ここは公道! [口走るのは俺だ!]
前回、硬直のはずが、硬直と書いてしまいました。すいません。スタンは、正確には一時停止です。
あ、勿論直しましたよ?
8
目を覚ますと、そこは何ら変わらない俺の部屋の、ベッドの上だった。あそこまで死闘を繰り広げておきながら、戻るときはあっけないな、と思う。
すると、いつものように一階から母さんの呼ぶ声が聞こえてきたので、大きな返事をしてから俺はそこへ向かった。
俺の家は、前にも話したようにそこまで裕福な家ではない。満足に飯を食えて、満足に学校に行けている、中流家庭だ。だが、何か今日の朝飯はいつもより豪華な気がした。俺が戦っていることを知っていて「お疲れ様」と豪華にしてくれたのだろうか。
いや、そんなハズはない。母さんがそれを知っている訳がないし、もし知っているのなら、何処で知ったか問い詰めるところだ。
これは恐らく、戦闘をして疲れはてた俺が、疲れが故に勝手に豪華だと勘違いしたのだろう。なんせ、実際今日の朝飯はいつもと変わりないのだから。
今日の朝飯は、白米、味噌汁、トマトに目玉焼き、そして納豆というものだった。何回も朝飯にトマトをつけるなと言っているのに、母さんは聞く耳を持たない。
「トマトはリコピンが豊富で...」だの、「野菜をしっかり食べないと、う○ちが出なくなるのよ!」だの、どうしても俺にトマトを食べさせたいらしい。まず、トマトを食卓にあげる意味がわからない。リコピンなら、赤い野菜なら大抵含んでいるし、野菜を食べろというのならトマトじゃなくてもいいじゃねーかと正直思う。まず、俺はあの赤い球体を生物として認めていない。あんな人間に害しか及ぼさない恐ろしいモンスターを食べる人の気が知れない。酸っぱいし、変な匂いだし、皮が妙に固いし、食べたら体の内側から爆散するんじゃないかと思う程だ。
そんな事を考えていると、またトマトに対して怨念のごとき視線を照射していた俺を、母さんがいさめた。
「あのね勇雅、母さんは、あなたの事を思って言っているのよ。」
はい出ましたー。あなたを思ってる発言。と、心の中で考えるが、勿論口にはしない。とびっきりの《俺良い子》オーラを出しながら、答える。
「わかってるよ、それくらい。ちゃんと食べるさ。」
「そう!無理言ってごめんね。」
親はこう言うが、絶対に心ではそんな事思っていないハズだ。子供がここまで嫌がっていて、それを止めない理由がわからない。だから、本心では、俺はこの親を信用していない。
悔しいことに普通に美味しい朝飯を食べ終えると、俺は学校に行く準備を整えて家を出た。
歩いていると、勇斗がいたので少しカマをかけてみる。
「勇斗、レベルどれくらいにいった?」
「ああ、僕はもう3レベだよ!この僕が...あ。」
そこまで言ってから、はっとしたような顔で俺の顔を見る。その顔がどんどん羞恥の色に染まったので、俺は、少しだけカマをかけてよかったな、と思った。
顔を真っ赤にしながらうろたえる勇斗を見ていても面白かったが、いつまでたっても本題に入れない気がしたのでこちらから切り出す。
「そこまで言えるなら問題ないな?勇斗、お前、あの世界をどこまで知ってる?」
さっきあそこまではっきり回答したくせに、アイツは「まだ粘れる」と思ったらしい。言っても無駄な事をまくし立て始めた。
「ああ、僕がしているのはつい最近始めたゲームの話だよ!あの世界観は確かに素晴らしいよねぇ」
コイツは本当はアホなんじゃないかとも思ったが、さすがにそんな事はないと割りきり、アイツの対抗心を刺激する言葉を言うことにした。
「へー、そうか、ならお前、あの世界でスキルの一つでも覚えたか?俺はもう4レベだぞ?」
そうすると、明らかに悔しい、と言った顔をして、俺に向かって叫んできた。
「ふ、ふん!僕は勉強もしっかりしているからな!しかも僕のほうが初期装備は強いんだ!お前なんて今ですらワンパンだからな!」
「あれ、これゲームの話だろ?俺、やってねーぞ、お前がやってるとか言うゲーム。あ、もしかして、俺の話か?これ。あぁ、ありがとな。これで話しやすい。」
そう言うと、勇斗は諦めた、といった顔で俺に言う。
「もう、いいや。認めるよ。ああ、そうさ。僕はあの世界を知っている。ちなみに、ハートをもうすでに一つ失っているのさ。君の話に乗らなかったのは、それを言いたくなかったからだよ。」
恥ずかしかっただけか。そんな事で、と考えたが、コイツは存外プライドが高いのだ。そのプライドを傷つけないように、言葉を選んで喋る。
「何言ってんだ。そんなことで俺がお前をバカにしたりすると思うか?お前だって優香を救いたいだろ?」
「え、さらわれた姫って優香なのかい?ああ、必至にアプローチした末に告白で玉砕したあの思い出が甦る...。」
すごく悲しいエピソードが聞こえたが、優香はそれほどにモテモテなのだ。色の白い肌に、少し内巻きのショートカット。眉毛は細く、瞳は透き通り、長い睫毛に少し小さい鼻。控えめなピンク色の唇には、いつも微笑みがたたえられている。スタイルも、胸は控えめだが、腰は細いし、足も儚い程に華奢だ。
そんなフィクションの世界からきたような女の子がクラスにいたら、憧れるのは男の性と言うものだろう。残念ながら、俺には他に思い人がいるので眼中になかったが。
そんな事を考えていると、勇斗が話をまだ続けていた。
「勇雅君!そうと決まったら早く助けにいかなきゃ!優香が魔王に食べられちゃうよ!」
「お前、大丈夫か?魔王とか、ク○パがお姫様をさらうのなんか、子作り目的に決まってんだろ?」
我ながら論点がズレていると思ったが、勇斗はこのテの話にノってきた。
「それこそ大変じゃないか!優香の純潔が奪われちゃうよ!」
俺たちは何の話をしているのだろうか。しかもここは公道なのだ。こんな話を地域のおじさんおばさんに聞かれたら、生徒指導待ったなしである。そろそろ切り上げないと、と思っていると、後ろから完全に俺たちに対する言葉がかけられた。
「おおー?なんだー?純潔って、処女って事かー?」
公道でえげつない言葉を口走る(自分達のことも言えたものではないが)野郎の方を向くと、そこには、学校で1、2を争う性犯罪者予備軍、松井凜音がいた。
「おまえらー。その話、俺にも聞かせろよー。」
最後までお読みいただきありがとうございます。次回も現実世界要素が多いと思います。
次話もどうぞご期待下さい。