中みてーだ!」


 木々の向こうからは兵達の叫び声が聞こえてくる。

 どうやらメルク達は自分の兵を各個撃破していくつもりらしい。逃げてもいいが自分一人では教会の外の包囲網を突破出来ないだろう。


(仕方あるまい)


 苦々しく思いながら、木々を分けて進む。


(良いだろう。反抗期の息子など、私が直々に打ちのめしてくれる)

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