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主人公 玉木・隆之介1

 困惑する公爵令嬢。サラちゃんが質問する。


「何故そこまでしてくださるのですか?」


 何故、オレがこの子を助けるのか。当然、オレにも理由があった。


「打算的な話をすると元の世界に帰れる可能性があるからです。サラちゃんは今回の冤罪を晴らす為にオレを召喚したのでしょう? なら、それが晴らせなかった時、オレは帰れなくなるかもしれない」


 そう。元の世界に帰れないのは困るのだ。

 そして、大事な理由がもう一つ。


「それに、オレは元の世界でサラちゃんに感情移入していました。それこそ、サラちゃんグッズを買いまくろうと思うほどに」


「「……サラちゃんグッズ?」」


 ……余計な事を口走った。



~~~~~~~~~~~~~



 さて、そもそも何故こんな状況になったのか?

 まずは今日の1日を振り返ろう。






「ようっっっっやく終わったぁぁぁぁぁ!!!」


 この1年、かかりきりだったプロジェクトが遂に受注された。

 目の下に隈を作り、何度も資料を修正し、クライアントへの説明に行っては蹴られ、行っては蹴られ、を繰り返した日々。……今思い出しても泣きそうになる。


 しかし、その苦労も遂に報われた。


 さて、こうして区切りがついたのだ。小さな事で良いから自分にご褒美が欲しい。


「お、そうだ。アイツに声をかけるか」


 この1年、バタバタしていたからな。久しぶりに友達と呑みにでもいくか。






「……いや、ほんっとこの1年大変だったわ」


「タマキンお前、ずっと遊べなかったもんな。でも落ち着いてよかったじゃんか」


 彼はオレの高校時代のクラスメイト。友人Aだ。こいつはオレの事をタマキン (玉木)と呼んでくる。

 30過ぎの男がタマキン連呼すんなや。


「まぁな。もう少ししたらまた忙しくなるだろうけど。それまではゆっくりするわ」


「じゃあ今日は帰ったらすぐに寝るんか?」


「いや、今日は久々にゲームだ」


「ゲーム?」


「あぁ、前に話した事があるだろ? シミュレーションRPGで」


「前? あぁー……。そういやなんか言ってたな。ゲーム性が面白いんだったか?」


「そう。主人公の能力が状況によって変わるのよ。複数ルートがあるから攻略方法も色々あってさ」


「へぇ、複数ルートのあるシミュレーションRPGっていうと、『タクティクス〇ウガ』か?」


 意外と詳しいな。結構好きなのか?


「いや、『School Life』ってタイトルのゲーム」


「随分シンプルな名前だな。学園モノか? シミュレーションで学園? あ、でもそういえば『ファイアーエ○ブレム』も学園モノで出たな。しかも面白かった」


 こいつマジで詳しいのな。


「そうだな。でもこれ、本来は乙女ゲーム」


「乙女ゲーム?」


 固まる友人A。流石に予想外だったか。


「乙女ゲームっていうと、女子用のギャルゲ? お前、そういうの好きだったか?」


「いや、そうそうバカにしたもんじゃねーぞ? この作品はRPG部分が面白いって言われてる。だから寧ろ男性ファンが多いらしい」


「へぇ。でも、乙女ゲームでシミュレーションRPGなぁ……。どんなストーリー?」


「さぁ? よくわからん」


「は?」


 再び固まる友人A。ハマってるゲームのストーリーを知らないって言われればな。でもなぁ……


「このゲームはストーリーが微妙って評判でさ。貴族が通う学園にただ一人、平民の主人公が入学する。彼女が攻略キャラ達と恋愛していくんだ」


「王道だな」


 そう。ここまではいいのだ。


「だけど途中で、魔人とかいうのが世界征服を企んでいるのが判明。攻略キャラと共に魔人と戦うんだ」


「急に少年漫画だな。ギャルゲーだとそういうのもあるけど乙女ゲーだろ? 女子に需要あんのか?」


「さぁな。でもそのせいか、ストーリーは人気がないみたいでさ。サラっと見たけどあまり面白くなさそうだったから、ストーリーは全部スキップしてた」


 ストーリーがどうであれ、スキップすればメインは戦闘パートだけ。そして、面白いのはそこなのだ。


「それでシミュレーションRPGって言ってたのか」


「いや、でもホント面白いから今度やってみろって。ソフトも本体も貸すからさ」


「分かった分かった。また機会があったら借りるわ」


「それ絶対やらないやつじゃん! クソ! 次合う時は必ず魅力を伝えてやるからな!」



 …………



「ただいまー。おし、早速やるか」


 独り帰宅して、ゲームの電源を点ける。


「この面白さ、もっと広めたいなぁ。でも、確かに詳細を知らないと人に勧めづらいな」


 先ほどの会話を思い出す。

 ゲーム部分が面白いので是非プレイしてもらいたい。しかし、ざっくりしたあらすじしか説明できないのだ。


 話が面白くないにしても、どう面白くないかを語らなければ興味も持たれまい。今後の布教の為にも確認しておかなければ。



「仕方ない。ストーリー、きちんと見ておくか」


 早速ゲームを開始する。



==プロローグ===


 遥か昔、大戦によって数多の悲劇や絶望がまき散らされた。


 この時、人々の感情が魔力によって形を成し、魔人と呼ばれる者達が誕生した。


 負の感情によって生まれた魔人達は、それが生きがいと言わんばかりに人を謀り殺め、より多くの悲劇や絶望を生んでいった。


 だが、そんな世界を変えようと一人の英雄が立ち上がった。後の初代グレイクス国王である。


 彼は右手に神剣、左手に神鏡を持って魔族を討ち滅ぼし、グレイクス公国を立ち上げた。


 この物語はその500年後のお話である……


==========



 ふむ。最初から魔人の説明はあったのね。


 そもそも大戦の原因なんだよとか魔力ってなんだよとか気になるけど、今はとにかく話の確認だ。



==学園======


 ここは貴族の子女が通う、聖クレイス学園。


「ここが、貴族様が通う学校……」


 桜色の髪を大きなリボンで束ねた、見るからに気弱な少女。


 この学園は貴族の子女が貴族社会のルールを学ぶ、数少ない場である。

 しかし今年は、試験的に平民も通わせることとなった。


 そこで選ばれたのが彼女、クレアである。


「うぅ……。なんか視線を感じる……。同じ制服を着てる筈なのに皆さん堂々としてるし……。う、ううん! 私もこの学校の一員。頑張らなきゃ! ますば寮に荷物を置きに行こう! えぇっと、寮の場所は――」


「おや? 君は確か……」


「え? あっ!? 銀髪に碧眼、それに帯剣ってーーまさか、シルヴァ王子!?」


 クレアは驚きの声を上げる。だが、それも無理はない。


 彼は皇太子 シルヴァ・グレイクス。

 国1番の騎士に師事しており、剣の腕前も高い。更に3年前、神剣の使い手に選ばれた。その上、柔らかな微笑みは男女問わず人気を集める。

 彼は神剣に選ばれたことで英雄のように扱われており、その特徴は国王のそれよりも知られている。


「あぁ、初めまして。シルヴァ・グレイクスだ。君は、クレアさんだったかな?」


「えっ……!? あっ、し、失礼しました。シルヴァ皇太子殿下!」


 皇太子の口から自分の名前が出たことに驚く。だが、周囲からの怪訝な視線に気づき、慌てて頭を下げる。


「そんなに畏まらなくていいよ。学園では私と君は同じ立場。呼び方もシルヴァで良い」


「い、いえ、そんな事は……。その、私の名前をご存じなのですか?」


「勿論。平民がたった一人でこの学園に通う。しかも何百倍もの競争を勝ち抜いて。学園でもその噂でもちきりだ。まぁ、私も将来は国を背負う身だ。負けるつもりはないからね?」


「そんな、私が皇太子殿下と勝負なんて……。というか、やっぱり目立ってるんですね……」


 自分の噂でもちきりと聞き、恥ずかしそうに俯くクレア。その姿を微笑ましそうに笑いながらも、ポツリとこぼす。


「……野心家ではなさそうだね。親交を深めても問題ないかな?」


「え? あの、すみません。よく聞き取れなくて」


「あぁ、いや。何でもないよ。それよりその荷物を寮に置いてくるといい。寮まで案内しよう」


「えぇっ!? 皇太子殿下にそんなことをさせるなんてーー」


「言っただろう? ここでは皇太子じゃなくシルヴァ。荷物は私が持つ。さぁ、行こう」


「えっ!? ま、待ってください皇たーーシルヴァ様!」



==========



「これが最初の出会いかぁ」


 そういえばこんなプロローグだったな。

 しかしよく考えたらなんだこのクソデカリボン。目立ちたくないなら外しなよ……。


 王子もなんで学園内で帯剣してんだ? どこで何と戦うつもりだ。

 それに設定もチートかよ。謙虚で国一番の騎士の弟子で神剣に選ばれてイケメンで優しくて? 夢盛りすぎだろ。そら人気も出るわ。


 ……ギャルゲの攻略キャラも女子から見たら同じなんだろうな。なんか虚しくなってくる。


「まぁいい。続き続きっと」


 気を取り直してストーリーを読み進める。だが、すぐに後悔する事になる。

 知ってしまうからだ。オレの主となる、悪役令嬢・サラちゃんと、毒舌メイド・フローラさんの事を。

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