過去の記憶 [見下すのは勇斗だ]
今回ちょっと暗いです。
楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
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【伊藤勇斗の真実】
伊藤勇斗は、元来真面目な人間である。中学になってからの勇斗は、言うなれば薄い、そして浅い仮染めの姿だ。
小学時代の勇斗は俗に言うガリ勉で、友人も最低限のものしか作らず、人生全てを勉強に費やしているような人間だった。では、なぜ今の勇斗があのようなことになっているかというと、端的に言えば、家庭の事情である。
勇斗の家は、とても厳しいところだった。どんな面で厳しいかというと、全てにおいて、である。朝起きるところから、寝るまで。そしてまた朝起きてから、寝るまで。食事のマナーや歩き方、人との接し方まで、あらゆる事を叩き込まれた。それは、今のチャラい勇斗にも反映されている。だからこそ、女子にも人気が出るのだろう。
何故家庭がこんなことになっているかというと、それは、勇斗の家がかなり裕福だからである。勇斗の代では跡継ぎが勇斗一人しか生まれなかったため、余計に勇斗には沢山の教育が施された。
小学一年生で六年生までの単元を完璧に理解し。
小学三年生でほとんどの感情が消え。
小学四年生で親友意外がゴミにしか見えなくなり。
小学六年生で親友すらも失い、孤独になった。
小学六年生になると同時に親友に別れを告げられ、途方にくれた。その影響で、余計に勉強時間が増え、夏休みが終わった頃には高校の内容すら完璧になっていた。
しかし、勇斗は時間のかけ方を間違えた。頭はもう十分だったのだ。勉強する時間を友達作りにまわせばよかったのだ。小学六年生になっても、勇斗に言い寄ってくる男女はたくさんいたのだ。だが、まわりを見下していた勇斗は、それを全て完膚なきまでにはねのけた。
運動会も、合唱祭も、文化祭も、あらゆる場面で勇斗は一人だった。
しかし、時間を費やし続けた勉強だけは誰にも劣らず、成績はいつも一位だった。『勉強だけできても実技ができなきゃダメじゃない?』と思うだろうか。勇斗も勿論そう思っていた。だから、人一倍トレーニングをした。体もがっちりしてきて、風邪を少しもひかなくなった。
さぁ、皆さん。まわりを見下し、成績がとても良く、顔はイケメンでスポーツができる。そんな人間の学校での扱いは?
そう、勇斗はいじめを受けた。夏休みが終わった始業式の日が始まりだった。まず、ベターに、机に花瓶がおかれた。それを勇斗は黙って元の場所に戻した。
次に、陰口を受けるようになった。あえて勇斗に聞こえるよう、少し大声で言われた。それも、勇斗は無視した。
極めつけは、暴力だった。殴る蹴るは当然のこと。鉛筆で刺された事もあれば、後ろからバケツで水をかけられた事もあった。
これほどひどいことをやっていれば発覚するだろうと、勇斗は思っていた。しかし、学校とはこういうものである。生徒たちもかなり巧妙にいじめをしていた。しかし、教師がいじめに気づかないはずがない。
教師たちも、知っていて無視をした。勇斗に声をかけることすらなかった。全員が、《ことなかれ主義》というやつだった。
勇斗のプライドがなまじ高いのも発覚を遅らせた。勇斗は教師は勿論、親にも相談をしようとしなかった。その間も、勇斗は一位を取り続け、まわりの人間を見下し続けた。
事が起きたのは、冬休みが終わり、卒業に向けてのスタートだ。と、いう時期だった。
始業式の日、勇斗は学校に来なかった。いじめていた者たちは自分たちの努力が実ったと、間違った喜びを称えあっていた。しかし、始業式が終わった後、急遽開かれた全校集会で話された言葉を聞いた瞬間、全校の顔が青ざめた。
『勇斗が首を吊った』と学校に連絡が入ったのだ。勿論いじめていた者たちは大慌てである。所詮そんな度胸もないのだ。
しかし、勇斗は死んだ訳ではなかった。朝、勇斗の部屋を掃除しに来た使用人が、首を吊っている勇斗を見つけ、すぐに下ろしたのだ。それによって、勇斗は助かった。
この首吊りは、いじめていた奴等に後悔させてやる、といった類のものではない。ただ、疲れたのだ。この日常に。この世界に。馬鹿共が平気で我が物顔をしているこの世の中に。
病院のベッドの上で、助けてくれた使用人に感謝と共にそう言うと、使用人はこんなことを言って来た。
「勇斗様、『井の中の蛙大海を知らず』という言葉を知っていますかな。今のあなたはまさにそれです。自分だけが特別だと思い、まわりを見下している。」
それに対し、不服な顔をして勇斗は返した。
「それの何が悪いんだ?全員俺より下なんだ。頭をあいつらに下げろってのか?」
それを聞いて、使用人は目を細めながら口を開いた。
「いいえ、そういうことではありません。あなた様は頭が良い。その頭を、友人作りに使ってはどうでしょうか。私もそう長くありません。最後に、勇斗様のおもいっきり笑っている顔を見たいのですよ。」
その使用人が、勇斗の最も信用していた、心を許していた人物だからかもしれないが、その言葉は、勇斗の胸の深くに響いた。
退院すると、家が変わっていた。親が引っ越したのだという。いじめのあとにはありがちなことだ。あの使用人もいなくなった。その家で一週間程過ごした時、やって来たのは若く、清潔な女の使用人だった。
勇斗はすぐにあの使用人の事を聞いた。返ってきた答えは、予想だにしないものだった。
「あの人は、急性心臓麻痺で亡くなったそうです。」
その言葉を聞いた瞬間、自然に涙が溢れた。消えていた感情が一気に取り戻されたかのように、勇斗の眼は止めどなく涙を溢れさせ続けた。
その日からである。勇斗が変わり始めたのは。
最後までお読みいただきありがとうございました。後一話、勇斗話を入れるつもりです。
では、恒例、作者の近況報告ー。いぇーい。
私ですね、前でも書いた通り、学生なのですが、授業が始まる時に礼をするじゃないですか。私の筆箱はペン類を縦に立てるタイプなんです。
もう皆さん、大体予想がついたんじゃないですか?
そう、私、ものすごい勢いで礼をしたんです。そしたら、見事におでこにシャーペンが刺さりまして。刺さった瞬間、プチって肉が裂ける音がしましたね。
やー、いたかった!
血も出たよ!かなりの量ね!
そ、それだけです。締め方がよくわからないまま終わってしまった。
じ、じゃあ!これで!読者の皆さん、最後までお読みいただき、本当に、ありがとうございました!