戦い終わって
「サラ!」
「お父様!」
サラちゃんのお父さんが駆け寄っていった。ここ数日拘束された挙句、娘とは会えていなかったのだ。当然だろう。
「サラ……良かった……。本当に良かった……」
「お父様、ご心配をおかけしました。それと、拘束されておられる中、私の要望を聞いていただいてありがとうございます」
「いや、寧ろあんな事しか出来なくてすまなかった。サラ、今回の事は殿下が全て教えてくださった。……魔人と契約したことも」
「はい。勝手な真似をして申し訳ありません。しかし、あの男の企みを阻むためには、どうしても必要なことでした」
「そうだな。そのことも殿下からお聞きしている。にわかには信じがたい話だったが……」
そうか。移動中、馬車の中でオレの事を話していたのか。確かにこの人は公爵家の長。この人の協力が得られれば、これからも出来ることは増えていくからな。
「えぇ。魔人の存在は私達にとっては超常のものですからね。それでも、この結果は魔人の力によるところが大きいのも事実です」
「……分かっている。だが、それよりもまず、皆様への御礼が先だ」
「勿論です」
親子での会話を終え、サラちゃんがその長い髪を横にまとめて頭を下げる。
「皆様。この度は私の冤罪を晴らしていただいたこと、本当にありがとうございました」
サラちゃんからの謝礼に、双竜の二人と王子が応える。
「ま、何とかなってよかったなサラ嬢」
「アンタが魔人と契約したお陰で解決した事件だしね」
「その通りだ。魔人をこちらに引き入れてくれたこと、大いに感謝する。シルフォード嬢。これからも魔人共々、力を貸してくれないか?」
王子の言葉にサラちゃんが顔を上げる。
そしてその青い目に視線を合わせ、真っすぐな瞳で口を開く。
「勿論です。殿下からの主命、謹んでお受けいたします」
「ありがとう」
サラちゃんの返答に王子も真面目な表情で応える。
だがその言葉の後、王子の雰囲気が変わった。それは先ほどまでの固いものではなく、いたずらを企む子供のようだ。
「さて、ところでシルフォード嬢。君は今、魔人共々力を貸す。そう言ったね?」
「はい。勿論です」
「私は神剣の使い手。そして君は魔人の使い手だ。国を守るにあたってこの二つに違いはない。そうは思わないか?」
「殿下?」
「私と君は対等な仲間だ。だから、これからも私のことはシルヴァと。君の事はサラと呼び合いたい。構わないだろうか?」
そう言って笑顔を向ける。サラちゃんは口を覆うが、声は震え、瞳は潤んでいた。
「私は……また、シルヴァ様とお呼びしてもよろしいのですか?」
その言葉に王子は嬉しそうに頷く。
「あぁ。これからもよろしく頼む。サラ」
「っ……。はい……勿論……です……シルヴァ様……」
サラちゃんが感極まって泣いている。良かった……。オレは、サラちゃんの力になれたんだ。
「あ、あの。サラ様……」
涙を流すサラちゃんに、クレアちゃんが遠慮がちに声をかける。
「あ、あぁ。ごめんなさい。クレアさん。つい、涙が出てしまって。貴方も本当にありがとう。私の冤罪を晴らせたのは貴方のお陰だわ」
「そんな……! 私のせいで、サラ様をどれだけ傷つけたか……。それにあの時、サラ様が伸ばしてくださった手を……私は……!」
「……そうね。あの時は正直、貴方を憎む気持ちもあったわ」
「っ……。はい。本当に……申し訳ありません。サラ様。学園でもサラ様には助けていただきました。それを……私は……」
クレアちゃんはずっと悲痛な顔をしている。守護騎士を召喚出来なかった時もずっと思い詰めていたが、恐怖だけでなく、サラちゃんへの罪悪感もあったのか。けど、きっとサラちゃんならーー
「ーーえぇ、貴方の謝罪を受け入れます。クレアさん、私は貴方を許します」
「うぁ……う……。サラ様……ありがとうございます」
「ただし!」
「え?」
俯きかけたクレアちゃんの前に人差し指を立て、それを止める。
「ただし、それはあの日、貴方が私の手を避けた事について。神鏡に選ばれた事や、シルヴァ様との婚約について謝ってはダメよ?」
「え……? でもーー」
「神鏡に選ばれなかったのは私の力不足。貴方がそれを申し訳なく思うのは寧ろ失礼な事なの。だから、貴方は神鏡に選ばれた事を誇りに思いなさい。貴方が選ばれたことは当然だと、示しなさい」
そこまで言って微笑みーー
「ーーそんな姿を見れば、私だって悔しくなんかなくなるわ」
「サラ様……。わかりました。私、頑張ります!」
「ええ。よろしい」
サラちゃんはクレアちゃんを優しく諭す。こうしてみると本当にこの子は公爵令嬢だ。自分に厳しく人に優しい。理想の貴族だ。
「それで……シルヴァ様? 私と貴方は対等とのことでしたよね?」
「ん? ……! ……あぁ。そうだな」
サラちゃんがニヤリと口端を上げる。王子も何を言いたいか察したようで同じ表情で返す。
「神剣に選ばれた者と魔人を操る者。そしてもう一人、対等であるべき人物がいますわね?」
「そうだな。君もそう思うだろう? クレア嬢?」
「えぁっ!?」
クレアちゃんが驚いて変な声を出している。この子の背中は丸まったり伸びたり忙しそうだ。
「対等という事は私たちも呼び方を変えるべきね? クレア」
「そうだな。呼び方は勿論、態度もそうだな。どう思う? クレア」
「あ、いや。そんな……私は……えっと……」
二人の言葉に困惑している。まぁ、自国の王子と姫から対等を迫られる平民なんてそうなるわな。あの立場。オレだって嫌だ。
「クスクス。ごめんなさい。からかいが過ぎたわね。でも、対等な立場というのは本当よ? だからクレア、貴方さえ良ければ友達になってくれない? 私、対等な立場の友達が少ないの」
「私もだ。話し方は君が喋りやすいやり方で構わない。だが、これからも共に魔人と戦う以上、私たちは仲間だ。だから、後は君の気持ち次第だ」
そう言って、二人は手を差し出す。自分に差し出された二つの手。それを見たクレアちゃんの目からは涙が溢れ出す。それでも、なんとか言葉を振り絞る。
「うぁ……。わ、私……平民ですよ……?」
「そうだな。それでも君は神鏡に選ばれ、責務を果たしている」
「学園でも身分の違いに負けず、頑張っていたわね」
「友達だっていなくて……」
「私も多くはないな」
「私もよ」
「なのに……良いんですか? 私なんかが、お二人の友達になっても?」
「何度も言わせないで? 立場は同じ。そうでしょ?」
「そうだ。何も遠慮することはない」
クレアちゃんは何度も確認をする。だが、返ってくるのは温かな返答だけだ。そんな二人の差し出した手を、素直に握る。クレアちゃんの表情はもう、涙でボロボロになっている。
「うっ……グスッ……。お、お二人とも……よろしくお願いします」
「えぇ、よろしく」
「あぁ、よろしく頼む」
そんな姿にふと、後ろをみると大人組が涙ぐんでいる。
……こういうのは、やっぱりいいものだよね。




