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21話 聖域の勇者







 会場の隣には試験管を含めた数人の控室があり、そこはマジックミラーのように一方的に会場を覗く事ができる。

 そこでルイスとメリッサは試験の様子を眺めており、ガイリックの試験方法に溜息をついた。


「ガイに攻撃をされないって、雑すぎないか」

「でもあれで結構いい難易度でしょ? 彼も力は抑えていたみたいだし」

「まぁ全力なら避けられる人はいないだろうしね」


 だが――、

 一次試験の様子を見ていたルイスは、気になる事があった。

 あの中で二人、異常なまでの強さを持つ者がいる。


「あ~疲れた、試験管なんてやっぱ柄じゃねえな」


 控室の扉を開き、愚痴とともにガイリックがやってきた。


「お疲れ様、私の生徒はどうだった?」

「驚いたぜ、リリックはともかく、あの女まで俺の攻撃を避けるとは思わなかったぞ」


 アイニールもクリアした事は、ルイスにとっても予想外の事だった。

 生徒になった日が一番浅い分、彼女への教えは十分とはいえない。


 だからこそガイリックの攻撃を避けたのは、称賛に値する。


「っていうか、リリックの時だけスピードを上げてなかったか?」

「まぁアイツの実力を測りたくてな、やっぱり伸びてるみたいで安心したぜ」


 そう言ってガイリックは上着を脱ぎ捨てた。


「まったく、言う通りにしない奴が多くて困るな。防ぐか避けろって言ったのによ」

「私が治癒魔法をかけようか?」

「いや良い、どうせかすり傷だ」


 そう言ってガイリックは右腕に着いた切傷と、左肩にできた痣を治癒魔法で治した。

 二つの傷は、さっき負った物だ。


 あの試験の途中、会場に居る内の二人がガイリックへ反撃したのだ。


「羅刹って奴と、ドルトムントって奴。アイツら凄ぇな、正直ガキにはきつ過ぎる難易度だと思ってたが、まさか反撃されるとは思わなかった」


 そう。

 あの試験で二人はガイリックの攻撃を避けるだけでなく、反撃もしていたのだ。


 ルイス自身も、正直自分の目を疑った。

 あの若さでありながら、それほどの力を持っている者などそういる事ではない。


「彼らが、あの子達の壁になりそうだね」


 羅刹という少年の力は、ルイスにもよく分からない。

 使った魔法は一瞬だけ見えたのだが、ルイスとしても見覚えのない物だった。


「ジューナはどう思う? 私の生徒達の事を」


 ルイスが振り向くと、壁際に設置してあったソファの上で紅茶をすする一人の女がいた。


『聖域の勇者・ジューナ=オ=ラスク』


 それが彼女の名前だ。

 彼女もまたルイスのパーティーメンバーだった内の一人であり、大聖祭の本戦を担当する試験管だ。


「私は良いと思うな、才能を感じる」


 小柄な体と、腰まで伸ばした黄金色の髪。

 聖職者のような装いに身を包み、凛とした空気を身に纏う。

 青い瞳が静かに会場を見つめ、ただ静かに観察しているようだった。


「だろ? 私にとって自慢の生徒だ」

「それにしても、ルイスが教師になるとは思わなかったわ。半信半疑だったけど、けっこう驚いています」


 起伏の無い平坦な言葉遣い。

 それでも話すときの彼女の目は、しっかりと意思を伝えようと見開かれている。


「二次試験に向かうのは二十一名、六チーム。これならば私の魔法でカバーできるでしょう、死者を出すわけにはいきませんしね。ウフフフ」

「…………」


 なぜ今笑ったのか、ルイスには理解できなかった。

 パーティーに所属していた頃も時々あったのだが、唐突なタイミングで無表情のまま笑い出す。


 正直、ルイスはちょっと怖い。


「ま、まぁ二次試験は三日後だし、それまでは生徒達と休むことにするよ。でも一つだけいいかな? 羅刹とドルトムントの詳細を知りたいんだが」

「それくらいなら良いぜ、けど持ち出し禁止だからこの場で覚えてくれ」


 そう言ってガイリックは二枚の資料をルイスに手渡した。

 ドルトムント、二十二歳の若さでありながら準一級兵士の等級を得ており、四年前の勇者選定に挑戦している。


 さすがに総合値までは乗っておらず、どういった戦闘スタイルなのかも分からなかった。

 一方で羅刹。

 変わった名前にルイスは興味を持ったが、今はそれより読むべき場所があった。


 十七歳という若さでありながら、等級は一級。

 つまりドルトムントよりも階級では上という事だ。


 今日集まった少年兵の中で、彼の等級が一番上で間違いはないだろう。


「なるほど、今回はかなり豊作じゃないか」

「みたいだな。あ、ルイス。後でお前の屋敷に行くけど、土産は何が良い?」


「お菓子にしておいてくれ、子供達が喜ぶ」

「了解、じゃあまたな」

「うん、また後で」


 最後にそう言い残し、ルイスは控室を後にした。





 ××××



 生徒達と共に屋敷へ戻ったルイスは、大広間でくつろぐ生徒達に向かい合う。


「皆、一次試験突破おめでとう!」

「いえーい!」


 ルイスが叫ぶと、生徒達は全員両手を上にあげた。

 だが一方でリリックは神妙な面持ちのまま、微動だにしていない。


「どうしたんだい、リリック。一次試験を突破したのに嬉しくないのかい?」

「いや、嬉しいのは嬉しいんだけどよ。何というか……井の中の蛙になったつもりはなかったんだがな」


 リリックは肘掛に手を置いて項垂れた。

 彼が言っているのは恐らく、羅刹かドルトムントのどちらかだろう。


「まぁ、そうだね」


 リリックの隣に腰を下ろし、ルイスは彼の頭に手を置く。


「今の君じゃ、あの二人を相手に勝つのは難しいかもしれない。だが君も相当な実力者なんだから、自信を持つといいよ」

「そりゃぁ、ルイスさんから見れば誤差みたいなもんだろうけどよ」

「ハッハッハ、違うよリリック。そういう意味じゃない」


 魔界を目指し戦いを続けたルイスを含めた勇者は誰でも、どのような相手であっても力量を測る目を養っている。

 切りかかる前であっても、些細な違いを見抜く目を持っていなければ無駄な危険を被る羽目になる。


 だからこそ、勇者達はまず目を鍛えるのだ。


「あの二人とリリックの力量差は紙一重だ、だから二次試験で戦う事になっても勝つ可能性は十分にあるよ。だから自信を持ちなよ」

「二次試験……そういやルイスさん、二次試験ってのはチーム対抗戦って聞いたんだが、どんな内容なんだ?」


 大聖祭は一次試験、二次試験、そして大衆の前で行う本戦の三種類ある。

 いつの試験であっても共通するのは、二次試験がチーム戦であるということだ。

 将来勇者になったとき、どれほどスムーズに連携をとれるか、それを見るための物だが今はほとんど形骸化している。


「メリッサが二次試験の試験管だからね、かなり直球でシンプルな試験だと思うよ」


 あの女はあまり策や、機を衒った行動はしない。

 恐らく一次試験を突破した六チームを二つか三つにわけて、勝ち残り戦でもさせるのだろう。


「なにより、実戦で戦うとこになったとしても、自分の心配だけをしていていいよ」

「それってどういう?」


「ジューナが大聖祭用にとある魔法を開発してくれたんだ、ちょっと変わった魔法でね。結界の中での攻撃が、すべて無かった事になるって魔法なのさ」


 実戦形式での試験だった場合、当たれば必殺の魔法を持っている少年兵は全力が出せない。

 それを考えて開発した魔法らしいのだが、結界内であればどんな攻撃であっても絶対に致命にはならず、そして結界外に出れば傷が全て修復されるというとんでもなく便利な魔法だ。


 しかし条件や誓約もかなり多いらしく、実戦で使うようなものではないという。

 だが大聖祭は戦闘を見て測るという物だから、数回に一度は死者や重症者がでる。

 その心配をしなくていいというのは、かなり画期的な魔法だろう。


「なんにせよ、私は君が優勝する可能性は十二分にあると思っているよ」


 そう言ってリリックの肩を叩き、ルイスは微笑みかけた。

 彼は現状、生徒達の中で最も強くそして年長者だ。


 色々と背負わなくていいものまで背負っているのかもしれない。


「私は信じるよ」

「……ありがとう」


 呟くようにリリックは言い、それに満足したルイスは本題にはいる。


「ところで、なぜフリーシェの目は腫れているんだ?」




 ××××






 三日後になり、大聖祭二次試験の当日となった。

 第二次試験の会場は、王都外れにある巨大な森。ジューナの魔法で結界の柵を作った、半径二キロの森の中が試験会場だった。


「はいちゅうもぉく、二次試験試験管のメリッサ・マキシモフよ! こんにちは!」


 そんな声を上げるメリッサだったが、誰一人として返事をする者はいなかった。

 大聖祭参加者である二十一名の少年兵、そして彼らの付き添いであるルイスを含めた六名、大聖祭の運営側である衛兵数十名の誰一人として返事をしなかった。


「つれないわね、泣いちゃうわよ! ん~まぁいいか、ではこれより二次試験の試験内容を発表するわ。二次試験の内容は『チーム対抗バトルロワイアル』よ」


 メリッサが言うと、彼女の後ろに巨大な布が現れた。

 そこには少年兵達の名前が左右に分かれて書かれている。


 グループA。

『リリックvsドルトムントvsルーサントス』


 グループB。

『羅刹vsマクリースvsブラッド』


 あの名前をみるに、各チームのリーダーの名が書かれているようだ。


「見えるわね、二次試験に進んだ六チームを、こっちで二つのグループに分けたわ。今から森の中でこのグループ同士で戦ってもらう、それが二次試験の内容よ。相手チームの誰でもいいから『制限時間までに三人以上倒せば』二次試験はクリアよ」


 誰でもいいから三人倒せば二次試験は突破。

 簡素に説明するのであれば、三つ巴戦ということだろう。


(……なるほど)


 ルイスはこのルールにより、メリッサが何をしたいのか理解した。

 意外と考えられているルールだ。


「一つ質問があるのですが、よろしいでしょうか?」


 少年兵の中に居る一人が手を挙げた。

 赤と黒のメッシュヘアーという珍しい髪色、背は高いが肉は付いていない細身の体。

 グループAのルーサントスだった。


「マキシモフ様は、誰でも良いから三人倒せとおっしゃいましたが、倒すとはどういった状態を指すのでしょうか? まさか殺せなんていわないですよね?」

「良い質問ね。答えは相手が戦闘不能状態にすること。気絶でもいいし、手足を縛り付けた状態でもいい、相手の戦闘継続能力を奪えれば、その時点で撃破にカウントされるわ」


 どのみち、森に張った結界内ではジューナの魔法により殺すなんて事はできない。

 その意味では戦闘不能というのは正しいだろう。


「ではもう一つ質問があります、二次試験を突破したチームの全員が本戦に出場できるのですか?」

「それはノーよ。二次試験で突破したチームの中から、こちらで数名選抜して本戦に出場させるわ。チームのお荷物状態なら、例えチームが勝っても本戦には出られないからそのつもりで」


 メリッサの答えに満足したのか、ルーサントスは頭を下げて一歩後ろへ引く。


「他に質問がある人はいるかしら?」

「制限時間までにって言っていたが、時間はどれくらいなんだ?」

「一時間よ、短縮はあっても延長はないわ」


 短縮はあっても。

 それはつまり、そういう事だろう。


「さて、あの子達は気付くことができるかな?」


 ルイスは小さく呟いて、生徒達に目を向けた。

 リリックは緊張というより、ドルトムントと戦えることを楽しみにしているようだった。

 その一方で、他の三人は緊張でオロオロとしている。


「じゃあ質問はもう打ち止めみたいだから、グループAは準備してね!」


 メリッサの声に、リリック達は所定の位置に移動する。

 試験開始の位置は、全チーム等間隔に離れた場所なようだ。


「では大聖祭二次試験――開始ィ!」



 メリッサの響く大声で、二次試験が開始された。


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こちらが完結したのでよければ見てください。
ビカム・ヒーロー
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