この世界は誰の夢? [イラつくのは俺だ!]
どんどん戦闘すると言っておいて、一切戦闘要素はありません。ホントにすみません。
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俺があんなセリフを吐いた直後、老人は満足そうな顔で目の前から消えた。姫を救うと言っておいて、何からしたらいいかも分からないので、まず、モンスターの入って来ないらしい町を探索することにした。
最初に俺が居たところと少しも変わらず、どの建物も手入れが行き届いているようだった。フィールドに出る前に回復薬などを買っておこうと思った所で、ある致命的ミスに気が付いた。
「俺、金持ってないじゃん!!!」
悲しい男の咆哮が町中に轟き、ガラス窓を叩き割り、石畳を陥没させた(実際はそんな事はなかったのだが)。だが、本当にそんな事が起こってもおかしくないほどに、俺は驚いていた。
大抵、RPGというものは、初期状態でも最低限の金は与えられているハズである。だが、このゲームらしい世界はそこまで優しくなかった。
そこで、俺は考えた。
(夢だし無限に金が出せるんじゃないか?)
そして、思い付いたゲスいことを、実行してみることにした。
俺は、大きく息を吸い込んで、叫ぶ!
「金よぉぉぉぉぉ!増えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」
もちろん、何かが起きるわけでもなく、周りの通行人からは明らかに俺に向けた冷たい視線が降り注ぐ始末。
(そりゃあ、増えないよなぁ。)
悲しい気持ちになってうなだれていると、何処からか声が聴こえてきた。
「おーい!勇雅くーん!」
「ゲッ!」
思わずおかしな声が出てしまったが、それもそのはず、声をかけてきたそいつは、俺の大嫌いな2年3組の委員長、伊藤勇斗だったのだから。
俺の心の中など全く察せぬように、勇斗は走り寄ってくる。
(相変わらず、立派な体してんなぁ。)
勇斗はうちの委員長になるだけあって、容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群と、どこから切っても出来の良い金太郎飴のような人間だ。そりゃあ、俺みたいな人間には苦手も苦手な人種なのは言うまでもないだろう。
「勇雅くんは、何でここにいるんだい?」
「いや、こっちの台詞だよ。何でお前がいんの?」
聞いていると嫌気のさす勇斗の喋り方にイライラしつつも、俺は返した。そんな俺の心境を知ってか知らずしてか、勇斗は続ける。
「いやぁ僕の夢の中の勇雅くんは面白いなぁ。ほら、夢の中なんだしさ...。」
少し言葉を貯めてから、勇斗は続けた。
「勇雅くん、フラダンスを踊ってよ!」
「はい!?おい、お前自分が何言ってるか分かってんの?」
頭のネジが3本位外れたんじゃないかと思ってしまうような事を宣う勇斗にかなり強めに言い返してしまう。だが、このまま勇斗に無茶ぶりを続けられてもいやなので、勇斗が何か言うまでに言葉をつなぐ。
「ここは俺の夢だろ。お前こそ、オクラホマミキサーでも踊ってろ!」
その言葉に、勇斗も不思議な様子で返す。
「何を言っているんだい?ここは僕の夢だろう?」
俺は、ますます混乱した。どういうことだ?ここは俺の夢で、勇斗の夢でもある、のか?俺は、とにかくこの会話を終わらせるために、言葉を返した。
「すまん、俺も言い過ぎた。俺も疲れてるし、また今度にしようぜ。」
そう言うと、ジジイに教えてもらった《左手の甲を右手の人差し指で二回叩く》という動作を行って、メニューウインドウを出した。そこの左上にあるログアウトボタンならぬゲットアップボタンを押した。
その瞬間、いつも起きる時に感じるような、浅いまどろみから覚める感覚に見舞われて、俺の意識は覚醒した。
お読みいただきありがとうございました。戦闘要素はなかったけど、楽しんで書けたのでよかったです。