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(ちみっとぶれいく) うみにいこう!


これは勇者とオッサンが出会ったすぐ後くらいのお話です。

なんか今読み返すとちょっと無理がある内容かなとも思いますが……。

寛大なお心でもってよろしくおねがいします><




「……なあオッサン。」


ラピスに揺られながら、勇者は私の背に頭を預ける。森の中にかすかにある道を、私たちはひたすら前に向かって進んでいた。


「なんだ? 勇者よ。」


体を揺らしてそれを振り払い、視線だけ後ろを振り返る。


「暇。」


そう言うと勇者は私の腹に腕を伸ばし、抱きついた。私はそれも振りほどく。


「あーあー!! だっりィーよ! 魔王退治だっりィーーーよ! あー海いきてえ海。うーみーいーきーてーえー!!」


「暴れるな、勇者! ラピスが驚く。」


「いーじゃん暇なんだよ! なあオッサン、海ねえの、海!」


「海? そんなもの、」


あるはずない、と口にしようとした瞬間、森が急に開け、視界が光でいっぱいになる。何かが視界の奥できらめいた。


「……!?」


「うおー、海じゃん!!」


勇者はラピスから飛び降り、奇声を発しながら水辺に向かって走り出した。


海……? 確かに、打ち寄せる水面に白い砂浜、強い日差しは夏の海を彷彿とさせるが、ここは森の中だ。地図を広げてみても、現在地から海岸線に到達しようと思えば、裕に3日はかかると思われた。


「湖か……?」


しかし、そんなもの地図には描かれていない。


「おーい、来いよオッサン! プライベートビーチだぜ!!」


勇者ははしゃいで服を脱ぎ捨てている。私はラピスを降り、手綱をはずしてやった。まあ、深くは考えないことだ。この地図は神官達に貰ったものだが、かなり昔のもののようであるし、昨年、一昨年は雨期が長く台風も多かったため、ここに湖ができたのかもしれない。私も水辺に近づいて行く。


「いやっほー!!」


勇者は全裸になると水の中に飛び込んだ。私は「あれー、しょっぱくねえ海だ」などとほざく勇者の脱ぎ捨てた服を拾い集め、畳んで近くにあった木の下に荷物とともに置いた。


「オッサーン! 何やってんだよー!」


こうして遊んでいるのを見ると、勇者もまだまだ子供だ。


「ああ、後で行く。ラピス!」


私は自分の荷物からブラシを取り出し、ラピスを水の中に入れて、体を洗ってやる。


「けっ、つまんねぇー。」


勇者はそういうと、遠くに泳いでいってしまった。

ラピスを洗い終わると、自分も服を脱いで体を洗う。この先何があるか分からないのだ。ここでしばし休息するのも悪くはない。ラピスは砂浜でごろりと体を倒して砂に首をこすりつけた。


平和だ……。


この湖はなんだか空気が澄んでいるように思えた。






「おおーーい、オッサン!」


勇者に呼ばれて、私は目を覚ました。どうやら眠ってしまっていたらしい。不用心な、と思ったが、不思議とここには魔の者のいる気配がないような気がしていた。勇者が急ぎ足で浜を駆けてくる。


「なんだ、オッサン裸で寝てたのかよ。犯せばよかった。」


「な……!」


私は勇者の言葉に一瞬唖然とするが、いつものことだと頭を振る。


「あーそうだ、湖の底に何かあるぜ。でっけー神殿みたいなやつ。」


「神殿……?」


こっちだと湖に入っていく勇者の後を追う。振り返ると、ラピスは鼻を鳴らした。私は傾きかけた日を映す湖に、足を踏み入れた。


「少し行ってくる、ラピスよ。」


そしてひたすら、勇者の後を追いかけて泳いでいく。ちょうど湖の真ん中あたりまで泳いで、勇者は止まった。


「つーかさ、これ海じゃなくね?」


「ああ、貴様がなんと言おうと、これは最初から湖だ。」


「ちぇー、だりい。神殿はこの真下だぜ。」


そう言うと、勇者は勢いをつけて潜り始めた。私も後を追う。


数メートル潜ると、確かに何か建物があるのが見えてきた。柱が四本、箱のような形だ。金のようなもので装飾もされているようだ。私は神託があった時に訪れた神殿の様相を思い出した。


勇者が私に目配せする。私は頷いた。二人で神殿に向かって泳いでいく。


神殿の入り口部分につくと、勇者がかるく扉を叩く。見ると、大きな扉の左右の端にレバーがついている。成程、同時に下さなければ開かない仕組みか。私は勇者がわざわざ私を呼びに来た理由が分かった。大方、この中に宝の山があるのではないかと思っているのだろう。


勇者が右のレバーを手に取ったので、私は少し泳いで左のレバーを持つ。そして、二人同時にレバーを動かした。


ごごごごごと地響きがして、扉が開く。勇者は嬉々として中に飛び込んで行った。続いて、私も中に入る。


ふ、と体が重くなる。


「あ? 空気があるじゃねぇーか。」


私たちは神殿の大理石の上に立っていた。水は入り口から入ってはこないようだ。一体どういう仕組みになっているのだろうか。


「ああ、どうやら宝はないようだがな。」


私はふん、と笑った。神殿の中には細かな部屋はなく、奥に小さな祭壇があるのみだった。


「まだわかんねェーよ!」


勇者は大理石の一つ一つをこんこんと叩いて回っている。下に空洞を探しているようだ。


「ふう、無駄な事を。」


私は奥の祭壇に向かった。祭壇の形式や、使われている石の種類から見て、大祖女神ネルクレバを祀るものだろう。


我が国で産出される紅の宝石、リバイナにはネルクレバの御意思が宿るといわれており、ネルクレバを祀るどんな祭壇にもそれが置かれている。


「……汚れているな。」


私はリバイナ石を手に取り、積もった埃を払った。後ろでは勇者が「なんでだよ! なんでねぇーんだよ、シケてんじゃねぇかよ!」と騒いでいる。


「ふう、布があればよかったが……。まあこれで綺麗になったであろう。」


私は石を祭壇に戻した。すると、急に石が光を放ち始めた。私は思わず目を閉じる。


「ああ? オッサン、なにしてんだ?」


光を見とめた勇者がこちらに走ってくる。リバイナと同じ、紅の光は神殿全体を包んだ。


――――レオン、そしてジズハルクよ。


光の中、不意に脳内に声が響く。


「あー? この声は……。」


――――わが名は大祖女神ネルクレバ。そなたたちを導きし者。


「ネル、クレバ……!」


始めて聞く御声に、私の全身は震えた。勇者はだるそうに頭を掻いている。


「ああー? 何の用だよヒスババア。」


「勇者、貴様!」


――――よいのです、ジズハルク。この者を勇者としたのはわたくしですから。


「いーんだってよ、オッサン。」


ふん、と勇者は鼻で笑った。どうもさっきの宝の件を根に持っているようだ。


――――レオン、久しぶりにあなたの顔を見に来ました。


「はあ? それだけかよ! 早く元に戻せってぇーの。」


勇者には礼義というものはないのであろうか。私と接する時とまったく同じ様子の勇者を見て、私は心底ため息をつきたくなる。


――――レオン、新しい仲間はどうですか?


「ああ、オッサン? ぜんぜんヤらしてくれねぇ。」


「誰が貴様なんぞに!」


私が声を荒げると、ふふ、と笑う声が聞こえた。


――――安心しました。この国は今、少しづつ滅びの道をたどっています。それを食い止めるのはレオン、あなたにしかできないことです。


「うっせぇーな、同じこと何回も言うんじゃねえよ。」


ああ、やはり奴は勇者であるのだ。ネルクレバの言葉に、私は酷く思い知らされる。


――――そしてジズハルク、あなたはレオンを導きし者なのです。


導きし者?


私は首をかしげた。私たちを今導いているのは地図であって私ではない。


――――いずれ、わかる時が来るでしょう。


赤かった世界が、少しづつ色を変えていく。段々と、思考が、声が遠くなっていく。


――――また、あいましょう。


最後に世界は金色に光り、私は意識を手放した。






「……ん、う……ん?」


私は自分の体を何かが這うのに気付いて、目を覚ました。……なんだか今日は寝てばかりだ。


「おう、起きたかオッサン。」


瞳を開けると、目の前には勇者の顔。……裸だ。当り前か。勇者の頭の後ろには鬱蒼と生い茂った木々が見える。あの湖はネルクレバが作り出したものだったのだろうか。


「さっきは失敗したからなァ、今回は抜かり無いぜ。縄持ってた俺って天才?」


「……は? え、あ!?」


な……! 手足が縛られている!! 私は焦って体をよじった。


「なーに、オッサンは何もしなくていいからよォ、まあじっとしとけって。」


「え……あ、あ、ああーーーーー!!!!」





<おわりんこ>




オッサンが犯されたかどうかはご想像にお任せします。


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