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カイウス・ヴォルク1

 メルク達が去ったのを見届けてから、サラは玉木に指示を出す。


「さて、それじゃ次はカイウス様ね。玉木。シルヴァ様に放課後お話しするようお伝えしてきてくれない? そのままカイウス様のところに貴方を遣わすかもしれないから、そこはシルヴァ様の指示を仰いでね」


「うん、オッケー。行ってくる」


 頷き、飛んでいく玉木。

 人知を超えた力を持つ魔人。彼の能力を考えれば、その気になれば国の一つや二つ、簡単に滅ぼせるだろう。

 だが、そんな彼はただのお使いでさえ素直に従う。いつもの光景ではあるが、頼もしい限りだ。


 そんな事をぼんやりと考えていると、クレアが話しかけてくる。



「サラ様? もう、玉木様は飛んでいかれたんですか?」


「えぇ。彼は仕事が早いから」


「フフ……玉木様のこと、本当に信頼されているんですね」


「勿論。私の恩人だもの」



 そう答えつつも頭にふと、出会ったときの玉木の言葉が浮かぶ。何故自分を助けるのかと聞いた時、彼は答えた。「打算的な話をすると元の世界に帰れる可能性があるからです」


 そう。玉木は異世界から召喚されたのだ。故意では無かったし、彼もそれについては何も言ってこない。しかし、きっと帰ろうとも思っている筈だ。


 汗もかかない、食事もしない、睡眠も必要ない。守護騎士の事を考えれば、魔人には寿命が無いのかもしれない。だからフローラと結ばれてくれたら、彼女が死ぬまではずっと傍にいてくれるかもと期待した。が、彼らにそのような気配はない。


 窮地を救われたサラにとって、最早玉木はかけがえのない存在となっていた。勿論、彼が自分を大切に思ってくれているのも感じる。だが彼のいた世界にも、彼にとっての大切なものはあった筈。


 それにドゥークを捕まえた時は何も無かったが、3年後の戦いの後はどうなるかはわからない。ひょっとしたら、玉木の意思に関係なく消えてしまうかもしれない。



(そうなったら私はーー)


「サラ様? どうしたんですか?」


 俯いて考え込んでいると、クレアが心配そうな顔でのぞきこむ。サラは慌ててかぶりを振った。今は国を守ることが最優先。その後の事を考えている場合ではないと自戒する。


「ごめんなさい。少し先の事を考えていて」


「そうですか? ……何かあればおっしゃってくださいね? 友達なんですから」


 自分を気遣うクレアの優しさが身に染みる。


「ありがとう、クレア。でも、今日の所は大丈夫。さ、教室に行きましょうか」


「はい。サラ様」


 不安はあるが、それでもすべきことを一つずつしていかなければならない。彼女は決意を胸に教室に向かった。



==========



 放課後、中庭を歩く一人の青年。空色の前髪を全て後ろにあげており、その精悍な顔つきと硬派な性格故に学園にもファンが多い。

 彼の名はカイウス・ヴォルク。子爵家の跡取りだ。

 そんな彼に声がかかった。


「カイウス。少しいいか?」


「? シルヴァ? どうしたんだ?」


 声の主は、カイウスの髪色にも似た青い目をした青年。この国の皇太子であるシルヴァだった。

 本来であれば、子爵家の跡取りでしかないカイウスが皇太子を呼び捨てにするなど許されるはずもない。だが、シルヴァはゼルクの、カイウスはゼリカの弟子ということで、対等ということになっていた。


(ーーと、いうよりはシルヴァが皇太子の権限で、無理やり対等ということにしたんだが)


 カイウスが自分の特殊な立場に思いをはせていると、シルヴァが言葉を続ける。


「少し話をしたいんだが……いいかな?」


「構わんがーーむ? クレア嬢にサラ嬢? どうしてシルヴァと?」


「あぁ。この話に関わりがあってね。二人も一緒に聞いてもらっても構わないかい?」


「お前がそう言うなら」


「ありがとう。少し場所を移そう」



 そうして場所を移したところで説明を受けた。3年後に魔人と戦う事。そして、カイウスにも戦う才能がある事だ。


「ーーと、いう訳だ」


「そうか。オレにもそのような才能が……」


「そうっす。それも結構凄そうっすよ? 下手したら王子様よりあるかもしれないっす」


「なに!? シルヴァよりか!?」


 ドリアードの言葉に、カイウスは大きく食いつく。


 カイウスは自他共に認めるシルヴァのライバルだ。だが、カイウスから見てもシルヴァは特別な人間だった。

 剣技の才能は勿論、知力も精神力も常人のソレではなく、彼と比べれば大概の男は霞んでしまう。これまで同じ双竜の弟子として何度も比べられたカイウスは、それを嫌というほど実感してきた。勿論、カイウスだって血の滲むような努力をする。だが、シルヴァもそれだけの努力をしてしまう。


 だからこそ、ライバル以上の可能性があると聞いて、興味を持たずにはいられなかった。

 そんなカイウスに、シルヴァは歯がゆそうにつぶやく。


「そうか……。少し悔しいね。今でさえ、10本勝負して4:6といったところ。これが3:7になるかもしれないのか。負けられないな」


「シルヴァ……お前は相変わらずだな。槍と剣。どう考えても剣の方が不利なんだぞ? 寧ろその程度しか勝てていないオレがふがいないんだ」


「流石はカイウス。驕りがないな。それでこそ私のライバルだ。けれど、私とて負ける気はない」


 真っすぐな目で語るシルヴァに、カイウスは眉をひそめる。


(驕りがない? 何をふざけた事を)


 だが、その言葉はイヤミなどではなく、本心なのだという事も理解していた。国の王になる事を自覚し、誰よりも強く、賢く、強靭な心を持たねばならないと、日々努力していることはカイウスも知っていたからだ。

 そんなライバルに怒りを通り越し、最早呆れたカイウスはため息交じりに話す。


「まったく……。お前はどこまで強くなる気だ……」


「少なくとも今は魔人を倒せるところまでだ。今の私では足元にも及ばないそうだからな」


「……魔人とはそれほどの存在なのか?」


「下手をすれば師匠達二人がかりでも負けるそうだよ」


「なんだと!? そこまでか!?」


「あぁ。だからまずは師匠達と同格にならなければならない」


 迷いのないシルヴァの言葉にカイウスは驚きを隠せなかった。『まずは師匠達と同格』。つまり、見据える先はそれ以上ということだからだ。

 だが、カイウスにもプライドがあった。これ以上離されてたまるかと、一も二もなく答える。


「わかった。更に強くなれるなら異論はない。オレも魔人と戦うとしよう」


「ありがとう。カイウス」


「これ以上お前に離されるわけにはいかん。今は魔力の強化とやらもお前に一日の長があるやもしらんが、すぐに追い越してやる」


「フフ。頼もしいよ」


「良かったですね。シルヴァ様」


「あぁ。これでまずは1人。仲間が出来た」 


「まずは? ということは、他にも何人かいるのか?」


「あぁ。お前の他にはあと3人。師匠達を入れて8人だ」



 二人の会話にカイウスは首を傾げる。


(残り3人で師匠達を入れて8人? 言い間違いか? 師匠達にオレ、シルヴァ、サラ嬢、クレア嬢で既に6人だがーー)


「ーー8人? 9人の間違いではないのか?」


 カイウスの質問に、サラが視線を落とす。


「……私は、そのメンバーの中には含まれません。私には才能が無いそうですから……」


「……そうか。それで8人なのか……」


 サラがシルヴァの為に努力してきたことはカイウスも知っていた。だからサラの返答には驚きもあったが、それ以上に同情の念を抱いた。

 だが、そんなカイウスをよそに、サラは明るいトーンで話を続ける。


「えぇ。ですが、私にも出来ることは山のようにあります。ですから、私はまずは皆様のサポートの為に動きます」


「あぁ。サラも私たちの大切な仲間だ」


「恐縮です。シルヴァ様」


 サラとシルヴァのやり取りに再び首を傾げる。彼らは婚約を解消したはず。だというのに、寧ろ絆が深まっているように見えたからだ。


「サラ嬢? その、婚約のことは……」


「えぇ。神鏡に選ばれなかったこと。婚約破棄されたこと。はじめはとてもショックでした。それこそ、涙が枯れるくらいに泣きました。けれど私、これはチャンスだと思っているんです」


「チャンス?」


「えぇ。元々の婚約は親が決めた事。国民もそう決まっているからとしか思っていませんでした。しかし、婚約破棄された今は違います。

 魔人から国を守り、シルヴァ様を振り向かせる。そうして初めて勝ち取った婚約なら、誰にも文句を言われないでしょう?

 その為ならなんだってしてみせます。だから私は今、出来ることをするのです」



 そう言って笑うサラに、カイウスは目を見開いた。

 これまでの彼女は公爵令嬢として虚勢を張っているように見えた。完璧なシルヴァと比べられながらも、それに抗う姿には正直、親近感を覚えていた。自分と同じように、シルヴァと並ぼうとしていると。


 だが、今の彼女は自分に出来る事をしっかりと見据え、自信に満ち溢れているように見えたからだ。


「サラ嬢。何か、雰囲気が変わったか?」


「クスクス。色んな人に同じ事を言われます。でも、私が何か乗り越えた訳じゃありませんよ? ただ、味方がいる事に気づいただけです」


 愉快そうに語る彼女に、カイウスは見開いていた目を細める。


(少し、残念な気もするな。オレだけが置いて行かれたような気分だ。だがーー)


 そんな寂寥感(せきりょうかん)を振り払うように、カイウスは前を向く。


「そうか。だが、尚更負けられんな。シルヴァ、次の特訓はいつだ?」


「そうだな。それなら、次の休日に師匠の所に来てくれ」


「わかった。では、それまではオレも出来ることをしておこう。ではな」


 そう言って、その場を離れるカイウスの目は静かに燃えていた。


(シルヴァやサラ嬢がどこまで先に行っているか、など知ったことか。オレとて双竜の弟子。負けてたまるか)

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