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協力体制

「はぁ……。全く、なんだというんだ今回の事件は」 


 月明りの中、寝室で一人溜息をつく皇太子、シルヴァ。

 彼は現在、(くだん)の襲撃事件について調査していた。

 首謀者はドゥーク侯爵に間違いない。だというのに、これまでの調査ではその証拠が一切掴めていない。


 彼は寝る前にクレアや師匠たちとの会話を思い出していた。



~~~~~~~~~~~~~



「自爆した?」


 襲撃者について聞きとりを行うと、返ってきたのは驚くべき内容だった。



「……はい。私が夜、トイレに行こうとすると、兵士の方から『念のために護衛する』と言われました。断ろうとも思ったのですが、『女性の兵士もおられるから』と、そのままトイレに向かいました。

 すると、見慣れないフードの男が立ちはだかりました。男はフードを下ろして顔を見せ、私にナイフを向けて駆け寄ってきました。『死ね! 魔女め!!』と。

 ただ、近くにいた兵士の方々がすぐに私を庇い、槍を突き立てたのでその男が私に近づくことはありませんでした。

 その時、兵士の一人の槍が男の服に引っかかり、そのまま壁に叩きつけられました。あの紙を落としたのはその時です。

 その後、窓際に追い詰められた男は最後に言いました。『貴様はいずれ、我らの仲間に殺される!!』と。

 そしてそのまま自爆しました。その後、侯爵がやってきて一緒に校門に向かってーー」


「ーーそうか。ありがとうクレア嬢」


「本当だよ。恐かったろうに良く話してくれたね。偉いよクレア」


 震えるクレアの頭をゼリカが撫でて宥めている。


「で? なんかわかったかシル坊?」


 師匠であるゼルクが問いかける。だがーー


「いえ、それが……。その場にいた侯爵の兵士たち全員と、全く同じ証言でした」


「チッ、そうか。そもそも兵士共はなんでそんな都合の良い場面に出くわしたんだ?」


「実は……その日の夕方、侯爵から密命があったそうです」


「密命?」


「はい。『神鏡に選ばれたクレア様に今晩、危機が迫っていることが判明した。あの方は国の宝。必ず守るように。ただし、この話が襲撃者に漏れては意味がない。お前たちだけで対処するのだ』との指示が出たそうで」


「……筋は通っているが……。嘘をついている可能性は?」


「いえ、そのような気配はありませんでした。寧ろ全員、クレア嬢を守れたことを誇りに思っているようです」


 クレアを含め、全員に話を聞けば何かしらの矛盾が出るかと思い、シルヴァは全員一人ずつ、別室で話を聞いた。

 だが、結果としては同じ話を人数分聞いただけとなった。

 こうなると、起こったことは全て事実である可能性が高い。



「頭が痛くなる話だねぇ。ナイフ片手に襲ってくる。それも簡単に紙を落とす杜撰さ。更に襲撃の直前、せっかく被ったフードを上げて顔を晒す。そんな間抜けなやつが学園の寮に侵入し、襲撃の失敗を見極め自爆? その上、他に証拠が一切無い? 意味がわからないよ」


「自爆したんだよな? なら、肉片が飛び散る筈だろう。それは?」


「いえ。残念ながら、その場には布一つ残っていなかったと」


「はぁ!?」


「自爆に使った火薬は?」


「検証によると市販されているもののようで、出どころを調べるのはほぼ不可能だと」


「……なんっだそりゃ……。その上サラ嬢の印も原因が分からないんだろ?」


「えぇ……。偽物であれば、シルフォード公爵が黙っていないでしょう。しかし取り調べでは本物だと認めているようです」


 これほど冤罪である事があからさまな事件だというのに、王家が全力を尽くしても一切手がかりが出てこないというのは逆に不自然だった。そうすると、一つの仮説が浮かんでくる。

 シルヴァが悩んでいると、ゼルク、ゼリカの二人も神妙な顔で問いかける。


「おいシル坊。ここまでとなると……魔人が関わっている可能性が高いんじゃねーか?」


「確かにねぇ……。人の力でここまでの事が出来るとは到底思えないよ」


「やはりお二人もそう思われますか」


 シルヴァもその可能性を考えていた。伝承の通りならば、魔人は人とは比べ物にならない存在。そんなものが関わっているならば、こんな突飛な状況にも納得がいった。


「襲撃者は人間だったのか?」


「わかりません。兵士たちの話ではひげ面の中肉中背の男だったそうですがーー」


 言いながらチラリとクレアを見ると静かに頷く。


「もし魔人の仕業なら厄介だねぇ。下手すりゃあたし達の知らないところにまで浸食されているかもしれない」


「そもそも魔人の外見も分かりません。人と同じ姿なのかそれとも……」


「だーっ! くっそ! めんどくせぇ!!」


「とにかく、お二人もより一層の警戒をお願いします」


「あぁ。しかし、お前はどうすんだ?」


「私はもう少しこの件を調べます」


「そうか。だが、お前こそ気をつけろよ? その辺の雑魚にやられるとは思わんが、魔人なら話は別だ」


「えぇ。分かっています」



~~~~~~~~~~~~~



 もう一度溜息をつく。

 思いつく調査は全て行った。しかし魔人が関わっているとすれば、今後どうすればいいのか見当もつかなかった。

 

 ふと、部屋を見ると無造作に紙が落ちている。


(こんなところに紙? 見落としていたか?)


 そう思いつつも何の気無しに紙を拾う。だか、その紙には驚くべき事が書いてあった。


「ーーなっ!? サラが魔人と契約した……!?」


 そこには、昨日屋敷に魔人が現れ、三年後の命と引き換えに魔人と契約した、ということが書かれていた。そして、この紙を持ってきたのもその魔人だと。


「……間違いなくサラの字だ。それにサラの印とシルフィード当主の印まで。しかし、この紙を持ってきたのが魔人?

 っ!? まさかーー今、この場にいるのか!?」



 すぐに神剣に手をかける。しかし周囲からは何の反応もない。様子を窺いながら続きを読む。

 そこにはドゥーク侯爵の元にも、姿を消す魔人が現れ、他にも魔人がいる事をほのめかしたとある。そして、襲撃時の状況や、襲撃者の現在、そのほか現在分かっている情報を共有して欲しいと書かれている。


(どういうことだ? 彼女の元に魔人がいるなら、それも把握しているんじゃないのか? それとも魔人もそこまで万能ではない?)


 紙の最後には、協力する際の意思の示し方と注意点が書かれている。


『協力出来るのなら剣を収め、「協力する」と仰ってください。そうすれば、私の魔人が紙とペンをお渡しします。そこに詳細を記入してください。そして、絶対に彼を攻撃しないようお願いします。私たちが魔人と戦うために、彼の力は必ず必要となります』


 寝耳に水の情報に混乱する。だが、シルヴァには一つだけ確信出来たことがあった。

 それは、サラが命がけで立ち向かっているという事だ。


(サラは自らの命をかけて魔人を味方とした。ならば、私も国の為……いや、彼女の為にも覚悟を決めるべきだ)


 決心したシルヴァは神剣から手を放し、高らかに宣言する。


「魔人よ! 協力する! だからお前も私に力を貸してくれ!!」


 すると目の前に、紙とペンが現れた。そして、ゆっくりと彼に向かって飛んでくる。


「魔人よ。そこにいるのか?」


 問いかけるとペンと紙が床に落ち、「肯定」と書かれた紙が新たに現れた。


(成程。ではーー)


「先ほどの手紙にあった、サラとの契約は真実か!?」


 すると「肯定」と書かれた紙の裏側に魔人の言葉が書かれていた。


『私とサラ様の契約は全て真実だ。そして私にとって契約は絶対だ。私はこの国を害することは出来ないし、サラ様の命にも逆らえない。少なくとも3年間はお前たちの味方だ』


 緊張の糸を緩める事なく紙を読む。それでも、彼がすべきことは変わらない。


 シルヴァはすぐに把握している全てを書き始めた。

 それが彼女の力になると信じて。

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