まさかの決闘! [打ち合うのは俺だ!]
今回少し長いです。
飽きずに読んでくれたら嬉しいです。
14
俺はイライラしていた。理由は勇斗がうざいからである。
い、いや、少し待ってもらおう。今、「うざい人がいるだけでイライラするとか怖すぎだろ。」と思ったそこの人、待ってほしい。
さすがの俺でもうざい人がいるだけでイライラしたりはしない。今俺がイライラしているのは、今日この世界に来てからの勇斗とのやり取りが原因である。
それは、こんな出来事だった。
◼◼◼
「おい、こっちに来いよ。」
皆で林の中でモンスター狩りをしていた時のことだった。今は今日の昼に俺が提案したプランで二年生が五つのグループに分かれてレベル上げをしているところなのだ。
ボスの適正レベルが5ということで、「全員のレベルを7まで上げるぞ大作戦」を行っているのである。
学年、いや学校イチの美少女である優香を救うため、全員がやる気満々だった矢先のことである。
俺の呼び掛けに、勇斗はどこから持ち出したのか、ティーカップを右手にゆらゆらさせながら応じてきた。
「なんだい?勇雅だけに、僕の優雅なティータイムを邪魔しないでくれるかな?」
「そのいらつくダジャレやめろ。あと、全員がやる気出して、元々嫌々だったやつも頑張ってるんだから、お前も参加しろよ。」
「いやぁ勇雅君、君は間違っているよ。僕がやる気を出していない時点で、「全員がやる気を出している」という君の発言は矛盾しているのさ。」
ドヤッと音がしそうな位の気持ち悪い笑顔で応じてくる勇斗。
この時点ではまだ俺のイライラは頂点には達していなかったが、堪忍袋の緒はあと一本の二分の一位になっていた。
その中で俺は怒鳴りたい衝動を抑えこみながら言葉を返す。
「お前、レベル低いだろ。俺は出来るだけ死人を出したくないんだ。協力してくれたっていいじゃねーか。」
少し声が大きくなってしまっていたらしい。周りにいるグループメイトも、異変に気付き始めている。
しかし、そんな事を気にも止めない様子で勇斗は返してくる。
「ははっ。君たちも知っているとおり、この世界は現実でのスペックが初期ステータスにもろに影響する世界さ。僕は君達と違って、この世界でも現実でも、スペックは数段上なのさ。君達凡才のレベル5は、僕のレベル1に相当するのかい?僕は君達なんかよりもすでに強いんでね。疲れるレベル上げなんてしてられないのさ。分かったかい、諸君?」
その身勝手きわまりない言い分に、ついに俺の頭の中で何かが切れた。
「てめぇ、そこまで言うなら、俺より強えんだろうな。」
現時点で俺のレベルは6であり、勇斗のレベルは3のはずだ。俺は、今日のレベル上げで二つもレベルアップしたので、スキルも合計で3つ習得している。
勇斗のレベルを下と見て、俺は戦いを申し込んだ。
この世界には「決闘モード」というものがあり、LPが半減するまで戦い続け、先にLPが半分になった方が負け、というシステムだ。
「決闘だ、勇斗。」
「いいよ。でも、君が僕に勝てるのかい?」
「俺はレベル6だぞ。お前こそ勝てるのか?」
そう言っても勇斗のニヤニヤ笑いは消えない。何か切り札でもあるのだろうか。いや、そんなことはないはずだ。なんせ勇斗はレベル3なのだから。
俺と勇斗が承諾ボタンをタップするとウインドウが目の前から消え、立っている二人の真ん中に六角形が現れる。六角形の一辺が一秒に一つ減っていき、残り三つになったところで周りの皆の退避も完了したようだった。
六角形の辺が一つ、また一つと減っていき、残り一つとなったところで足に力をこめる。最後の一つがなくなった瞬間、元々六角形が浮かんでいたところに
『START』
の文字が現れ、弾けた。
その瞬間に俺と勇斗の足は、地面を蹴っていた。
二人の間合いが縮まる。両者が剣の間合いに入った瞬間、俺と勇斗の剣が打ち合わされる。ここまで肉迫して気付いたが、やはり勇斗の装備はきらびやかだった。片手剣は両刃ではなく片刃で、刃にも柄にも美しい装飾が施されているし、刃自体もまばゆく輝いており、相当の威力を持っていることを俺に伝えてくる。胸につけている鎧も、俺の簡素なプレートアーマーと違い、鍛え上げられた純銀といったかんじだ。
恐らく勇斗のスペックとこの防具を足せばレベル6などゆうゆう到達してしまうだろう。
まったく、現実世界のステータスがこっちに響くなんて、優しくない世界だ、などと考えながら俺は勇斗と剣を打ち合わせていく。
三十秒程斬撃の応酬を続けた時、ひときわ高い音が鳴り、両者の間合いが開く。
その瞬間俺は、
(ここだ!)
と考え、スキルを発動させた。
「《片手直剣流 初段スキル 霰》!」
勇斗も同じ考えだった様で、スキルを叫ぶ声が聞こえてくる。
「《ロイヤーソード流 中段スキル 双龍》!」
俺と勇斗の剣が鮮やかな水色に染まる。少しだけ勇斗の剣の水色が濃い気がしたが、それは勇斗のスキルが《中段》だからだろう。
言い終わった瞬間、二人同時に地面を蹴った。
その時、まだ間合いは五メートルもあるのに、勇斗が大きく剣を振りかぶった。
(なにしてんだ?)
俺は迷った。この距離で剣が届く訳がない。突っ込んでくる俺を迎撃しようとしているのだろうか。もしそうなら、俺の思うつぼだ。俺の技は間合いが広く、剣の間合いの外からも当てることができる。そう考え、俺が大きく一歩を踏み出したその瞬間、勇斗が剣を始動させた。
その時、勇斗の剣がひときわまばゆく光り、光の粒子とともに二本に分裂して、竜のように襲いかかってきた。
まだ剣の間合いに入っていないと油断していた俺は反応が一瞬遅れたが、すぐに立て直し突撃を中断。元々放つはずだった三連突きのうち、二発を一発ずつ竜に打ち込んだ。その瞬間竜は光の欠片になって四散し、勇斗の剣も元に戻る。
俺は、残る一発の突きを勇斗にくらわせるために、突撃の体勢に入る。
俺の技は《3連突き》となっているため、二回突きを放った今でも残り一発分のエネルギーが剣に余っているのでスキルのライトエフェクトは消えていないが、俺のスキルによって相殺された勇斗のスキルはライトエフェクトを失っている。
あと、三メートル。俺がそう考えた瞬間、勇斗が何かをぼそっと口走った。恐らくスキルだろう。しかし、今発動したとしても、それを俺に当てる時間はもう残っていない。
俺は全力で地面を蹴ると、体を捻り、硬直する勇斗の顔面に、全力で突きを放った。
ズガァァン!という凄まじい音と共に、勇斗の顔に俺の剣が突き刺さった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
勇雅と勇斗の戦闘はまだ続くので、次回も乞うご期待下さい。