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夢の中だけRPG‼  作者: 佐賀葬送
第一章
19/51

変わるために 

今回も勇斗話です。

最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

                 19


 まず勇斗は行動を変えた。今までの人を見下したような態度を改め、できるだけ友人を作ろうとしたのだ。引っ越した事で学校も変わり、人間関係をリセットしてのスタートだった。


 あの年老いた使用人の言っていたことを胸に刻み、『良い頭を使って友人を作る』ことに全力を注ぐことにした。


 転校生だからといって誰かが話しかけて来るのを待つのではなく、自分から積極的にクラスメイトと交流するようにした。話すときには、人を見下したような態度をとらないように、笑顔を絶やさないように、誰からも慕われるような人物像を作り上げていった。


 そのなかで、人に気を使い過ぎていると自分も息苦しくなるので、自分の意見も時には言うことを意識した。


 誰かが助けを求めていれば必ず助けたし、相談にも必ず乗った。誰から話しかけられても笑顔で、嫌なことを言われても『どうしたの?』と逆に相手を心配した。


 さぁ、皆さん。誰に対しても人当たりがよく、優しく、勇敢で、頭が良く、運動ができて、イケメン。こんな人間がいたら、どうなると思いますか?


 そう、勇斗はたった二週間でクラスの人気者になった。毎日疲れてしまうほどまわりの人が話しかけてくるようになったし、週末の予定もいつもカツカツだった。何人も言い寄ってくる女子はいたけど、彼女を作るつもりはないので全て断った。


 そんなある日、この学校に転校生が来るということを聞いた。それは、元々勇斗がいた裕福な家のものばかりが通う、あの、地獄のような学校からだった。勇斗が首を吊ってから、1ヶ月程のことだった。


 その日から、勇斗は怖くなった。その人がここに来るまでの一週間がいやに長く感じた。それでも、関係だけは崩すまいという意地で、友達とは笑顔を交わし続けた。


 毎日が苦痛だったあの日から、やっと解放されたと思ったのに、またあの場所の人間と関わるのはもう嫌だった。またいじめられるのではないか。せっかくの今まで作ってきたイメージが、その人間の一言で、『あいつ、前の学校ではさ───』の一言で、崩れてしまいそうな気がして、苦しくて、夜も眠れなかった。


 そうして、一週間がたった。休んでも意味がないと思い、勇斗は学校に行った。朝のHRでその転校生が呼ばれた時が、人生で一番緊張した場所だった。


 「入って来て。」そういわれて教室に入ってきた男の子には、見覚えがあった。少しつり目で、短く切られた天然パーマ。たしか名前は─────


「吉川晴男です。ここで残りの二ヶ月間お世話になります。よろしくお願いします。」


 そう、吉川晴男だ。あの学校で唯一勇斗ををいじめなかった人間。


 あの学校で、勇斗と晴男は成績の一位と二位という関係だった。あの学校でその二人だけは成績がずば抜けていて、まわりがまったく相手にならなかった。晴男も勇斗と同じくまわりを見下していたはずだが、晴男はそれを出さないのが得意だった。


 成績がよくて、いじめをうけている人間と、成績がよくて、友達から慕われている人間。あの学校で、勇斗と晴男の扱いは雲泥の差だったが、頭の中ではいつも相手のことを考えていた。


 成績こそいつも勇斗が一位だったが、その差はほとんど無いに等しかった。


 勇斗が満点以外をとることなどなかったので、五教科で500点だとすると、晴男はいつも499点とか、498点をとっていた。二人とも、あの世界では小さすぎて、つまらなく思っていた。


 だから、勇斗は晴男の顔を見たとき、なんでここにきたのか一瞬わからなかったが、あの学校では社会を学べないと思ったのだろうと勝手に見当をつけた。


 挨拶をし終わった晴男が、他のクラスメイトから質問を受けていた時のことだった。勇斗は何気なく、つまらないなぁ、と思いながらことの顛末を見守っていた。その時だった。ふと、晴男が、こっちを向いた。晴男も何気ない気持ちでそっちを向いた。


 勇斗と晴男の目があった。少し間をおいて、晴男は気付いた。そして、何故お前がここにいる、という顔をした。それは、嫌悪感故の感情ではなく、純粋な疑問の感情だった。


 HRが終わった後、すぐに晴男はこちらに声をかけてきた。何を言われるか不安だった勇斗にとって、晴男の口から出てきた言葉は驚きだった。


「久しぶりだな。こっちではうまくやってるみたいじゃねぇか。」


 その言葉に、一切の気遣いは含まれていなかった。純粋に感情そのものをぶつけた言葉だと、勇斗にはわかった。


 驚いて、一瞬呆けてしまった勇斗に、晴男からまた声がかかる。


「おい、どうした?」


 心配してくれていることに、胸が熱くなった。晴男の優しさに、胸が震えて、何もかも思っていることを吐き出したくなったが、さすがにプライドが邪魔をして、出てきたのはこんな言葉だった。


「ああ、ありがとう。おかげさまで、楽しくやらせてもらってるよ。」


 その受け答えに驚いた様子を見せた晴男は、また何か言おうとしたが、近くにいた勇斗の友人の言葉によって、さえぎられた。


「オーイ、勇斗ー。今週の日曜、映画見に行かねえ?」


 それに勇斗は、にこやかな顔で申し訳なさそうに返した。


「うーん、ごめん。その日、先約があるんだ。」


 その言葉に、そのクラスメイトは怒るでもなく、笑って返した。


「そっかー、残念。でもま、勇斗だしな!もしかして、デートか?」


 いじわるーい、からかうような口調で、そのクラスメイトはしゃべる。それに対し、勇斗も本当に焦った様子で返す。


「い、いや、そんなわけ...あ、でも、女子複数人とショッピングに行くのって、デートになるのか?」


 ぶつぶつと考えている勇斗に、そのクラスメイトは言う。


「冗談だよ!勇斗が彼女作らないのは、みんな知ってるからな!」


 その言葉に、勇斗がほっとした様子で「ありがとう」と返すと、そのクラスメイトは、「じゃあなー」と言って、去っていった。


 その様子を終始驚いた様子で見ていた晴男は、声を震わせながら、勇斗に喋りかける。


「お、おい、お前、あんな受け答えできるやつだったか?」


それを聞いて、勇斗は返す。


「いや、最初のうちはできなかったよ。でも、努力したんだ。」


 それに晴男は、納得した様子でうなずいて、その場を離れた。


 それからの卒業までの二ヶ月間、晴男と勇斗はどんどん親しくなり、親友と呼んでも違和感のない間柄になった。


 二人とも、行く中学校は同じだった。卒業式の日も、その二人だけは泣くことはなかった。


 晴男と勇斗は、中学校でも同じクラスになり、一年間充実した日々を過ごした。


 そうして、一年たち、夏休みがあけた頃、あの世界に引き込まれたのだ。

最後までお読みいただきありがとうございました。


諸事情により、ちょっと作者の近況報告をお休みさせていただきます。

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