蠢く悪意の中の休息
ちょっと面白可笑しく書いてみました。
最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
22
自分の好きな人に話しかけるチャンスだったのに、話しかけられないとは、心の中に傷を残すものである。
(あーっ···!くそぉ···。)
勇雅もご多分に漏れずその通りだった。今は四時間目の授業の途中で、あの質問イベントからかなり時間がたっているが、勇雅の気持ちは一向に晴れなかった。授業を今まで真面目に聞いてこなかった勇雅の不真面目さがより際立っていた。
勿論先生もそれに気付いており、さっきから頬をピクピクさせているが、何気に勇雅は点数がいいので叱るに叱れないのだった。
(くそぉ!俺、なんであの時声かけなかったんだよ!?千載一遇のチャンスだったじゃねぇか!)
こちらを恐ろしい目で見ながら今にもチョークを投げそうな教師など露知らず、勇雅は悩み続ける。時には頭を抱えたり、机に突っ伏したりして、まわりの生徒の視線などまったく気にしていない。
しかしついに、教師側の堪忍袋の緒が切れた。頭を抱えて体をそらしている勇雅に向けて、オーバースローでチョークを投げたのだ。
かなりのスピードでチョークは飛んでいく。他の生徒の頭上を飛び越え、一直線に勇雅のもとへ────────行くと思われたチョークは、再び机に突っ伏した勇雅の頭上を通り抜け、後ろに設置してあるホワイトボードに直撃して、大きな乾いた音をならした。
それによって意識が授業に戻ったのか、勇雅が前を向く。いかにも真面目そうな顔をして、『今まで授業真面目に聞いてましたよ』という表情で教師に視線を向ける。
チョークが見事に空ぶった教師は赤面し、肩をぶるぶると震わせている。それが勇雅には笑いをこらえているように見えたのか、俺何かしたかな、という顔で後ろを見る。
するとそこにはさっき教師が投げたチョークの残骸が散らばっており、それを見た瞬間勇雅は今の状況に気付いたようだった。
一瞬で勇雅の顔が真っ青になり、顔が引き締まる。元々立っていた背筋も、心なしかさっきより真っ直ぐに見える。
反省したような面持ちをした勇雅を見て気がスッキリしたのか、教師は普通の顔に戻り、授業を再開させた。
ことの顛末を観察していた勇斗は、いつまで後悔してんだと、静かに嘆息した。
◼◼◼
四限が終わり、給食の時間になると、晴男が勇雅のもとへかけよってきた。
「おい、どうしたんだよ。勇斗から聞いたけど、お前今日おかしいらしいじゃねーか。」
大体事情は察していたが、あえてそう聞く。勇雅は誰にも好きな人をばらしていないし、親友と言っても差し支えない晴男や凛音にも話さない。だから勇雅の好きな人は誰も分からない、というのがこの学年の一般常識だ。
だが晴男からしてみれば、何故ああも露骨なのに気付かないのだろう、といった感じだった。美咲と何かある度にああやって思い悩むし、いつも美咲の方に視線を向けているし、美咲の話をするときはいつも機嫌がいい。
あれで気付かないお前らもどうかと思うぞ、といつも晴男は思っていた。
だが、それをまわりに知られるのは嫌だろうと思い、あえて、晴男は誰も来なさそうなところで声をかけた。
「あのさ、俺、好きな人に話しかけられないんだ。」
しっかりと予想していた返答が帰ってきた。勇雅は晴男が自分の好きな人を知っていると知らないのだ。晴男はそれを悟り、答え合わせもかねて、勇雅に聞いてみる。
「ああ、美咲のことだろ?」
そう言った瞬間、勇雅の顔が驚きに染まる。目を見開き、口を半開きにし、普段では見せないようなアホ面を下げている。
「な、お前···なんでそれ···いや、誰にも喋ってないのに···」
かすれた声で勇雅がそういうので、最大限の気遣いを込めて、言葉を返す。
「いやいや、あれでまだ知られてないと思われてたのが心外だわ。」
「な、お前、超能力者だな!?」
ついに頭の悪いことを言い出した勇雅に、なだめるような口調で優しく教える。
「まあ、現時点では俺しかこれを知らないと思うよ。」
そういうと、勇雅の顔が安堵に彩られ、花が咲いたような顔になる。
「ああ、よかった!晴男なら誰にもばらさないし、これ以上広まらないもの!」
わーいわーいと心の声が聞こえてきそうな程に喜び、小躍りする勇雅を、少しからかってみる。
「あー、それじゃ、陽菜あたりに漏らしちゃおっかなー。」
陽菜とは、三組で一二を争う情報網を持つ、賑やか系女子である。
それを聞いた勇雅は、情けない顔をして、こちらに訴えてくる。
「そ、それだけはやめてくれぇ···。」
それがあまりにも泣き出しそうな顔だったので、晴男は発言を訂正する。
「ははは、冗談だよ。俺がばらすと思うか?」
「思わない。ありがとう。」
依然泣き出しそうではあるが、どこか安心したような顔で、勇雅は言う。それを見て、晴男は笑ってしまう。それにつられて勇雅も笑い、そこには笑顔の華が咲く。
晴男も勇雅も、考えていることは同じだった。
(いつまでも、こんな楽しい時間が続きますように。)
教師がやって来て注意されるまで、二人は笑い続けた。
◼◼◼
同時刻、ある場所では、恐ろしい事が行われようとしていた。
悪意を含んだ顔たちが、悪魔の言葉を紡いでゆく。
勇雅達の望みは、確かに、恐ろしいほどのスピードで、砕かれようとしていた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
まだ現実世界が続きますが、そろそろ戦闘ねーかなーと、作者自身が思っております。
これからも頑張るので、読んでいただけたら嬉しいです。




