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枢機卿の闇

「クレア様、この者は当教会の大司教にあたる人物です。サラ様は面識があるかと思いますが」


「はい。お久しぶりです大司教様」


「お久しぶりですサラ様」


「だ、大司教様。はじめまして」


「はじめましてクレア様。私は大司教のーー」


 大聖堂での挨拶回りが始まっておよそ2時間が経過した。クレアちゃんはもう疲れているようで、リボンが大分ヘタっている。サラちゃんがスキをみては直しているが、それも苦しくなりつつある。

 そしてオレも人の事は言えない。何度も持ち直したり、一目につかないところでフローラさんに降りてもらいつつではあったが、もう腕に力が入らなくなってきた。


「……また休憩が必要ですか? 本当に貧弱ですね」


「いや……流石にこんな長時間人をおんぶし続けた事なんてないもの……」


「言い訳ですか? なんにしてももやしのような男ですね」


「反論する気力もないよ……。えっと……今は特に音は聞こえないよね?」


「そうですね。それにあの男についても表情が嘘くさい以外はとりわけ何もありません」


「だね。まぁ簡単に尻尾が掴めるとも思わなかったけど、ここまで神経張り詰めて何もないのは疲れるね」


「ふむ。鍛錬が足りませんね。貴方は体力は勿論、精神力までも低いのですね」


「まぁ君らに比べればねぇ……」


 実際、双竜の二人は当然としても王子やサラちゃん、それにフローラさん、果てはクレアちゃんにも精神力で勝てる気はしない。人生何週目なんだ。本当に年齢詐欺だと思う。


「それにしてもこの大聖堂……本当に広いよね。オレの知ってる教会とは全然違う。まるでお城に礼拝堂がくっついてるみたいだね」


「ここは2神教の総本部ですからね。国でも一番の大きさです」


 そんな話をしていると、お昼の鐘が鳴った。学園の寮とは違い、きちんとオレにも聞こえるので幻覚の心配はなさそうだ。

 そして鐘の音を聞いた枢機卿がクレアちゃんを気遣う


「おや。お昼の時間になりましたか。クレア様。少しお疲れのようですので、昼食を取りに中庭に行きましょうか」


「中庭ですか?」


「はい。貧しい者でも食事を取れるよう、料理を振舞っているのです。配給食ながら味は良いですよ。流石に公爵家で食べるものには劣るでしょうが……」


 チラとサラちゃんを見やる枢機卿。これは……挑発か? ただの謙遜か?


「いえ、こちらで頂くのは初めてではありませんから。美味だという事は存じ上げております」


「そうですか。公爵令嬢にそう言っていただければ私も鼻が高いです。食堂もありますので、中庭で料理を受け取ってからそちらに向かいましょう」


 そう言って枢機卿が先導していく。なんというか……こういう相手の腹を探る会話は職業柄よくしていたけれど、やっぱり疲れるんだよな。



 …………



 こうして食堂にやってきた。

 そこにはホームレスのような身なりの者から聖職者に事務員等、様々な人が座っている。

 そうしてふと奥の席を見ると、黒髪眼鏡の見覚えのある青年が座っていた。


「おや、丁度良い。メルク! こちらに来なさい!」


 父の声に振り返ったメルク君。こちらの姿を確認し、席を立つ。


「お呼びでしょうか父上」


「あぁ。クレア様、この者は私の息子、メルクです。クレアさまとは同学年ですね」


「はい。こんにちわメルクさん」


「おや? 息子の事をご存じで?」


「あ。え、えっとーー」


 メルク君から仲良くしない方が良いと言われていたのに、つい挨拶してしまったのだろう。クレアちゃんはワタワタとしている。

 表情には出さないがメルク君も困っているのだろう。クレアちゃんの様子を見ている。そんなクレアちゃんをフォローするようにサラちゃんが口を開く。



「えぇ。私もクレア様も存じ上げておりますよ。私たちは彼の婚約者のマリアさんとは親しくさせていただいています。ですので、友人の婚約者として紹介されたのです」


 サラちゃんの言葉にクレアちゃんがこくこくと頷く。


「そ、そうです。マリア様とはお友達なんです!」


「そうなのですか? メルク。クレア様と親しいのならばキチンと報告しなさい。別に怒りはしないが、こちらにも段取りがあるのだから」


 その言葉と矛盾するように、何やら非難の目を向ける枢機卿。だが、メルク君も何食わぬ顔で返す。


「いえ。あくまで友人なのは私ではなくマリアです。女性同士の方が気楽でしょうし、男の私が首を突っ込むのも、と思いまして」


「……成程な」


 枢機卿は思案顔で一瞬目を細めるが、何事もなかったかのようにクレアちゃんに笑顔を向ける。


「何にしても、クレア様には気の置ける友人が何人もおられるようでなによりです」


「あ、ありがとうございます」


 枢機卿の言葉に素直に返すクレアちゃん。それにしてもーー


「流石お嬢様。ファインプレーです。これでお二人を無理矢理近づける事は難しくなりました」


「……そこも説明してないよね? なんで理解出来てるの? でも、まぁその通りだね。サラちゃんのお陰で、『あの二人の関係はマリアちゃんありき』だと枢機卿に認識させられた。それにーー」


「えぇ。あの男、ここまで嘘くさい笑顔のままでしたが……先ほどのやり取りで一瞬素が見えましたね」


「うん。あの男が裏で何かしているってことにも得心がいくね」


「そうですね。後は今後のーーむ? こちらに向かってきている男性。アレは教皇様ではありませんか?」


「え?」


 フローラさんの言葉に顔を向ける。確かに会議の時にみた教皇さんだ。


「……クレア様」


「え? あ、こんにちわ。えっと……?」


「クレア様、こちらは当教会の教皇です」


「あ! ごめんなさい、はじめまして!」


 枢機卿の言葉に慌てて頭を下げるクレアちゃん。


「あ、あぁ、クレア様。頭をお上げください」


「教皇様、何故こちらに? 後でクレア様と共に伺うつもりでしたが」


 枢機卿の言葉に教皇がビクッと肩を震わせた。……なんだ? この男に怯えているのか?


「い、いや。勿論そうなのだが、食堂に来たらたまたまクレア様をお見掛けしてな。クレア様もお忙しいだろうし早めに顔だけでも見せておこうと思ってな」


「……そうですか。では、クレア様、サラ様。食事が終わり次第、教皇様の書斎に行きましょうか」


 そう言って、自分より上の立場である筈の教皇に冷たい視線を向ける。対する教皇は枢機卿とは目も合わせない。

 何に怯えているのかはわからないが、これだけでも異常だ。魔人が関係しているかは別にしても、これは本格的に調査すべきだな。


 その後、クレアちゃん達はメルク君と分かれ、改めて挨拶回りを再開した。

 だが、その後も休憩を取りながらなんだかんだと4時間近くも歩き回った。クレアちゃんは勿論、オレもヘトヘトになってしまった。


「ーー以上で当教会の案内は終了です。クレア様、サラ様、お疲れ様でした」


「お、お疲れ様でした……」


「お疲れ様でした。枢機卿様、お忙しい中こうしてお付き合いいただきありがとうございました」


「いえいえ、サラ様。私も有意義な時間を過ごさせていただきました。入口まで送りましょうか?」


「いえ、帰路は把握していますので問題ありません。クレア様もお疲れのようですし、早めにおいとまさせていただきます」


「そうですか。それでは私はこれで」


 そう言って枢機卿は去っていった。しかしーー


「つ……疲れた……」


「確かにこれほど長くかかるとは思いませんでしたね」


 挨拶もあるとはいえ、ただの社会科見学なら午前中で終わると思っていたのにもう夕方だ。その上今日一日気を張ってものだから、終わったと思った途端、疲労が一気にやってきた。


「じゃあ……次は幻覚装置の確認だね……」


 体に力は入らないが、それも今日の目的の一つだ。だが、意外にもフローラさんが反対する。


「いえ、今日はこのまま帰りましょう」


「え? だけどーー」


「この広さを今からやれば数時間はかかるでしょう。それに……貴方、集中力が保つんですか? 適当な調査で幻覚装置が漏れていてはそちらの方が問題ですよ?」


「……うん。そうだね。じゃあお言葉に甘えて帰らせてもらうよ……」


「全く……。本当にモヤシのような男ですね。少しは根性を見せたらどうですか?」


 フローラさんにぐちぐちと言われるも、最早それに応える気力もなく、オレはフラフラと屋敷に戻った。



 …………



 玉木達が帰ったその日の夜。ガスクは静まり返った大聖堂で一人、雑務を片付けていた。枢機卿にまで上り詰めたところで、事務仕事が必要なのは変わらないようだ。

 すると、誰もいない筈の大聖堂で足音がしたかと思えば、ノックも無しに扉が開け放たれる。そこには青い肌の女が立っていた。


「ちょっとー!? 人を呼び出しておいて迎えも寄越さないってどーゆーわけー!?」


「何故お前が? フォウ殿はどうした?」


「はー? 何その言い草? 殺されたいの? フォウのやつが、実行犯はあたしだからあたしに動けって押し付けたのよ!」


 その言葉にガスクは嘆息する。


(全く……。この女についてはフォウ殿に任せるつもりだったが、押し付けられたらしいな)


 どうやら自分が彼女の面倒を見なければならないようだ。それでも、彼女の力を借りる事はこちらの要望だからと、諦めて口を開く


「そうか。なに。お前に頼むことは一つだ。後日、女を捕らえる。その女を使ってある男を襲わせろ。お前なら簡単だろう?」


「うーわ。上から目線まじむかつく。あたしはあんたの部下でもなんでもないんですけどー?」


「私の部下であろうとなかろうと、お前たちの目的のためには私の出世は充分に旨味があるだろう。協力せん理由がわからんな」


「ほんっと腹立つ! あんたいつかぶっ殺すからね!?」


 かん高い声にうんざりする。しかしそれでもこの魔人の力は強大だった。額の眼と視線を合わせれば、たちまち彼女の傀儡に成り果てる。だがーー


(私はそんな魔人すらも利用することが出来る)


 彼は男爵貴族としてこの世に生を受けた。男爵とはいえ、貴族。平民とは別の生き物だ。しかし、それでは彼の欲を満たすには足らなかった。


(既に教皇は私の言いなり。そしてこの計画が終われば私が教皇となる。そうなれば王家すら簡単には手出しできなくなる。

 もう少しだ。もう少しで私の欲は満たされる。その為にはこんな女と話す事など苦にもならん)

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