最初の1手
「さて、今後の方針を決める前に、情報を整理しましょ?
まず、2日前の夜、クレアさんが寮で襲撃者に襲われた。だけど、これをドゥーク侯爵の兵が倒した」
「襲撃者が何者か、ですね。学園寮は警備も厳しい。生半可なことでは侵入できないでしょう。と、なるとかなりの手練れか若しくは魔人」
「例えば屋敷に来た魔人はどう? あいつの能力が姿を隠す能力だとしたら簡単に潜入出来ると思うよ。腕も立つようだったし」
「そうね。それなら侯爵の兵に取り押さえられた事も説明がつくわね」
「そもそも襲撃者は取り押さえられたのでしょうか? それとも殺されたのでしょうか? そしてその身柄はどうなったのでしょうか?」
「……分からないわね。一度、襲撃の時の状況を詳しく聞いた方が良いわ。出来ればクレアさんから直接聞きたいけれど、きっと退寮しているわよね? どこにいるのかしら……? 王城?」
「あ、クレアちゃんなら多分、王子に連れられて国最強の騎士のーーゼルクさんのところに行ってたと思うよ」
ゲームではそんな風に描かれていた。ゼルク、ゼリカの二人はゲームでも割と強いんだよな。他のキャラは基本、最初はそんなに強くないのにあの二人は序盤から無双できる。
その上、育った他キャラと比べてもHPの高さが断トツで、後半も壁役として頼りになるキャラだった。
勿論、二人に頼りすぎると後半詰むけれど。
「成程……双竜のお二人の元ですか。確かにそこなら国で一番安全でしょうね。しかし、そうなると気軽に会えませんね。と、するとやはり王子とコンタクトを取るのが一番でしょうか」
「そうね。ねぇ、玉木。シルヴァ様はこの件、どうお考えなのか知ってる?
あの時はああ言っておられたけど、流石に私が主犯とは思われていないわよね?」
「勿論。というかゲームではサラちゃんの事をかなり信頼しているようだったよ?
サラちゃんのことは『責務と感情を分けることの出来る人間』って評価してて、婚約破棄したサラちゃんがクレアちゃんを狙うなんてありえないって判断してた。
内面についても聡明で優しい女性だって言ってた」
「ホント!? えへへぇ……。聡明で優しい女性かぁ……」
サラちゃんが幸せそうにしている。ホントにシルヴァ王子の事が好きなのだろう。そう微笑ましく思っているとフローラさんがオレを見てドン引きしていた。何故だ? 嫌な顔をしているのならわかるが……
「ねぇ、玉木! それ、愛しい人とかそういうことは言ってた!?」
え? いや、そんな事は言ってなかった筈だ。というか恋愛感情はなさそうだったがーー
そうして考えるオレを見て、サラちゃんはがっかりしたような表情になる。
「そっかぁ……やっぱり脈無しかぁ……。でもまぁ、そこまで信頼してもらえてるなら今は充分かな」
そんなサラちゃんを見て溜息をつくフローラさん。あぁ、成程。いらん期待をさせたからドン引きされてたのね。こういう配慮がモテる男には必要なんだろうなぁ……
「お嬢様、話が逸れています。今はシルヴァ王子と連携出来るかどうかの話です」
「あっ、ごめんなさい。そうね。でも、そこまで信頼してもらえているなら何とかなるかもしれないわね」
「いえ、それは王子と連絡が取れればのお話です。昨日の話だと、ドゥークは警戒レベルを上げているでしょう。
そうなれば、こちらの息がかかった使者では連絡が難しくなるかもしれません。と、すると王子と連絡が取れる者はーー」
そこまで言ってオレを見てくるフローラさん。
「そうね。それだと、魔人召喚をしたことの説明が必要になるわね」
「そうです。しかし、魔人召喚など、そもそも行った時点で死刑もありえます。そう簡単に納得はしていただけないでしょう。
その上、この男を信用してもらう必要がある。難易度はかなり高いと思われます」
「難しいわね……。下手な説明をすれば折角の信頼もーー」
「なら、説明しなければいい」
「「え?」」
昨日あれだけ甘えさせてもらったんだ。その分はしっかり返そう。
「ドゥークのところにいた魔人のセリフから、もう既に国内に魔人が数体はいることが予想されるよね? なら、召喚しなくても魔人に会うことは出来る」
「どうやって?」
「昨日の魔人と同じだよ。魔人側から会いにくれば良い」
「……どういう意味ですか?」
フローラさんが早く結論を言え、とでも言いたいかのように聞いてくる。
頷いて続きを話す。
「オレがここにいるのは『聡明で優しい』サラちゃんの魂が欲しかったからだ。
けど、すぐには取り込めない。時間がかかる。なのにサラちゃんは冤罪をかけられ、下手をすれば処刑される。そんな事はオレにとって都合が悪い。
だから契約をした。『オレはグレイクス公国に危害を加えられない。更にサラちゃんはオレに何でも命令できる。その代わりに3年後、オレはサラちゃんの魂をいただく』ってね」
「成程。お嬢様はあくまで被害者と?」
「そう。これならサラちゃんは魔人召喚してないし、オレがサラちゃんの命令に従っていても不自然じゃない。更にこの国に害が無いことの保証になる」
「でも、それじゃあ玉木が……」
こんな事を言っているオレの心配をしてくれる。本当にこの子は優しい。だからこそ、力になりたい。
「構わないよ。どの道オレは殆どの人に認識されない。なら、敵意だって持たれようがない。というか、寧ろオレの目的がサラちゃんの魂を取ることだとか思わないんだね」
そう言うと、彼女は少し笑ってくれる。
「ここまで来て今更そんな事思わないわよ」
「そうですね。そのような事が出来る男なら、いい歳こいて初対面の女の子に甘えたりはしないでしょう」
「……フローラさん、オレへの敵意が無くなったのは良いけど、なんか遠慮まで無くなってない……?」
「おや、遠慮をしてほしいと? お嬢様だけでは飽き足らず、私にまで甘えたいのですか? どこまで情けない男なのか」
「グッ……ちくしょう……。どうせオレは情けない男ですよーだ……」
「プッ……ククク……」
そんなやりとりをしているとサラちゃんが噴き出して笑いだす。
「もう、二人ともこんな話をしてるときに笑わせないでよ」
「申し訳ありません。情けない男を見ているとつい、イライラを抑えきれなくなってしまって」
「それ謝ってないよね? 完全にオレのせいにしてるよね? 割と真面目な話をしたつもりだったんだけど?」
「いいから黙って話を進めなさいクソ魔人」
「黙って欲しいのか喋って欲しいのか」
「口から糞尿を垂れ流すなと言っているのです。まさかワザとですか? それとも罵倒をお望みですか? 豚と罵ってさしあげましょうか?」
「なんで汚い単語を丁寧に紡ぐの!?」
「クスクス……もう。ほら、いいから話を進めるわよ?」
こうして、まずは王子との情報共有を行うことが決まった。




