神剣の力
城の訓練所でゼルクさんが王子に稽古をつけている。ただ、普段の稽古と違って王子は神剣を使っている。だからいつもよりは勝負になる筈。
そう思っていたのだがーー
「うおぉぉっ!!」
神剣が光輝く。振り下ろしたその先に衝撃波が走る。がーー
「ちっ! 甘ぇんだよ!!」
「ぐあっ!?」
斬撃を避けたゼルクさんに蹴られ、そのまま膝をつく。
「何してやがる! 何の駆け引きもなく、ただ突っ込むだけなんざガキのやることだろうが! オレがいつそんな事を教えた!?」
「ぐっ……。も、もう一度ーー」
「いや、もうやめだ!」
「!? ですが……!?」
「今のテメェじゃ稽古するほど動きが鈍る! 少しは頭を冷やせ!!」
「ぐ……う……。はい……」
ゼルクさんから叱責され、悔しそうに俯く。
カイウス君を助け、人質を助け、その上でガスクを討伐する。どれか一つでも失敗すれば、間違いなく後々厄介になる。
そしてこちらの戦力を考えると、洗脳されたカイウス君と戦えるのは、王子だけになる。
しかし、カイウス君は槍の名手。その上、魔槍を持っている。槍と剣というただでさえ王子が不利な状況に加え、武器まで神剣と同格のものを使われては、王子にかかる負担はより大きなものになる。
だからゼルクさんも王子が神剣を最低限使いこなせるまでは、この作戦は決行出来ないと言っていた。
王子自身もそれはわかっているようだ。それでも様々な葛藤を抱えているようで、動きが悪い。その様子は守護騎士の召喚に苦しんでいた、クレアちゃんにも似ている。だが、時間が無い。なんとか迷いを振り切ってもらいたいがーー
「クソッ!」
「シルヴァ様……」
「すまない。サラ、頭を冷やすから少し一人にーー」
「うーん……。ちょっといいっすかシルヴァっち」
そんな彼にドリアードが声をかける。
「なんだ?」
「質問なんすけど、シルヴァっちは神剣をなんだと思ってるっすか?」
「? 国の法具で……」
「あ、そういう意味じゃないっす。じゃあ例えば、どうやって力を出しているか知ってるっすか?」
「どうやって?」
「そうっす」
「いや……分からない。そんな伝承は特に……」
「神鏡は感情を力に変えるっすよね? そしてそれは……神剣も同じなんす」
「なに!? そうなのか!?」
え!? マジ!? ゲームでもクレアちゃんの感情はステータス表示されていた。けど、王子にはそんなの無かったぞ!?
「そうっす。神鏡程、能力が変わることは無いっすけどね。神剣の力の本質は風。そしてそれは感情の強さによって変わるっす」
「感情の強さ……」
「そもそも神剣も神鏡も、根本的には持主の望みを叶える武器なんっす」
「望み?」
「さっき、マリアっちの洗脳を解きましたよね? あれもクレアっちの『友達を助けたい』って気持ちを元に技を使ったんす。まぁ、あの技が洗脳まで解けるのは知らなかったっすけど……」
ふむ。やっぱり神鏡はそうなのか。伝承を聞いた時もやたらと「祈り」とか「守る」とか出てたから、持主の感情でやれることが変わるんだろうとは思っていた。
「それが神剣も同じという事か?」
「そうっす。さっきからシルヴァっちには色んな怯えが見えるっす。でも、それは戦いへの恐怖じゃないっすよね? 自分に力が足りなかったら~とか、誤って想定以上の力で攻撃してしまったら~とか」
「……あぁ。そうだ。神剣は一振りで周囲を吹き飛ばす程の力を待つ。だから模擬戦でも、神剣は使わないようにしてきた。手加減する自信がなかったからだ」
「それ、多分一番必要ない心配っすよ?」
「なに?」
「神剣ほど、手加減しやすい武器はないと思うっす。シルヴァっちが、『相手を殺さずに動きを止めたい』って思えば、神剣はそれに応えてくれる筈っす。なんなら、その刃で切っても、刃が勝手につぶれると思うっす」
「そ、そうなのか!?」
そこまでか!? てっきり衝撃波を強くなりすぎないよう手加減して~とかの話だと思ったが、斬撃そのものまで勝手に手加減してくれるのか!?
「だから神剣を使うときの思考はもっとシンプルで良いっす。シルヴァっちが何をしたいのか考えながら振ればいいっす」
「何をしたいか……」
「ドリアード、私も同じようにすべき?」
「いや、神剣と神鏡は違うっす。寧ろ色々考えて複雑な感情を持っている方が、能力に幅が出るっす。だからクレアっちは今のままで良いっすよ」
「うん。分かった」
少し考えていた王子は顔を上げる。その表情からは何やら強い決意を感じる。
「ありがとう。ドリアード。私のやるべきことが分かった。……師匠!!」
「分かってる。頭も冷えたようだし、かかってこい」
「はい! お願いします」
神剣を構える王子。その目からは迷いが無くなった。そしてそれに応えるかのように、神剣が今までと比にならないほどの光を放つ。
「ほう……。随分いい雰囲気になったじゃねえか……」
「えぇ……。いきます!」
そう言った後、王子がその場で剣を振るう。すると小さな斬撃が幾つも飛んでいき、ゼルクさんを襲う。かまいたちみたいなものか?
「はっ! こんなちんけなもんが効くか!!」
それらは全てゼルクさんの一薙ぎで弾かれる。がーー
「しっ!」
その隙に王子がその場で剣を突く。すると竜巻のような衝撃波が、うなりをあげて真っすぐ飛んでいく。
「うお!? ぐぐ……どらぁ!!」
不意を突かれて回避出来ず、仕方なく大剣で受ける。だが、流石はゼルクさん。そのまま上に弾いて構えなおす。その隙に王子が懐に飛び込み、剣を振るう。
「はっ!」
「ちぃっ!」
すかさず大剣を手放し、中段目掛けて右拳を放つ。これはゼルクさんの方が早い!
――バチンッ――
「なにっ!?」
だが、王子の体にあたる寸前で弾かれる。風か何かで守っているのか!?
「うおおっ!」
「くっ!」
そのまま神剣がゼルクさんに当たり、二人の動きが止まる。
しかし、ゼルクさんにケガはない。
「……驚いたな。あの勢いで切られたってのに、まさか小さな切り傷すらないとは……」
「そうですね。師匠を切る直前、剣が勝手に止まったようでした」
「しかしまさか1本取られるとはなぁ……」
「いえ、今のはただの不意打ちです。師匠、もう1本お願いします!」
「おし! 今日中にある程度使いこなして見せろ!」
「はい!!」
そしてそのまま訓練を再開する二人。これならなんとかなるかもしれないな。
しかし……守護騎士はほんとに頼りになるな。魔力を体に宿すってのもウンディーネの教えだったよな? ドゥークの時は喋れればいいや、くらいに思って召喚を手伝ったけど、まさかここまで有益な情報を持っているとは。
「貴方の存在価値がまた一つ減りましたね」
「フローラさん? オレの思考を読むのを止めていただいても?」
「貴方の場合黙っていても何を考えているのか、すぐにわかりますからね」
「幾らなんでもフローラさんくらいじゃない? あ、ひょっとしてオレに興味がーー」
「……この全身の鳥肌を見てもそう思えるのなら、貴方の脳みそはウジまみれなのでしょうね」
「フローラさんそんな表情も出来るんだね。鳥肌なんか見なくても顔色だけでわかるよ……」
「貴方にこちらを見られるのも不快ですね」
「オレにどうしろと?」
「お嬢様のお部屋でしていた形で構いませんよ? 隅っこで三角座りしていれば不快でなくなるかもしれませんね」
「それは愉快だろうね! オレのトラウマを抉らないで!?」
フローラさんといつものやり取りをする。
なんにせよ、途方に暮れていたオレ達に少しだけ希望の光が見えた。これならカイウス君達を助けられるかもしれない。




