ボス戦(LP残り3本)
まだまだボス戦続きます!
最後まで読んでくれると嬉しいです。
27
子猿が降ってきた瞬間、大地はさすがの反応を見せ、即座に指示をだした。
「1組は取り巻き排除!」
その指示で1組がそれぞれ動き出す。猿が落ちてきたのは、大猿の後ろに8体、その他遠くに2体だ。それを見た1組がそれぞれの動きをてきぱきと行っている。
そんなことを考えさせる暇も与えてくれないのか、猿がその巨体をこちらに走らせてくる。
大地の戦略は、半分正しく、半分間違っていた。
取り巻きを殺すために区切りやすいグループに分けたのはいい。その方が統制がとれるし、今まで一緒に過ごしてきたクラスメイトなら、チームワークも問題ないだろう。
しかし、そのチーム分けのデメリットもあるのだ。大地自身が用意したメンバーリストは、クラス関係なくグループが組まれている。それによって、どこのクラスにどれくらいのアタッカー、タンク、バファーがいるのか把握していなかったのだろう。1組を行かせてしまったことで、アタッカー、バファーが著しく減ったのだ。タンクは十分にいるが、アタッカーが少ないので弾いてもダメージを与えにくいし、バファーが減った事によって、ダメージをくらった後のリカバリーが大変になった。
しかも、タンクの盾にも耐久値は存在するのである。このままではタンクの防御が削りきられ、集団の中心から陣形を破壊されかねない。
固まって猿の攻撃を防いでいるタンクも、それに気付いたようだった。タンクの内の一人が、どうする、という視線を向けてくる。
俺もアタッカーに加わってダメージを与えてはいるが、さっきに比べて明らかにLPの減りが遅い。このままではじり貧だ。
その時、タンクの一人がふらついた。攻撃を防ぐためにずっと力をいれていたのだろう。力が少し切れてしまったのだろうか。
(マズイ...っ!)
そう思った時にはもう遅く、ふらついたタンクは思いきり上に跳ね上げられ、凄まじいスピードで天井にぶつかると、ゆらりと体勢を崩し、地面に落下した。
猿が喜んでいるのか、雄叫びをあげる。
それと同時に、落下したタンクのアバターが、紅い光を発してその場から消滅した。血のように紅い光の欠片が漂う。
俺は一瞬、止まってしまった。LPがゼロになったとき、すぐに散るのではなく、オーブというか、魂のような光の球体になるのではなかったのか?オーブになっている時は、30秒間蘇生可能なのではなかったのか?
俺が混乱していると、隣から声がかかった。
「大丈夫か、勇雅。ボーッとしてたぞ」
鉄弥がそう言うので、俺はさっき感じた疑問をぶつけた。
そうすると、鉄弥は俺の知らなかった事実を話した。
「そうか、お前、ハートがゼロになった奴を見たことないのか。ハートが余っていれば、蘇生できるけど、ハートが無ければそのまま消滅するんだ」
俺は驚愕した。初めてこの世界に来たとき、あの老人が言っていたのはこの事だったのか。『とんでもないこと』とはよくいったものだ。
こんなもの、ゲームでもなんでもない。今までハートをゼロにしてきたクラスメイトや、同学年の仲間たちは、どこに行ったかも分からない。
死んでいるかもしれない。植物状態になっているのかもしれない。もしかしたら、もう会えないかもしれない。
俺の中に、怒りの感情がふつふつと湧いてくる。
俺は、猿を睨んだ。猿と目が合う。猿が『お前には無理だ』とでも言いたそうな顔でニヤリと笑った───────気がした。
「タンク、全員下がってくれ。俺が一人で攻撃を捌く。その隙に全員で攻撃してくれ。」
俺はそう言うと、脚に力を込める。スキルの起動準備をし、今にも特攻しようとした、その時だった。
「待て」
後ろから、鉄弥が制止した。俺が何故、という表情で振り向くと、鉄弥の覚悟を決めた顔が目に入った。
「俺が行く」
そう言うと、鉄弥はずんずん前進していく。
猿がこん棒を振り上げた。鉄弥に向かって、致死の流星が降り落ちる。
間に合わない。そう、誰もが思った時だった。鉄弥の大剣が、うねるように動き、猿の右手に絡みついたのだ。そして、流動的に見えていた鉄はバキン!という音と共に凝固し、猿のスキルを完全に止めた。
そこにいた1組以外の全員が、息をのんだ。
すると、鉄弥から呆れたような声が掛かる。
「おい、早く攻撃しろ。俺の鉄も、割られるかもしれないだろ」
その声で、一気に全員が猿の周りに密集する。アタッカー、タンクは猿の胴体や足元に。バファーも今日で初めて攻撃に転じ、頭部に色とりどりのスキルを打ち込む。
猿のLPが目に見えて減り、これでいける、と思った時だった。
猿の攻撃モーションが出たので、全員が後ろに下がる。この攻撃を鉄弥が止めて...と思っていた。鉄弥がバックジャンプを途中で止めたのだ。何かにつっかえるような動きで。
その原因はすぐに判明した。猿が鉄弥の剣を握っていたのだ。体長が八メートルもある猿である。剣を握れば、自ずと腕も握られる。そのせいで、鉄弥は動けなくなっていたのだ。
腕を掴まれた鉄弥は、逃れようと必死にもがくが、猿の大きな腕は微動だにしない。
「腕を切断して逃げろ!」
と誰かが言っているが、現実と同じ痛みが体に伝わるのだ。腕を切るとは、相当な痛みを伴う行為だろう。
鉄弥の右腕を、剣ごと握った猿が吼えた。俺にはそれが、勝ち誇った哄笑に聞こえた。
途端、猿が鉄弥の体を地面に叩きつけた。それで気を失ったのか、鉄弥の全身がだらん、と弛緩する。
俺は固まっていた体にむち打ち、猿にスキルを撃ち込もうとする。
だが、猿のほうがワンモーション速かった。
鉄弥を左手で上に持ち上げると、野球部のコーチがノックをするように、上に少し放り投げ、両手持ちのこん棒でしたたかに打ち付けた。
突進していた俺はそれに反応が遅れ、飛んできた鉄弥と正面衝突する。
俺は鉄弥と一緒に集団の前まで転がり、尻餅をついたまま上体をあげる。
「大丈夫か!」
鉄弥にそう声をかけるが、応答がない。その瞬間、鉄弥の体が俺の手のなかで四散し、光の球体になった。
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