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10話 二人の特級






 大聖祭会場。


「お前ら……なんで……」


 一次審査を突破し、二次審査では最高得点を挙げた男。八王の一角であり、タイタンやイフリートと肩を並べる『修羅童子』の魂を埋め込まれた少年。ルイスに才を認められ、勧誘までされた——羅刹。


 二次審査ではリリックを討ち果たし、大聖祭本戦では羅刹を倒し、リリックと死闘の末大聖祭準優勝を勝ち取った男。名家ラズグッド家の嫡子にして、王都で最も羨望をあつめる少年兵。

ドルトムント=ラズグッド。


「これだけ騒げば嫌でも気づくさ。それに、俺達だけではないぞ」


 気づけば大聖祭の闘技場を囲うように他の少年兵が集まっていた。

 アイニール=レストレンジ。

 フリーシェ。


 リリー=フラストレーション。

 バイエルン=エボーチカ。


 ジェームズ=トンプソン。

 モスカール。


 彼らを筆頭にして十数名。

 大聖祭で戦った者達が、全員集まっていた。


 そんな中で、羅刹が隣を見る。


「おいドルトムント、こいつらは何だ?」


「大方ダブルシックスの戦闘員といった所だろうな」


 リリックの目前で言葉を交わす羅刹とドルトムントは、緊張した面持ちのまま相手を見据えていた。

 その一方で、メディックとロメオは笑いながら顔を見合わせている。


「へぇ、俺の手刀を止めるなんて、びっくりしたよ」

「おいメディック。こいつらで良いんだな?」


「ああ、鴨が葱を背負って来たね」


 そして、メディックが手刀の形に拳を変えた瞬間。


「——破城槍!」


 巨大な槍とも見間違える赤い棘が、ロメオとメディックを襲った。


「アナタ方がどこのどなたか存じませんが、私の仲間を傷付けた事は許しませんよ」

「ハハッ、面白れぇ。おいメディック、こいつら全部俺によこせ!」


「良いよ、だが任務を忘れないでね」

「わかってるよ!」


 そう叫んだロメオは、アイニールを筆頭とした者達の方へ向かう。

 だがそれを黙って見ているはずもなく、ドルトムントが指示を出す。


「リリー、他の奴らを連れてそっちの大男をやれ。俺と羅刹はコッチを相手する!」


 そしてメディックへ向かう羅刹とドルトムントの肩を掴み、リリックが前に出た。


「どけ。お前らもアッチの男をやれ」

「…………どういう意味だ?」


「コイツは俺が殺す、俺が殺さなきゃならねえんだよ!」


 自分を絶望の淵へ追いやった男なのだから。


 あの里から、迫害にまみれる世界へ落としたこの男だけは。


「おい、リリック!」


 ドルトムントの静止を無視して、リリックは帯電した右手を握る。


――雷拳!


 だが、対面に立つメディックは、笑顔のままで手刀を向けていた。


「お前も学習しないね。だから死ぬんだよ」

「——白腕」


 カウンターで放たれるメディックの手刀は、どこからか飛来した白い腕によって軌道をずらし、リリックの肩をかすめた。

 それによって生まれた隙を突くように、リリックの雷拳がメディックを捕らえる。


 しかし、全くと言っていいほどに、効いていなかった。

 慌てて距離を取り、リリックは数歩下がる。


「リリック=ワーグナー、君はあの男の弟子なんだろう? なら死なすわけにはいかない。借りはしっかりと返さなければ、ボクの気が収まらないんでね」


 ふと隣に立つ羅刹が、そんな事を言った。

 そして同時に、全身に魔力を込めている。


「腕頭鎖連鎖!」


 その瞬間、空中に現れたのは捻じれ合った多数の腕だった。

 色んな腕が、まるで互いに掴みあっているような形で、多くの腕が現れていた。


「殺したいなら殺せばいい、だが君一人で相手できるほどこの男は弱くない。それくらいは解るだろ」

「何があったか知らんが、少なくとも俺はお前を見捨てるような事をするつもりはないぞ。我が恋敵よ」


 リリックの隣にドルトムントも並び、リリックは覚悟を決めた。


「——チッ、足引っ張るなよお前ら」






 ××××







貯蔵解放(ボックスオープン)・サウザウントナイフ!」

属性付与(エンチャント)・フレイム」


 リリー=フラストレーションとバイエルン=エボーチカによる、即興のコンビネーション。無数のナイフが炎を帯びて、その全てがロメオを襲う。


「サンドウォール!」


 燃えるナイフに気を取られた一瞬、モスカールの放った魔法によってロメオを囲うように土の壁が現れる。第二試験でアイニールを分断するために放った魔法。


「今だよジェームズ君!」

「フレイム・ボム!」


 土の壁により大きな窯のようになった地形に向かって、ジェームズ=トンプソンは火属性の魔法を放った。蒸し焼きとまではいかないが、それでも火力の威力増減にはなるだろう。


 そんな戦闘の中、メイアはフリーシェの肩を借りて移動する。


「メイア、無事ですか?」

「うん、リリックが庇ってくれた」


 隣に着地したアイニールにそう返し、具現化した棘を一本受け取る。

 武器となるような物を現在持ち合わせていない以上、この方がいいだろう。


「あの方達は何者ですか?」

「わからない。だけどあっちはリリックのお兄さんだって」

「リリックの……とりあえず、あちらはあの三人に任せましょう。それより私達はあの男性を相手にしましょうか」


 そう言ってアイニールが地面に手を付いた瞬間、土窯を囲うようにして無数の棘が現れ土窯を貫いた。

 炎が上がり、土の欠片が様子を見れないようにしている。

 だが、そんな中であってもメイアの魔眼は全てを見ていた。


「ハッハァ、下らねえ雑魚じゃねえか。試しに攻撃を受けてみたがこの程度かよ」


 まるで無傷。

 服は多少破れてはいるが、それでも血の一滴たりとも落ちていない。


 メイアは持っていた棘に魔力を通して武器化する。

 戦闘力は低いが、それでも観戦しているだけというわけにはいかない。

 なによりリリックが心配だ。


「フリーシェ、アナタは外に出て誰かを呼んできて」

「メイア、残念ながらそれは無理です」


 アイニールが空に指をさし顔を上げると、闘技場の真上になにか薄い膜のようなものがかかっていた。


「どうやら結界のようでして。外には出られず、ドルトムントが持っていた非常用の通信結晶も使えませんでした」

「私達だけでなんとかしろっての?」


「ええ、ですのでフリーシェ。アナタは下がっていてください。メイアもあまり無理はなさらぬようお願いしますね」

「……わかった」


 魔眼を発動させ、メイアは息を飲んだ。

 メイアの眼に映るもの。


 メディック、ロメオの二人が持つ魔力は、勇者に肉薄するほど大きかった。

 勝てるはずがない。


 だが逃げられず、助けも呼べないのであれば戦うしかない。


「よし、行くわ――」


 その瞬間、二人の間を岩のような何かが通過して闘技場の壁に叩きつけられた。


「——え?」


 目を向けると、壁にめりこみ意識を失うバイエルンの姿があった。

 大量の吐血をし、そのまま首を垂れて動かなくなる。


「うわっ、やっべぇな。殺しちまったか?」


 慌てて臨戦態勢を取りロメオの方を見て、メイアとアイニールは動けなくなった。

 違う。


 先ほどまでの男とは、まるで別人だった。


「まぁこの程度で死ぬんだったら素材にもいらねえか」


 先ほどまでの大男の風貌とは見違える程に変化していて、大柄だった体躯はその大きさをさらに増し、口からは四本の牙が見えていた。目は燃えるように紅く染まり、額からは一本の角が生えている。


「……え?」


 そして、メイアの眼には、それ以上の変化が映っていた。

 先ほどまでの魔力量も膨大であったが、あの姿になった後の男は、その何倍にも魔力が膨れ上がっている。


「おらおら、どうしたテメェら! ぶっ殺されたくなけりゃ死ぬ気で抵抗しろよ! ヒャハハハハァ!」



 そして男は拳を打ち下ろす。





 ××××






 魔法陣を空中に展開し、そこへ魔力を込める。

 一撃ずつではタイタンの肉厚を打ち破れなくとも、数カ所から集中的に一点を打ち続ければどうにかなるかもしれない。


「——多連鎖状陣!」


 多方向から放たれる無数の閃光が、タイタンの足を一点に捕らえる。属性を付与していない純粋な魔力の塊だが、多方向からの同時集中攻撃によってタイタンのアキレス腱が削れる。


 タイタンの防御力を支えている物、それは高純度の魔力が込められた肉体もさることながら、生半な剣で刺そうとも傷一つつかない皮膚の硬度にもあった。


「一点集中——」


 ならば、皮膚の下にある肉へ直接斬撃を叩きこめば、

 山をも切り裂く斬撃を捻じりこめば、


「——刻烈斬波!」


 二万の魔物を一振りで壊滅させるほどの斬撃を一点に集中させる。広範囲型から一点集中型へ、抉れたタイタンのアキレス腱から膝に向かい、一閃の斬撃を貫通させる。


三重(トリプル)氷結紅蓮幕(アイスエイジロス)


 間を置かずに放つルイスの氷結魔法が、タイタンの膝を氷漬けにする。その結果右足のアキレス腱、左膝を氷漬けにされたタイタンがバランスを崩し、そのまま地面に手を付いた。


「雷撃――」

「煉獄――」


 畳みかける勇者二人の連撃。

 ルイスの持つ最大火力の弦撃魔法と、ウォルフォートの持つ最大規模の火炎付きの斬撃。


「——這獄稲妻!」

「——昇竜斬撃!」


 その二つが捻じりあい、大きく開いたタイタンの口内へ叩きこまれた。

 体内で起こる連鎖爆発。


 行き場を失った爆風がタイタンの体内を傷付け、その一部が口からそとに黒煙を放った。

 だが、渾身のコンビネーションにも関わらず、タイタンはゆったりとした挙動で立ち上がった。怒りに顔を歪め、息を荒げてルイス達を見下ろしている。


「いくらなんでも硬すぎない?」


 ウォルフォートがそう呟いたほんの数舜後、タイタンの咆哮がルイス達諸共大地を消し飛ばした。





 ××××





 王都北西部にて魔物の掃討を指揮していたメイドゥーンは、突如現れた虫に気を散らされた。魔界蟲、それも無暗に潰せば毒を散布する蠅型。正しい殺し方をしない限り、散布された毒によって味方が減っていく。


「総員傾注、魔界蟲は一級、二級兵士で叩きます。それ以外は虫を殺し切るまで魔物の足止めをお願いします!」

「「「了解!」」」


 一級兵士でもあるメイドゥーンも戦線に加わり、蠅を一体ずつ確実に殺していく。散布された毒は幸いにも致命には至らない。時間はかかるがゴーレムも居ない分、楽な仕事ではあるだろう。


「あれぇ? 女の人が指揮官なんだね?」

「——え?」


 不意に隣に立つ一人の少年がいた。

 いったい、いつの間に。


 気配も何も感じなかった。

 ただいつの間にか、隣に居た。


「えっと、ゴメンね?」


 少年が呟いた瞬間、口の中に鉄の味が広がった。

 熱い。


 まるで焼き印を体内に植え付けられたような痛みが腹を中心に広がっていて、目を下げると少年の腕が腹を貫いていた。


「メイドゥーン様ァ!」


 すると突然どこからか現れた黒いゴーレムが三対、少年の周りに現れた。まるで空から降って来たかのように、地面を割って着地する。


「た、すけ――ジェイクさ……」


 主人の名を呼ぼうとするメイドゥーンへ、無慈悲な斬撃が浴びせられた。





 ××××






 王都西部。


 クロード辺境地兵達が交戦する相手は、タチャンクス=アッシュと名乗っていた。


 数は減ったと言ってもクロード護衛の為に同行したのは、全員三級以上の能力を持つ兵士達。王都のそこらに居る兵士とは違い、どれも戦闘に特化した能力をいくつか有している。


 だから、負けるはずがないと思っていた。

 少なくとも、ベリアルは。


「凄いわねアナタ、私の首を三回も落とすなんて」

「——クソ、が!」


 周囲に居る仲間達は全滅し、残ったベリアルも首をタチャンクスに締め上げられていた。ゲイルも、グレゴリアも地面に横たわったまま動かない。仲間の何人かは既にゴーレムに呑まれていた。


「でも残念。私に斬撃って効かないのよ、斬撃ってか物理攻撃? まぁ相性が悪かったわね」


 そう言ってタチャンクスは左腕を硬質化させ、腕を剣の形に変える。どういった魔法なのか検討もつかないが、それでも先ほどからこの女は体を液体化させたり硬質化させたりを繰り返している。


 そのせいで首を落とそうが体に風穴を開けようが、全くと言っていいほどにダメージがない。


「安心していいわよ、アナタは死なずに素材になるだけだから」


 ふと視線を右に逸らすと、ゲイルとグレゴリアがゴーレムに呑まれていた。

 連れ去れられる。


 ベリアルは剣を持っていた手を放し、その手でタチャンクスの両目に指を突き立てた。首を落としても死なないが、それでも一瞬だけ時間を稼ぐことができる。


 首を締め上げる手が緩み、そのすきを見てベリアルは剣を拾い、それをゴーレムへと投げつける。背後から魔力を帯びた剣の投擲がゲイルを呑んでいたゴーレムの足に突き刺さり、その動きが止まった。


「レディの目に指を突っ込むなんて、酷いじゃない」


 気づけば、脚を一筋の槍で貫かれていた。

 硬質化した腕を形状変化させ、それで足を貫いている。


「——グッ!」

「あなたそこそこイケメンだし、ゴーレムになっても可愛がってあげるわ」


 そしてゲイルの体を包むように、タチャンクスの体がドロドロに溶けていく。


(クソ、誰か、居ないのか!)


 周囲にいる者は、ゴーレムによって全滅させられている。

 タチャンクスに戦力を裂きすぎたのが原因だが、それがこの女の目的だったのだろう。


「——豪・劉撃!」


 その瞬間、ベリアルの周囲を爆風が覆い、タチャンクスの体を吹き飛ばした。


「——何だ!?」


 吹き飛ばされそうになる体を地面を掴むことで踏ん張りつつ、ベリアルは空を見上げて、

 その女を見た。






 ××××







 指揮官を切り刻み、ゴーレムに飲ませたムスリムジョーは周囲を見渡した。囮の魔界蟲によって、戦闘に当たっていたのが全て二級以上の力を持った兵士だという事は見破っている。


 精鋭の軍勢。


 それがエルドリア王国の兵士。

 その中でも指折りの力を持つ二級以上の兵士であれば、良いゴーレムの素材になる。


 タチャンクスから、そう教わった。


「さてと、お仕事お仕事♪」


 独特なリズムでそう呟き、ムスリムジョー=ジャッカルは周囲に居る兵士を根こそぎ切り刻んだ。死んでもいいくらいの深手で、辛うじて生きている者だけをゴーレムに飲ませれば良い。


「ハッハッハァ!」


 笑いながら斬撃を飛ばし、血煙と悲鳴が上がる。

 抵抗してくる者もいるが、スリムジョーに敵う相手も居らず、たちまち地面が鮮血に染まった。


「次は君だよぉ!」


 そして再び斬撃を兵士へ打とうとした瞬間、目前に植物の壁が現れた。


「動くな」


 それと同時に体を拘束するように、地面から蔓が生えてムスリムジョーの体を縛り上げる。指一本として動く事ができないほどの緊縛術だった。


 ムスリムジョーは声がした方を向き、一人の女を見つける。


「えっと、誰?」


「初めまして、ジューナ=オ=ラスクです」


 聖域の勇者。


 受け取った資料でその名を覚えている。


「初めまして、僕はムスリムジョー=ジャッカルだよ」

「そうですか、はじめまして。では——」


 その瞬間、ジューナの周囲に三体の精霊が現れた。


「アナタを殺すわ」





 ××××







「あら、どこかで見た顔ね?」


 液状化から人型に戻ったタチャンクスは、ベリアルの前に着地した女にそう告げる。


(——この人、いやこのお方は!)


 リリックの応援に大聖祭本戦を見ていた時、彼女の姿を見ていた。美しい人だとも思ったが、それ以上に強さが際立っていた一人の女性。


 赤い髪をした女。


「メリッサ=マキシモフ」


 剛腕を冠する勇者。

 メリッサは大槌を構えてタチャンクスを見据える。






 王都北西部。

 ムスリムジョー=ジャッカルvsジューナ=オ=ラスク。


 王都西部。

 タチャンクス=アッシュvsメリッサ=マキシモフ。


 開戦!


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こちらが完結したのでよければ見てください。
ビカム・ヒーロー
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