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急報

 最早日課となっている夜のパトロールをしていると、夜道の中走る早馬らしき人を見かけた。

 なんだろう? あれ? シルフォード家に入ってく。何かあったのかな。

 玄関に向かうと何やら焦っている。


「お嬢様にお伝えしろ! 早く!! 急いでご支度頂き、城に向かっていただくのだ!!」


 なんだ!? 明らかに異常事態だ。こんな夜更けに何かあったのか!?

 暫くすると、髪がぼさぼさになったまま、服だけ整えたサラちゃんとフローラさんがやってきた。

 二人がオレを見てホッとしていたので、すぐにそばに行って声をかける。


「オレも一緒に行けばいいよね?」


 するとそのままサラちゃんが頷いた。ここは使用人の目がある。恐らく詳細は馬車で聞かせてもらえるんだろう。



 …………



 馬車の中、フローラさんがサラちゃんの髪を簡素に整えている。

 その間、オレはサラちゃんが受けた報告を聞いている。


「シルヴァ様から急報が入ったわ。緊急の問題が2つ発生したそうよ」


「緊急?」


「えぇ。

 1つ目。カイウス様が今日の放課後から行方不明になられた。

 2つ目。マリアがメルク様を殺そうとした」


「……どちらもとんでもない内容だね。それぞれの詳細は?」


「分からないわ。この2点を伝えられて、私とフローラに急いで城に向かうように言われたわ。つまり……」


「……魔人が関わっている可能性が高いってことだね」


「そうでしょうね。恐らくは私の時と同じね」


「わかった。まずは詳細確認だね」


「お嬢様。王城が見えてきました」


「わかったわ。すぐに降りる準備を」



 門の前には、同様に緊急収集されたであろうゼルクさん、ゼリカさん、クレアちゃんの姿があった。彼らも今着いたようだ。


「サラ様!」


「クレア達も来たのね!」


「皆! よく来てくれた! 急いでくれ! こっちだ!」


 王子が迎えに来た。そうして連れていかれた先は牢屋だった。

 そこにはメルク君、マリアちゃん、そしてオレの知らない少女の3人がいた。

 しかし、メルク君は明らかに憔悴し、マリアちゃんは檻の中で拘束されていながらも叫び声を上げている。


「メルク様ぁ! どうして死んでくれないんですかぁ!? 私の望みなのにぃ!!」


 マリアちゃんの様子が明らかにおかしい。案の定、洗脳された時のドゥークと同じように、紫色の光に包まれている。


「サラちゃん。マリアちゃんは洗脳されてる」


「そうでしょうね。こんなの、マリアな訳がないわ。シルヴァ様。玉木も洗脳の痕跡を確認出来たそうです」


「わかった。まずはそこの確証だけあればいい。

 皆。早馬で状況は聞いているな? カイウスが行方不明になり、メルクがマリア嬢に襲われた。

 まず、最後に二人を見た、リリー嬢に話をしてもらう。彼女はカイウスの婚約者だ。

 リリー嬢。頼む」


「はい」

 

 彼女がカイウス君の婚約者か。こんな状況で随分と落ち着いてーーいや、そうでもないか。顔色が悪い。気丈に振る舞っているだけだ。

 こうして、リリーちゃんから話を聞く。

 内容は単純だ。マリアちゃんがメルク君に呼ばれて大聖堂に向かった。それにカイウス君も同行した。ということだ。


「私もその場は屋敷に帰ったのですが、夜にカイウス様の実家、ヴォルク家から連絡を頂きました。困り果てた所で、カイウスさまの友人であるシルヴァ王子に相談したのです」


「リリー? カイウス様はそれっきり?」


「えぇ……。多分……」


「私の方でも連絡を受けてから現在進行形で調査させている。だが、今のところ目撃情報は無い」


「わかりました。では次に、マリアについて教えてください」


「……それは僕から話します……」


 憔悴しているメルク君が口を開く。


「……お願いします」


「はい。今日の夜、僕の屋敷に彼女が来たのです。門前では普通の様子だったのですが、僕の姿を見た途端、門番が差していた剣を引き抜き、そのまま僕に切りかかってきたのです。幸い、彼女は力も技も拙かったため、そのまま拘束されました。

 ……拘束させることが目的だったかのような、あっという間の出来事でした」


「……メルク様。何かご存じなのですか?」


「えぇ。彼女をどうやってこんな風にしたかは知りませんが、黒幕は間違いなく僕の父、ガスク・ハーディーです。現に、彼女が拘束された後、すぐにテレーズ家を脅し、婚約破棄と賠償責任を叩きつけていましたから。加えて、あの男なら彼女を呼び出すため、僕の名前を出すことも容易でしょうしね」


 マリアちゃんが大聖堂に呼ばれたことは、メルク君本人も知らなかったのか。それでもマリアちゃんはメルク君から呼ばれたと思っていた。ハーディー家に関わる者からの伝言なら疑う理由もなかったんだろう。

 ドゥークの時と同じようなものを感じるな。あの時も誰がやったかは明白なのに、何の証拠も残っていなかった。ここまであからさまなのは、自分が捕まらないと確信しているからだろう。


 ……胸くそ悪い。



「じゃ、じゃあすぐに私が守護騎士の誰かに犯人と言わせてーー」


「いや、それは不味い」


「何でですか!? これじゃあ……マリア様が!!」


「クレア。落ち着きな」


「落ち着いてなんかいられませんよ!! 私の友達をこんな……こんな!!」


 そう言って悔しそうに檻の中のマリアちゃんに目を向ける。……この状況は不味いな。まずはクレアちゃんに落ち着いてもらわないと。待てよ? ゲームでは確かーー


「シルヴァ。マリア嬢を元に戻す算段は付いているか?」


「いえ、それが……」


「ちっ。そうか」


「皆様。待ってください。クレア。ドリアードを召喚出来る? 玉木が洗脳解除の方法に心当たりがあるかもって」


「!? はい! 来て! ドリアード!!」


 そう言ってドリアードを召喚するクレアちゃん。だが、出てきたドリアードはバツが悪そうだ。


「……どうもっす。でも、正直あたしは心当たりないっすよ?」


「ドリアード? 貴方の技に『浄化の繭』という木々で包み込む技がない?」


「へ? なんであたしの技の名前を? というかそれは毒を治療する技ーーえ? ひょっとして洗脳にも効くんすか?」


「モノは試しよ。やってみて。駄目なら色々試せばいいわ。」


「……分かったっす! クレアっち!! 助けたいって気持ちを思いっきり出してほしいっす!!」


「分かった!! お願い! ドリアード!!」


 するとドリアードの周囲から伸びた根っこがマリアちゃんを包み込む。中で暴れているようだが大丈夫だろうか?


「ドリアード? マリア、少し暴れているようだけど大丈夫?」


「この程度なら大丈夫っす。ただ、これは多分拘束されていなかったら無理だったっすね。しかもちょっと時間かかると思うっす」



 そうして全員が固唾を飲んで見守って、5分ほど経っただろうか? 繭が開き、そこにはぐったりしているマリアちゃんがいる。すぐに檻に入って状態を確認する

 うん。呼吸も正常だし、何より紫色の光が消えている。成功だ!


「サラちゃん! 大丈夫!」


「無事です! 洗脳も解けてます!」


 その言葉にホッと息を吐く一同。この辺の設定がゲームの通りで良かった……。『浄化の繭』はゲームでは状態異常回復の技だった。ここまで時間がかかるとは思わなかったが、期待通りの結果だ


「マリア……良かった……。本当に良かった……」


「ドリアード! ありがとう! 玉木様も!」


「洗脳も解除出来るんすねぇ……。てゆうか玉木さんがどんだけアタシらの事知ってるか気になるっすねぇ……」


「玉木。ありがとう。ドリアードもありがとう。でも、その疑問は後回し。まずはここからどうするかを考えましょう」


「そうだな。今のままではマリア嬢の処罰は免れない。それにカイウスも洗脳されているかもしれない。二人は必ず助けよう」



 王子に促され、オレ達は緊急の作戦会議を始めた。

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