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黒煙の暗殺者~日本政府による異界侵攻奇譚~  作者: 透明度の高いホルモン焼き
さあ、戦おうか~Let us fight for our lives~
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殺戮の銃声が死を鳴らす

 明朝。

日の光が地平線から顔を出して眩く空を照らし始める。肌寒い空気が徐々に温まってくるのを感じた。朝露をまとった草木は風に煽られて静かに揺れ動いている。そんな中、俺は一晩中寝ずに起きていた。俺が一度寝てしまったら絶対に朝に間に合わない、これだけは確信していたからだ。それに眠らない方が俺にとっては調子が良い。俺は夜明けを迎えるまで、ずっと集落の外で独り門番のように仁王立ちで陣取っていた。


「さて………ようやくお出ましか」


 俺は眼前に彼らの存在を捉えた。鎧を着こんだ騎士どもがぞろぞろと現れる。彼らもまた俺の存在に気付いて、そして俺を取り囲むように動き始めた。人数はざっと30か。剣に槍、それからクロスボウのような装備をしている騎士もいる。クロスボウならシングルショットの銃を使うよりも効果的だろう。中近距離にも対応。装填も速い。銃弾のように貫通しないから相手を生きたまま捕らえることだってできる。なるほど、流石は騎士だけあって考え抜かれているようだ。

 奥の方にはこれ見よがしに巨大なドラゴンが待ち構えている。あれが噂の“火竜”か。こうして実物をお目にかかるのは初めてだ。先遣隊の資料で閲覧した時と違って迫力がある。

外見は西洋のドラゴンに似ている。巨大な胴体に長い首、そして背中に生えた双対の大きな翼。前脚と翼が一体化していないからワイバーンではなくドレイクよりだろう。あの大きな翼で空でも飛ぶのだろうか、想像も出来ない。全身を覆う焦げ茶色の鱗は光沢がある。見るからに硬そうな鱗だが、果たしてこのドラゴンはどれほど強いのか。俺はそれが気になって仕方がなかった。

 さて、火竜の隣に鎮座する男。一際目立つ白銀の鎧を身にまとっている。恐らく奴がドラーヴァという男なのだろう。


「これは一体どういうことだね?」


男は被っている兜を外して顔を見せながら近寄って来た。少し離れた位置で立ち止まり、俺の真正面で見定めるようにじろじろと見てくる。


「黒い髪の男とは………貴様、少なくともこの国の只人ではないな?」


俺を見下すように顎を上げながら睨みつけてくるドラーヴァ。何故だろう、奴の話し方が激しく癇に障る。顔も決して整っているとは言えない。乱れた赤髪に無精ひげを生やしている。俺は不快に感じながらも、それを表情に出さないようにした。


「誰かは知らぬがここから立ち去れ。我らは仕事をしに来たのだ」


男は手で追い払うような仕草をして、周囲の騎士どもに合図をする。俺をここから摘まみ出すつもりなのだろう。だがそんなことはさせない。俺は先手を取ることにした。


「あんたがドラーヴァ隊長って奴なのか?」


俺は大声を上げて尋ねた。威嚇するに語気を鋭くして叫ぶ。俺の声に怯んだのか、迫って来た騎士どもの歩みが止まる。


「いかにも。我こそタウル・ゼムスの守護を任されたサジェルサス・タ王下騎士団の第2部隊が隊長、ドラーヴァであるぞ」


いちいち名乗りが長い、自分の立場を相当誇りに思ってるようだ。俺は面倒と思う気持ちを抑え込んで冷静に分析に入った。むかつく男だが、実力は本物なのだろう。今この瞬間に俺が攻撃のモーションに入ったとしても、それに対する防御態勢を瞬時に取れるだけの反応速度と身体能力を持っている。長年の傭兵としての勘が俺に告げていた。

俺はドラーヴァの注意を引く為に例の真実を教えてやることにした。


「だったら分かるだろ?数日前にあんたの仲間が死んだはずだ。その犯人こそ俺だ。俺こそが殺した張本人なんだよ」


俺はそう言って、ドラーヴァを挑発するように奪った紋章を天高く掲げた。ここで打ち明けることで連中の注意を集落から俺に向けることができるだろう。案の定、騎士どもは同様の色を見せ始めた。ざわざわと騒ぎ始め、中にはさっそく俺に剣を構える者も出てきた。

 しかしドラーヴァ本人は涼しげな表情を変えなかった。


「そうか貴様か………貴様が我が同胞を手にかけたのか………」


「あぁそうだ。急に俺の前に現れて剣を構えて来たからな。()られる前に殺っちまったよ」


俺はさらに煽り文句を重ねる。ドラーヴァのすぐ側にいた騎士が今にも俺に斬りかかろうと身構えていた。だがドラーヴァはそれを制止した。予想外の行動にその騎士は驚きの表情を見せる。


「殺人は重罪だ。それを理解した上での告白と見て良いか?」


ドラーヴァの声は落ち着いていた。この状況でなお冷静さを失っていない。俺は挑発を続けた。


「あぁ理解しているさ。それで?俺をどうするんだ?仲間殺しの犯人としてここで逮捕する気か?」


「いや、そんなことはしない」


ドラーヴァは首を横に振って言った。即答だった。場が静まり返り、騎士どもは全員ドラーヴァの方を見つめる。


「話を聞く限り、先に刃を向けたのは我の部下のようだ。例え異邦人だからと言って何の理由も無く危害を加えるような真似は許されない。どうやら我の指導不足だったようだ。隊長として我が代わりに詫びを申し上げよう………我の部下が無礼を働いた、本当に申し訳ない」


ドラーヴァはその場に座り込んで跪いた。そして心からの謝罪を述べている。俺は戸惑った。どうやらこの男、思っていたような人物ではないようだ。俺は思わず口がどもってしまう。


「い、いや………別に良い」


「殺人については不問とする。むしろ我が貴様に何か償いの施しをせねばなるまい………」


そう言いながらドラーヴァはゆっくりと立ち上がる。そして何を思いついたのか、奴は妙案を思いついたと言わんばかりの表情を浮かべた。


「そうだ!これから我らはそこの獣人どもの住処に攻め入る。そこで捕えた獣人畜生を売って、手に入れた金品を貴様にすべてくれてやろう。詫びの品としては足りぬかもしれないが今はそれで我慢してくれ。他に要望があれば後日受け賜わろう」


「………は?」


俺は思わず声を漏らした。まさかの提案にかなり面食らってしまった。


「どうだ?悪い提案ではなかろう?ほれ、そこを退きなさい」


一切の悪が無い、まじりっけの無い純粋な笑みを浮かべるドラーヴァ。俺は奴の言葉に何も返事をせずに静かに銃を構えた。




 そして天に銃を構えて発砲した。その爆音が周囲に響き渡る。


「………それは何の真似だね?」


ドラーヴァが打って変わって冷酷な気配を見せる。隊長としての威厳が突如として表れ始めた。


「見て分からねぇほどあんたの目は節穴なのか?俺がこれから始める行動の意思を見せてやったのさ」


「まさか貴様、獣人どもを守る為に我らに楯突くのか?なぜ獣人ごときに命を懸けるような真似をするのか………なんとも愚かしい男だ」


ドラーヴァは心底呆れて深い溜め息を吐く。周囲の騎士どもは笑い始めた。

まぁそうだろうな。今の俺は連中からしてみれば馬鹿で間抜けな男に見えるだろう。そんな奴らを前にして、俺は口を開いた。静かに、けれどはっきりとした声。奴らの耳に俺の声がしっかり届くように言い放った。


「―――――家に泊めてもらった」


「何?」


ドラーヴァが眉を動かして反応する。


「見ず知らずの俺を家に泊めてくれた。飯を食わせてくれた、つうか俺も作った。仕事の手伝いをさせてくれた。(いとま)に色んな話を聞かせてくれた。村の成り立ちとか、好きな食べ物とか、好きな女のタイプとか。ガキどもからは秘密基地の場所を教えてもらった。そして俺と一緒に遊んでくれた。それから………」


俺はトゥリアから貰った御守りを手に取って出した。それを見つめていたら思わず笑みが零れる。こんな時に笑うなんて俺もどうかしている。俺は再び御守りを懐に仕舞った。


「それから………可愛い女の子からお手製のペンダントを貰った」


ドラーヴァは困惑した表情を見せる。俺の言っている意味が理解できないのか?いや、理解できるからこそ分からないんだ。奴らにとって獣人はただの生きた道具。そんな獣人の肩を持つ俺の言動に一切の共感が出来ないんだ。


「それだけか?それだけの理由で獣人ごときの為に命を懸けて戦うと言うのか?」


「《《それだけ》》で命を懸けるには十分過ぎる理由になるだろ?」


俺は言い返してやった。これが俺の答えだ。別に理解してもらうつもりは無い。

 これが俺の、戦う理由だ。


「ふん…貴様の考えていることはまるで理解できん」


 ドラーヴァは呆れたように首を横に振った。心から俺を見下している様子だ。表情も明らかに侮蔑を露わにしている。俺はその反応を見てあざけ笑った。


「理解してくれなくて結構だ。お前らはさっさと立ち去れば良い。俺に殺されたくなければな」


「それはこちらの台詞だ。貴様こそ我の言葉に素直に従うなら見逃してやるぞ」


ドラーヴァは高らかに宣言する。どうやら俺のせっかくの好意にも首を縦に振らないようだ。奴は俺が傲慢で世間知らずな馬鹿だと思っているらしい。鼻で笑っていやがる。確かに俺はお前を知らない、だが俺の方が強いことだけは知っている。


「ところで………お前ら」


俺はドラーヴァだけでなく周囲の騎士どもにも聴こえるように大声を出した。


「好きな殺され方はあるか?」


「………なんだと?」


ドラーヴァは怪訝な表情を浮かべる。俺は不敵な笑みを浮かべた。


「俺はお前ら全員を生きて帰すつもりはねぇんだよ。だから希望の死に方があるなら叶えてやるって言ってんだ。さぁお前ら、どんな風に殺されたい?」


俺だって鬼じゃあない。死に際には出来るだけ本人の想いを尊重してやりたいさ。特に今回に限ってはこいつら騎士どもは無駄死にする運命にある。誰にだって家族や友人の大切な存在がいるものだ。せめて遺族には綺麗な死に顔を残しておきたいだろう。


「戯言もそれまでにしておけ!諸君、この心得違いの不届き者を討てぇ!!!」


いよいよ俺の言動に我慢ならなくなったようだ。

ドラーヴァの合図と共に騎士どもが一斉に臨戦態勢に入った。流石は訓練された騎士だ。ただ腕っ節のある荒くれ者とは訳が違う。剣を抜き、槍を構え、クロスボウを俺に向ける。騎士どもは俺を中心にして輪のように陣形を組む。俺は完全に包囲されていた。普通に考えてこれは絶対絶命の危機的状況なのだろう。

―――――だが、相手が悪かったな。お前らが対峙しているのはかつて“殺戮兵器”と呼ばれた男だ。もはやお前らに死以外の道は無い。


 なぜ俺が“殺戮兵器”なんて異名で恐れられていたか。普通に考えてただの傭兵をここまで例外扱いすることは無いだろう。類稀なる明晰な頭脳?人並み外れた運動神経?

もちろんそれもあるだろう。だがこれらはただの優れた才能に過ぎない。俺は忌み嫌う牙王一族の血を引き継ぐ男だ。


「悪ぃな、こっから先は俺の出番ターンだ」


 俺はアサルトライフルを即座に構える。それと同時に俺に向けて放たれた矢をノールックでかわした。身体を前方に傾けて、左脚を上げて、首を右に曲げる。これらのわずかな動作で4本の矢を躱した。続いて俺は右足を軸にその場で一回転する。360度、全方角を視認した俺は敵の位置を把握した。特にクロスボウを所持している奴らの数と、その距離。それから射出までの一連の動作にかかる時間。そして矢の速度。これらの情報を一気に脳内で整理して分析を終えた。ここまで2秒。

さらに俺は首を左後ろに少し傾け、右脚を下げて身体の向きを変える。追加の5本の矢を余裕で躱すことができた。

 間髪入れずに俺は攻撃に移る。敵に付け入る隙を与えたりはしない。アサルトライフルを火竜のいる方角へ向けて引き金を引いた。異世界の人間にとって恐らく未体験の連続射撃を味わうことになるだろう。


「ぐがががあああァァァァァァ!!!」


「ゔああああァァァァァァ!!!」


「ごパァっっ!!!」


アサルトライフルに巻き込まれる騎士どもが各々愉快な悲鳴を上げる。俺の目的は火竜に傷付くかどうかなんだが、巻き添えで死んでくれるならありがたい。


「………なんだよ。これだけ撃って効かねぇのか」


火竜の胴体を狙って撃っているのだが、怯む様子だけ見せて倒れる気配が無い。それどころかアサルトライフルが通用していない。貫通はおろか弾かれてしまっていた。俺は火竜に射撃が通じないことを確認するとすぐに止めた。あまりに弾がもったいない。アサルトライフルを地面に落として今度は両手に小銃を構える。


「はあああぁぁぁあ!!!」


「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


騎士どもが思い思いに叫びながら俺に迫って来る。

剣が振り下ろされる。

剣が薙ぎ払われる。

槍が勢い良く刺突される。

矢が俺を確実に狙って放たれる。


 だが騎士どもの攻撃は何ひとつ俺に当たらなかった。次の瞬間、俺は宙に舞っていた。右足で地面を蹴り上げて身体を横回転させる。腰と肩を捻じるようにして跳んだ俺の身体は地面と平行になった。

その刹那、俺の左頬の位置を矢がすり抜ける。

俺の左膝の位置を矢がすり抜ける。

俺の腰の位置を矢がすり抜ける。

俺の右脇の位置を、振り下ろされた剣がすり抜ける。

俺の身体と水平に、薙ぎ払われた剣がすり抜ける。

俺の背中の位置を、槍がすり抜ける。

すべての攻撃が無力と化した。空中の滞在時間は1秒に満たない。そしてその刹那に俺は反撃の銃声を鳴らした。俺に攻撃を仕掛けてきた騎士どもは自分の攻撃が無意味に終わったことを知る間もなく死んでいく。


 そう、俺が“兵器”たる所以ゆえん。それは未来予知に匹敵するほどの完璧な精度で思考される比類なき“予測”。周囲の状況と敵の動きを認識し、複数の未来から起こりうる確定事項を脳内で瞬時に導き出す。

それが俺の未来予測能力だ。

俺は元傭兵だ。そんな仕事をしていると先の先まで予測しなくてはならない状況が多発する。戦場とは刻一刻を争うほど目まぐるしく変化するものだ。そんな状況下でミスは決して許されない。例えば普通の職業でミスをしたらどうなるだろうか。叱られる?減給される?降格される?あるいは地方に左遷なんてのもあるかもしれない。だが傭兵という職業は仕事のミス=死を意味する。作戦中に何か1つでもミスがあれば己の命はそこで絶えるのだ。

そんな過酷な環境下で俺の未来予測能力は研ぎ澄まされていった。もはや俺に死角は無い。不意打ちすらも俺にとって未来で予測可能な事象なのだ。


 俺は着地と同時に両手を銃からダガーナイフへ持ち替えた。そして両手を振り上げて両サイドに投げる。勢い良く放たれたナイフが宙を舞い、繋がれたワイヤーが空中で弛んでいる。まるで鳥が飛び立つ際の羽ばたくような仕草に見えるだろう。

俺は両足で着地する際に膝を曲げて屈み、上体を落とした。投げ飛ばしたナイフが最も遠くの位置まで飛んだ瞬間を見計らう。そして立ち上がる勢いと共にワイヤーを掴んだ両手を一気に手前に引いた。


「な゛あ゛ぁ!」


ピンと張ったワイヤーは勢い良く引っ張られ、左右にいた騎士どもに巻きつく。俺はワイヤーの先を確認した。右は槍持ちの首に、左は剣持ちの両手首にワイヤーが巻きついている。俺はすぐさま左の方のワイヤーを引っ張り、剣持ちを引き寄せた。強引に引っ張ったことで剣持ちは体勢を崩してしまう。同時に俺は跳び上がり、引き寄せた剣持ちの頭に左手を着いた。そのまま左手を軸にして勢い良く身体を持ち上げる。

 俺の身体は高く跳び上がっていた。俺は逆立ちの姿勢で宙に浮いている。すると俺がいた地点、つまり剣持ちが今いる場所を灼熱の炎が襲った。


「ぐあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


剣持ちが炎に包まれて焼かれる。俺はダガーナイフが焼かれる前にワイヤーを引っ張って回収したが、剣持ちの肉体は一瞬にして跡形もなく燃え尽きてしまった。

 火竜だ。俺にアサルトライフルで撃たれてご機嫌を損ねたようだ。火竜は誰の命令でもなく己の怒りのまま口を大きく開き、まるで火炎放射器のごとく炎を吐いた。俺の足下に広がる炎は青い輝きで恐ろしいほどの熱気を放った。


「青緑色は単に温度が高いのか、それとも炎色反応か………」


色温度で考えるなら、この炎の温度は1万度を超えている。炎色反応なら炭素系のガスが混じっているかもしれない。だとすれば周囲の息を吸い込むのは不味いだろう。

俺は息を止めて炎を眺めながらも周囲の警戒を続けた。騎士どもは仲間が火竜に焼かれた瞬間を見ていてなお、俺へと攻撃しようとしている。よほどの精鋭たちなのだろう、覚悟が違う。

 炎が消えた。俺は着地の体勢を取った。敵の攻撃はこんな状況でも休まることがない。前方と後方、クロスボウから放たれた矢が飛んできた。俺はすぐさま身体を空中で捻じった。そして左手のダガーナイフを銃に持ち替えて、前方に向けて発砲する。迫り来る矢が銃弾と衝突して弾けた。後方から来る矢はかかとで蹴り飛ばして軌道をずらした。


「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


今度は槍持ちの騎士が俺に向けて槍を突き上げてくる。俺は身体を捻った勢いで左腕を振り降ろし、槍先を銃の側面で受け流した。その状態から槍持ちの頭を蹴飛ばす。

俺はこの回転を利用して右手に持っているワイヤーを引っ張った。これによって首にワイヤーが巻きついてる方の槍持ちが引き寄せられて、頭を蹴られて体勢を崩した槍持ちと2人仲良くぶつかり合う。その隙に右手をワイヤーから銃に持ち替えて槍持ちどもの首に銃を突きつけた。


「Bye」


俺はあえて英語で呟くと両手の銃の引き金を引いた。それぞれの首に風穴ができる。俺は崩れ落ちる2人を踏み台にして、ここでようやく地面に着地した。

 瞬時に周囲の状況を再度確認する。序盤のアサルトライフルと火竜の炎で、前方にいた多数の騎士どもは死んだ。左右の敵も始末済み。残りはドラーヴァを除いて後方に散らばる9人。

顔を前に向けると前方に3人の剣持ちの騎士どもがいる。後方からも気配を感じた。奴らは俺を囲んで挟み撃ちにするつもりなのだろう。俺は両手の銃を胸の位置で構えて同時に発砲した。銃弾の軌道はそれぞれ斜め前に進み、軌道上で衝突する。弾けた銃弾が衝撃を成して3人を襲った。


「うあぁ!!!」


俺は叫び声を上げる剣持ちどもを睨みつけながら、右手を銃からダガーナイフに持ち替えて後方に投げた。クロスボウ持ち2人、内1人の兜の隙間にナイフが突き刺さる。予想も出来なかっただろう。まさか数cmの隙間を通り抜けて眼球を貫いてくるとは夢にも思うまい。俺は隙を見てもう1人に銃弾を撃ち込んで2人を仕留めた。この間、俺は前方から視線を逸らしてはいない。左手をナイフに持ち替えて走り出し、剣持ち3人の首を次々と切り裂いた。俺の勢いは止まらない。すぐさま右手で銃を構えて残った騎士どもを射殺した。




 俺は時計を見て、どれだけの時間が経過したか確認する。アサルトライフルで撃ち始めてから騎士ども全員を殲滅するまでの時間。どうやら戦闘開始から35秒が経過していたようだ。


「はぁ、流石の俺も現役の頃よりなまってるか」


この程度の敵、傭兵時代なら20秒も要らなかった。


「さて………おい!ドラーヴァ」


俺は茫然と立ち尽くすドラーヴァに声をかけた。しかし奴は目の前で起こった出来事に対して理解が追いついていないようで、俺の声は届いていない。まぁ1分足らずで味方が全滅したのだ、無理もないだろう。俺はドラーヴァを尻目に火竜を睨みつけた。どうやら火竜も俺を睨みつけていた。完全に敵意を示している。口から熱波が出ていて、周囲の空間が歪んで見えた。猛獣が獲物を前にして構えているような、そんな気迫。俺を殺したくて仕方がないのだろう。俺は銃を構えながら火竜との距離を詰めて行った。


「な、な、なにが―――――」


ドラーヴァがようやく現実を受け入れ始めたのか、か細く弱弱しい声を発した。こんな様子ではあるがかつての大戦で活躍した強者らしい。確か村主の話によると炎の魔法を扱うそうだが………。俺は魔法なんて見たことないし、当然予測なんてしたこともない。そして火竜との戦闘も予測したことが無い。正直、この2人を同時に相手にするのは面倒だった。


「10秒かな」


俺は早期決着に持ち込むことにした。


 火竜と戦いは一瞬で幕を閉じた。

俺は地面を力強く蹴り上げた。爆発的な推進力を伴って一気に火竜との距離を詰める。走り出した瞬間からトップスピードの俺の動きは、常人では目で追うことは不可能だ。ドラーヴァにしてみれば視界から急に俺の姿が消えたように映るだろう。

俺は低姿勢のまま走りながら両手に小銃を構えた。そして悠揚迫らぬ不動の態度で待ち受ける火竜に照準を合わせて狙い撃つ。頭部、眼球、鼻先、口内、喉頭、翼、前脚、腹部。それぞれに1発ずつ撃ち込んだ。しかし火竜の堅牢な肉体はやはり強く、鱗は言わずもがな、鱗の無い腹部でも頑丈な皮膚が盾となって弾痕すら残さない。眼球ですら銃弾を弾いた。


「ちっ………」


俺は露骨に舌打ちをした。頭部もダメ、眼球もダメ、鼻先も喉頭も翼も前脚も腹部も………。だが、一箇所だけ変化を見せた部位があった。口内だ。別に直接利いていた訳ではない。ただ一瞬だけ嫌がる素振りを見せたのだ。


 俺はここで1つの仮説を立ててみた。“口から炎を吐く”、この行為は本来生物にはあるまじき行為だ。火を恐れるのが生物の本能であり、それを体内で生成するのはまさに幻想の領域だ。しかし現実としてそれが起こっているのなら何かしらの理屈があるのだろう。少なくとも体内に可燃性の物質が存在しているのは確かだ。そうでなければ炎を吐くことは出来ない。火炎とは物体ではなく現象なのだから。

そう考えると疑問が生じる。まさか喉の奥から炎を吐いている訳ではあるまい。そんなことをすればたちまち内臓は焼け爛れてしまう。例えば口内に可燃性の物質を噴射する為の管があって、それが化学反応を起こして火炎放射になるしたらどうだ?口から炎を吐くなら当然として舌や歯は炎に耐えられるほど強靭なはずだ。しかしそれは内臓のどこまで続いてる?胃は?肺は?火竜の炎は騎士を一瞬で焼き尽くせるくらいには高温だ。そんな炎を身体の内側まで防護できるとしたら、今度は食物の消化に差し支える。

 であれば―――――。


 俺は火竜の左側面に向かって走った。火竜はそんな俺を仕留めんとばかりに咆哮を上げる。翼を大きく動かして突風を発生させる。と同時に、再び炎を吐きやがった。風で煽られる中、炎は勢いを増して俺に迫ってくる。

俺は炎を躱す為に身体を思いっ切り右に傾けた。地面とほぼ平行になるくらい傾けて、その体勢を維持したまま駆け抜ける。突風によって炎の勢いは増したが、幸いにもその風の影響で炎は地面まで届かなかった。だがそれでも熱い。熱波だけでも俺の左腕が一気に火傷した。表皮を焦がした程度ではあるが、やはり奴の火炎放射は脅威だ。

 だが、今の一瞬で俺はすべてを理解した。走り続けながら火竜に接近したことで、炎を吐く瞬間の口内を見ることが出来たのだ。俺は炎の切れ目を見計らい、右腕で地面を叩きつけて上体を持ち上げる。そのまま右手の銃をダガーナイフを持ち替えて火竜に向かって投げつけた。ワイヤーは火竜の首元に綺麗に巻き付いた。俺はその状態で弧を描くように外側を走り抜ける。火竜はワイヤーを外そうと、前脚を上げてその巨体を大きく持ち上げた。

好機。タイミングを計って跳び上がった。遠心力を利用することで俺の身体は宙に浮く。空中に戦場を移した俺はすぐさま火竜に銃弾を放った。火竜は俺に頭上を取られたのがそんなに嫌だったのか、ついに身を大きくよじって暴れ始めた。顔を俺の方に向けて口を大きく開き、再び炎を吐こうとしている。空中で逃げ場を失った俺に狙いを定めた。


「―――――やっと見つけたぜ、お前の弱点を」


俺は火竜に対して不敵な笑みを見せてやった。

 俺の仮説。口内に可燃性の物質を出す器官があるのなら、その器官そのものは燃焼反応に弱いのではないか?というものだった。火竜が口から炎を出す瞬間、口の周りが炎に触れていないことが確認できた。発火は口内で行われて、そのまま体外に放射される。つまり炎を吐いていると言うよりも、炎をまとった物質を吐いているという訳だ。要領はライターとスプレーで作れる即席火炎放射器に似ている。可燃性のガスに発火作用のある液体を同時に噴出させて炎を生み出しているのだ。ドラゴンの火炎放射の理屈がこれで解明できた。

 だったらその器官をぶっ壊して体内に炎を閉じ込めてしまえば良いじゃねえか。俺は懐からあるものを取り出した。それは手榴弾しゅりゅうだん。俺は自由落下しながら手榴弾の安全装置を外して、大きく開いた火竜の口に向かって投げつけた。手榴弾は見事に火竜の口内へと吸い込まれていく。いよいよ炎が吐かれる瞬間、そのタイミングに合わせて俺は足を振り上げる。今まさに炎を吐かんとする火竜の下顎を力を込めて蹴り上げた。


「じゃあな、蜥蜴擬き」


俺は即座に地面に向かってナイフを投げた。ナイフが突き刺さったのを確認して、そのままワイヤーを引っ張る。地面に激突する勢いで俺の身体は落下した。

瞬間、火竜の身体が大きく跳ねた。首と腹の境目付近がわずかに膨張する。口の中で爆発が起きたのだ。内臓を滅茶苦茶にして、さらに自分の炎で身を焼く。

やはりしょせんは生物だ。どれだけ鎧のような硬い外皮と鱗で覆われていようとも身体の内側はそうもいかない。火竜の目から火が噴き出して、口からも爆発の火煙が漏れ出ている。

俺は受け身を取って無事に地面に着地した。それと同時に火竜が倒れた。その衝撃は凄まじく、大きな地響きを起こして大地を揺らした。


「ずいぶんと弱いじゃねえか………これならGIGNの方がまだ厄介だったよ」


俺はそう言いながら立ち上がり、そして時計を見る。ちょうど10秒。騎士どもを相手にするより楽だった。


「こんなものか、期待外れだよ」


俺はドラーヴァを睨みつける。さて、最後の仕上げだ。




 火竜と戦いは一瞬で幕を閉じた。

俺は地面を力強く蹴り上げた。爆発的な推進力を伴って一気に火竜との距離を詰める。走り出した瞬間からトップスピードの俺の動きは、常人では目で追うことは不可能だ。ドラーヴァにしてみれば視界から急に俺の姿が消えたように映るだろう。

俺は低姿勢のまま走りながら両手に小銃を構えた。そして悠揚迫らぬ不動の態度で待ち受ける火竜に照準を合わせて狙い撃つ。頭部、眼球、鼻先、口内、喉頭、翼、前脚、腹部。それぞれに1発ずつ撃ち込んだ。しかし火竜の堅牢な肉体はやはり強く、鱗は言わずもがな、鱗の無い腹部でも頑丈な皮膚が盾となって弾痕すら残さない。眼球ですら銃弾を弾いた。


「ちっ………」


俺は露骨に舌打ちをした。頭部もダメ、眼球もダメ、鼻先も喉頭も翼も前脚も腹部も………。だが、一箇所だけ変化を見せた部位があった。口内だ。別に直接利いていた訳ではない。ただ一瞬だけ嫌がる素振りを見せたのだ。


 俺はここで1つの仮説を立ててみた。“口から炎を吐く”、この行為は本来生物にはあるまじき行為だ。火を恐れるのが生物の本能であり、それを体内で生成するのはまさに幻想の領域だ。しかし現実としてそれが起こっているのなら何かしらの理屈があるのだろう。少なくとも体内に可燃性の物質が存在しているのは確かだ。そうでなければ炎を吐くことは出来ない。火炎とは物体ではなく現象なのだから。

そう考えると疑問が生じる。まさか喉の奥から炎を吐いている訳ではあるまい。そんなことをすればたちまち内臓は焼け爛れてしまう。例えば口内に可燃性の物質を噴射する為の管があって、それが化学反応を起こして火炎放射になるしたらどうだ?口から炎を吐くなら当然として舌や歯は炎に耐えられるほど強靭なはずだ。しかしそれは内臓のどこまで続いてる?胃は?肺は?火竜の炎は騎士を一瞬で焼き尽くせるくらいには高温だ。そんな炎を身体の内側まで防護できるとしたら、今度は食物の消化に差し支える。

 であれば―――――。


 俺は火竜の左側面に向かって走った。火竜はそんな俺を仕留めんとばかりに咆哮を上げる。翼を大きく動かして突風を発生させる。と同時に、再び炎を吐きやがった。風で煽られる中、炎は勢いを増して俺に迫ってくる。

俺は炎を躱す為に身体を思いっ切り右に傾けた。地面とほぼ平行になるくらい傾けて、その体勢を維持したまま駆け抜ける。突風によって炎の勢いは増したが、幸いにもその風の影響で炎は地面まで届かなかった。だがそれでも熱い。熱波だけでも俺の左腕が一気に火傷した。表皮を焦がした程度ではあるが、やはり奴の火炎放射は脅威だ。

 だが、今の一瞬で俺はすべてを理解した。走り続けながら火竜に接近したことで、炎を吐く瞬間の口内を見ることが出来たのだ。俺は炎の切れ目を見計らい、右腕で地面を叩きつけて上体を持ち上げる。そのまま右手の銃をダガーナイフを持ち替えて火竜に向かって投げつけた。ワイヤーは火竜の首元に綺麗に巻き付いた。俺はその状態で弧を描くように外側を走り抜ける。火竜はワイヤーを外そうと、前脚を上げてその巨体を大きく持ち上げた。

好機。タイミングを計って跳び上がった。遠心力を利用することで俺の身体は宙に浮く。空中に戦場を移した俺はすぐさま火竜に銃弾を放った。火竜は俺に頭上を取られたのがそんなに嫌だったのか、ついに身を大きくよじって暴れ始めた。顔を俺の方に向けて口を大きく開き、再び炎を吐こうとしている。空中で逃げ場を失った俺に狙いを定めた。


「―――――やっと見つけたぜ、お前の弱点を」


俺は火竜に対して不敵な笑みを見せてやった。

 俺の仮説。口内に可燃性の物質を出す器官があるのなら、その器官そのものは燃焼反応に弱いのではないか?というものだった。火竜が口から炎を出す瞬間、口の周りが炎に触れていないことが確認できた。発火は口内で行われて、そのまま体外に放射される。つまり炎を吐いていると言うよりも、炎をまとった物質を吐いているという訳だ。要領はライターとスプレーで作れる即席火炎放射器に似ている。可燃性のガスに発火作用のある液体を同時に噴出させて炎を生み出しているのだ。ドラゴンの火炎放射の理屈がこれで解明できた。

 だったらその器官をぶっ壊して体内に炎を閉じ込めてしまえば良いじゃねえか。俺は懐からあるものを取り出した。それは手榴弾しゅりゅうだん。俺は自由落下しながら手榴弾の安全装置を外して、大きく開いた火竜の口に向かって投げつけた。手榴弾は見事に火竜の口内へと吸い込まれていく。いよいよ炎が吐かれる瞬間、そのタイミングに合わせて俺は足を振り上げる。今まさに炎を吐かんとする火竜の下顎を力を込めて蹴り上げた。


「じゃあな、蜥蜴擬き」


俺は即座に地面に向かってナイフを投げた。ナイフが突き刺さったのを確認して、そのままワイヤーを引っ張る。地面に激突する勢いで俺の身体は落下した。

瞬間、火竜の身体が大きく跳ねた。首と腹の境目付近がわずかに膨張する。口の中で爆発が起きたのだ。内臓を滅茶苦茶にして、さらに自分の炎で身を焼く。

やはりしょせんは生物だ。どれだけ鎧のような硬い外皮と鱗で覆われていようとも身体の内側はそうもいかない。火竜の目から火が噴き出して、口からも爆発の火煙が漏れ出ている。

俺は受け身を取って無事に地面に着地した。それと同時に火竜が倒れた。その衝撃は凄まじく、大きな地響きを起こして大地を揺らした。


「ずいぶんと弱いじゃねえか………これならGIGNの方がまだ厄介だったよ」


俺はそう言いながら立ち上がり、そして時計を見る。ちょうど10秒。騎士どもを相手にするより楽だった。


「こんなものか、期待外れだよ」


俺はドラーヴァを睨みつける。さて、最後の仕上げだ。




 ドラーヴァは混乱していた。サジェルサス・タ王下騎士団の第2部隊、その精鋭たち。そしてこれまで数多くの敵兵を殲滅してきた火竜。獣人を相手にするには充分過ぎるほどの戦力だった。あくまでも自分たちの力を見せつけて獣人どもを無抵抗で従わせる為の誇示でしかなかった。だがそのすべてが呆気なく滅ぼされてしまった。それもたった1人の男に―――――。


「な、なんだ、何なんだ貴様は!?」


ドラーヴァは叫んだ。


「貴様ぁ、一体どんな“魔法”を使っているのだ!」


「………はぁ?」


俺は思わずドラーヴァを睨みつけた。急にそんなことを訊かれても訳が分からない。そもそも俺は魔法なんて使えないんだ。


「貴様の常軌を逸した動き、そして体術………我らサジェルサス・タ王下騎士団の精鋭たちがこうも無残に敗北するなどあり得ない!何かしらの魔法を自らに施したに違いない!さては肉体強化系か!それともあるいは―――――」


「―――――あのさぁ」


俺はたまらずドラーヴァに対して口を開いた。


「そもそも俺は魔法なんて使えねぇよ。俺はあんたと違って“無能力者”なんだ。いいか?勝敗の要因はたった1つ………俺が強過ぎるだけだ」


「ふ、ふざけるなぁっ!!!貴様の強さ、人智を越えている!我の優れた騎士たちが手も足も出なかったのだ!こんなことがあって良かろうか!!!」


ドラーヴァは興奮状態に陥っているようだ。明らかに冷静さを欠いている。


「不思議に思うのも無理はない。確かに騎士どもは強かった。精鋭の集いってのは間違いじゃねぇ。それは直接戦った俺が認めよう。だが鍛錬を積み、個の極みを目指したところで………」


俺は右腕を伸ばしてドラーヴァに銃口を突きつける。口元を歪ませて不適な笑みを顔に浮かべた。そこに余裕はない、愉悦もない。ただただ目の前の男が哀れで仕方なかった。だから笑った。


「お前らがどれだけ努力しようとも俺はその遥か上の高みにいる。生まれ持った才能の前ではお前らの努力すら意味を成さない、それだけのことだ。それだけの事実だ」


俺はそう言い切ると戦闘態勢に入った。これでもう挑発は充分だろう。戦闘前に話す猶予ゆうよを与えてくれたお優しいドラーヴァ様のおかげで、俺自身もかなり体勢を整えやすかった。感情的になった相手は論理的な思考が難しくなる。それを俺は狙っていたのだ。

案の定、ドラーヴァは怒りに満ちていた。溢れんばかりの激怒を露わにする。どうやら俺の最後の言葉が逆鱗に触れたようだ。


「思い上がるなよ異邦人風情がぁ!!!我こそは誇り高きサジェルサス・タ王下騎士団、第2部隊隊長、“焔魔えんまのドラーヴァ”であるぞ!!!我を侮辱するのは勝手だ!!!しかし我の部下たちを貶すその不逞な言辞の数々、万死に値する!!!決して許さん!!!」


ドラーヴァは怒った。計算通り。俺は笑みを浮かべながら銃の引き金を引いた。銃口から放たれる弾丸はドラーヴァに向けて確実に撃ち出された。弾道は奴の首を狙い定めて直進する。

―――――だが、弾丸がドラーヴァに届くことは無かった。


鮮明は霞むリスカ・ルダルド・シェイバレ


俺が発砲する瞬間、ドラーヴァは右腕を前に突き出して構えた。手の甲をこちらに向けるようにして、それから何やら呪文を唱えた。すると奴が中指に嵌めていた指輪が青く光り輝き出す。そしてわずかな間も無くドラーヴァの目の前に炎の壁が現れ出した。その炎の壁が銃弾を一瞬にして蒸発させたのだ。


「ほぅ、こいつは面白れぇ」


俺は笑った。怒りに身を任せ、それでもなお眼前の敵を倒す為に最善の選択をする。どうやら俺はドラーヴァを過小評価していたようだ。訂正しよう。コイツは危険な敵だ。今ここで倒さなければ後で厄介になる。

それと同時に俺はこの状況を楽しんでいた。こんな高揚感は滅多に無い。魔法との戦闘はこれが初めてなんだ、それも隊長格との戦闘もなれば楽しくない方がおかしいだろう。

 俺は右に走り出す。視線はドラーヴァから外さず、奴を中心に円を描くように走った。ドラーヴァの背後に回り込んで何発か発砲してみた。本来であれば人間が死角となる角度からの攻撃だ。果たしてどうなるか。

だがこの攻撃すらも炎の壁に遮られてしまった。あの炎の壁、まるで生きているかのように優雅に宙を漂っている。そして俺が発砲すると途端に恐ろしい速さで回り込んでドラーヴァの盾となる。銃弾を空中で溶かしてしまうほどの高温の炎だ。あんなもので攻撃されたら俺なら即死んでしまうだろう。攻守ともに優れた魔法のようだ。


「ふん………才能の差と(のたま)うならそれこそ愚の骨頂!我の異名は“焔魔”!我の炎の前では、貴様の動きなど赤子の腹踊りに過ぎん!」


「例えが訳分かんねぇよバーカ」


ドラーヴァの高らかな挑発を受け流しながら、俺は一度発砲を止めた。流石に弾がもったいない。


「どうした!もう仕舞いか!?」


今度はドラーヴァが挑発してくる。俺は意に介さずに分析を始めた。魔法、その原理についてはひとまず置いておくとして、ここでは奴の魔法の発動条件を理解しなければならない。先ほどの火竜と違ってドラーヴァは思考を繰り返し策を講じながら、確実に俺を殺しにかかってくる。しかもドラーヴァの扱う魔法は非常に厄介だ。あの魔法を攻略しなければ俺に勝ち目は無い。


(あいつは炎を出現させる瞬間、何か呟いていた。それから右手の指輪………さっきまであんな風には光ってなかったはずだ。魔法を使ってから光ったのか?それとも魔法を使う瞬間に光り出した?だとすれば………)


思考は刹那、常人の5分が俺にとっての0.1秒。すぐさま複数の仮説を立てて魔法の攻略法を計る。その間俺はドラーヴァを中心に走り続けてた。


「なんだ!走り回っているだけか!?この腰抜けがぁ!!!」


口が悪くなってきたドラーヴァ。奴は再び右腕を前に突き出して呪文を唱える。


澄む色彩の果てにリグナル・バルドレ・ズ・バドレ!!!」


ドラーヴァの叫びと共に指輪が再び青く輝き出した。先ほどよりも強い閃光、それは目が暗むほどにまばゆい光でドラーヴァを包む。すると突然、奴の正面に突如として巨大な炎の塊が出現した。炎の壁とは比べ物にならないほどの大きさだ。まるで東洋の竜のごとく、例えるなら八岐大蛇のような出で立ち。それらは複数の方向から一斉に俺に襲いかかってきた。


「さぁ!!!我の手によって討ち滅べぇ!!!」


ドラーヴァは顔を歪ませながら発狂する。叫び過ぎて喉が潰れたのか、奴の声は掠れていた。その表情を見る限りこれで決着をつけるつもりなのだろう。

 だが俺はドラーヴァの攻撃を前にして余裕の笑みを浮かべていた。


「―――――ありがとよ。やっと見つけたぜ、お前の攻略方法」


俺は静かに呟いた。


 見つけた。

ドラーヴァの魔法の攻略法。俺は走り続けた脚を地面に押し付けてスピードを殺し、そのまま踵を返して一気に方向転換した。目指す先はドラーヴァだ。俺は一度身を屈めて地面に両手を着ける。腰を落として膝をバネにして、最大速度で走り出した。


「な、なにぃ!?」


驚きの声をあげるドラーヴァ。まあ当然だろう。まさか炎の大群を前にして自ら突っ込む馬鹿がいるとは、奴も予想だにしていなかったはずだ。だがそんな馬鹿がここにいる。俺は迫り来る炎の猛攻を見事に躱しながら、かつ全速力を維持して駆け抜ける。決して足は止めない。炎の熱波で息が出来ないが、無呼吸での走行は楽なものだ。走りながら何度も旋回させながら炎を回避する。ドラーヴァとの距離が一気に10mほどまで迫った。

 俺の足の速さを舐めるんじゃねえ、100mを6秒台で走れるんだ。まぁ牙王家の連中なら誰でも同じタイムを出せるから自慢できる話ではない。連中、陸上競技で優勝しても無意味なだけだ、なんて言って誰1人選手になろうとしない。もし連中が本気を出したらオリンピックの代表選手が全員牙王一族で埋まってしまうだろう。そんな優れた才能を持つ一族の血を俺は引き継いでいる。俺の疾走は誰にも止められない。

 俺は華麗に炎を避ける。屈み、飛び跳ね、上体を逸らし、時に前方宙がえりをしながら。まるで炎の中で俺が舞いを舞っているかのように躱し続ける。どんどんドラーヴァとの距離を詰めていった。


「な、な、な、な………」


もはや言葉にもならないのだろう。ドラーヴァは震える右手を必死に動かしていた。あの動作にもちゃんとした意味があった。手の動きに合わせて炎が俺を襲ってくる。どうやら先ほどの炎の壁は自動追尾型で、今ある炎の大群は手動操縦のようだ。俺はそれを見切ってドラーヴァの手の動きを注視しながら炎の攻撃を躱していたという訳だ。

俺とドラーヴァとの距離が5mまで縮まる。目指しているのは奴が嵌めているあの指輪だ。


 俺の予想が正しければ魔法の出力はドラーヴァ自身に依存している。これは奴の“才能”という単語から推測したものだ。

では魔法の発動はどうだろうか?ドラーヴァが発した呪文か?もちろんそれもあるだろう。口頭で特定の語彙を発言することを条件として、魔法の使用を可能にしているのかもしれない。それが“呪文”。

問題は、その呪文が特別不思議な単語では無いことだ。変な文章とは言え、日常で口にするような言葉の羅列だった。もし言葉そのものがトリガーだとしたら、ふとした瞬間に魔法が発動してしまうかもしれない。銃だって安全装置を外しただけでは弾は出ない。発砲は引き金を引くという行為によってのみ行われる。もし銃における発砲が魔法における発動に類するものなのであれば―――――。


「それがお前の“引き金”って訳か………まったく面妖だな」


俺は独り言のように呟くとドラーヴァの左足首を狙ってダガーナイフを投げつけた。ワイヤーが今にも奴の足首に巻きつこうとしている。


「はっ!しまった!!!」


ドラーヴァは慌てた様子で自分の足下に炎を移そうとする。

 そこに、隙が生じた。


「もらった」


ワイヤーはフェイク。俺はすぐにワイヤーを引き戻してナイフを回収する。生じた隙を決して逃すことはしない。確実に狙いを定めた俺は王手となる銃弾を撃ち放った。それは確かに対象を貫く。俺の銃弾はドラーヴァの中指の根本を撃ち抜いた。


「!?………んなああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 絶叫。

ドラーヴァはひどく怯えた形相で己の右手を見つめる。そこに中指は無い。奴の中指は宙へと飛んだ。俺はそれを手に入れると同時に奴に勢い良くタックルをする。


「ぐはぁっっ!」


俺の肉体から繰り出されるタックルを真正面から受けて、ドラーヴァは体勢を崩して倒れた。俺はすぐさま奴の上にまたがった。両手両足に銃弾を撃ち込んで自由を奪う。


「これで終わりだ。ドラーヴァ隊長」


俺はドラーヴァの額に銃口を突き付ける。顔を近づけて不敵な笑みを浮かべながら言ってやった。


「お前、炎しか出せないのか?騎士ならせめて剣なり槍なり使ってみろよ。魔法に頼りきった戦法しか取れないお前の負けだ」


「ふ、ふざけるなよっ………!」


悪態を吐く俺に対してドラーヴァは何故か俺と同じように不敵な笑みを見せた。


「ふ………ふふふ………愚かな男だ。こうしている間にも、獣人どもは捕えられているだろうな!」


俺は目を見開き、ドラーヴァに詰め寄った。


「お、おい………どういうことだ!?」


「ふん!今さら狼狽えてももう遅い!我らを舐め腐った報いだ!貴様が我らと対峙している隙に、別動隊が既に獣人どもの集落に向かっていたのだよ!」


とても誇らしく高らかに口弁するドラーヴァ。まぁ饒舌じょうぜつだこと………。俺は馬鹿らしくなって狼狽える演技をやめた。


「そ、そんな馬鹿なぁ!―――――なんて、な」


俺は歪んだ微笑みをドラーヴァに見せつける。その表情の変化に、勝ち誇った様子を見せていたドラーヴァが困惑し始めた。


「な、なんだ、その顔は………」


「お前にも分かりやすく説明してやるよ。冥土の土産ってヤツだ」


俺が説明を始めようと口を開く。と、その時だ。獣人どもの集落の方角で突然爆発音が響いた。


「お、やっとか。まぁちょうど良いか」


俺はやれやれと首を振りながら呟いた。やっと《《あれ》》が発動したらしい。先の先まで予測するのが傭兵だ。当然ドラーヴァが伏兵を忍ばせることも予測の範囲内であった。俺と馬鹿正直に真正面から戦ったりするにもリスクがある。コイツらの目的は獣人どもの捕縛だ。俺と戦っている最中に捕まえるのが賢明だろう。

だからそれを見越して今朝の内に地雷を仕込んでおいた。




――――――――――


 昨晩、俺はフカルに獣人どもを起こして広場に集まるように言いつけた。そして俺は自分が考えた作戦を皆に説明した。


「まずは俺が独りで騎士どもを殺す」


開口一番、どよめきが起こる。まぁ当然だろう。たった1人で隊長やドラゴン含め一個部隊を相手にしようなんて正気の沙汰じゃあない。案の定、真っ先に彼女が俺の前に飛び出してきた。


「そんな!危ないですよ!」


トゥリアだ。誰よりも早く口を挟んできた。俺はそんな不安の表情を浮かべる彼女をなだめる。


「心配しなくて良い、トゥリア。俺なら大丈夫だ」


俺はトゥリアの頭を撫でて優しい口調で諭す。彼女は何か言いたげだったが、俺は微笑みを向けて無理矢理納得させた。

さて。大人しくなったトゥリアを尻目に俺は獣人どもを見回しながら叫んだ。


「安心しろ!俺は強い!俺が戦場において敗北を喫することはあり得ない!確実な勝利を約束しよう!だが、問題はお前らの方だ!俺が騎士どもと対峙したとして、奴らは馬鹿正直に向かい打つことは無いだろう。恐らく連中は俺と戦っている最中にこの集落へ別動隊を向かわせるはずだ。俺が敵を殲滅できたとしてもお前らが捕まったら何の意味も無い!」


俺は自分がいる場所を指し示すように大地を何度か蹴った。俺が騎士どもと戦っている隙に連中が集落を襲ったら元も子もない。容易に想像できる作戦だ。


「そこで、だ………おい!ガキども!」


俺は仲良くなったばかりのガキどもを呼びつけた。急に呼ばれたガキどもは呼ばれた意味も分からずに俺の下へやって来る。俺はガキどもの目線の高さに合わせるように屈むと、彼らに言い聞かせるように話しかけた。


「良いか?お前ら、俺が戦闘を始めたら合図を出す。そしたら皆を秘密基地の場所まで案内するんだ」


「えーーー!!!やだよーーー!!!」


「なんでさー!秘密基地の場所なんて教えたくないよぅ!」


「シーーー!みんなに聞こえちゃうよ!静かに!」


俺の言葉に不満を漏らすガキども。まぁ無理もない。大人に隠してこそ秘密基地なのだから。


「いいか、お前ら?これは一世一代の大勝負だ。お前らの覚悟と勇気ある行動が村の皆を救う」


「それ本当?」


「ああ本当だ。お前らはヒーローになるんだ。どうだ?」


「でも秘密基地の場所を教えただけで、どうしてヒーローになれるの?」


「村に攻めてくる騎士どもから、皆を逃がして救うことができるんだ!これをヒーローと言わずして何て言うんだ馬鹿野郎!」


俺はそれっぽくガキどもをおだてる。ガキは目立つことを好む。そして大人に褒められたい生物だ。誰にもできない、自分たちにしかない役割があると思わせれば勝手に乗り気になってくれる。


「うぉぉぉぉぉ!ヒーロー!」


「ぼく、ヒーローになる!」


「わたしも!わたしも!」


ガキどもが騒ぎ始める。やはり分かりやすい生き物だ。全人類がここまで単純なら世界平和も夢じゃねえんだけどなぁ。なんてそんなことを考えていると、一連のやり取りを見ていた獣人の1人が俺に近寄って来た。村主の息子のフカルだ。


「デルタベガスさん、あなたの作戦は分かりました。あなたが騎士たちと戦っている間、私たちを村から安全な場所へ逃がしてくれるんですね」


「あぁ、ご明察。安心しろ、何も無茶な提案じゃねえ。ちゃんと勝算はあるからよ。お前らはガキどもの案内にしっかりついて行くんだぞ」


俺はフカルの肩を掴んだ。その手に込める力を強めて、フカルのコバルトブルーの瞳をしっかりと見つめた。そして説き聞かせるに強い口調で言った。


「この村の連中のことはお前が任せたぞ」


「………えぇ、はい。もちろん村の皆さんが安全に逃げられるように尽力します。しかし―――――」


フカルが腑に落ちないという表情を見せて言葉を濁した。俺は彼に尋ねた。


「どうした?」


「その、先ほどあなたは“合図を出す”と仰っていましたが一体どうするのですか?あなたが騎士たちと対面している状況でどうやって私たちに合図を出すと言うのです?」


フカルは不安げな顔を見せながら言った。まあ当然の疑問だろう。俺が合図を出すとして、少なくとも獣人どもが逃げるのに充分な距離まで離れていないといけない。しかし俺だってちゃんと作戦は用意してある。俺は待ってましたと言わんばかりにトゥリアの方を見た。


「それについては問題ない。おいトゥリア」


「は、はい!な、なんですか?」


突然名前を呼ばれて驚いたのか、トゥリアはぎこちない様子で俺に近づく。そんな彼女に俺は微笑みかけた。


「合図の確認はトゥリアに任せる。これに見覚えはないか?」


そう言って俺はトゥリアに銃を見せた。


「は、はい………見たことありますよ?」


トゥリアは戸惑いながらも答えた。

 俺はトゥリアに銃を見せたことがある。そもそも初めて彼女と出会ったあの日、トゥリアは遠くから聞えた銃声に酷く怯えていたようだ。騎士どもが使っている銃よりも発砲音が大きく、遠くまでよく響いた。それを怖がっていたらしい。だから俺はその正体を彼女に教えて恐怖心を取り除いてやったのだ。

集落では一度も発砲していない。つまり銃の発砲音を知っているのはトゥリアだけになる。


「これがどんな音を立てるかも知ってるよな?」


「はい、知ってます………!?あ、まさか!」


どうやらトゥリアは気付いたようだ。彼女は頭の回転が速いようだ。こちらとしても非常に助かる。俺は獣人どもに見えるように銃を高く持ち上げた。


「これは俺の使う武器だ。使用時に大きな音が鳴るのが特徴だ。俺が頃合いと判断したら空に向けて発砲する。その音が合図だ。後はガキどもに皆を秘密基地まで案内させるから、それに従って避難しろ!俺が戻るまで隠れているんだぞ!」


俺は獣人どもに伝えると、トゥリアの方へ向き直った。銃を懐に閉まって彼女の両肩を優しく掴む。


「できるか?トゥリア」


俺は優しく話しかける。トゥリアはしばらく悩む様子を見せるが、静かな声で答えた。


「分かりました。でも………」


トゥリアは顔を曇らせている。


「不安か?」


「私にそんな大役、できるかな………?」


「大丈夫だ。俺はお前を信じてる」


俺はトゥリアの頭を撫でてあげた。すると彼女は安心したのか、張り詰めていた表情が崩れた。


――――――――――




 こうして俺は獣人どもを逃がす算段をつけていた。そしてついでに集落の周囲に地雷を設置した。踏んでくれればラッキーだったが、個数に限りがあるから実際は踏んで欲しくも無かった。


「―――――とまぁ、そんな訳でお前らの見事な作戦は全部お見通しだったんだよ」


俺は銃をドラーヴァの額に押しつけながら言った。ドラーヴァは放心状態になってしまったのか何も言わない。ただくうを見つめていて視線が俺から外れていた。


「………ふざけるな」


「はぁ?」


俺は瞳の奥を覗き込むように顔を近づけた。ドラーヴァはそんな俺の顔を怨嗟の目で睨みつけてくる。


「その黒い髪………不吉の象徴、忌み嫌われし蛮人たちでもそのような髪色は見たことが無い。貴様のような薄汚い心の持ち主にはお似合いだ!」


「ほぅ、減らず口が叩けるなら尋問のやり甲斐があるな」


俺は銃口をドラーヴァにまざまざと見せつける。こいつに死をより想起させる為だ。


「ところでよ、《《お前は誰だ》》?」


「わ、我はサジェルサ―――――」


「違う。お前じゃない」


「な、何を言っている………」


「お前に話しかけてるわけじゃねえよ、黙ってろ」


俺はドラーヴァの眉間にゴリゴリと銃を強く押し付けて脅す。


「この状態で聞こえてるのか知らねえが、陰気くせぇ真似してんじゃねえぞ」


 ずっと感じていた違和感。まるで何者かに覗かれているかのような視線。騎士団の連中を前にした時からずっとだ。

その違和感の正体がようやく判明した。確実に見られている。恐らくは人間そのものを媒介として俺たちの戦いを覗いているのだ。それを見越して俺はずっと自身の名前を名乗らなかった。こいつの瞳の奥、ドラーヴァから感じるもう1つの気配が確かにある。

最初は気のせいだと思っていた。ただの俺の勘違いだろう、と。だが今こうしてドラーヴァと見つめ合えるだけの距離まで迫った時、疑念は確信へと変わった。確実にコイツから別の人間の敵意を感じ取れた。魔法か?だとすれば魔法というのは他人を媒介として遠隔操作も可能とするのか?この異世界には俺の知らない魔法技術がまだまだ存在するようだ。

 しかしこちらの情報を黙って取られるのは癪だ。今こうしている間にも何処かの誰かは俺を見ている。しかも騎士団の連中がやられている姿を覗いていながら助けを見せるつもりも無い。最初から見限るつもりだったって訳だ。俺は覗き魔に対して見せしめのつもりでドラーヴァを殺すことにした。


「いつか遭おうぜ、どっかの誰かさん―――――それじゃあ、さようなら操り人形(ドラーヴァ)。お前の志は立派だったぜ」


俺の銃弾がドラーヴの眉間を貫く。頭がびくんと跳ねて、そのまま静かになった。最後に放った銃声だけが辺りに響き渡った。

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