お、俺の好きな人?! [焦るのは俺だ!]
ちょっと多めに書きました。
楽しんでくれたら嬉しいです。
16
あぁ、イライラ、あー、イライラ。ドカッ!ザシュッ!ガツンガツン!イライラにまかせて、ひたすらにモンスターを切り刻む。さっき8レベになった表示が出たけれど、もうそんなことどうでもよかった。
なんなんだアイツは。あー、イライラ、あぁ、イライラ。ダメだな、こりゃ。気を取り直そう。俺はそう考えて、ウサギを一撃で消し去る。辺りを見回すと、モンスターのドロップが枯渇したのか、まわりのグループメイトがモンスターのリポップを探しまわっているのが見えた。
(申し訳ない事をしたかな?)
まぁ、いいや。もっと殺しちゃえ。なんか不思議で爽快な気分になった俺は、楽しくレベル上げを再開した。
それからしばらくして、そろそろ9レベかな?とウインドウを確認しようとしたところだった。
「おい、ちょっといいか。勇雅」
そう話かけてきたのは、三組の猪爪優汰だ。三組のリーダー的存在で、成績は中の上といったところだが、イケメンで、短髪のヘアースタイルは、サッカー部を思わせる(実際に彼はサッカー部なのたが)。レベルは12で、今のこの世界では一番レベルが高いだろう。武器は刀で、いかにも武士、といった服装をしているので、元々のモテモテが倍増している(と、誰かの話で聞いた)。
それでも、実は力のステータスはほとんど変わらないのだ。何故かというと、この世界、ひどいことに、現実世界での力の強さに、力だけ、ステータスが比例しているのだ。だから、スピードや防御力の違いはあれど、力はほとんど変わらないのだ。
ほかにどんなステータスがあるかというと、《防御力》、《速さ》、《LP》の三つである。この三つは、レベルアップ時に手に入るスキルポイントで自分好みにステータスを振ることができる。
優汰のステータスがどんな風に振られているのか知らないが、俺より強いのは確かだ。
優汰に話しかけられて、何の用か全くわからなかった俺は、少し考えた後、優汰の方を向いた。
「なんだ、優汰?」
「あ、いや、そんな特別なことじゃなくてな、ただ、6時だから解散にしようって言おうと思って。なんかすごい真面目にやってるから止めたくなかったんだけどさ。」
「なんだ、そんなことか。ああ、いつでも大丈夫だ。ちょっとイライラしてただけだから。」
「あぁ、確かにね。あんなことになったら誰でもイライラしそうなものだよねぇ。」
おお、ここに分かってくれる人がいた。ありがたい。俺は、そうだ、こんなことしてる場合じゃないんだ、と思い、優汰に促す。
「あ、おい、こんな悠長に話してていいのか?解散しなくていいのか?」
「大丈夫、心配しなくていいよ。俺、勇雅と話したいことがあったから、もうみんなには帰ってもらったんだ。」
「なんだ、準備がいいな。で、話したいことって?」
「ずっとここで話すのもどうかと思うからさ、フィルストに帰りながらにしようよ。」
「そだな。じゃ、行こうぜ。」
フィルストとは、俺達の最初に降り立った街である。一応フィルストからボス部屋までにいくつか村があるが、村は入るだけでは意味がない。『村長』と呼ばれる人に話しかけ、クエストをクリアする必要があるのだ。誰か一人がクリアするまで宿屋が使えないので、面倒きわまりないのだ。
だから、ほとんどの人間がフィルストの街を使っている。そんなわけで、俺たちは少し遠いのを我慢して、フィルストに帰っていると言うわけだ。
林を抜け、草原フィールドに入ったところで、俺は優汰に用件を聞いた。
「で、用件ってなんなんだ?」
「あぁ、その事なんだけど...。」
少し深刻そうな顔を優汰がするので、俺も真剣に耳をかたむけて優汰の言葉を待つ。少し間を置いて、優汰は口を開いた。
「勇雅ってさ...好きな人、いるの?」
......え?どゆこと?一瞬混乱したものの、ここで答えないのも不自然だと思い、一応答える。
「あ、ああ。いるよ。」
「へえ!誰、だれ?!」
いかにも興味津々といった様子で、優汰は聞いてくる。
「いや、教えないよ。なんか恥ずかしいからさ。」
「やーやー、言った方が楽になれるよ?」
「いや、悟らないから、俺。すべてを我が身に、的なまずい悟りかたしないから。」
「いや、勇雅君が何を言いたいのか全くわからないけど。俺は、勇雅君の好みを知りたいんだ。」
「俺、自分でも意味わからんこと言ってる自覚があっただけに、余計に恥ずかしいんですけど。で、俺の好みだっけ?そうだなぁ、肩ぐらいまでかかった髪に、鉛筆でも乗るんじゃないかって位長い睫毛で、肌は雪のように真っ白で、手足が触れたら折れそうなくらい華奢で、いつも控えめな女子かなー。」
「もう小説の説明描写みたいだね。それだけ聞くと、たった一人を特定して説明しているように聞こえるけど。」
「な、な、そ、そんなことねぇよ!お、俺は好みだって言っただけで...。」
「あれー?でも、勇雅、好きな人、いるんだよねぇ?てことは、そんな特徴の人を探せばいいのかー。」
「なー!?な、な、やめろぉ!お願いだよぉ、やめてくれぇ。」
「ハハハ、冗談だよ。人のおもいびとを無駄に詮索しようだなんて、考えないさ。」
そこまで優汰が言ったところで、俺たちはフィルストの街に入り、各々の宿に向かう。
「じゃあね。勇雅。頑張れよ。」
「ああ。探すなよ。」
「わかってるよ。じゃ、また学校で!」
「おう!またあとで!」
久々に気分が高まっていることを心臓の鼓動と共に意識しながら、俺はいきつけの宿に向かって走り出した。
現実...せか、い?
前話のあとがきでそんなことを宣った作者がいました。
あ、あれぇ?現実、いくつもりだったんだけどなぁ?
時間が足りませんでした。すいません。
次話こそ、現実世界です(ホントだよ!)。
最後までお読みいただきありがとうございました。