-導入- ちょっとした出会い
お初にお目にかかります。
初めての小説でどこまで描けるか、
また、しっかりとまとめ上げられるのかわかりませんが、
少しずつ更新しますので、よろしくお願いします。
いつもは川の中に魚が泳いでいたりする。
夏の風が吹き抜ける川辺の土手に、仰向けに寝ている青年が一人。
大正時代によくある学生の風貌をして、学帽を枕代わりにしているようだ。
たぶん、いやたぶん奴がこの物語の主人公であることは間違いないのであろう。
奴の名は・・・「銀二」
夕刻を過ぎ、風が冷たくなる頃に、ようやく目が覚めたようだ。
大きなあくびを一つして、寝ぼけた目を擦り、体を起こした。
「・・・寒い」
呟くように、初夏の寒さにぼやきながら、帰宅の準備を始めた。
川辺を上がり、商店街へと足を運ぶ。
夕刻時の商店街は、帰宅際のサラリーマンで溢れかえっていた。
今日はどこのお店で飲み明かそうか。そんな話で盛り上がるサラリーマン。
「今日の稼ぎは皆いいみたいだな。」
お目当ては、お洒落なビジネススーツを着こなす、いかにも偉そうな役人だ。
奴らはたんまり入ったであろう銭を、これから飲み屋に貯蓄しに行くだろう。
どいつもこいつも金と酒の匂いを漂わせていた。
ふと目の前を、一人の老人が通りかかった。
一目で紳士とわかる着こなし、整った髪と髭、高そうな杖を手に、
目の前にある、賑わった飲み処へと入っていった。
「・・・今日はご馳走になりますね。」
そう呟きながら、彼の後を追い飲み処の暖簾を潜った。
お店はこの時間から早くも客で埋め尽くされていた。
丁度先に入った老人の右後ろの席が空いていて、我先にと席を陣取った。
老人は他の老人と待ち合わせしていたみたいだ。
「遅れてすまない。今日は道が混んでいてな。」
「そりゃそうさ。皆懐が肥えて肥えて、どこかで使わなきゃもったいないのだから。」
「我らも変わらんじゃろうて。」
「・・・」
四人の老人は談笑を後に、飲み物を注文し始めた。
自身の目に狂いはなく、四人の老人は何かの重役だろう。
それぞれ着こなしも、持ち物も高貴なものが見て取れる。
何故にこんな場所に集まっているんだろうか。
疑念を抱きつつも、獲物を探すように観察を始めた。
高級そうな指輪、胸のバッチ、杖、どれを取っても晩御飯にお釣りが返ってきそうだ。
ふとここで、先の疑念を解決させるものが目に入った。
一人の老人がとても大事そうに膝にカバンを抱えていた。
「あーなるほど。賄賂は足がつかないようにか。」
最近は行政が厳しく取り締まっていると聞いている。
この間も旅館で受け渡した重鎮が捕まったとかなんとか。
こんなお店に集まる理由が分かった気がした。
そして獲物は一つに絞られた。
無口な老人が抱える大きながま口の黒カバン。
「お釣りどころかひと月は遊べるなこりゃ」
笑みが口から零れ落ちた。
「それで、持ってきているんだろうな。」
高級な指輪をした老人が語りかけた。
「・・・ここに。」
カバンをちらりと見せつつ無口な老人が呟く。
「寝ておるのか。」
「・・・いえ。」
「ふむ。・・・死んでおるのか。」
「・・・いえ。」
「しずかじゃのう。」
無口な老人の悪口でも言うように、悪態をついた。
「お待たせしましたー。」
店娘が元気よく飲み物を運んできた。
「まぁよい、まずは一口つけてからじゃの。」
店娘が手際よく、飲み物を配り始めると、後ろの席の青年が勢いよく立った。
「勘定ー!」
水しぶきならぬ酒しぶきが老人たちへ襲い掛かった。
勢いのついた椅子が、店娘に当たったのだ。
「きゃっ!?」
短い悲鳴は遅く、老人は酒まみれになった。
「何をしておるか!」
指輪の老人のけたたましい怒鳴り声が響くと共に、場内は一瞬静まりかえった。
「申し訳ありません!!」
店娘の謝罪と共に場内はまた、ざわめきを取り戻し、
怒り狂う老人を慰めるよう、周りの老人がなだめ始めた。
「いやー、こりゃーすみません。」
青年がこちらに気づいたのか、謝罪を申し出た。
「娘さんお怪我はありませんか。殿方の皆さまもお怪我はありませんか。」
「何、多少酒臭ささが増したようじゃ。」
「貴様!わしの服がいかほどの物かっ」
「そう慌てなさるな。少々手狭な場所じゃ。仕方なかろうて。」
「申し訳ありません。殿方の懐の広さ、痛みいります。」
「よい。娘さん布を何枚かいただけますかな。」
「はっはい。ただいまっ!!」
「落ち着いてのう」
「ありがとうございます!!」
店娘は小走りで狭い店を厨房へと急いだ。
「青年よ。周りを見る力を養ったほうが良いな。」
「心よりお詫びいたします。そして感謝いたします。」
そう言うと、青年は深々と頭を下げた。
「お待たせいたしました!!」
店娘が大量の手拭きを抱え戻ってきた。
小言を言い続ける老人に布を渡しつつ、再度青年に目をやった。
しかし、そこに青年はいなかった。
「この騒ぎに起きてはおらんのか。」
指輪の老人が渋い顔をしながら、濡れた場所に布を当てて言った。
「・・・いえ」
無口目の老人がカバンに目を移した。
「・・・そんな」
無口な老人の膝の上には、大きながま口の緑カバンが口を開いていた。
「・・・いない」
冷や汗をたらしながら、呟いた。
「いやー今日は何を食べようかなー」
浮足だちながら青年は口にした。黒いカバンを抱えながら。
「とりあえず中身を確認しますか。」
細い路地裏を抜けた先には、夕刻とは一転して薄暗い川辺が目の前に広がった。
初夏の寒さを再度感じつつも、少し先の橋下に身を隠すように急いだ。
「では、良き出会いに感謝を。」
橋下の暗がりで、がま口を開けた。
中から光が漏れ出てきた。金でも引き当てたかと一瞬思った。
直後、聞こえた罵声までは。
「揺らすんじゃなーーーい!!!」
頬を殴るように小さな妖精、いや少女が飛び出してきた。
「ったーーーーー!!」
鈍い痛みが頬を熱くすると同時に、何が起きたのか理解ができなかった。
カバンを再度みるとそこには、サラサラな黒髪に、和服をきたお人形、
いや、鬼のような形相の少女がこちらを見上げていた。
「優しく抱えなさいって言ったではないか!まったくこれだから老人は足腰悪くて・・・」
「な・・・何だこりゃ!?」
「あら、あなた・・・どちら様?」
カバンの少女は手のひらに乗るほどに小さく、そしてカバンの中は物が散らばり荒れてはいたが、
寝室のように家具や照明が整えられていた。
「誰なのかしら。もしかして新たな付き人?だったら・・・」
・・・そっとカバンの口を締めた。
お読みくださりありがとうございます。
今後、彼女と銀二の物語が始まります。
まずは通常世界をしばしお楽しみください。